そしてあかりはいなかった ◆AJINORI1nM

















      \サテンサ~ン/























「はーい! バトロワ、はっじまーるよー」

「あ、あかりの出番がぁ……え? 本編に出られる? ほんとですか!? わー













【左天涙子@概念】
[状態]:\アッカリ~ン/

【赤座(略)@概念】
[状態]:もうすぐ出
※上記の文章フィクションです。本編とはあまり関係ありません。




―――――――――――――――――――――――――





 山小屋。
 その明かりのない真っ暗な室内には、七森中学の制服に身を包む、綺麗な赤い髪を二つのお団子に纏めた少女が居た。


「こ、怖いよぉー。これって、誘拐事件……?」


 『声』が途切れた後、気付けば赤座あかりは真っ暗な闇の中だった。
 ここがどこなのかわからないけれど、床の感じから木製の建物の中という事が分かる。
 誘拐犯に閉じ込められてしまったのかもしれない。
 大事件である。


「あれ? 私何か背負ってる?」


 背中に重さを感じ、それを降ろす。
 『声』が言っていたバッグだ。
 何も見えないので、バッグにあるらしい携帯電話を明かりにしようと中を探る。
 そして固い感触に触れ、携帯だと判断するとそれを取り出した。
 それはスライド式の携帯電話だった。
 携帯電話を上下にスライドさせると、画面が光り暗闇に明かりが点る(ともる)。
 警察に電話をしようと110番を押したが、繋がらない。
 アンテナはばっちり三本立っているのに、何故だろうか。
 仕方がないので、参加者の名前が載っているというアドレス帳を開く。
 かちかちと画面を移動させていると、自分の名前や知らない名前が並んでいた。


「……え? 杉浦先輩も……京子ちゃんまで!? 結衣ちゃんに……ちなつちゃんの名前も……」


 アドレス帳にはあかりの名前以外にも、知っている名前が四つ。
 さ行のアドレス帳には杉浦綾乃。
 た行のアドレス帳には歳納京子。
 は行のアドレス帳には船見結衣。
 そして、や行のアドレス帳には吉川ちなつの名前があった。
 ちなつちゃんの名前の下にある『吉川昇』というのは、ちなつちゃんのお兄さんか弟さんの名前なんだろうか。
 お姉ちゃんが居るのは知っているけど……。


「ど、どどどどうしよぉ~。みんなも誘拐事件に巻き込まれてるよぉ~」


 あかりは体をばたばたさせあたふたしている。


「と、とにかくみんなを探しに行かないと!」


 あかりは携帯のライトを点ける。
 そして、出口はどこかと部屋の中を照らした。
 木でできた壁に床。
 どこかの小屋という感じだ。
 何故か窓は一つも無かった。


「あ、扉だ!」


 光に照らされた先に扉を見付け、あかりは扉に向けて駆け出した。
 直後、何かを踏みつけてバランスを崩し転倒する。
 あかりはうつ伏せに倒れため、おでこを床に思い切りぶつけてしまった。


「痛いよぉ……」


 涙目になりながらあかりは起き上る。
 鼻も床に勢い良くぶつけてしまったらしく、じんじんする。
 手で押さえてみると、鼻血がでていた。


「うえーん! 鼻血が出ちゃったよぉ~!」


 一体何を踏ん付けたのかと足元に視線を移す。
 そこにあったのはハンドマイク。
 所謂(いわゆる)拡声器が落ちていた。


「これって運動会とかで先生が使ったりしてる、声を大きくするのだよね……? なんでこんなものが落ちてるのぉ……」


 左手で鼻を押さえながら、右手で拡声器を拾い上げる。
 少し汚れているが、壊れてはいなさそうだ。
 しばらく拡声器を眺めたあかりは、何かを思いついたのか、涙目の顔をぱっと明るくした。
 こんな場所に連れてこられて、きっと他の人達も怯えているに違いない。
 だったら、みんなで集まって協力してここから逃げ出せば良いのだ。
 思い立ったあかりは拡声器を片手に扉へ駆けだし、山小屋の扉を開け放った。
 山小屋の前は木々が伐採され、小屋を中心に半径三十メートル程が開けた空間になっている。
 その開けた草原には、犬が数十頭散らばっていた。
 扉の開く音に反応して、その数十頭の狩猟犬達が一斉にあかりの方を向いた
 狩猟犬達は皆、頭に奇妙なマスクを被っていた。







