救われぬものに救いの手を  ◆jN9It4nQEM

「人間とは浅ましい、醜い生き物だ」

ロベルト・ハイドンは両手を広げ、役者のように芝居がかった口調で言葉を紡ぐ。
自分の勝利以外は見えない、聞こえない。
最強の能力者という肩書きは伊達ではないと態度で物語っている。
まるで、神の如き振る舞いだ。その余裕たっぷりなロベルトを彼らはこう思うのだ。

「ハッ! ざけてんやないで!!!」

――潰したいと!

「ふん、気に入らんな。人間というもの、一括りを醜いとぬかすか」
「いいオトコもたくさんいるのに失礼しちゃうわね」

佐野が手ぬぐいを鉄に変え、数本のブーメランを投擲。
ブーメランの群れは俊敏にロベルトを襲うが、彼は避けるまでもなくただ微笑むのみ。
理想を現実に変える能力によって、最強の鎧を身につけた今の自分は腕を振るだけで弾き返すことができる。
鉄だろうと神器だろうと、彼を貫くものは存在しない。弾かれたブーメランを一瞥もせずに口元を歪め、嘲笑う。

「手ぬぐいを鉄に変える能力だっけ? そんなちっぽけな能力で僕に傷が付けられると思わないでほしいな」
「ならば、更なる研鑽を持った一撃で崩すのみ!」
「……っ!?」

その最強の余裕からか、いつの間にかに接近していた真田に視線を合わせるのが遅れてしまった。
いやいや、おかしい。数秒間目をそらしていただけで離れていた距離がこうも縮まるはずがない。
迸る木刀を避けながら、ロベルトは必死に思考を重ねるが、真田の速さは一向に解明できない。

「崩せるものかっ! 君に何がわかる! 僕の苦しみはそんな簡単に消えるものじゃない!
 いつだってそうだ、人は超常の力を恐れる! 石を投げて、気持ち悪いと喚き散らす!」
「確かにそのような人間もいるかもしれん。だが、全ての人間がそうだとは限らん。
 貴様に対しても、手を伸ばしてきた人はいるはずだ」
「戯言を! きっと内では打算ばかりのエゴしかない醜い存在なんだよ、人間は!」

真田の言葉を皮切りに、ふつふつと自分の中で憎しみが表に出始める。
人間は醜い、滅ぼすべきだと。彼の中の天界人の血が彼らの怨嗟に悲鳴を上げている。

「だから、殺す! 人間は滅ぶべきなんだよ!」

ロベルトは木刀を躱した瞬間、電光石火を足に装着し真田から距離を取った。
真田達と言葉を交わしていいると自分がわからなくなってしまう。故に、神器による殲滅を。
電光石火を解除して、掌に力を溜め、鉄を放とうとした瞬間。

「あら、アタシを忘れてないかしら?」
「ぐっ……!」

真田と佐野から離れたと思ったら今度は気持ち悪いオカマ男が背後に迫り、拳を彼の顔に叩きこんでいた。
顔面は服に覆われていない為に鈍い痛みが普通に通ってしまう。
次いで放たれる蹴りを後ろへと跳躍することで躱すが、間髪入れずに佐野がブーメランを投擲。
ロベルトは常に動かざるを得ない状況へと陥っていく。
押されている。最強であるロベルトが劣勢を強いられている。
それは、彼のプライドを逆なでするには十分すぎるぐらいに怒りと焦りを高まらせた。

(くそっ! くそっ! 何なんだよ!)

此処に至るまで、ロベルトは自分の能力に頼りながら戦ってきた。
それは、最強の能力に頼りきりの力任せの戦いであり、追い詰められた経験はほぼ皆無に等しい。
要するに、彼は戦闘経験が圧倒的に不足しているのだ。
持っている能力が最強であっても、使い手の経験が不足していれば宝の持ち腐れである。

「へっ、焦ってるんやないか? ロベルトォ!」

能力頼りにせず、自らの知能で能力者の闘いを勝ち抜いてきた佐野。
弛まぬ訓練を常に行うことで自らを高め続けてきた真田。
アウトローの集団に身を委ね、喧嘩に明け暮れて、バトル・ロワイアルという空間でも自分を見失わなかった月岡。
無敵とも言える能力に胡座をかいていたロベルトに全く敵わないということがあろうか!

