友情の法則 ◆j1I31zelYA
「それで天野は、『神様になったら死んだ人も生き返る』って信じたまま、邪魔者を皆殺しにするつもりなんや。
そんなんほっとけるわけないやん。友達として止めたらなあかんやん」
「わかった。要するに、その天野と我妻由乃を見つけて、一発ぶん殴ればいいんだな」
「いや、必ずしも殴る必要はないねんけど……まぁ、そういうことやな。
神様決める戦いの途中やのに、またこんなところで殺し合え言われて、きっと天野も混乱してるはずなんや。
しかも死人が生き返ると思い込んでるし、『皆殺しで優勝して神になって生き返らせよう』とか思うかもしれん」
「なるほどな。……分かった。じゃあ一緒にその天野を探そう」
「おおきに……って、ほんまあっさり聞いてくれたな。
そこは、『信じられるか!』って言うところやろ。特に自分の場合は」
「なんでだ?」
「自分ら、『神様を決める戦い』で戦ってたんやろ。
モノホンの神様にも会ったことあるんやろ。
それなのに、うちらが『神さまを決める殺し合い』に関わってたなんておかしいやん。
普通、『そんなわけがあるか。じゃあ俺たちが戦ってた神さま決定戦は何だったんだー』ってなるやん。
だいいち、ウチの話にも矛盾は多いで。デウスの寿命は残り短いはずやのに、新しくこんな殺し合い開いたりとか」
「だって日向は嘘をついてるようには見えなかったぞ。
だいいち、俺たちはもう仲間じゃないか。仲間の言うことは信じられるだろ?」
「はぁ……」
「どうした日向? そんなウルウルして」
「植木って……少年漫画みたいにカッコいい奴やな。
ウチの周りにもお人好しな連中がいたけど、植木はお人好しってレベルを通り越してるわ」
「人を疑わないバカっていうのはよく言われるな……でも、日向だって俺の『能力者バトル』の話を、あっさり信じてくれたじゃないか」
「そりゃあな……手の中から『木』を出したんやもん。
その木を自由自在に操って、スタート地点がボートの上やったウチを助けてくれたし。
眼の前でそんな不思議をされたら、信じるしかないわ」
「おお、もうすぐレベル2になるからな。そうしたらもっとすごくなるぞ」
「それやそれ。植木の能力のことなんやけど……」
――ザザ……ザザッ
「ん……? 今、日向の携帯から、音がしなかったか?」
「ああ、これな。ウチの支給品に関係あるんやけど、後で説明するわ。
それより先に確認したいんやけど、今の植木が、『能力』のほとんどを封印しとるってことや。
そうしないと『レベル2』になれんって言ってたけど、その『レベル2』なら、だいたいの敵は倒せるん?」
「ああ。っていうか、『能力を完全に使いこなせた時』を『レベル2』っていうらしいんだ。
この殺し合いにいる奴だとロベルト――本当は『アノン』だけど、そいつもレベル2を持ってる。
それに、オレと同じ天界人のバロウもきっと強敵だ。
だから、この二人と戦う時までには、絶対に『レベル2』をマスターしなきゃならない」
――ザザッ……
「そうか……植木もやることいっぱいで大変やな。でも、『神器』っていう武器はテンコっていうのに預けてるんやろ?
そのコが行方不明やったら、『レベル2』になっても武器がないのと違うか?」
「いや、テンコならたぶん、誰かに支給されてると思う。
おれがここに呼ばれる直前まで、テンコはいつもどおり腕にくっついてたからな。
あの主催者の男に取り上げられてると考えた方が自然だ。
それで、日向の言ってた『未来日記』っていうアイテムも、支給品にされたんだろ?