      \アッカリ~ン/







「どないなっとんねん………」


 佐野清一郎が居るのは6-Bに存在する山の中腹、その山道だ。
 どうやって自分はここに連れて来られたのか。
 神にも等しい力を得られるとはどういうことなのか。
 これは神を決める戦いに関係があるのか。
 わからない。
 支給品が入っているというバッグを確かめると、能力者でない者を能力を使って傷つけようと“才”は減らない旨が書かれた紙が入っていた。
 そして、支給品には神でなければ作れないであろう代物まであった。
 無論、この支給品の説明書に書かれている事が事実ならばの話である。
 それを抜きにしたとしても、バッグは見た目の容積と中身が釣り合っておらず、巨大な物体が収納されていた。
 『神の力』ではないが、『神にも等しい力』というのは、事実なのかもしれない。
 だとしたら……。


「ワンコ………」


 だとしたら、自分は殺し合いに乗ると佐野は決めた。
 現在、佐野の担当神候補であるワンコこと犬丸は、ロベルト十団の参謀であるカール・P・アッチョに命を握られている。
 自分が『神にも等しい力』を得られれば、犬丸の命を救うどころか神にだってしてやる事が出来るだろう。


「せやけど………」


 だが、そんな事をしても犬丸は喜ばない。
 この手を血に染めれば、犬丸は自分を絶対に許さないだろう。
 自分の親友は、そういう男だ。


「せやけど………やるしか、ないんや……!」


 そう、犬丸は自分の担当神候補である以前に最大の親友だ。
 親友の命一つ救えない正義等、自分から捨ててみせる。
 結果どれだけ憎まれようと、犬丸が生きていてくれさえすればそれで良い。
 佐野が決意したその時だった。


『みんなーっ! 七森中学一年生の、赤座あかりだよーっ!』


 少女の声が佐野の耳に届く。
 拡声器で声が増幅されているらしい。
 赤座あかり。
 アドレス帳にあった名前だ。
 中一。ということは、このあかりという奴も神を決める戦いに参加する中学生の一人なのだろうか。


『みんな、殺し合いなんてしたくないよね? あかりだって殺し合いなんてしたくないよぉ~っ! だから、みんなで集まってここから出る方法を考えようよっ! みんなで協力すれば、どんなことだってできるはずだよっ! あかりは山小屋に居るから、みんなここに集まってー!』


 どうやら、あかりという人物はこの山道を上った先にある山小屋に居るらしい。


「アホちゃうんかアイツ……」


 ぽつりと、佐野が呟いた。
 佐野の言う通り、この呼びかけは軽率としか言いようが無い。
 確かに、人を集めるのに大声で自分の居場所を知らせるのは良い手段かもしれない。
 だが、それで集まって来るのが仲間になりたい者だけとは限らない。
 佐野のように、他者を蹴落とすと決めた者、殺し合いに乗った者も集めてしまうのだ。


「……………」


 佐野は数瞬黙考した後、支給品の携帯のボタンを押していく。
 支給品にある説明書の一つに書かれていた電話番号だ。
 この説明書に記載されている能力を使うためには、ここに連絡する必要があるらしい。
 今は少しでも勝利の可能性を増やしておきたかった。


『ムルムルじゃ。用件はなんじゃ?』


 電話に出たのは、最初に集められた場所に響いた男の声ではなかった。
 老人のような喋り方だが、幼い少女の物だ。


「佐野清一郎や。殺人日記の……この説明書にある所有者登録っちゅうのをしたいんやけど、お願いできるか?」

『良いぞ、承知したのじゃ。佐野清一郎──お前はこれより殺人日記の所有者となる! ……詳しい説明は必要か?』

「ほな、頼むわ」


 佐野は説明を聞きながら山道を早足で上っていく。
 あれだけの大音声だ、恐らく続々と他の参加者も集まってくることだろう。
 その前に逸早く(いちはやく)あかりを殺害し、支給品を奪うつもりだ。
 仲間の振りをしてしばらく共に行動する、というのも考えた。
 実際、それは良い手だろう。
 集団というのはそれだけで力だ。
 怪我をした時は守ってもらえ、他の参加者との戦闘時は協力することで体力の消耗を抑えられると、メリットは多い。
 しかし、仲間の振りをするということは、これから殺す相手と仲良くするということだ。
 この殺し合いでどう行動するかという話だけではなく、きっと世間話とか、学校での友達の話とか、将来の夢なんかを語り合ったりするかもしれない。
 そうなってしまうと、殺す事に躊躇い(ためらい)が生じてしまう。
 事実、植木とは戦いたくないという気持ちが心の奥底に残っている。
 他人と仲良くはできない。
 自分は犬丸を助けるために全員を殺すと決めたのだ。
 そんな自分が、他の者から信頼を得るなど、許されることではない。
 どうせ犬丸には憎まれるのだ。
 だったら、とことん憎まれ役を引き受けようではないか。