「ふざけるなっ! 訳がわからないよ、お前らはそんなにも他人を信じられる訳はなんだ!
 どうして、簡単に背中を預けられる! ああ、おかしいんだよ、人間はもっと醜いはずなのに!」

汗ばむ額を服の袖で拭いながら、ロベルトは大きな声で叫ぶ。
おかしいのは僕じゃない、世界の方だ。彼らが狂っているんだ。
正義は此方にあり、決して人間を滅ぼすという選択肢は間違っていないはずなのに。
何故、彼らはこうも眩い輝きを見せつけてくれるのだろう。

「答えろ、答えてくれ! 君達は何を想って! 何を考えて! 人間を信じることができる!」
「ん? そんなん簡単やろ? 世の中そんなに捨てたもんじゃないって思っとるからや」
「しれたこと。世界は広い、姑息な輩も数多くいるが、それと同等に真っ直ぐな者達もいる。
 少なくとも、俺が知っている中にいるからな。安心して、肩を並べられる」
「アタシもアナタと同じ人間不信みたいなものだったけどね。でも、イイ男ってのはやっぱいるもんなのよ。
 惚れた男が皆真っ直ぐでかっこいいから、アタシにも手を差し伸べてくれるイケメンなのよねぇ。
 なら、そんなイケメンな人達に少しでも近づきたいってのも乙女心なのよ」
「……いい男と背中を預けることに何の関係があるんや」
「関係大有りよォ~。そんなイケメンに尽くす乙女ってのも素敵じゃない?」
「よくわからんが、貴様は柱になるということでいいのだろう」

三者三様にロベルトの問いに答えを返す。
それは彼がこれまで出会ってきた人間とは違う真っ直ぐの瞳。
小さな頃、友達に裏切られて人間に絶望したロベルトにとってありえないもの。
だから、ロベルトはますます人間についてわからなくなってしまう。
彼らの言葉によって、彼の抱く人間を滅ぼすという願いに亀裂が入っていく。
何よりも願っていたはずなのに、ヒビが生まれている。
彼らの濁りのない意志がロベルトの心を徐々に解きほぐしていった。

「嘘だ、嘘だ! 僕の見てきた人間は醜くて、自分のことしか考えていなかった!」
「ちゃうやろ、ロベルト。その答えは間違っとる。それにな、人間っていうもんは変わろうと思えば変わっていくもんなんや」
「簡単に掌クルクル~って感じかしら? アタシも同じようなものだしねっ」
「たるんどる、男なら真っ直ぐといかんか! それに、貴様もだ。貴様が思う程、人間は浅ましくはない。
 貴様の勝手な価値観だけで俺達を測るな。貴様の方こそ、見誤っているのではないか!」

弾かれる鉄槍とブーメラン、神器を出す隙間さえ与えない連続攻撃。
距離を取って放とうにも、真田が雷を思わせる光速で迫ってくる。
そして、真田を何とかやり過ごしても月岡か佐野が彼の意識を刈り取ろうと間合いに入る。
このままだと敗北してしまう。
最強であるはずの自分が人間相手に膝を屈してもいいのか?
否。まだ、終わりじゃない。
戦って人間を滅ぼすまで、ロベルトの歩みは止まってはならないのだから。

「違う、違うっっっっ! 人間は、滅ぼすべきなんだ! ああ、そうさ!
 もしも、人間が正しいというのなら! どうして! どうして……っ!」

ロベルトは認めない。真っ直ぐに立っている彼らを。
認めてしまったら、今まで自分が歩んできた道は何だったのか。
積み重ねてきた憎しみが全て無駄になってしまうのではないか。
そんなこと、彼は認めない、認めてなるものか。
考えれば考える程に、迷いの螺旋へと思考が落ちていく。

「あの時、僕を救けてくれなかったんだよ! 僕を救けてくれたのは同じ天界人である父さんだけだったのに!」

もはや今のロベルトになりふりを構う余裕はなかった。
そして、彼の口走っている言葉が理不尽な論調であることはロベルトにもわかっている。
彼らは自分とは違う国に住んでいて、助けることなんて不可能だった。
支離滅裂な論理、自分でも何を言っているのかわからない。

「僕はただ、普通に友達と暮らしてければ……満足だったのに」

思い浮かべるのは小さな頃。誰からも恐れられた自分に笑いかけてくれたごく一部の友達。
彼らは超常の力を持つ自分に対して、笑いかけてくれた。小さな手を取って街中を駆けまわったりもした。
楽しかった。
本当の友達だと思っていた。
彼らと一緒に過ごす時間はかけがえのないものだって感じていた。

