急に倒れた朝比奈さんの看護をしながら俺は見た。コンビニの中にいた男が黒尽くめの男から何かを取ったのを。
指は確かに頭に突き刺さっていた。
そしてその後黒尽くめがスイッチを切られた様に倒れるのを。
男は何事も無かったかのように店の奥へと消えていった。
「おい、キョン。見たか、今の?」
一緒にコンビニの方を見ていたセッコがそうつぶやく。
ああ、あれもスタンドって奴なのか?
「ああ、あれは人型のスタンドだな。おそらく奥のミカンのすじが本体だ」
ミカンのすじ。おそらく、あの奥で一ツ橋さんの手を取っている男の髪型のことだろう。
綺麗な白髪に剃り込みが入っていてミカンを彷彿とさせる。
「しかし、面白い能力だなァ。生ハムを作るなんて」
生ハム?

act6―出会いの駅前~質問の不思議な聖職者

時間は少し前、コンビニ内でまだ事件が起こっていたときに戻る。

頭ががんがんする。
先ほど同様男の持っていた狩猟用ライフルと思われるもので殴られたのだ。
コンビニ内にざわめきが広がっていく。
騒ぐな、とライフルをちらつかせながら男が威圧的に告げる。
すると、コンビニ内は一瞬にして水を打ったように静かになった。
「妙な真似しやがったら、そのときは容赦しないからな!」
私は気づかれないように男を見上げる。
目の焦点があっていない。もしかしたら薬物中毒者なのかもしれない。
男(薬中としておこう)は客が動かなくなったのを確認するとぶつぶつと何かを呟きながら商品棚をあさり始めた。
その様子を見て好機と思ったのか、店の端にいたアベックの片割れ(男)が自動ドアのほうへと駆け出す。
しかし、それで逃がすほど薬中も馬鹿じゃない。
薬中は逃げようとする男の少し奥にあったコピー機に銃口を向けて引き金を引く。
狭いコンビニ内に響き渡る乾いた音。壊れるコピー機。
まさか本物だとは思っていなかったらしく、その場で腰を抜かしたように、いや実際に腰を抜かしてその場で尻餅をつく男。
「舐めた真似すんなってェ、言ったばかりだよな」
弾を篭めなおしながらそう言う薬中。
そのまま銃口を男につきつける。
「言っても分からないんだったら、誰かに犠牲になってもらわないとな!!」
壊れたCDプレイヤーのように謝罪の言葉を連呼する男。
しかし薬中は中空を見上げたまま引き金に手を掛ける。
誰もがあの男の死を確信したときだった。
「果たして君に引き金が引けるのか?」
私の後ろで誰かが声を上げた。

薬中が私の、正確には私の後方で声を上げた誰かの方に銃口を向ける。
「誰だ、誰だ!出て来い、ブッ殺してやる!!」
口から泡を飛ばしながらそう叫ぶ薬中。
私はゆっくりと後ろを向いてみる。
するとそこには一人の男が立っていた。
まず目に入ったのはその風体。
背が高い。180以上あるだろう。しかもその身長の大半を足が占めている。
その上姿勢もいい。黒い服を着込んでいるのでそれがさらに彼の姿勢のよさを引き立てる。
そして髪。これは服とは相反する白一色で短く刈りそろえられている。
浅黒い肌、堀の深い顔。きっと欧米の人だろう。
次に目に入ったのがその服に描かれている大きな十字架。神父なのだろうか。
神父風の男は淡々と答える。
「昔ある国の革命家がこう言った。
『撃っていいのは撃たれる覚悟のある者だけだ』
銃口を向けるということはそれ相応の覚悟がいるということだ。
君にはその覚悟があるのか?」
話し終わるのが早いか、薬中が神父に向かって引き金を引く。
再びコンビニ内を駆け巡る乾いた音。
しかしその弾丸が神父の体を貫くことはなかった。

ありえない。それがその人を見た私の感想だ。
まず服装。黄色と黒の縞模様の服に黒く天を突くような形の帽子のようなもの。
しかし、ここまでなら変態だけで済むだろう。
しかし彼は今、いきなり虚空から現れて銃弾をその手ではじき上げたのだ。
「な、何で当たらねぇんだ!?」
動揺を隠せない薬中。
私の肩を掴み乱暴に立ち上がらせ、そのまま銃口を私に突きつけつつ、神父から距離を取ろうとする。
神父は先ほど同様淡々とした口調で続ける。
「『何処に行かれるのですか?』
銃刀法違反、強盗未遂、器物破損、殺人未遂。これ以上罪を重ねるんじゃあない。」
「う、うるせえェーー!俺の、俺のそばに近寄るなァー!!」
そのまま私を商品棚のほうへと突き飛ばし逃げ出そうとする薬中。
しかしそうはさせじと神父の隣に突っ立っていた変態が動いた。
ドアに到達するよりも変態が早く薬中の頭を掴む。
「な、何だ!?どうなってんだ!?」
そのまま手を横に振りぬく変態。
すると何故か薬中はスイッチが切れたロボットのように地に伏した。
薬中が倒れたのを見て、変態は出てきたときよろしく虚空に消える。
「さて、大丈夫かな?」
呆然としている私に神父が手を差し出す。どうやら助かったみたいだ。

