朝比奈さんのお手柄で難を逃れた土曜日。その翌日の日曜日の午後、俺がコンビニ帰りの道をふらふらと歩いていると。

「やあ、どうも」

突然、俺の傍に近寄ってきた黒塗りの車の窓から、聞き慣れた声と見慣れた顔が現れた。

「すみませんが、今から少しばかり、付き合ってもらえませんか?
 『オノ』に関する新たなデータが、手に入ったかもしれません」


キョンの憂鬱な冒険 -アフターロック-
第9話『西宮市のどこかでハーモニカが奏でられる』


古泉の車が向かった先は、どこにでもある、普通のマンションだった。
そこは古泉曰く、機関の寮であるらしい。ようするに、古泉の自宅という事か。
ドアを開けて招き入れられた先も、特に目立つところのない、普通のマンションだった。
居間と思わしき部屋に、数人の見知った顔が屯している。
森さん、榎本先輩、生徒会長、ミスタ、フーゴ。

「うーん……ほんとに覚えてないんだけどなァ――」

ソファに腰をかけ、難しく顔を歪めているのは、榎本先輩だ。

「大事なことだから、よく思い出してよ」

「うーん、『機関』のほかの人にも、何度も説明したんだけどォ。あの日は『軽音部』の活動が終わってから、家に帰って……
 途中で寄り道をしたんです。駅で降りたあと、駅前の本屋に。
 それで、帰る途中に突然矢に刺されて……別に、その他には何もなかったんだけどなァ――」

「どうも、遅くなってすみません。持ってきましたよ、その本屋の『防犯カメラ』の映像を」

そう言う古泉の手の中に、もはや珍しいアイテムとなった、VHSテープの姿がある。
再生媒体はあるんだろうか。まあ、あるから持ってきたんだろうな。
なにやら事情はわかったような、わからないような。とにかく、古泉がビデオデッキに向かって格闘すること数分。
これまた今となっては珍しいブラウン管型のテレビ画面に、防犯カメラの映像が映し出された。
場所は俺の見知らぬ本屋らしき店内。
防犯カメラにこんな時代遅れの機材を使っているだけあって、あまり時代の波に乗れている本屋ではない。古びた本屋だ。

「あ、ここですね。これ、榎本さんですよね?」

「うん、間違いない。あたし、たしかスコアを買うためにこの店に来て……普通に帰ったと思うんだけど」

古泉が、遠目の後姿を指差しながら問いかけ、榎本さんがそれに反応する。
彼女の言うとおり、榎本さんは、防犯カメラからは遠い一部のコーナーに向かい、しばらく何やらを考えるように、静止している。
と、もう一人、見知らぬ男が、店内に入ってくる。

「この人です。僕らが『怪しんで』いるのは」

その人物は……カメラの映像は遠すぎて、どんな顔をしているかまでは判別出来ない。
髪の毛を茶に染めた、どこにでもいそうな、20代くらいの男だった。
男はまっすぐに、『榎本さん』の近くのコーナーに向かっていき……
そこで、しばらく本を探すような仕草をした後で、なにやら榎本さんに『話しかけた』。

「うそ……あたし、こんな覚えないのに」

画面を見る榎本さんが、わからないと言った様に困惑の表情を浮かべる。
男は、榎本さんと、しばらくなにやら会話をしたあと、店から出て行った。
終始防犯カメラからは遠いままで、やはり顔は判別できない。
榎本さんは、その男の後姿を追った後、本棚から一冊の薄いファイルのようなものを抜き出し、レジへと向かった。
会計を済ませた榎本さんが、店外へと出てゆく。

「映像はこれで終わりです。確かに、男と榎本さんは『会話』をしているように思えるのですが……
 榎本さんは、それを『記憶』していない。そうなんですね?」

「うん、間違いないよ。あの日は間違いなく、スコアを買って、まっすぐ家に帰ったもん。
 でも、だったらなんで、あの人と『会話』してる『証拠』が残ってるんだろう……」

「つまりよォ―、榎本。お前、あの男に『記憶』をイジられたって事なんじゃねェかァ―――?」

「ひッ」

けだるそうに床に胡坐をかいていた『会長』がそう言うと、一瞬、榎本さんが身をすくませた。
まあ、四階からプールまで放り投げられれば、トラウマにもなるよな。

「十中八九、この『男』が『矢のオノ』だと考えていいわね。
 奴は彼女と『会話』をした後、なんだか口車に乗せて連れ出し、そこで『矢』で刺した。
 そして、彼女の『記憶』を操作した―――おそらく、『スタンド』でね」