「だけど、全部嘘だった。分かり合えることなんてない、僕を体の良い壁役のような扱いにしてたのが真実さ。
 大人も子供も人間の誰も彼もが僕を忌避の目で見ていた。僕を僕として見てくれた人は誰もいない」

そんな刹那の楽園は偽りだった。結局、ロベルトは孤独だった。
あの時、差し伸べてくれた手は嘘だったのか? 
あの時、見せてくれた笑顔は打算しかなかったのか?
その答えは今でもわからないけれど、人間を滅ぼすという願いは、その時から自分の全てとさえ感じられた。
だって、その願いは比類なきものだから。
ロベルトの根幹、今までを支えている心臓のようなものだから。

「僕は譲れない。譲ってたまるか。止めれるものか」
「……むっつりとニヤニヤ笑ってた前よかずっとわかりやすいで、今のお前。
 その上で、俺の本心を言ったる。ふざけんなよ、馬鹿野郎ッ!」
「……っ!?」
「確かにお前は俺なんか考えもつかんような苦しい目にもあったんやろうな。
 人間を憎んで滅ぼしたいって思えるぐらいに」

想いの弾丸全て吐き出したロベルトに対して、佐野は再び答えを返す。
佐野も能力者の闘いで色々な人間を見てきた。
ロベルト十団のように身勝手な願いを叶えようとした人間達だって多く見てきた。
彼の願いは理解できなくもないのだ。
だけど、理解できるが故に、否定する。

「人間は弱いんや。ロベルト、お前の言う通りクソみてーな奴等が多い。
 せやけどな、人間皆がクソっていうんはおかしいやろ? その中には優しい奴だっておるんや」

――お前が俺に思い出させてくれたんや、赤座。

彼女の優しさがあったからこそ、佐野はここにいる。
一つの選択肢が違っていれば、ロベルト側にいてもおかしくなかった佐野を、此方側へと戻してくれたあかりの意志に殉じる為に。
だからこそ。彼の側に立っていた可能性を孕んでいる佐野がロベルトを止めなければならない。
鏡写しの自分を救うことで、あかりの分まで笑顔を増やすことが、今の佐野が抱く願い。

「なぁ、ロベルト。意地張っとらんで素直になってみたらどうなんや?
 救けてほしいなら救けてって言えばええ! 手を握ってほしいなら手を伸ばせばええ。
 まー、伸ばさんでもな……その手、絶対に離さんぐらい強く握りしめたるけどなぁ!」

佐野は手ぬぐいの束を幾層のブーメランへと変化させ、投擲。
オールレンジから刃を疾走らせ、ロベルトの行動を封じる。
だが、その程度で封じられていたら最強は名乗れない。
疾走する刃を弾きながらも、ロベルトは能力を併用して鉄を放つ。
絶対命中を付加させた完全無欠の砲弾だ。
縦横無尽に駆ける砲弾が三人に命中し、地面へと縛り付ける。

「認め、ない! 僕は手を伸ばさない! 
 救いなんて、君達に頭を垂れるなんてするか!」
「あの、ねぇ、別にそんなことを、アタシ達は望んじゃいないわよ」

ゴホゴホと痛みに身を捩らせながら、月岡が立ち上がる。
ふらふらになりながらも、ロベルトの方をしっかりと見つめ、ゆっくりと言葉を放つ。

「アナタ、勘違いしてるわ。頭を垂れる必要なんてないの。
 アタシ達は対等な関係。同じ学生でしょ? 馬鹿な夢を一緒に追いかける友達になろうって言ってるのよ」

月岡が髪を整え直しながらゆっくりとロベルトへと近寄っていく。
説得なんて柄じゃないし、自分でも馬鹿なことをしている自覚があるけれど。

「後ろ暗いこともあるでしょうけどね。それも含めてアナタなの。ね、手を伸ばしてみない?」

――手塚クンならこうするわ。なら、アタシも同じ。

バロウとの闘いでも手塚は最後まで仲間と敵のことを案じていた。
自分の信念に従って、その生命が潰えるまで彼は彼のまま、真っ直ぐな姿勢で前を向いていた。
そんな姿に、月岡は憧れて今までの生き方を変えようと決意したのだから。