『───これで説明は終わりじゃ。他に質問はあるか?』

「せやな……。確認なんやけど、優勝すればほんまに神の力が手に入るんやろな? それは優勝者が神様になれるっちゅう事なんか?」

『うむ。優勝すれば、神に出来ることならどのような事でもできるようになる。その気になれば、神に成り代わる事も可能じゃろう。疑わしいようならバッグの中をみてみるのじゃ。お主の支給品にはそんなちっぽけなバッグには入りきらぬ物が入っておるはずじゃ』

「それはもう確認したわ。……手を入れて触っただけやけど、ありえん大きさやった。『未来日記』もそうやし、神の力っちゅうのは本当みたいやな。………で、この殺し合いを始めた理由はなんやねん? 神様が神を決める戦いのルール変更でもしたんか?」

『それは秘密じゃ。もしかしたら、その内明かすかもしれんがの。そんな事よりほれ、急がんと誰かに先を越されてしまうかもしれんぞ? 新しい日記所由者『佐野清一郎』よ、お主の健闘を祈っておる』


 そう言うと、ムルムルと名乗った少女は電話を切った。
 もう何も聞こえなくなった携帯を耳から離すと、佐野は携帯のメモ帳画面を開いた。
 そこには、ムルムルが言っていた通り、未来の記述が記載されている。





[01:01]
山小屋の前で赤座あかりを発見する。

[01:03]
適当に言葉を交わし、近くの箱から手ぬぐいを調達する。

[01:04]
“手ぬぐい”を“鉄”に変え、背後から赤座あかりの頭部を殴打。
赤座あかりを殺す。





 殺人日記は、殺害できる方法がある限り確実に標的を殺害できるという代物である。
 何せ未来の被害者の居場所と殺害方法、そして結果まで知る事ができるのだ。
 殺し合いというこの場では、非常に有用な物と言える。
 佐野は殺人日記に表示された文面を確認し終えると、殺人日記をすぐに取り出せ、そして他人からは見えない着物の内側に仕舞い入れた。
 わざわざ自分の弱点となった殺人日記を晒し続ける必要はないからだ。


「すまんな……あかりっちゅうたか。あんたが、俺の最初の犠牲者や」


 山小屋まではまだ距離がありそうなので、早足を駆け足に変える。
 走りながら、佐野はムルムルとの会話を思い出していた。
 会話から得られた情報で分かった事が二つある。
 『その気になれば神に成り代わる事も可能』という事は、神は別に存在し続けるという事だ。
 『神の力』と言っても特に否定しない辺り、神がこの殺し合いを企画したのだと思ったが、これではおかしい。
 次の神を決めるために中学生バトルを始めた神が、神に等しい存在を新たに作るというのはどういう事なのだろう。
 まあ、自分は犬丸を救える力を手に入れる事が出来れば良いので、主催者が何者であろうと関係はない。

 気になるのはムルムルの最後の言葉だ。
 まるで佐野の動きや先程の拡声器の声を知っているかのような口振りだった。
 神にも等しい力を扱えるくらいだ。
 ここで起きる出来事は全てあちらに筒抜けなのだろう。
 佐野の動きと殺人日記の所有者登録の申請を知っていれば、山小屋で呼びかけを行った人物の殺害を企てていると予想するのは容易だ。
 何故なら、殺人日記は殺人に関する未来しか記す事はないのだ。
 殺人者以外、この日記を使おうという者は存在しない。

 自分達の動きが把握されてしまっている以上、ここから逃げ出すというあかりの計画はやはり無謀過ぎた。
 殺人日記が反応しているので、あの呼びかけ程度で首輪が爆破される事はないようだが、地図の外に逃げ出そうとする等、具体的な行動に移した場合はわからない。