だったら、支給品には、皆の武器がランダムに配られてる可能性が高い。
つまり、たぶんテンコもここにいるってことだ」
「そっか……熱血単純キャラかと思ったら、頭回るんやな」
――ザザ……ザザッ
「そう言えば日向……さっきから携帯をちらちら見てるけど、故障でもしたのか。
なんか雑音まで聞こえるし」
「ああ……これのことか。そうやな、もう話してもいいかな。
これはな、実は『未来日記』の未来が書きかえられる音やねん。
うちの『友情日記』のことは、さっき説明したと思うけど」
「え? ……ってことは」
「実はな、ウチ、さっきからずっと植木のことを観察してたんや。
それで、会話の話題を色々と振りながら、植木がどういう行動をするか未来予知で確かめてた。
せやから、植木の戦う力のこととか、植木が敵対しとる連中とか、けっこうピンポイントで聞いて来たやろ。
……つまりウチは、植木を信用していいか決めかねとったんや。ごめん」
「なんだ、そうだったのか。
でも、『友情日記』で予知されたってことは、オレはお前に『友達』と思われたってことなんだな。良かったよ」
「それでよく分かったわ。植木は、この殺し合いを止めるのに、きっと必要な人間や」
ぽん、と。
ここで、日野日向が、植木耕助の肩に両手を置いた。
「ありがと。おかげで覚悟決まったわ」
その両手が、小さく震えていた。
「日向……?」
人を疑わない植木は、やっと疑問を持った。
「あのさ、植木。『天野を止める』って言ってくれたやろ。ウチ、それを信じるわ」
「おう。おれも『仲間』は信じるぞ」
何故だろう。
日向は笑っているのに。
「ありがとう。そういうことなら、植木に見せたい支給品があるんや」
「見せたい支給品?」
言葉にできない、違和感。
以前にも感じたことがある、不吉な気配。
「この布なんやけど……植木、いったんうちのディパックと携帯を持っててくれるか?」
「ああ。いいけど……どうしたんだ、日向? 何だか、さっきから笑い方が変だぞ。無理してるみたいだ」
分からない。
植木には、その悪寒の理由が分からない。
「あぁ……ばれてもうたか。天野を騙した時は簡単やったのにな」
――ザザ……ザザッ
「ありがとな、植木。ほんの一時間足らずやったけど、いい友達ができて嬉しかったで」
そして、日向の行動は素早かった。
頭に、大きい布のようなものをかぶせられた。
「すまんな、――」
――ぐにゃり、と植木の視界が歪んだ。
そうか。
思い出した。
――『憧れの人』が、オレを庇った時だ。
……そして、そこに植木はいた。
「どこだ……ここは?」
それまでいた埠頭とは違う、ぜんぜん別の場所に。
港から、住宅街の真っただ中に。
二人分の荷物と、日向の携帯を抱えたまま。
――すまんな、これ、定員は1人までやねん。
歪んだ視界の中で、日向は確かにそう言っていた。
↓ ↑ ↓
植木耕助を『逃がした』死出の羽衣は、刹那、ふわりと宙空をただよい、そして地面に落ちた。
「植木くんが消えた……どういう仕掛けなのかは分からないが、天界力以外にも未知の能力があるようだね。
ひとつ勉強になったよ」
「『予知』通り来たか……『天界人』ってことから、バロウ・エシャロットの方やな」
『天界人』とは、あんがい普通なんだなぁと日向は思った。
いつの間にか背後にいたのは、日向たちと変わらない年頃の、小柄な少年。
長めの茶色い髪に、白いダッフルコート。
まだ小学生と言っても通用するであろう――普通の子どもにしか見えない。
「一応、聞いておくよ。『ロベルト・ハイドン』という参加者に会いませんでしたか?」
淡々と少年は尋ねる。
「どうせ正直に答えても嘘ついても殺されるんやろ。
そういう『未来』やもん。
アンタは今回もそのロベルトを優勝させる為に、殺し合いに乗るってことか?