「やめろ、やめろ……! これ以上、僕に近づくなぁぁぁぁああああっ!」

だから、今度こそ。あの時、成し得なかった事をやってみせる。
例え、この身尽き果てようとも、惚れた男に並び立てる乙女へと。
眼前に見えるドリル状の突起――百鬼夜行が自分を貫こうとしても、その意志は変わらない。

(ごめんなさい、手塚クン……アタシもそっちに行くわ……)

数秒後に自分は死ぬ。それでも、後悔はない。
惚れた男と同じ道を歩めたならば本望だ。
しかし、百鬼夜行が貫いたのは月岡ではなく。

「ア、アナタっ」
(い、ったいなぁ……! 鉄板仕込んどいたはずなんやけど……こうも、簡単に貫かれるなんて、な)

佐野が寸前で月岡を突き飛ばし、代わりに百鬼夜行を受け止めていたのである。
腹部には鉄に変えた手ぬぐいを仕込んでいたのだが、鉄程度の防御で防げると思っていた佐野が甘かった。
百鬼夜行は鉄を貫き、胴体を貫通している。
きっと、自分は長くない。口から吐き出された血の量が死を予感させる。

「せや、けどっ! 今が、チャンスやで……武士兄ちゃんっ!」

佐野の途切れ途切れの声と同時に地を駆ける男が一人。
真田である。
月岡と佐野が注意を惹きつけている内に、ロベルトとの距離は縮まっていた。
そして、その速さは雷の如く。普通に疾走るのなど比にもならない。
遠距離ならともかく、接近すれば戦える。
真田は足に力を込め、更なる加速を身体に加えていく。

「ロベルトォォォォォオオオオ!!!!!!!」
「……っ! 来るなって、言ってるだろ!」

ロベルトは一旦、百鬼夜行を解除。そして、佐野へと向けていた掌を真田へと変える。
加えて、能力による絶対破砕、絶対命中の特性を付与し、鉄の弾丸を放つ。
如何に真田が雷を超える速さを持ち、未来予知を狂わせようとも弾丸の道筋は変わらない。
能力の通り、弾丸は確かに真田へとぶち当たる。

「この程度で、俺が止められる、ものかぁぁぁぁああああっ!!!」

しかし、真田は退かない。
鉄の衝撃で頭部からは血が流れ出し、両目が塞がれても。
手に持つ木刀が何処かに吹き飛んで、武器がなくなろうとも。
彼の両足はまだしっかりと力を伴っている。彼の両手はまだ、誰かの手を掴み取ることができる。
ならば、それでいい。この体が動く限り、真田弦一郎という男はどこまでも疾走るのだから。
そして、ロベルトとの距離が手と手を繋ぐことができるまでに縮め、真田はしっかりと両手で彼の肩を掴む。
鉄を受けたとは思えない、しっかりとした力が肩にかかる。

「何で、倒れないんだよ。血が、すごく出てるんだぞ?」
「しれたこと、其処に、俺が貫くべき想いがあるからだ。あいつらは貴様に手を伸ばすと言った。
 ならば、俺も伸ばそう。やり直せる、同じ道を歩めると何度でも言ってやる。
 それにだ、血が流れる程度で、俺は止まらんぞ?」

垂れ流れる血でロベルトの顔が見えないが、心の目ではしっかりと映る。
彼が泣いている姿が。もがき苦しみながらも手を伸ばそうかと躊躇する姿が。
どうも、自分は他人には厳しいつもりなのに肝心な所で甘くなってしまう。
手を伸ばし、一緒に歩めやしないかと考えてしまう。

「無理だ、無理だよ……僕はもう人を殺している。佐野君も直に死んでしまう。君達を散々に嬲ったのは僕なんだぞ!?」
「それでも! お前に手を伸ばす! 救いに来たぞ、と叫ぼう! まだ、間に合うと俺は信じる!」
「は。ははっ、馬鹿、じゃないの……」
「目の前で苦しむ者を救えるなら馬鹿でも構わん。俺はな……今からでも、共に歩めると信じているぞ。後は、貴様次第だ」
「僕、次第だって?」
「この手を取れ。貴様が、やり直したいと願うなら。もう一度、世界を広げたいと思ったなら」
「…………正直、人間はまだ好きにはなれない。滅ぼそうという考えは完全には捨てきれない。
 だけど、君達みたいな人は信じてもいいかもしれない。ちょっとだけど、思ったんだ。
 それでも、僕は君の手を取ってもいいのかい?」
「いいに決まってるだろう。人はいきなり変われん。少しずつ、世界を見ていけばいいさ。存外に貴様を包む世界は醜くもないぞ」