 現在の時刻は[00:54]。
 佐野清一郎が赤座あかりを発見するまで、後り七分。





 ◆  ◆  ◆





 学生服に身を包み、髪をオールバックに固めた男。桐山和雄は山腹に居る。
 修学旅行のバスで突然の眠気に襲われ、気が付けば殺し合いをしろと命令されていた。
 殺し合い。
 プログラムと呼ばれる戦闘実験第六十八番プログラムの事だろうかと一瞬思ったが、違うだろうと判断した。
 神に等しい力が得られる等と荒唐無稽な話で釣らずとも、これはプログラムだと伝えれば殺し合いは始まるだろう。
 だが、あの『声』は大東亜共和国の名前も、プログラムの事も言いはしなかった。
 これは【ゲーム】だと、そう言ったのだ。
 故に、これはプログラムではない。
 だが、桐山にはそんな事はどうでも良かった。
 これがプログラムだろうがなんだろうが、要はこれから殺し合いが始まるのだ。
 では、桐山自身はどうするのか。
 あの『声』に反抗するのも、従って殺し合いに乗るのも、どっちでも良いと思った。
 何もする事がないので、いつの間にか背負わされていたバッグの中を探る。
 最初に出てきたのは携帯電話だ。
 携帯電話とは、これほど小さな物だっただろうか。
 不思議に思いながらも、それを弄る(いじる)。
 指で画面を触ることで操作するらしく、かなり高性能な機械なようだ。
 何処の国でも、こんな物を作れるとは思えなかった。
 神に等しい力が得られるというのも、あながち嘘でもないかもしれない。
 桐山の携帯に、『声』が言っていた地図や現在地等が表示される。
 そして、アドレス帳を開くと、自分の名前の他に知っている名前を五つ見付けた。
 相馬光子、滝口優一郎、月岡彰、中川典子、七原秋也。
 いずれもクラスメートの名前だ。
 しかし、それ以外の名前は知らない名前ばかりだった。


『みんなーっ! 七森中学一年生の、赤座あかりだよーっ!』


 少女の声が、携帯を確認していた桐山の耳に届いた。
 拡声器で声が増幅されているらしい。
 赤座あかり。
 アドレス帳にあった名前だ。


『みんな、殺し合いなんてしたくないよね? あかりだって殺し合いなんてしたくないよぉ~っ! だから、みんなで集まってここから出る方法を考えようよっ! みんなで協力すれば、どんなことだってできるはずだよっ!』


 赤座あかりという人物は、協力してここから脱出する方法を考えようとする者らしい。


『あかりは山小屋に居るから、みんなここに集まってー!』


 桐山はそれを聞くと、赤座あかりが居るという山小屋に向かって歩き出した。
 何を考えているのかわからない表情で、月明かりの中をゆっくりと進んでいく。





◆ ◆ ◆





「……誰もおらんやんけ」


 佐野は山小屋に到着したが、そこにあかりの姿はなかった。
 殺人日記を確認すれば、時刻は[00:55]である。
 しかし、さっきまで表示されていたはずの文面が消えてしまっていた。
 殺人対象が存在しない為、殺人日記に未来は表示されていない。
 仕方なく佐野は周囲を見渡す。
 山小屋の周りは木々が伐採され、半径が三十メートルはある草原となっていた。
 その草原の端、山の斜面に近い場所に何かを発見する。
 警戒しながら近付くと、そこには手ぬぐいが三枚と拡声器、そして何か大きな箱の蓋が落ちていた。
 予知通り、ここには手ぬぐいが入った箱があったのだろうか。
 だが、そんなものはどこにも存在しない。
 手ぬぐいが落ちていた場所を良く見れば、何かを引き摺ったような跡が斜面に向かって続いていた。
 それと、いくつもの獣の足跡も見て取れた。
 佐野は斜面へと目を向ける。
 木々が生い茂る急な斜面だ。
 何かが落ちたのかとも思ったが、下には何も見えない。
 佐野は視線を戻すと、落ちていた手ぬぐいを拾い上げる。
 その一枚には血が付いていた。
 まだ乾いていない、新しい血痕だ。
 赤座あかりの物だろうか。
 血の量は少ないが、その赤い点は白地の手拭いに非常に目立つ。
 一体ここで何があったのかと思案していると、近付いてくる足音が聞こえてきた。
 佐野が上って来た山道とは反対方向にある山道からだ。


(なんや? 殺人日記には反応が……まさか!)


 殺人日記を確認するが、そこには近付いてくる人物についての記述がない。
 殺人日記はその名の通り未来の『殺人』の過程と結果を記述する日記だ。
 つまり、殺人に関係する事柄以外の未来が表示される事はない。
 例えば、自分が殺さない、又は殺せない相手については予知されないのだ。

 佐野が警戒を強める。
 山道を上がってきたのは髪をオールバックに固めた学生服の男だ。
 こいつも中学生なのだろうか。
 学生服の男、桐山は一度山小屋の周りを見渡すと、佐野に顔を向け、口を開いた。

.
「赤座あかりはどうした?」

「知らんわ。ここに来た時には誰もおらんかった」

「お前はこの殺し合いに乗るのか?」

「乗る、言うたらどないすんねん?」


 すぐに攻撃を仕掛ける事も出来たが、殺人日記に反応が無い以上、佐野の攻撃が桐山に効く事はないのだろう。
 ならば、無駄な行動はせずに相手の出方を窺う(うかがう)。
 最後の一人になると決めたのだ。
 体力は温存しておかなければならない。
 桐山も佐野をしばらくじっと見ていたが、何を思ったのか学生服のポケットに手を入れると、一枚の金属光沢を放つ何かを取り出した。
 硬貨のようだが、違う。
 ゲームセンターで使うような、メダルゲームのコインだ。
 桐山がそれを胸の高さで弾くと、コインは月明かりを反射しながら高度を上げる。

