戦前の辞書を読むに当りて

旧字体

今は、新字体を用ゐるが、戦前の漢字は異なり。これらを覚えねば、容易く戦前の辞書は読めず。然れば、旧字体をここに記す。
「甲」を、少し異なるが分かり易き字形。(ほの)分かる旧字体を挙ぐ。「稲、稻」、「鶏、鷄」、「拝、拜」。
「乙」を、甚だ異なる字形。「庁、廳」、「体、體」、「鉄、鐵」、「窃、竊」。
「丙」を、細かき字形の違ひ、又は、異体字。「点か線か」、「点や線の有無」、「点や線の向き」など。「歩、步」、「黒、黑」、「青、靑」。
「丁」を、別字とす。「予、豫」、「余、餘」。
「*」は漢字の一部分としての新旧関係を表す。その字の新旧関係に無し。

新字体 旧字体及諸字 備考
状、壮、装、荘、寝 狀、壯、裝、莊、寢
縁、録、剥、禄 緣、錄、剝、祿
社、神、祖、祈、福 祓、禊、祠、祀、祇 示偏。
駆、欧、殴、枢 驅、歐、毆、樞
友* 抜、髪 拔、髮
酔、粋、砕 卒* 醉、粹、碎 但し「枠」は国字にて置き換へられず。
旧* 稲、児、陥、焔 臼* 稻、兒、陷、焰 「旧」は別に旧字体有り。
軽、経、頚 輕、經、頸
残、浅、銭、践、桟 殘、淺、錢、踐、棧
挟、峡 挾、峽
有* 堕、随、髄
墮、隨、髓 「辶(之繞)」と「阝(阜偏)」が付くものに限り「有」の部分が「左月」に変はる。
静、浄 靜、淨
麺、麸、麹 麵、麩、麴
悪、唖 惡、啞
検、験、険、剣、倹、鹸 檢、驗、險、劍、儉、鹼
⺤夫 鶏、渓 鷄、溪
焼、暁 燒、曉
惨、鯵、渗 慘、鰺、滲
輸、諭、愉、癒 喩、揄
⺤干凵 謡、揺、遥、瑶 謠、搖、遙、瑤
湿、顕 濕、顯
昌乚 縄、蝿 繩、蠅
慎、鎮、填、顛 愼、鎭、塡、顚
醤、奨 醬、奬
増、層、贈、憎、僧 增、層、贈、憎、僧
齢、噛 齡、嚙
滿
十罒衣 壊、懐 壞、懷
(鬭)、鬪 鬭は旧字体として認めぬ字書有り。

新字体 旧字体及諸字 備考
仏、払 弗* 佛、拂 認めらるる新字体はこの二つのみにて「私」や「弘」は変はらず。
営、栄、労、蛍、鴬 營、榮、勞、螢、鶯 ⺍が入るものは全てこれらの略なり。
単、戦、厳、獣 單、戰、嚴、獸
巣、悩、脳 巢、惱、腦
学、覚 ⺽爻 學、覺
誉、挙 ⺽与 譽、擧
戸* 炉、芦 盧* 爐、蘆
尺* 沢、駅 澤、驛
云* 伝、転 傳、轉 認めらるる新字体はこの二つのみ。

同じ字の三重の略。
𣥖
田田
鉱、拡 鑛、擴
弥、祢 爾* 彌、禰
旦* 担、胆 擔、膽 認めらるる新字体はこの二つのみにて「坦」や「但」は変はらず。
舌* 乱、辞 𤔔 亂、辭 認めらるる新字体はこの二つのみにて「舐」や「刮」は変はらず。
虫* 独、触 獨、觸 認めらるる新字体はこの二つのみにて「融」の虫は変はらず。「虫」は別に旧字体有り。
亦* 変、恋、蛮、湾 變、戀、蠻、灣 「亦」が上に来る漢字のみにて「跡」は変はらず。
読、続、涜 讀、續、瀆
寿 鋳、祷 鑄、禱
𠃊米 断、継 斷、繼
総、聡 總、聰
猟、蝋 獵、蠟
済、剤 濟、劑
廃、醗、溌 廢、醱、潑
数、楼、薮 數、樓、藪
滝、篭 瀧、籠
𠂉一隹 権、観、勧、歓 權、觀、勸、歡
𢚩 隠、穏 隱、穩
𢦏业