「たしかに、そう考えるのが妥当でしょうね、今の映像を見る限り。しかし―――」

「そいつの『スタンド』は、『オアシス』のはずなんだよォ―――」

フーゴの言葉を、ミスタが引き継ぐ。

「俺はよォー。あの野郎が『オアシス』のスタンドを使ってやがるのを、確かに見たんだよ。
 『オアシス』には、人の記憶をどうこうするような『能力』はなかったはずだぜ。間違いなくなァ」

つまり。

「『矢』を使っているのは、『一人』じゃない、って事か?」

「そう考えたくなります。ですが、機関の考えは、それとは少々異なります」

俺の質問を、古泉が否定する。

「敵が複数いる。その可能性も確かに考えました。
 しかし、『敵』からの攻撃が、『矢』によって産み出された『スタンド使い』に限定されていることなどから
 『オノ』に味方が居るとは考えにくいんです」

そこで言葉を区切った後、すこし覚悟するように振る舞いを改め、古泉が話し出す。

「まず。榎本さんよりも以前に矢に射られてきた人々……『宮森翔』、『藤田昌利』、『久保木みやび』の三人です。
 彼らは『オアシス』と思われる、茶色いスーツの男に『矢』を射られた瞬間を『覚えて』います。
 そして、それ以降に矢に刺された人物。『榎本さん』と、『観音崎スミレ』と、『菅原正宗』です。
 彼らは『矢』に『刺された』ということ以外、その『矢』を誰から受けたのかなどといった部分を記憶していません。
 眠り続けていた『スミレ』さんは別ですが……それと、もう一点。
 『オアシス』を目撃していない榎杜さんと菅原先生は、二人とも、『矢』に射られたのでなく、『刺された』と供述しています。
 そうですよね、榎本さん?」

「あ、うん。あたしは確か、いきなり肩にブスッと……

「『久保木』と『榎本』を境目に、『手口』が変わっている。そう言いたいんですね?」

長い説明に痺れを切らしたように、フーゴが言う。

「はい、その通りです。確かに、矢を使っている人物が変わったとも考えられます。
 ですが、まず。『オノ』が、死んだ『セッコ』のスタンドであるはずの『オアシス』を使っている、その点からして……
 『オノ』のスタンド。それは、『過去に存在したスタンド』を『再現する』能力なのではないか?」

「…………何だそりゃァ―――!?」

ご近所迷惑ないこの絶叫は、ミスタのものだ。

「あくまで憶測です。しかし、事実として、死んだはずの『オアシス』が確認されている以上、そう考えるのが妥当ではないかと思うんです」

「じゃァ、何だよォ!? 『ブチャラティ』のスタンドも、『ナランチャ』のスタンドも……
 どころか、あの『ディアボロ』のスタンドすら使える奴ってことかよォ―!?」

そいつらが何者か知らんが……敵の能力が古泉の言うとおりなら、そういうことなんだろう。
なるほど。『オノ』は久保木みやびを矢で射た後、『オアシス』を使うことを止めた。
そして、別の……『記憶』に干渉するようなスタンドに『乗り換えた』ー――。

「……とにかく。手がかりは、このテープに残っている、男の姿だけです。
 わかることといえば、男性であることと、身長、大まかな体格……ぐらいでしょうか」

巻き戻され、再び同じ場面を再生しているテレビ画面を見ながら、古泉が言う。

「もし、それならよ」

口を開いたのは、不良生徒会長氏だ。

「その『オノ』が『涼宮』を『殺そうと』している事も―――繋がるよなァ」


――――


……喜緑江美里は、目の前に立ち並ぶ、無数の本を見つめていた。
長門有希が酷く気に入っているという、静かな空間。喜緑は今、図書館に居る。

「本は好きかい?」

背後から声をかけられ、振り返ると、そこには、見覚えのない男が立っている。
日曜日の夕方。閉館間近の図書館には、さきほどまで、喜緑以外に、利用者は居ないはずだった。
男は喜緑が気づかないうちに、館内に居て、喜緑の背後にやってきていた。