前の『神様を決める戦い』と同じように」
「まさか。それでは手段と目的が逆になってしまうよ」
――違う。普通じゃない。
その瞳にあるのは、明らかな侮蔑。
まるで、頭の足りない生き物を見るような目。
「どういうことや」
「ぼくは、ロベルトを優勝させた見返りで『願いを叶えて貰う』という約束で彼の下についたんです。
つまり、願いを叶える為には、ぼく自身の生存が大前提になる。
ロベルトを探しているのは、彼に従う振りをした方が、最後の一人を目指す上で有利だからですよ」
「それで最後にはロベルトも殺すってわけか。
前に天野たちを殺そうとしたウチが言うのもなんやけど、酷い奴やな」
「恩人を殺すのが何だっていうの? 何よりも大切なことは、『目的を達成すること』じゃないか。
そういう君も、合理的判断で植木くんを逃がしたんだろう。
能力者じゃない君より、植木くんの方が戦略的に貴重だから」
「一緒にすんなや。
確かにウチは、植木なら殺し合いをとめてくれるし、友達も助けてくれるってアテにした。
でもな、そんな理屈で、出会って一時間で、大事な友達を託そうっていう気は起こらんわ」
理屈ではなかった。
いや、理屈で考えたとしても、明らかに分の悪い選択だ。
出会ってから一時間たたない人間の為に死ぬなんて、お人好しを通り越してただのバカだ。
でも、植木耕助はそれ以上のバカだ。
正義感が強くて、出会って間もない日向の話を聞いてくれて、
『神様を決める殺し合い』という荒唐無稽な話を信じてくれて、
さっき出会ったばかりの日向を『仲間』だと呼んでくれるような、バカだ。
こんな殺し合いの場で、一般人の日向が、思わずすがりつきたくなるような、バカだ。
そして、その植木耕助が約束してくれたのだ。
日向の友達を、――天野雪輝を、止めてくれると。
――ごめんな、まお。うちは最後まで、自分勝手なままやった。
「じゃあ、どうして?」
「あんたには多分、理解できんと思うわ」
「そうですか――〝唯我独尊(マッシュ)〟」
“顔”が、表れた。
大きな大きな立方体に描かれた、くりぬかれたような目。
鋭利に並んだ、櫛のような歯。
日向など、丸呑みにしても余裕のある、巨大なアギト。
恐怖はあった。
「さよなら」
淡々としたバロウの言葉。
日向の鼻先で『あーん』と開かれたアギト。
でも、後悔はなかった。
――だって、植木はうちの、友達や。
がっちん
バロウは、植木耕助を逃がした『布』を、地面から拾い上げた。
「ただの布か。『“布”を“ワープトンネル”に変える能力』……いや、僕の知る限り、そんな能力者はいない。
あるいは、道具自体が能力を持っていて、正しい使用法によって発動するのか。
彼女からその秘密を聞きださずに殺したのは、早計だったかもしれない」
首から上を失った死体を、感情の無い瞳で見下ろす。
既に解き終えた式を、検算するような目だった。
「まずは1人……『目的』の達成まで、あと49人」
【C-3/港/一日目・深夜】
【バロウ・エシャロット@うえきの法則】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、不明支給品(0~3)、
死出の羽衣(6時間使用不可)@幽遊白書
基本行動方針: 優勝して生還。『神の力』によって、『願い』を叶える
1:どうやら、参加者を殺しても『才』は増減しないようだね。
2:ロベルト・ハイドンを探して指示を仰ぐ。ただし、機を見て裏切る。
3:皆殺し。ロベルト・ハイドンも最後には殺す。
[備考]
※ロベルト・ハイドンをアノン(に吸収されたロベルト)だと思っています。
↓ ↑ ↓
「なんでだよ…………」
植木耕助は、携帯を見ていた。
ノイズを立てて、書きかえられた『予知』を見ていた。
だから、植木は理解してしまった。
正しくは、理解できなかった。
『死出の羽衣のおかげで、植木はFー8に飛ばされた。これで植木は安全や』
『植木をかばったうちは、天界人のバロウに殺された。 DEAD END』
こんな言葉で、理解できるわけがない。
こんなたった2行の文章だけで、『死んだ』と理解できるはずがない。
日野日向が、たった今殺されたなどと、理解できるはずがない。
――ありがとな、植木。ほんの一時間足らずやったけど、いい友達ができて嬉しかったで。
笑顔でそんなことを言われても、受け入れられるはずがない。
どうしてそんな笑顔で死ぬことができるのか、納得できるはずがない。
そして、疑問はそこに集約される。
どうして、日向は死を選んだ?
どうして、未来が読めていながら、逃げることを選ばなかった?