ニヤリと、口を釣り上げて笑う真田に、ロベルトは躊躇しながらも困ったように、薄っすらと微笑みを見せる。

「へっ。こうして見ると、ロベルトも普通の中学生やな」
「そうねぇ。でも、今の方が素敵よ? 押し殺していない分、彼らしさがとってもキュートで」
「……お前も、変わってんなぁ」
「ちょっと、乙女に向かって変わってるとは何よ、もう! それよりも、アナタは大丈夫なの?」
「大丈夫とは言えへん……はよ、出血を止めへんとな」

真田達が笑う姿を遠目で見ていた佐野達も釣られて笑い声を上げる。
たくさんの血を流し、あかりのような犠牲を生んだロベルトの襲撃だったけれど。伸ばした手は掴まれることなく、地に落ちたけれど。
最後に伸ばした手だけは掴み返してくれたじゃないか。
絶望ばかりの世界でも希望は存在すると立証できたじゃないか。

(やったで、赤座。俺はお前のようにやれたで……)

これから先もこのようにうまくいくとは限らない。
今は四人全員五体満足で生きているが、の誰かが死ぬ可能性だって低くはない。
それでも、今は。今だけは、この充実感に身を委ねたい。
救われぬものに救いの手を伸ばせたことが、嬉しくて。
じれったい暑さを生み出している太陽が、自分達を祝福していると信じられた。



【C-6/ホテル内ロビー跡地/一日目・昼間】


【佐野清一郎@うえきの法則】
[状態]:ダメージ(大)、腹部脇貫通痕(応急処置をしないと死にます)
[装備]:殺人日記@未来日記、月島狩人の犬@未来日記
[道具]:基本支給品一式、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則
基本行動方針:もう殺さない
1:休みたい、傷の手当をしたい。
2:赤座あかりの遺志を無駄にしない
[備考]
殺人日記の日記所有者となったため、佐野の携帯電話が殺人日記になりました。
殺人日記を破壊されると死亡します。
『強くなりたい』という願望が芽生えつつあります。
月島狩人の犬は、ある程度の指示に従う模様。ただし飼育日記を介していないので、犬からの意思は伝わりません。


【真田弦一郎@テニスの王子様】
[状態]:ダメージ(大)、頭部出血(この影響で視界不明瞭)
[装備]:木刀@GTO
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~1、赤外線暗視スコープ@テニスの王子様
基本行動方針:殺し合いには乗らない。皆で這いあがる道を探す
1:ロベルトと共に這い上がる。
2:知り合いと合流する。特に赤也に関しては不安。
3:秋瀬或の『友人』に会えたら、伝言を伝える。
[備考]
手塚の遺言を受け取りました。
秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。(ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません)

【月岡彰@バトルロワイアル】
[状態]:ダメージ(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品0~2、
警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達
基本行動方針:アタシは――手塚クンの意思を継ぐわ
1:こういう熱い友情も素敵!
2:手塚の意思を汲み、越前リョーマ、跡部景吾、遠山金太郎、切原赤也と合流する。
3:桐山クンにはあんまり会いたくないわ…。

[備考]
秋瀬或からデウスをめぐる殺し合いのことを聞きました。(ただし未来日記の存在や、天野雪輝をはじめ知人の具体的情報は教えられていません)



【ロベルト・ハイドン@うえきの法則】
[状態]:神器十数発(寿命十数年分)消費 (新たに4年分消費)、全身に打撲と軽度の火傷、額から出血
[装備]: 衣服に能力発動(決して破損しない)
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~1) 、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲
基本行動方針:人を信じてみるのも、悪くないのかもしれない。
1:まだ、答えは出ないけれど……今は、人を信じてみたい。
[備考]
※参戦時期は、ドグラマンションに植木たちを招く直前です。
※御手洗から浦飯幽助、桑原和真のことを簡単に聞きました。
※何らかの理由で十ツ星神器“魔王”が出せないと知りました。(能力制限には気づいていません)