ここから時間は冒頭に戻る。

神父風の男(セッコの言うところのミカンのすじ)に手を引かれながら一ツ橋さんがコンビニから出てくる。
顔の右側が腫れているのを除けばどうやら無事のようだ。
(あれ、右側…?)
変な感じだ。
傷の形といい、大きさといい、朝比奈さんの顔に突然出来た痣にそっくりだ。
「あ、キョンさんに、セッコ君。何でここに?」
俺たちを見て不思議そうにそう問いかける一ツ橋さん。
とにかく無事でよかった。
「大丈夫ですか?」
朝比奈さんが無事な姿を見て安堵したらしく、駆け寄ろうとする。だが、
「あれ、どうかしたんですかぁ?セッコさん」
セッコがそんな朝比奈さんの服の端を掴み、近づこうとするのを阻む。
セッコの目は、先日俺に向けられたような冷たい目をしていた。
警戒しているのだ。未知の能力者を。
俺も朝比奈さんを一ツ橋さんと神父風の男から遠ざけるように身を置く。
「キョン君までどうしたんですかぁ?」
頭上にはてなマークを浮かべてこちらを見上げる朝比奈さん。
彼女に構わずに俺は目の前の男に尋ねる。
「あの男に何をした?」
すると男は「ほう」といい、こちらに近づいてきた。
セッコの表情がさらに厳しくなる。自分の方へ朝比奈さんを抱き寄せ、セッコは立ち上がった。
「それ以上近寄るんならまずはテメェの素性を明らかにするこったな」
冷酷にそう吐き捨てるように言うセッコ。
その言葉に反応したのは意外にも一ツ橋さんだった。
「え、セッコ君が喋った!?」
もう、何がなんだか。

「とりあえず、場所を移そうか。ここでは人目につく」
膠着状態を打ち破ったのは神父風の男。
彼の話によると彼は近くの教会に勤めているらしく、とりあえず五人でその教会を目指す。

押し戸を思い切りあける。
長い間隔離されていたようなかび臭い空気が一気に出てきて、思わず顔をしかめる。
「これは…ひどいな」とはここに来るように促した神父の言。
人にくるように言っておいてそんなことを言うか、普通。
「私もここを使うのは今日が初めてでね」
初めて?と聞き返す前につかつかと歩いてゆく神父。
無造作においてあった布を手に取り、ほこりを粗方叩き落とし、その布で椅子を拭う。
そしてちょうど五つ拭き終わると同時に、こちらに声を掛ける。
「汚いところだが、ここに座って待っていてくれ。紅茶でも入れてこよう」
そういって教会の奥へ消えようとする神父。
その様子を見てセッコが声を張り上げる。
「茶ならおっぱいが入れるから、テメェはこっちで俺らと話せ」
おっぱい、朝比奈さんのことか。
確かに特徴を良くつかんだ言いあだ名だが、訴訟を起こされても知らんぞ。
「じゃあ、入れてきますねー」と、棟の朝比奈さんは気にせずに神父の歩いて行こうとしていた方へと小走りで消えていく。
残ったのは、セッコとセッコをもぐらと呼んだ三人。
「あの…」最初に声をあげたのは一ツ橋さんだった。
「何でセッコ君は喋れるん…ですか?」
「人間だからな」「へ、でも…」そこで言葉を詰まらせる一ツ橋さん。
次に言葉を紡いだのは神父。
「とりあえず自己紹介をしてもらえるかな?」
そういえば、俺たちと彼はまだ見ず知らずの状態なんだったな。
まずは俺が、と言おうとするが、いつものようにセッコに止められる。
「人に名を尋ねるときは自分から、学校で習わなかったのか?」
敵意剥き出し。睨みつけながら吐き捨てるようにそう言い放つ。
「これはすまなかったな。気が回らなかった。
私の名前はプッチ、エンリコ・プッチだ。」

