男三人が横一列に並んで歩いてると少し不気味かもしれない。
ましてや180越えの外国人が二人もいればなおさらだろう。
「すまないね。うっかりしていた」
俺の左側では神父が顔を少しうつむけている。
どうやらまだ先ほどのことを気にかけているようだ。
済んだ事はもうどうしようもないですよ、とでも言っておくのが無難かな。
「そうは言っても…」
ずるずる引きずるのはもしかしたら神父の悪い癖なのかもしれない。
細かい経緯は省くが、今俺とセッコは神父とともに隣町に向かっている。
はずだったのだが。
神父とセッコは隣町へと向かう電車の止まる駅を通り過ぎ、ずんずんと逆方向へと歩いていく。
しかもどう見てもセッコが道案内している。
これが神父ならまだわかるが、どうしてセッコが?
俺が目立つのを極力避けるため滅多な事がない限り家から出していないので、あいつはこの辺の地理には詳しくないはずだ。
それが道案内。何かあるのか?
「ちょっと寄り道をしようと思ってね。何、すぐに終わるさ」
そう言うと神父は顔を上げた。
「まぁ、こっからそう遠くねェから30分ありゃあ電車には乗れるさ」
俺の右側でいつぞやの緑色のスーツを着たセッコが吹き抜ける風に髪をなびかせながらそう言う。
なんでも『今日は疲れたし、もうハルヒに逢うことも無いだろうから脱いでおく』んだそうな。
俺にはこの格好のセッコは見慣れないわけだが、ほかの人はこれが普通のセッコだって言うのは正直おかしな話だ。
しかし、何で俺が二人の間に挟まれてるんだ?
正直これは止めてほしいわけだが。
act11―ふたつの戦い~延長戦(side:stands)
セッコの案内はあるビルの前で終わった。
ビル、というよりは廃墟といったほうがしっくり来るか。
壁にはひびが縦横無尽に走り回り、所々コンクリート塊が落っこちてしまっている。
人が出入りしている気配など微塵もない。
「…間違いねェ、ここだ」
セッコが鼻を引くつかせながら俺たちのほうを向いてそう言う。
いや、正確には神父の方を、のはずだ。
何せ俺にはここがどこだが皆目見当もつかないんだからな。
そう思い神父の方を向いてみると、神父は神父で驚いた表情を貼り付けていた。
「…君は本当に人間か?」
「…自分で言っといて、ソイツぁどーゆー了見だ、えェ、神父?」
どうやら二人の間にもすれ違いがあったようだ。
「いや、流石に本当に辿り着けるなんて思って無くてね」
辿り着く、と言う事は二人とも目算無しで歩いていたのか。
「私としてはそのつもりだったんだがな」
「ンなワケねェだろ。オレはいつでもゴーリテキなんだよ!!」
とりあえず、ここにきた理由を聞いていいか?
階段を上りきると、そこは不思議の国だった。
とかだったらウチの団長も喜ぶんだろうがな。
そこは外見よろしく廃墟のような部屋。
そして、ひとつだけ外と違ったのは。
「おう!!コイツだ、コイツ!!!」
そこには一人の男が倒れていた、それだけだろう。
男はどうやら眠っているようだ。
昏々と、それこそ死んでいるのと見間違うほどに。
セッコはその男に近寄り起きてないことを確認すると俺たちを手招いた。
「ホラよ」
襟首をつかまれ、床に投げられても男は起きない。
まるで、起きることを忘れてしまったかのように。
「彼が…?」
「『軌道を操る能力者』だ。予定ではもう一人もとっ捕まえる予定だったんだけどなァー」
神父は「そうか」と呟き、地面に身を投げている男に手を伸ばす。
二人は納得しているようだが、俺にはまだ理解できない。
なぜ能力者である男が目の前で寝ているのか。
そしてセッコがこの場所を知っているのか。
神父は投げ出された男の頭に手を突っ込んでその中から鉛色に光る円盤を取り出す。
次いで、逆の手を使い今度は黄色い円盤を取り出した。
これは確か…
一人の女性の顔が俺の頭をよぎる。
そうだ。
神父と初めて出会った時に神父が一ツ橋さんからスタンドと記憶を取り出した時に出てきたものだ。
「何がなんだかわからない、って顔をしているね」
分かっているんだったら最初に説明して欲しかったな。
そう俺が悪態をつくと、神父は少し笑いながら
「すまないね、こちらとしても予想外だったんだ。これを見てくれれば分かるはずだ」
と言って先ほどの鉛色の円盤を俺に向けて突き出す。
「彼の記憶だ」
「あの男こっちを見てたな」
隣で腕を突き出し、俺の能力の型を狙っていた相棒が双眼鏡を覗きながらそう言う。
あの男、とは一人だけ目立っている長身の黒人のことだろう。
確かにあの男は確かにこっちを見ていた。
相棒が螺子をカチューシャに向けて撃ったのが外れたのが痛かったな。
ここほど便利な場所は無い。でも、気づかれたんならここを離れなければいけないだろう。
そこで、俺の頭に妙案が思い浮かぶ。
それなら、男を撃ち殺しちゃえばいいんじゃね?
気付いているのは神父だけ。なら、証拠を隠滅すればいい。
「…確かにその案もいいかもしれない」
しかし、と相棒は少し言葉を詰まらせる。
「あの男は確かにさっきまでボール争いをしていた。さっきの男の場所からはMHTは死角だったはずだ」
確かに、一応の事を考えて目標とそのメンバーには死角になるように配置していた。
じゃあなんで男は気付いたんだ?