[備考]
ホテル内ロビーは半壊しました。
桐山和雄の支給品全ては、爆破により破壊されました。
飼育日記の犬は、一匹をのぞいて全滅しました。









真田達の足元に飛んできたロケット弾が炎を吹き散らすまでは、信じられたのだ。









「やっぱり、人間は……醜いじゃないか」

真田が咄嗟に伸ばした手は、空を掴むのみ。
血塗れの視界に存在するのは、爆発を一手に受けるロベルトの姿。
悔しそうに、悲しそうに。泣き笑いを見せるロベルトが最後にそっと囁いた言葉は、爆炎に消える。
これより先は、嘘に潰される希望の饗宴。
誰一人。救われることは、ない。



######



「…………ぁ」

地面から吹き出した灼炎の熱風が身体を焦がす。
余りにも突然のことで、真田は声が出なかった。
何故、自分は宙に浮いている? 爆風がいきなり来たのは?
宙から地面へと転がり、熱に焼かれた身体に衝撃が突き刺さる。
決して出すまいと思っていた苦悶の声が喉から漏れ出した。

「ロベ、ルト……月岡……っ、佐、野……」

立ち上がらなければ。爆発により即死しないだけ、奇跡的だ。
肉体が限界を越えようとも、前を向かなければ。
自分は救うと、這い上がると誓ったのだから。
仲間を護る、それが真田弦一郎が貫く意志。
真田は、横に転がっていた木刀を手探りで拾う。
そして、それを支えに、ふらふらになりながらも何とか立ち上がる。
見える世界は薄暗く、血で汚れた目はハッキリとした姿を映さない。

「何処、にいる! 生きてるなら返事をしろ!」

だが、この耳はまだ音を拾えている。
爆音で傷ついた現状でも、誰かの声を聞くことができるなら、十全だ。

「ゲホッ、コホッアタシ達『はっ! バーーーーーカ!!!!! お前以外全員ぶっ殺したってのォ!!!!
 生きてるのはテメエだけだ! 悔しいか?? なぁなぁ、悔しいか???? 悔しいなら決めてみせろよ、仇討ちってもんをさぁ!!!!』……ちょっ!」
「貴様……貴様ぁぁぁぁあああああああぁぁぁああああああああああああっっっ!!!!」

ああ、聞こえた。確かにこの耳に届いたとも。
自分達を後ろから陥れた下手人の『声』が!
許せない、許せるものか。
やっと、ロベルトは人を信じようと思えたのだ。
救けて、と真田達に言えるようになったのだ。
それを横から割り込む無粋な真似をした下手人だけは、許せない。

「貴様だけは! 貴様、だけは――――! その根性、叩き斬る!!!!」

軋む足も、流れだす血も、火傷でかぶれた肌も、小さな雑音と下手人の大きな罵声も。
今は考えない。この時だけ、今この瞬間だけは。
真田弦一郎は刃を振るう鬼となろう。
ただ、この木刀で下手人を斬り捨てることを脳に刻む!

「動く、ことッ!!!! 雷霆の、如しぃいっ!!!!!!!」

本来、この技はテニスをする為に編み出した技だ。
奥義である『風林火陰山雷』は、誰かを傷つける技ではない。
暴力に使うなど、真田としても強い拒否感がある。
しかし、そのリミッターは下手人の嘲笑、爆発による深い怪我の影響で完全に外れている。
加えて、両目は血で汚れ、誰が誰であるか分別をつけることは不可能だ。
頼りになるのは下手人の罵声のみ。声以外で人を判断できる材料が、ない。

「この一撃に、沈め……っ!」

怒りで冷静さを失った真田は気づかない。
手に持った木刀を振るう先にいる人が――。

「待って、真田クン!!」
「…………な、に?」

――月岡彰だということに。
だが、気づいた時にはもう手遅れだった。振るった木刀は速度を増し、月岡の腹部に吸い込まれていく。
ぐしゃりと、肉が潰れる音が響いた。声を上げることすらできず、血を吐きながら月岡は地面へと倒れこんだ。
血で赤く染まった視界に見えるのは血塗れで動かない月岡、悔しそうに顔を怒りに歪める佐野。
そして。

「ロベ、ルト」

真田を庇ったのだろう、もはや判別不可能にまで焼かれた顔と傷一つない服を身に付けたロベルトだった肉塊。
目に映る光景は、絶望だった。
這い上がることができない、地獄だった。