「はい、本を読むと落ち着きます」

喜緑がそう返答すると、男は造りのよい顔に微笑を浮かべた。

「僕と同じだよ。僕も、本を見ていると『心』が安らぐと思う。
 本はいつだって嘘をつかない。本に裏切られることは決してない。
 ひどく優しいものだと思う。
 ところで、君は嘘をつくかい?」

初対面だというのに、男は奇妙なほどに友好的に、喜緑に話しかけてくる。
喜緑は、すこし記憶を辿った後

「はい、私は嘘をつきます。私は、あるお知り合いに、とても大きな『嘘』をつき続けています」

喜緑の脳裏に浮かぶのは、黄色いカチューシャをつけた、観測対象の姿だ。

「うん、そうだろうね。でも、それを気にすることはないよ。
 僕らは『人間』だ。嘘をつかない人間なんて、多分世界のどこにもいない」

人間。喜緑の心に、その言葉が引っかかる。
彼女は、厳密には人間ではない。しかし、人間にとても似せて創られた。感情もあるし、物を思うこともある。
朝倉涼子や長門有希のように、情報操作などの能力を持たない分、喜緑は限りなく、人間と変わらない『生き物』だ。
精神の構造も、おそらく、『人間』とされる人々と、なんら変わらないだろう。

「僕も嘘はつく。かなり多くつくほうだよ。
 最近じゃ、一昨日、仕事場で仕事仲間に嘘をついたな。
 借りてるDVDのことで、問題なくもうすぐ返せるよ。と言ったんだけど、実は嘘なんだ。
 一枚割っちまってね、その分は、こっそり、僕が買って埋め合わせる予定なんだ」

「なんだか、子どもみたいですね」

男は、喜緑の言葉を聴くと、少し面食らったような表情を浮かべ

「あっはっは、言われてみればそうかな。
 今の職場が、みんなしてアニメやゲームが好きな連中が集うような職場でね。
 今の仕事を始めてから、随分子どもっぽい趣味になったかもしれない」

「あなたは、どんなお仕事をしていらっしゃるんですか?」

喜緑がたずねると、男は少し考えるように空中を見回した。
その後で、少し喜緑のほうへと顔を近づけて……

「内緒だけれどね? 僕は、『声優』をやっているんだ」

「まあ」

喜緑は、素直に驚いた。声優という職業に、特別興味が深いわけではない。
しかし、それが、どちらかといえば『珍しい』職業であることは知っている。
そして、俗称される『有名人』にカテゴライズされる、ということも。

「いや、大して有名なわけじゃないけどね。知り合いの伝で、2、3年前から、チョイ役を貰っているんだ。
 それでも、それなりに食べてはいける暮らしは出来てるからありがたいんだけれど。
 君、そういう方面は詳しいかい?」

「はい」

これは嘘ではない。喜緑は、大体の文学方面の物事には精通しているといって良いだろう。
目の前に立ち並ぶ本の山も、大体のものには目を通したことがある。
何しろ。喜緑は、日付にして去年の夏。実に、『594年』に相当する『余暇』を経験しているのだから。
その膨大な余暇を過ごす上で、目に付く娯楽には大体手を出してしまった。
度重なるエラーで、『喜緑江美里』の肉体や、精神に支障を来すような『娯楽』に手を出した経験もあるという。
しかし、そういった記憶は、『情報操作』によって取り除かれている。

「お名前は教えていただけませんか?」

「僕の、芸名かい?」

「ええ」

もしかしたら、喜緑も知っている名前かもしれない。
男は少し迷った後……

「うん、いいよ。僕は―――『小野大輔』というんだ。聞いたことあるかな?」

小野大輔。その名前は、喜緑の記憶の限りには、存在しない。

「すみません」

「いや、いいんだよ。知ってるほうが少ないと思うから。
 ところで、ちょっと話は変わるけど―――話しかけた張本人の僕がこんなことを言うのも変だけど。
 君は、いきなり見知らぬ男に話しかけているのに、随分と僕を受け入れてくれるんだね?
 いや、もしかしたら、実はとても警戒しているのかな?」

男の言葉に、喜緑は少し考える。
言われてみれば、突然、図書館で、見知らぬ男性に話しかけられる。という状況は、もう少し警戒するべきかもしれない。
これも594年の弊害だろうか。時々、喜緑は、恋人である『会長』に、『妙に悟っている』などと称されることがある。
594年も生きれば、やはりどこか、生粋の人間たちとは違った何かが身についてしまうのかもしれない。