 佐野は桐山の行為の意図が読みとれなかった。
 殺し合いに乗ったという者を前にして、何故コインを弾いたのか。
 そこで、一つの仮定を導き出す。
 この男は能力者なのではないか、と。
 変える物はあのコイン。
 そして、限定条件は“指で弾く”。


「させるかい!!」


 もしかしたら、別の意図があったのかもしれない。
 だが、殺人日記に反応が無いというのは、自分が殺される未来もあり得るのだと考えたのだ。
 佐野は手ぬぐいをくの字に曲げた状態で鉄に変えると、勢い良く投げつけた。
 男は佐野の行動を見ていたが、微動だにしない。
 狙いが男ではないとわかったからだ。
 鉄に変わった手ぬぐいは風を切り、佐野の狙い通りコインにぶつかる。
 コインはその衝撃で二つに割れた。
 表と裏。
 上下に分かれたコインが草むらに落ちる。
 直後、桐山がバックステップでその場を離れた。
 同時に、先程まで桐山が居た場所を何かが通過する。
 佐野が先程投げた、鉄に変わった手ぬぐいだ。
 くの字に曲げる事で、ブーメランのような軌道を描き戻って来ていたのだ。
 佐野が手元に戻った鉄を掴み、元の手ぬぐいへと戻す。
 佐野の手の中で鉄製のブーメランが力を無くし、だらりと垂れ下がった。

 その時、ザザザ、と聞き覚えのあるノイズ音が佐野の耳に入る。
 ここまで来る山道で聞いたのと同じ音だ。
 その時は予知通りの時刻に到着する事を優先し無視していたが、音は殺人日記から発生しているらしい。
 確認すると、目の前の男の殺害計画が出来上がっていた。
 このノイズは未来が変わった音なのだと、佐野は理解する。
 では、あかりも未来を変える何かを支給品として持っていた、もしくは未来を変える能力者だったのだろうか。

 それを判別する事はできないが、未来は自分の行動以外の要因でも変わりえるという事が判明しただけでも収穫だ。
 山道でのノイズは外的要因による未来の変更。
 今のノイズは自分の行動による未来の変更である。
 一瞬、男を直接狙おうかとも考えた佐野であったが、殺人日記に記述が無いためそれは失敗すると判断し、コインの方を狙ったのだ。
 それが、未来を変える分岐点だったらしい。


「俺は、どっちでも良いと思った」


 桐山が独り言のように呟く。


「俺は赤座あかりの呼びかけを聞きここに来た、赤座あかりは居らず、お前が居た。
赤座あかりは殺し合いをしたくないと言い、お前は殺し合いに乗ると言った」


 桐山は先程投げたコインに目を向けた。
 コインは表と裏の上下に割れ、図柄はどちらも下になってしまっていた。
 表でも裏でもない、何も描かれて無いまっさらな面が月明かりにきらめいている。


「コインを投げ、表が出れば赤座あかりの言うように殺し合いはせず脱出を目指す、裏が出ればお前の言うように殺し合いに乗り最後の一人を目指す」


 桐山が視線を佐野に戻した。


「はっ、自分で決められんからコイントスで出た結果に従うっちゅうんか。しかも他人の意見に従うて、自分の意見は無いんかい。
……で、どないすんねん。表も裏も出とらんようやけど」


 佐野が興味から桐山に尋ねた。
 桐山はしばし黙考した後、すっと手を伸ばす。
 桐山が指さす先には、拡声器が落ちていた。


「それを俺に投げてもらえるか」


 佐野の問いに対する答えは返ってこなかった。
 殺人日記に異常はない。
 殺害時刻もまだ先だ。


「ほれ」


 佐野は拡声器を桐山に向けて放り投げた。
 桐山の死亡は殺人日記により確定している。
 だから、最後くらいはこの男の好きなように行動させてやろう。
 そう思ったのだ。
 自分の事を殺し合いに乗った者として周囲に告知されようと構わない。
 むしろ、そちらの方が好都合だ。
 自分に敵意を向ける者と、そうでない者。
 どちらが殺しやすいかと言えば、前者だ。
 これから参加者を殺して行く際、無抵抗な者よりも自分の姿を見て反撃してくる者の方が、躊躇う事なく攻撃できる。
 そちらの方が、佐野にとってはありがたかった。