神父、プッチは続ける。
「この廃れた教会の神父をすることになっている。
スタンド名『ホワイトスネイク』、能力は」
ここでいったん話をやめ、神父は懐から一枚の銀色のディスクを取り出す。
「記憶、能力、感覚などをディスクに変えることができる。」
「生ハムじゃねぇのか?」「あぁ、ディスクだ」
そうか、と少し寂しそうな顔をするセッコ。なにを期待していたんだろうか。
じゃあ、とセッコが目を据えたまま自己紹介を始める。
「俺はセッコ。イタリアンギャングだ。
スタンド名『オアシス』、能力は物体を泥かさせることができる。
こっちはキョン。ジャポネーゼコーコーセーだ。スタンドはまだ目覚めてない。」
そうつらつらと俺の自己紹介も済ませるセッコ。
それに合わせて俺は頭を下げる。
「よろしくお願いします」「キョウ君か。変わった名だな」
「キョウじゃなくてキョンだぜ!」「ふむ、キョン君だな」
あだ名なのはもう何も言うまい。
「向こうのしょんぼり女が一ツ橋葵。同じくジャポネーゼコーコーセー。
こっちはスタンド使いかどうかは分からない。」
一ツ橋さんもぺこりと頭を下げる、がやはりその顔は釈然としていない。
「あ、あの、スタンド…って?」
どうやらそれがずっと気がかりだったようだ。
神父はその問いを聞き、少し目を丸くする。
「驚いたな。無意識のスタンド使いか」
そして深くかけていた腰を上げ、一ツ橋さんのほうへと歩み寄った。

一ツ橋さんは神父のいきなりな行動に驚いたのか肩を少し震わせた。
「そんなに怖がらなくてもいい。事はすぐに終わる」
すっとその手を彼女の頭に伸ばす。
そして、その指を彼女の額に突き刺す。
短い悲鳴を上げ、その指から逃れようとする一ツ橋さん。
「動くなッ!!」「ひッ…」
叱責しながらも神父は一気にずぶずぶと頭に指を突っ込む。
そして一気に指を引き抜く。
神父の指には黄色い円盤が引っかかっていた。
「これがスタンド能力を私の能力でディスク化したものだ」
おお、と目をきらきらさせながらそれに見入るセッコ。
自分の頭から出てきた物に顔をしかめる一ツ橋さん。
俺はというと、まぁ人並みに感嘆の声を上げるしかできなかった。
「これを見ればそいつの能力も分かるという優れものだ。
さて、能力は…」
日に透かすようにディスクを見て、神父は少し顔をしかめる。
何かあったんですか。
「いや、彼女の能力なんだが。
答えづらい事を聞くかも知れんが正直に答えてもらっても構わないかな?」
改まってそう尋ねる神父。
「え、あ、はい」その雰囲気に圧されてか思わずといった風に頷く。
「君は人よりも数倍不幸じゃないかい?」
質問は本当に唐突なものだった。
「そして君が大怪我をすると、決まって仲の良い人も怪我をする。違うかい?」
しかしそれは彼女にとっては触れられたくなかったことらしく、一ツ橋さんは目を伏せる。
そして消え入るような声で「……はい」とだけ答えた。

「やはり、か」
神父はもう一度ディスクに目を移す。
もしかして、そのディスクが何か関係があるのか。
「ああ、名付けるのなら『ハイウェイトゥヘル』
自分の傷とまったく同じものを自分の強く念じた者につけることができる。
彼女の不幸もこの能力の所為だろう。」
ディスクを俺に渡しながらそう説明する。
自分も他人も不幸にするか。
どうやら俺の思っていた以上にスタンドというのは何でも有りらしい。
受け取ったディスクを窓から射し込む日に透かして見る。
そこには小さなプロペラのような絵がいくつも映っていた。
「それが本体の形だ」
本来の形、と俺はオウムのように聞き返す。
「知らないのかい?
スタンドは精神のビジョン、その人間の深層心理がその形状および能力に大きく関わる。
形状は人によってそれぞれだが、こんな感じで。」
神父の隣にぬっと一人の男が立ち上がる。
黒い布を冠し、黄色と黒の縞模様の服に身を包んだ大男。
大男は黙って一ツ橋さんの頭を手で横薙ぎにはらう。
すると一ツ橋さんはその手に意識を刈り取られたようにその場に倒れる。
「なっ、何を…」
思わず声が出る。
神父の隣の大男はその手に先程神父が持っていたようなディスクを手にしていた。
違うとすればそのディスクの色が灰色だというところだけ。
神父は唖然とする俺のほうを見て微笑む。
「心配しなくて良い。彼女のスタンドや今日起こったことに関する『記憶』を抜いただけさ」
記憶を抜く。
なぜだか分からないがその時確かに背中に悪寒が走った。

to be continued…
前の話 次の話

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年12月25日 20:22