「……いえ、警戒をしているわけじゃありません」

男の問いかけに、喜緑は弁解をする。
それをしつつ、喜緑は不思議に思う。この『小野』という男は、喜緑にとって、不思議なほど『不快さ』を感じない男だった。
会長とはまったくタイプは違うが、多分、小野が喜緑の『恋人』であっても、喜緑は困らないと思う。
まるで、喜緑の内面を読み取り、それに不快な気持ちを与えないように『あわせて』くれているかのようだった。

喜緑は、それをそのまま小野に伝えた。

「なんというか、あなたは、まるで私のことを、すべて知っているみたいなんです。
 私が奇妙に思うことがないように、私にあわせてくれているかのように感じます。
 それは、私の思い上がりでしょうか?」

喜緑がそう言うと、男はすこし黙った後で。

「いや、それは勘違いじゃない。
 僕はね。実は……『超能力者』なんだ」

と、言った。
超能力者。その言葉を聞いて、喜緑の脳裏に、何度か目にした、あの微笑を絶やさない青年の顔が浮かび上がる。
そういえば。この『小野』は、どこか、あの『古泉』という少年に通じる雰囲気がある。

「超能力、ですか?」

「と、言っても、誰にでも発揮できる能力じゃあないんだ。
 僕と『波長』があう人というのが居てね。そういう人たちを見ると、その人がどんな気持ちなのかとかが、なんとなくわかるんだ。
 君は、多分、僕と『波長』が合うんだと思う。君を見たとき、思ったんだよ。
 『この人は、僕に話しかけられたがっている』んじゃないかな? って。 ……なんて、傲慢な話だけどね」

「いえ、そんなことはないです」

喜緑は、男の言葉を否定する。
男の言うことは、正しいように思えたからだ。
男の言葉があって、喜緑は確信した。喜緑は、この『小野』に話しかけられたことを、とても『喜んで』いるのだ。

不意に。館内に、『ほたるのひかり』が響き渡る。
閉館時間だ。

「おっと、ごめん。本を探させる時間を割かせちゃったかな?」

小野はそう言うが、喜緑は、もはやこの館内に、読んでいない本などは存在しない。
ただ、なんとなく、去年の名残で訪れただけだ。

「いいえ、そんなことはありません。私は、貴方とお話できて、嬉しく思います。
 もっとお話をしたいと思うくらいです」

「本当かい? 実はね、僕も、君の事をもっと知りたいと思っていたんだ。
 もしよかったら、もう少しだけ、僕と話をしてくれないかい?
 この図書館はもう閉まってしまうから、どこか別の場所で」

喜緑は思う。
ああ、このことを『会長』が知ったら、きっと怒るだろうな。
でも―――何故だろう。今は『いい』。

「はい、私も、あなたともっとお話がしたいです」

喜緑はそう言った。


――――


「さっき僕が言ったこと、信じてくれるかな?」

小野と喜緑は、人気のない歩道を歩いている。
不意に、先を歩く小野が喜緑を振り返り、そうたずねた。

「僕が、君が『僕に話しかけられたがっている』ということがわかる、超能力を持っている、って言う話」

「いえ、疑いません。貴方は、本当に私のことを『見抜いて』いるなと、思います」

嘘はつかなかった。喜緑は、本当に、男がそういう『能力』を持っているのだと思っている。
『未来人』や『超能力者』や、ましてや『神』やら、しまいには、自分が其れに属する『宇宙人』などが存在するこの世界だ。
人の気持ちくらいを見抜ける人物が居てもおかしくない。喜緑は、本気でそう思っていた。

「よかった。じゃあ、君の『気持ち』について、少し話してもいいかな?」

小野が言う。

「はい。もしよかったら、お聞かせ願えますか?」

「じゃあ、失礼だけど……君は、何かにとても『飽きて』しまっていないかな?」

小野の言葉を、脳内で何度か繰り返しながら、喜緑は考える。
『飽きている』。その言葉は、まさに、喜緑の精神状態を表している。
あの長い夏休みで、娯楽という娯楽は遊びつくしてしまった。
観測対象には大きな動きはなく、本来の『監視対象』である長門有希も、以前のような『エラー』を見せる気配はない。
ただ、漠然と過ぎてゆく日々。きっと、今年度が終わり、『卒業』をしても、『長門有希の監視』は続くだろう。

「はい、その通りです。私は、とても『飽きて』います」

「よかった、外れていたらどうしようかと思っていたんだ」

小野は笑う。

「もし、僕が君を『救える』と言ったら……君は、信じてくれるかな?」

続いて、男はそう言った。
救う。この、終わりのない『監視』から? 喜緑を『救ってくれる』と、この男は言っているんだろうか?