 桐山は拡声器を受け取ると顔の高さまで持ちあげ、少しだけ上に傾ける。
 キン、と拡声器からスイッチを入れた音が響いた。


『香川県城岩町立城岩中学校三年B組の桐山和雄だ』


 桐山の声が増幅され、拡散する。


『俺は赤座あかりに呼びかけを受けて山小屋に到着した。だが、そこに赤座あかりは居なかった。血の付いた手ぬぐいを持つ男が一人居ただけだ』


 こんな月明かりだけの暗闇の中で、男が手ぬぐいに付いた血に気付いていた事に佐野は少しだけ驚いた。
 手ぬぐいに付着した血痕は白地の布に目立っている。
 だが、月明かりだけでそれを判別するのは容易な事ではない。
 成程、この会場に呼ばれているのは自分達能力者のように、普通とは違う者達が呼ばれているのだろうと佐野は思った。
 桐山の声は続く。


『俺は赤座あかりが言ったように仲間を集めようと思う。仲間と協力し、脱出を目指す。
そして、殺し合いに乗った者は殺す。殺し合いに乗っていない者でも、非協力的な者は殺す。
脱出に協力できない者は、全て殺す。俺から言う事は以上だ』

「なっ……!」


 それで言う事は終わったと、桐山は拡声器を自分のデイバッグに仕舞入れる。
 投げたコインは表も裏も出さなかった。
 表が出れば『殺し合いはせず脱出を目指す』。
 裏が出れば『殺し合いに乗り最後の一人を目指す』。
 どちらも出ていないのならば、このどちらも選ぶ事はできない。
 出た面はコインの『中間』だ。
 『誰も殺さない』と、『自分以外の全てを殺す』の中間。
 赤座あかりはみんなで『協力しよう』と言っていた。
 ならば、自分は『非協力的な者』全てを殺そう。
 殺し合いに乗った者は脱出に邪魔なので殺す。
 勝手な単独行動をしたり、仲間になるのを拒む者は後の障害に成り得るので殺す。
 その手には、仕舞い入れた拡声器の代わりに短機関銃が握られていた。
 ドイツのヘッケラー&コッホ社製M&K MP5SDだ。
 それを見た佐野が瞬時に手ぬぐいを鉄に変える。
 手ぬぐいを広げ板状になった瞬間に息を止め、鉄板を作ったのだ。
 瞬間、毎秒十五発の弾丸を吐きだせる銃口から9mmパラベラム弾が発射された。
 銃身と一体化している消音器のおかげで、M&K MP5SDの銃声は短機関銃でありながら非常に小さかった。
 弾は正確に佐野を捉えるが、鉄板に弾かれる。
 佐野は自分に向けて吐き出される複数の銃弾を防ぎながら横に跳んだ。

 横に跳んだ佐野を、銃口は追っこなかった。
 念のため殺人日記をちらりと確認する。
 そこには未だ桐山の殺人計画が表示されていた。
 相手が短機関銃を持っていようと、負ける未来は訪れない。
 佐野が殺人日記を着物の中に戻そうとした時だ。
 戦闘中に携帯をチェックした佐野の行動を見た桐山が、学生服の上着から携帯を取り出した。
 基本支給品であったタッチパネル式の形態ではない。
 二つ折りの携帯だ。
 桐山がその携帯を開き、画面を確認する。


「……未来の殺人計画を記す日記、か」


 瞬間、二人の持つ携帯から耳障りなノイズ音が走った。


「なんや!?」


 殺人日記にあった桐山の殺人計画が書き変わる。
 桐山の持つ携帯電話は、児童養護施設『母の里』に住む難波太郎の所持する『コピー日記』だ。
 コピー日記は相手の未来日記の能力を、文字通り写し取る能力を持つ未来日記である。
 桐山の携帯が殺人日記の能力を得たために、未来が変更され始めたのだ。

 ザザザ。
 ザザザザザ。

 二人の間には風の音と、携帯電話から発せられる不気味なノイズが響いていた。
 未来は、未だ確定していない。




【一日目・深夜 〔B-6 山小屋前〕】

【佐野清一郎@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:殺人日記@未来日記、手ぬぐい×3@うえきの法則
[道具]:基本支給品一式、不明支給品1、ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版
基本行動方針:神にも等しい力を手に入れ犬丸を救う
1: 優勝を目指す
2: 桐山を殺すが、不利になれば撤退も視野に入れる

[備考]
手ぬぐいの一枚には赤座あかりの血が付着しています。
殺人日記の日記所有者となったため、佐野の携帯電話が殺人日記になりました。
殺人日記を破壊されると死亡します。



【桐山和雄@バトルロワイヤル】
[状態]:健康
[装備]:M&K MP5SD@ひぐらしのなく頃に、コピー日記@未来日記、メダルゲームのコイン×9@とある科学の超電磁砲(上着のポケットの中)
[道具]:基本支給品一式
基本行動方針:仲間を集め脱出する。非協力的な者や殺し合いに乗った者は殺す
1: 殺し合いに乗った男(佐野清一郎)を殺す