日向は、未来日記をずっと読んでいた。
『バロウ・エシャロットが襲って来る未来』も、もう少し前から分かっていたはずだ。
なら、それを植木に話して、二人で逃げるという選択肢もあったはずだ。
一般人の日向が1人で逃げるのは難しかったかもしれないが、日向があの『布』を使って、植木は自力でどうにか逃げれば――
――違う。
その選択肢はなかった。
植木は、理解してしまった。
それが己のことであるからこそ、理解してしまった。
おそらく、植木は逃げなかっただろう。
たとえ『神器』を使うことができなくとも、逃げなかっただろう。
何故なら、バロウとロベルトたちの一味は『人間を滅ぼすこと』を目的として動いているから。
つまり、彼らを放置しておけば、他の参加者が殺されることは、目に見えているから。
自分を犠牲にしてでも、他人を助ける。
それが、植木の信じて来た『正義』だったのだから。
一時の感情で命を捨てるなと、叱られたことがある。
けれど、今回は違う。
植木がバロウを止めなければ、近い未来に誰かが殺されていたのだ。
日向がどんなに止めたとしても、植木はバロウに向かって行ったはずだ。
未来日記は、『植木が逃げない』ことも読んでいたのではないか。
だからこそ日向は、植木を観察していたのだ。
『未来日記』に書かれた未来は、予知者の主観に左右されると言っていた。
だから日向は、植木の話を聞きながら、予知される未来を微修正していったのだ。
それとなく『植木の戦力の話題』や『植木と敵対している参加者』の情報を得ることで、植木のことを正確に理解していったのだ。
そして、『植木耕助は、逃げることを良しとしない』という未来を理解した。
その上で、『植木耕助は、バロウ・エシャロットに勝てない』という未来を予知してしまった。
敗因となりえる理由は明白だ。
テンコに神器を預けていること。
いくらレベル2になれたとしても、その後にテンコから『神器』を返してもらわなければ、植木は万全の力を発揮できない。
つまり、あの植木がバロウと戦うことは無謀だった。
その無謀を承知で、植木はバロウに向かって行っただろう。
だから、日向はあのアイテムで、強制的に植木を逃がした。
それこそギリギリまで迷って、バロウがやって来るギリギリまで迷って。
――植木は、この殺し合いを止めるのに、きっと必要な人間や。
そういう結論を出したから、植木を助けることにしたのだ。
植木が、『撤退』を選ばなかったから、日向は死んだ。
植木耕助が、『バロウを見過ごすことのできない人間だった』から、日野日向は身代わりになった。
「あ……うぁ……」
――植木耕助の『正義』が、日野日向を殺した。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
【日野日向@未来日記 死亡】
【F-8/住宅街/一日目・深夜】
【植木耕助@うえきの法則】
[状態]:精神ショック(大)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式×2、不明支給品(0~3)、日向の不明支給品(0~1)、
友情日記(未契約)@未来日記
基本行動方針: 殺し合いをやめさせる
1:オレが日野を死なせた…?
[備考]
※参戦時期は、第三次選考最終日の、バロウVS佐野戦の直前。
※『友情日記』のアドレスには、既に『契約』の為の電話番号が登録されています。
電話番号に電話すれば、所有者を上書き登録することができます。
(植木はまだ気づいていません)
※日野日向から、7月21日(参戦時期)時点で彼女の知っていた情報を、かなり詳しく教わりました。
【友情日記@未来日記】
日野日向の孫日記。
『友達とのやりとり』をメモしたもので、日野日向と友人の交流体験を予知する。
作中では刑事である西島との連絡も予知しているので、『友人』と認定される人間の幅は割と広いらしい。
【死出の羽衣@幽遊白書】
闇アイテム。
くるんだ相手をランダムな場所にとばすことができる。
世界の果て、魔界、異次元など、本来は二度と返って来られない場所に飛ばすアイテムのようだが、
桑原に使用した際は、偶然同じ島の違う場所に飛ばされるだけにとどまった。
このロワでは会場内のランダムな場所に飛ばされる。
布の面積の都合で、飛ばせるのは1人だけ。また、制限により6時間に1度しか使用できない。
最終更新:2012年06月01日 21:26