「信じます」

言葉は、喜緑が意識するよりも早く、口から飛び出した。

「私を、救ってくれるんですか?」

「君がそう願うなら」

小野は、笑った。

「これは、僕からの『プレゼント』なんだ。この『世界』を、『現状』を嫌う君への……
 よかったら、『手』を出してくれるかな?」

言われるがままに、喜緑の左手が、小野に差し出される。
小野はその手を右手で取ると、ショルダーバッグの中から、『矢』を取り出した。

「大丈夫。怖がらないで」

小野が言う。喜緑は、其れを信じる。
喜緑はもう、男のことを信じきっている。

「ごめんね、少しだけ痛いけれど」

男の言葉に、喜緑は少しだけ、身構える。
……左手に、僅かな『痛み』を感じる。

「……これでいい。僕のプレゼントは、君に渡ったよ」

小野が、微笑みながら、矢をしまい、ポケットから何かを取り出す。
小さな長方形のもの。喜緑は、それが何だか知っている。
ハーモニカだ。

「君の名前を聞いても良いかな?」

小野が言う。そうだ。喜緑は、男に名前を伝えていない。

「きみどり、えみり」

声が、奇妙なほどに震えていた。
何故だろう。喜緑は、奇妙なほどの『恐れ』を感じている。
小野に対してではない。何だろう。この、体の奥から湧き出してくる『何か』は。

「喜緑さん、聞いてくれるかな?」

小野は、ハーモニカを口に宛がい―――聞き覚えのない『メロディ』を奏でた。


――――『ストレンジ・リレイション』


……喜緑は、動かない。もう、『メロディ』に冒されているのだ。

「喜緑さん、聞こえるかな?」

「はい」

空ろな瞳へと変わった、喜緑の目に騙りかける。喜緑は、空中を見つめたまま、返事をする。

「君は、僕に出会ってからのことを、全て忘れてしまう。そうだね?」

「はい、そうです」

「よろしい」

「いいかな? これはね。僕からの、プレゼントなんだ。
 本当に、濁りのない……ただの、僕から君への『プレゼント』。
 きみは、その『スタンド』で、君が望むように動けばいいんだ。
 喜緑さん。僕のいうことが、わかるかい?」

「はい」

小野は、微笑む。笑う。

「おめでとう、喜緑さん。君は『救われた』よ。
 さあ、『小野大輔』なんて人間が、君に話しかけたことは、忘れてしまおう。
 ……君はここから、自分の家に向かって歩き始める。
 僕がこの場を去ってから、すこしだけ時間が経ってから。
 それでいいね?」

「はい」

小野は、笑う。

「さようなら、喜緑さん。『幸せ』になってくれ」

「はい―――――」



――――



東京へ向かう新幹線の中で。『小野大輔』は、笑っている。

―――あの少女は、『スタンド』を手に入れる権利があった。
―――僕は、その『鍵』を開けただけだ。

小野は、喜緑の幸せを願っていた。
彼女を待ち受ける、『運命』のことなど知らずに。


「さようなら―――『喜緑江美里』さん」





















to be contiuend↓
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スタンド名 - 「ストレンジ・リレイション」
本体 - 小野大輔(?)(以前は、氏名不詳の老人であった)
破壊力 - B スピード - 音速 射程距離 - 音の届く範囲
持続力 - C 精密動作性 - E 成長性 - E


能力 - 楽器(ハーモニカ)と一体化し、奏でられる音楽によって、聞く者の心を操る。
       スタンド使いだけに聞こえる音を放ち、それを認識した対象を操る。
       音楽が奏でられてから数分間の間、操られた相手の意識や記憶を操作できる。
       本来の本体が使用していた際は、一定時間音が途絶えると洗脳は解除されていた。
       また、超低周波振動により、物理的破壊力を生み出す力も確認されている。
       このスタンドは、既に死亡が確認されている老人のスタンドである。

       由来…楽曲 Darren Hayes『STRANGE RELATIONSHIP』


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最終更新:2009年10月22日 20:11