「――――――――!」

哭いた。声にならない大声で、哭いた。
謝罪した。何度も、何度も。声が枯れるまで。
仲間を殺してしまった自分が憎かった。
意思を貫くと言っておきながら、ただ場を掻き回しただけのこの身体を引き裂きたかった。
再び、爆炎に包まれ身体が焼かれようとも、叫び声を止めることはなかった。
死ぬ最後の瞬間まで。誰一人救えなかった両手を。殺人者でしかない血塗れの両手を。天に伸ばして。
真田弦一郎は哭き続けた。

「悪いな。ぶっちゃけると、こうするしかお前らは殺せなかったんだよ」

真っ直ぐの意志は、嘘に塗り潰される。



######



「この糞野郎が……! 正々堂々と戦えや……っ!」

深い傷を負っていた佐野は見ていることしかできなかった。
最初に真田達が爆炎に包まれて吹き飛んだ。
そして、ロベルトは真田を庇って爆発を一手に受けた。
この時点では佐野達も現状が掴めずにただ硬直していた。
しかし、二人はすぐに切り替える。
襲撃者が現れた。ならば、何とか二人を助け出し、逃げなければ。
そう思い、炎に濡れながらも何とか立ち上がった真田の元へと声をかけようとした瞬間。

「仕方ねぇだろ、俺は弱い。お前ら相手に真正面から戦うなんてできるかよ」

宗屋ヒデヨシが月岡に『声』を貼りつけたのだ。
佐野は知る由もないが、ヒデヨシが持つ能力は声を似顔絵に変える能力。
撹乱を主な使い道とするこの力は奇襲には打ってつけである。
現に、真田はこの声に騙されて、月岡に木刀を叩きつけたのだから。
意気消沈し、哭き続けていた真田をこのヒデヨシが止めとばかりにロケット弾を撃ちこんだ時、佐野は何も出来なかった。
仲間が死にゆくのを黙って見ているしかなかった。

「どこまでも、腐ってやがるなぁ……!」
「仕方ねぇだろ、これは救う為に必要な過程なんだ。ぶっちゃけ、俺だって本当は殺りたくなかった。
 でも、こいつらは今殺しとかねぇと後々厄介だ。そうだろ? だから、戻ってきたんだ」
「ざけんなや……! んなことで殺されてたまるか!」

傷の手当をしていなかった佐野は起き上がることすらままならない。
肝心な時に何もできない自分に腹が立つ。
何故、もっと周りを見ていなかった。殺し合いなのだ、この場は。ヒデヨシみたいなゲス野郎がいることを、頭に入れなかった佐野達のミスだ。
とことん卑怯に狙い撃ってくるヒデヨシに佐野は歯を食いしばり、険しい視線を送る。

「……っ、ぁ」
「ん? まだ生きてるのか? 畜生、アレでもう終わったと思っていたのに……」

瞬間。今までびくりとも動かなかった月岡の体が微かに動く。
真田の『雷』だけでは死ななかったのか、ふるふると震えながら小さな呻き声を上げる。
それをみたヒデヨシが、真田の焼死体の近くに転がっているデイバッグを漁り、拳銃を取り出した。
そして、銃口が藻掻き苦しんでいる月岡へと向けられる。

「丁度いいもんを見つけたし、殺さないとな。全てをチャラにして、救わねぇと。やりたくねぇけど、やらねぇと。
 ごめんな。後できっと救うから。俺か植木が優勝したら元通りになっからさ」

佐野は動かない身体に無理矢理力を入れ、這いながらもヒデヨシへと手を伸ばす。
これ以上、奪う必要なんてないはずだ。もう、自分達は戦えないはずだ。
だから、その銃口を納めてくれ。

「おい、待てや……! 待て、待つんやぁ!!!! やめろ!! やめ」

言葉の末まで、ヒデヨシは待ってくれなかった。
引き金かけられた指は引かれ、銃口から発射された弾丸は月岡の頭を粉々に打ち砕いた。
また、一人。目の前で仲間が死んだ。
数分前まで笑っていた空間が、今では自分とヒデヨシ以外は二度と動かない死の空間と化している。

「……俺は、なにも、護れへん、かった、のか?」
「佐野なら絶対に死なねぇと思ってたけど、やっぱ殺し合いなんだな……。
 畜生、まさかこんなことになるなんてぶっちゃけ想像もしなかったぜ」

憎い。憎い。
今なら、憎しみだけで人を殺せると思うぐらいに脳が沸騰している。

(力を寄越せぇぇぇぇっ!! こいつを殺せるだけの力を! 俺に寄越せ!
 許さへん、絶対に! 俺が、殺す! 強く、なりたいんや! 早く!)