[備考]
基本支給品の携帯電話はiPhonです。
コピー日記が殺人日記の能力をコピーしました。
コピー日記は基本支給品の携帯電話とは別の携帯で支給されており、画面に表示された所有者の欄に自分の名前を入力するだけで使用可能となります。
所有者の変更には現所有者が死亡するか、現使用者の同意が必要です。
所有者以外がコピー日記の能力を使う事はできません。
 例:コピー日記にコピーした日記能力の変更は所有者にしかできない。
※他者がコピー日記を奪い、表示されている内容を見る事は可能。
 ただし、表示される内容は所有者視点のままとなる。



※B-6山小屋近くに 手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則の蓋が落ちています。
※B-6山小屋前の地面には多数の狩猟犬の足跡と何かを引き摺った跡が残されています。
※B-6山小屋前から拡声器での呼びかけ(あかりの物と桐山の物)が響き渡りました。
 どの程度の距離まで響いたのかは後の書き手さんに任せます。
 原作では、島のかなりの部分にまで響き渡ったらしいです。



























      \アッカリ~ン/








 赤座あかりダイジェスト。

 わんわん達と仲良く遊びました。
    ↓
 \アッカリ~ン/


「か、簡単すぎるよぉ~!」



 もうちょっと詳しい赤座あかりダイジェスト。

 山小屋から出るとわんわんがたくさん居ました。
    ↓
 支給品に手ぬぐいの詰まった大きな箱があったので、そこから手ぬぐいを取って鼻に詰めて鼻血を止めます。箱は邪魔にならない隅っこに置いておきました。
    ↓
 同じく支給品にあった着ぐるみパジャマ(京子ちゃんから貰ったものだよ)を着てわんわんとじゃれます。
    ↓
 はっ! 遊んでないでみんなに呼びかけないと!
    ↓
 呼びかけます。
    ↓
 呼びかけたので早速わんわんとの遊びを再開します。
    ↓
 しばらく遊んだ後、支給品の説明書に電話番号が書いてあったのを思い出したので、試しに掛けてみました。
    ↓
 電話にはムルムルと名乗る女の子が出ました。助けを求めましたが、無視されて『飼育日記』の所有者になるのかと訊かれました。あかりが首を傾げます(かしげます)。
    ↓
「『しいくにっき』って、何?」
    ↓
 飼育日記の説明が始まります。その説明の中にわんわんの遠吠えによる報告がわかるとありました。
    ↓
「本当!? わんわんの言ってることがわかるの!? なるなる! あかり、その『所有者』になるよっ!!」
    ↓
 わんわんとお話したかったあかりは所有者になると言ってしまいました。ムルムルちゃんの説明だと、日記が壊れるとあかりは死んじゃうんだって。………気を付けるよっ!
    ↓
 説明が全て終わった後、ムルムルちゃんにもう一度助けを求めました。すると、なんとムルムルちゃんは誘拐犯の一味だと言うではありませんか! あかりは驚いて電話を切ってしまいます。
    ↓
 あかりは少し涙目です。でも、飼育日記に本当にわんわん達の事が書かれているのを見て、元気を取り戻しました。あかりは嬉しそうです。
    ↓
 α1やα2、α3がわんわんグループのリーダーの名前らしいですが、なんだかかわいくありません。
    ↓
 α1、α2、α3の名前をそれぞれアカちゃん、アオちゃん、アイちゃんに変えます。ついでに『飼育日記』の呼び方も『わんわん日記』に変更します。次は他のわんわんの名前も考えないとねっ!
    ↓
 その時わんわん日記にノイズが走る・・・!!
    ↓
 何だろうと画面を確認しようとした時に足がもつれて転倒。頭から手ぬぐいの詰まった箱に突っ込みます。同時に鼻から手ぬぐいが抜けて地面に落ちました。二枚の手拭いが箱からこぼれ落ちたのもこの時です。
    ↓
 箱がずれて斜面に移動しました。
    ↓
 滑りました。
    ↓
 \アッカリ~ン/




「うえ~ん! 誰か助けてー!」

 『犬神家の一族』の某有名シーンのように箱から脚だけ出したあかりの運命やいかに!?
 そしてわんわん達はあかりを追えているのか!?
 次回に続く!!