「つまりこういう事になるな。
『あの場所には男を入れて、能力者が二人以上居る』
それじゃあどうするべきなんだ。
「…」
相棒が閉口するなんて珍しいな。
「五月蝿い。不測の事態なんだよ。…そうだな、普通ならここは逃げるのが定石だろう、でも」
相棒は腕をまっすぐ伸ばし、双眼鏡を覗きなおす。
「今日はこういう不測の事態を切り抜ける練習なんだよ」
なるほどな。
「とりあえず、あの男を撃って他のメンバーの動きを見る。
何らかのアクションを取った奴が能力者だ」
そうか、じゃあ…
「残念だがソイツぁ許されねェな」
突然、ドアの方から声が聞こえる。
まさか、もうココまで来たっていうのか?
振り返るとそこには、茶色い全身タイツを着た男が居た。
「…誰だ?」
相棒が窓の外に向けていた腕を男に向ける。
「意味も無く一般人を狙うような悪人に名乗る名前はねェよ」
よく見れば目の前の茶色、足元がドロドロだ。
たぶんそんな感じの能力なんだろう。
次の瞬間。
気がつくと俺の頭には銀色の何かが突き刺さっていた。
「『ショートイントスなら、まずまず美味いよ』って奴だ」
そのセッコの言葉を最後に男の意識は暗転し、俺の頭から円盤が飛び出す。
どうやらここでこの男は眠ってしまったようだ。
なるほどつまりセッコが試合中に居なくなったのはこの所為だったのか。
しかし、何でこの男は眠ったんだ?
「『ただ眠リ続ける』という命令を下すディスクだ。これも私の力の応用でね」
俺の頭から飛び出た円盤を拾い、神父が答える。
記憶や能力の抽出に先の試合の幻覚、その上敵に命令を下す能力まであるのか。
セッコや寝ている男に比べてバリエーションが多いんじゃないか?
「そうかもしれない。まぁ、『人間に内在するものに干渉』するという点では一つだがな」
そんなものなのか。
「そんなものなんだろう」
なんだか反則臭い気もするが、スタンド自体が曖昧な存在だ。
もしかしたら能力の無いスタンドなんてのも存在するかもな。
それで、こいつを捕まえるためにここまで来たわけか。
それならば俺とセッコを呼んだのも理解できる。
どうせ逃げた奴を捕まえるのを手伝えっていいたいんだろう。
「いや、そんな事は無いが」
俺の考えを神父はすぐに否定した。
…どういうことだよ。
「呼んだ理由は最初の通りさ。病院の子ども会に一緒に出て欲しいんだ。
ここに来たのは全くの偶然。私もこれるとは思ってなかったんだからね」
神父は取り出したディスクの内黄色いディスクだけをポケットの中に入れ、銀色のディスクを寝ている男の頭に戻した。
きっと男も後で目が覚める。平和主義者の神父らしい決着だ。
「キョウ君だってまさかこの男の匂いだけでここを割り出せるなんて思わないだろう?」
いや、それは無理だろうと否定しようとしたが、神父のこの一言で全ての点が合致した。
つまり、セッコが先導を切っていたのはセッコが(信じられないが)匂いを使って追跡をしていたから。
「いや、できるだろフツー」
いつもなら冗談はよせと切って捨てるところだがこの二人に、特にセッコに常識が通用しないのはよく知っている。
セッコの五感は人間離れしている。まんざら冗談でもないのだろう。
「さぁ、それじゃあ向かおうか」
「どこに?」
「言っただろう。隣町の病院の子ども会に出ると」
この後、子供相手にサッカーの試合以上に疲れるのは別の話。
足が棒になるって言うのはこういう状況を言うんだろうな。
一日中全力で走り回り、気がつけば最初のビルから四駅の地点まで来ていた。
俺の能力では地中の敵には分が悪い。
「…ったくなんなんだよアイツは」
あんなのが来るなんて想定するはず無い。
「『将を射んとすれば、まず馬を射よ』か」
何とか逃げ切ったが、相棒はもう助からないだろう。
これで俺は迂闊に犯罪を起こせない。奴らの思惑通りといったところか。
「おや、助かったのか」
後ろから声が聞こえてくる。
周りに人は一人もいない。という事は俺に向かって言ってるのか。
「誰だ!?」
「いきなり喧嘩腰かい?おお、怖い怖い」
地中の男には後れを取ったが地上戦でなら負けない。
俺は迷わず男の方に能力の腕を向ける。まだ螺子は十個ほど残っている。
「お前一人で俺に勝てると思ってるのか?」
男の声をきっかけに、俺の隣にあった木が爆ぜた。同時に圧倒的な威圧感が襲ってくる。
「…ッ!!クソォッ!!!」
能力の腕から三発の螺子を撃ちだすが、男には届かない。
そのどれもが空中で軌道を変え、あらぬ方向へと飛んでいった。
「そこまで警戒しなくてもいいだろ、俺はお前に手を出さない」
口元のタバコを安定させ、男は両手を上にし、プラプラと手を振る。
「俺はお前をスカウトしに来たのさ」
「スカウト?」
「そうさ、お前みたいなスタンド使いを探してたんだ。
仲間になるなら見逃してやるし、治療だってしてやるさ。ただし、断るなら…」
男の目が怪しく光る。返答次第によってはオレの人生はここで決してしまうだろう。
本能が告げる。コイツには勝てない。コイツには逆らえない。
「…苅田健吾だ、よろしく」
俺が手を伸ばすと男はにこやかに笑い、上げていた手を下ろして手を握り返した。
「上條秀一だ、ようこそ…
パッショーネへ 」
to be continued…
最終更新:2009年04月25日 01:33