せめて、仲間の敵を討てるだけの能力を。
このペテン師を殺して、これ以上の被害を拡大させないだけの能力を。
『強くなりたい』という意志が、佐野の頭に充満した。
そして、その渇望が佐野の能力をレベル2へと押し上げる。
本人は気づきもしないが、彼の願いが強固なものとなって能力を変質させたのだ。

(戦え! 戦え! 俺と、戦えや! 謝っても許さん! 絶対に殺してやる!
 だから、こっち向けや! 俺の方を見ろや! ヒデヨシぃぃぃぃぃぃぃッッッ!!!)

だが、その時は余りにも遅すぎた。
もう声も出せない程に、佐野は消耗していたのだから。
ロベルト戦から出血を止めずにいたツケが此処で回ってきたのだ。
意識こそあるが、身体はもう動かない。
もはや、憎しみの意識を抱くだけ。佐野の命は尽き果てている。
届かない憎しみと後悔の怨嗟を上げながら、孤独に死ぬ。
仲間を失い、思い出した優しさも消え去り、全てを奪われた佐野清一郎の最後は、嘘に潰される。



######



佐野清一郎が繋いだ道も。
真田弦一郎が貫いた意志も。
ロベルト・ハイドンが掴み取った世界も。
月岡彰が受け継いだ想いも。
あったはずの希望を踏み潰し、ヒデヨシは前を向く。
全てを殺し、全てを救う為に。

「間違ってねぇ、俺は間違ってねぇよ。全員救えるなら、こうする方が正しいんだ。
 俺か植木が勝ち抜いた先にこそ、『正義』はあるんだから」



【佐野清一郎@うえきの法則  死亡】
【ロベルト・ハイドン@うえきの法則  死亡】
【真田弦一郎@テニスの王子様  死亡】
【月岡彰@バトルロワイアル  死亡】
【残り 26人】



【C-6/ホテル内ロビー跡地/一日目・昼間】


【宗屋ヒデヨシ@うえきの法則】
[状態]:冷静
[装備]:無差別日記@未来日記、パンツァーファウストIII(0/1)予備カートリッジ×2、コルトパイソン(5/6) 予備弾×30
[道具]:基本支給品一式(携帯電話は他に1機)、『無差別日記』契約の電話番号が書かれた紙@未来日記、不明支給品0~1
 基本行動方針:植木か自分が優勝して 、神の力で全てをチャラにする
 1:騙して、後ろから殺すことをメインに駆け回る。
 [備考]
 無差別日記と契約しました。
 ※基本支給品一式×4、不明支給品0~3 、風紀委員の盾@とある科学の超電磁砲
 警備ロボット@とある科学の超電磁砲、タバコ×3箱(1本消費)@現地調達、木刀@GTO
 赤外線暗視スコープ@テニスの王子様、殺人日記@未来日記、月島狩人の犬@未来日記、
 決して破損しない衣服、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版 、
 手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則がヒデヨシの近くに転がっています。



【パンツァーファウストIII】
 宗屋ヒデヨシに支給。ドイツのデュナミトノーベル社が開発した携帯式対戦車擲弾発射器。
 戦車を正面から撃破できる強力な貫通力を持ち、人員携帯型ロケット弾としては最大級の貫通力がある。取り扱いも簡単である。

【コルトパイソン】
 真田弦一郎に支給。1955年にコルト社が「.357マグナム弾を発射できる」高級リボルバーである。




Back:100%中学生 投下順 悪魔にだって友情はあるんだ
Back:100%中学生 時系列順 悪魔にだって友情はあるんだ

しあわせギフト(後編) 宗屋ヒデヨシ 悪魔にだって友情はあるんだ
しあわせギフト(後編) ロベルト・ハイドン GAME OVER
しあわせギフト(後編) 佐野清一郎 GAME OVER
しあわせギフト(後編) 真田弦一郎 GAME OVER
しあわせギフト(後編) 月岡彰 GAME OVER


最終更新:2021年09月09日 19:44