【一日目・深夜 〔B-6周辺のどこか〕】

【赤座あか(ry@ゆるゆり】
[状態]:健康。鼻血は止まったよ!
[装備]:わんわん日記(飼育日記)@未来日記、手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則、着ぐるみパジャマ(わんわん)@ゆるゆり
[道具]:基本支給品一式
基本行動方針:みんなと協力しておうちに帰る
1: どうなってるのぉー!?
2: 京子ちゃん、結衣ちゃん、ちなつちゃん、杉浦先輩と会いたい。

[備考]
基本支給品の携帯電話はスライド式です。
飼育日記の日記所有者となったため、あかりの携帯電話が飼育日記になりました。
飼育日記が破壊されると死亡します。
飼育日記のα1、α2、α3の表記がアカちゃん、アイちゃん、アオちゃんに変更されました。

現在、山の斜面を手ぬぐいの詰まった箱に頭から突っ込んだ状態で滑り下りています。
月島ケンネルで飼育されている狩猟犬数十頭があかりを追っています。
が、あかりを見失った可能性があります。

※斜面を叫びながら滑り落ちているため桐山の呼びかけを聞いていません。




【飼育日記@未来日記】
赤座あかりに支給。
月島ケンネルの狩猟犬数十頭もセットで支給。
未来日記十番目の所有者『月島狩人』の日記。
10thの狩猟犬は三つのグループを形成しており、それぞれのリーダー“アルファ”を操る事により、数十頭もの犬達のコントロールを可能としている。
この日記はアルファへの命令とそのレスポンス(遠吠えによる報告)を記す物である。
所有権を変えずに日記を委譲する事も可能で、PSPゲーム版では12thに日記を貸し与えていた。
犬達への命令は携帯を通じて犬のマスクに備え付けられている無線により伝えられる。
所有者の意思ではない譲渡、例えば日記が強奪された際に、その強奪した人物の命令を犬達が聞き入れるかは不明。
良く訓練されているので、恐らく飼育日記所有者以外の命令は、所有者の意思による第三者への貸与でもない限り聞き入れないと思われる。


【殺人日記@未来日記】
佐野清一郎に支給。
未来日記第三の所有者『火山高夫』の日記。
この日記には、所有者の未来の殺人の状況が記されてる。
標的を、どこで、どのように仕留めるかが書かれた、言うなれば必ず実現される殺人計画。


【コピー日記@未来日記】
桐山和雄に支給。
孫日記所有者『難波太郎』の日記。
この日記の能力は相手の未来日記の能力を文字通りコピーするというものである。
例えば、無差別日記をコピーすれば、雪輝ではなく自分を中心とした周囲の予知が可能となる。
しかし、文体までコピーしてしまうらしく、雪輝日記をコピーした際は表示される予知が全て由乃のような文体になっていた。


【ロンギヌスの槍(仮)@ヱヴァンゲリヲン新劇場版】
佐野清一郎に支給。
ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破にて登場した。
劇中では未だ名称が公開されていないため(仮)。
神に近い存在となりサードインパクトを起こしかけたエヴァ初号機を貫きサードインパクトを防いだ。



【メダルゲームのコイン@とある科学の超電磁砲】
桐山和雄に支給。
御坂美琴がレールガンを放つ際に使用するメダルゲームのコイン。
十枚セット。



【M&K MP5SD@ひぐらしのなく頃に】
桐山和雄に支給。
作中、山狗部隊が使用した物。
消音器が銃身と一体化しているため、銃声は非常に小さい。
短機関銃で、毎秒十五発の弾丸を発射できる。



【手ぬぐいの詰まった箱@うえきの法則】
赤座あかりに支給。
神候補淀川(よっちゃん)がうえき達に媚びを売るために送り付けた物の一つ。
中には手ぬぐいがぎっしり入っている。
箱の大きさは人間一人が余裕で入れる程。


【着ぐるみパジャマ(わんわん)@ゆるゆり】
赤座あかりに支給。
歳納京子から娯楽部全員にプレゼントされた着ぐるみパジャマの一つで、これはあかりにプレゼントされたわんわんの着ぐるみパジャマ。
京子がゲーセンで取って来た物らしい。
トイレの時邪魔になる。
京子「これはね、私達4人の友情の証。絆なんだよ。私達はこれで繋がっているの」
結衣(なにを言っているのかわからない…)


【拡声器】
赤座あかりが山小屋で入手した。
自分の声を大きくするための道具。
仲間を集めるのに便利だが、マーダーも集まって来るのが困りもの。
そのためパロロワ界では拡声器=死亡フラグの図式が成り立ってしまっている。
というか原作からして拡声器が死亡フラグ扱い。
見かけたら逃げろ。



Back:友情の法則 投下順 闇に舞い降りた美少女-ミコト-
Back:友情の法則 時系列順 闇に舞い降りた美少女-ミコト-

START 赤座あかり LEVEL4 -justice-
START 佐野清一郎 Gong Down
START 桐山和雄 Gong Down


最終更新:2011年11月24日 19:41