新字体 旧字体及諸字 備考
平、評など これらは丷の所がハに成る。
但し、「逆(屰)」や「前」、「首」、「弟」、「美(⺷)」、「岡(𦉰)」などは形変はらず。
半、判、伴など 絆、叛
关、送、咲など
兑、説、閲など 兌、說、閱、蛻
肖、消、削など 屑、鞘、稍
⺌貝、鎖 𧴪、瑣
尚、廠など 尙、氅、惝、敞
⺌冂小、幣、弊 㡀、蔽、瞥
龹、券、拳、勝、騰、謄など 𠔉、卷、捲、鰧
益、溢
丷酉、尊など 酋、樽、楢、擲
㒸、隊など 燧、隧
冬、終、寒、柊 疼、鼕 於は成り立ちが違ふ為、冫には成らず。
艹、艹 草冠。
近、通、遊、送、選、違、込など 遜、遡、辻、迂、這、辿など 之繞。旧字体にて点の数が二つに成る。
大* 突、臭、戻、器、類、涙、捩など 犬* 突、臭、戾、器、類、淚、嗅 「大」が入るもの全てが置き換はるに非ず。
己* 巻、遷など 卷、捲、韆
包、泡、港、選、巽 巳* 鮑、鞄、巷、撰
雪、婦、尋、寝、慧 寢、彗、箒 旧字体にてヨの中の横棒が縦棒を突き抜く。
級、吸、扱 汲、笈 旧字体にて二画目が乛になり、その下に又を書く。
叫、糾 (収) 旧字体にて左の縦棒と横棒を一画に書く(レに縦棒)。
「収」はレに縦棒なるが旧字体は「收」。
忙、忘、妄、荒、望、網など 虻、芒、茫、魍、羸、氓 旧字体にて横棒と三画目の付く所が(かど)に成る。
刃、(刄) 忍、認、靭 仞、劒、訒 旧字体にて刀の左に点を書く。
刄は俗字。
「籾」は国字にて置き換へられず。
采、妥、乳、暖、爵など 淫、孵、鷄、煖、嚼、埒、稻、稱、隱、綵 爪冠。三つの点が旧字体にて左点と右点二つと成る。
「愛」や「受」、「舜」とを除く漢字は全てこれに成らむ。
蚋、訥、枘、衲 旧字体にて人が入に成る。
所、戻、扇、偏、雇、啓など 戾、騙、篇 戸の旧字体。
毋* 毎、海、梅、侮、悔、敏、繁など 母* 每、海、梅、侮、悔、敏、繁 「毒」を除く毋が入る漢字が母に成らむ。
韋、降、粦、舜、桀など 旧字体にて左の縦棒と下の横棒を一画に書く。
但し「年」のヰは四画なり。
形、刑、研、妍、笄 硏、姸、筓 「開」は成り立ちが違ふ為、幵には成らず。
柵、珊 異体字として扱はるる事有り。
芽、邪、雅、冴など 穿、訝、鴉 旧字体にて左の縦棒と下の横棒を一画に書く。
扇、習、翌、翼、翔、翻など 翅、煽、摺、褶、櫂 羽が入る漢字は全て羽に成る。
また、曜や濯などの二つのヨも羽に成る。
誠、盛、城など 成 旧字体にて戊の中が丁に成る。
併、塀、瓶、餅、迸など 倂、塀、甁、餠、逬
𠂢 派、脈 中の縦棒(四画目)がレに成る。
契、潔、喫 禊、齧 刀の左側の部分の縦棒が横線三本を突き抜く(丯)。
弧、孤、狐、瓢など 旧字体にて囲ひの中のムが二画にてレ丶に成る。
恢、詼 旧字体にて厂が𠂇に成る。
覆、要、遷、譚、賈、(覇)など 覈、鱏 栗、票、粟、覀の下に土が来る漢字の他は全て襾に成らむ。
詮、筌、銓 旧字体にて人が入に成る。
造、酷など 鵠、靠、慥 旧字体にて⺧が牛に成る。
誤、娯、虞 娛、茣、蜈、麌
程、逞 旧字体にて王が𡈼に成る。
節、櫛
申又 捜、痩 搜、瘦、艘、溲
豕* 塚、琢、啄 塚、琢 豕の左払ひの所に点一つ。
認めらるる新字体はこの三つのみ。
臣の旧字体。字形に違ひは無けど画数異なり、囲ひのLを一画に書く。然れば、一画目は一番上の横棒を書き、最後にLを書く。
𩙿 食偏。下のムがFの形に成る。
都、暑、著、諸、諸、緒など 著、諸、箸、儲、賭 日の右上に点を書く。
者が入る漢字は全て者に成る。
清、晴、情など 淸、晴、錆、瀞 青が入る漢字は全て靑に成る。
東* 練、錬、欄、蘭 柬* 練、鍊、欄、蘭 「東」を含む漢字全てが置き換はるに非ず。
音読みがランやレンの如く読むものが柬に成る。
日匂 掲、渇、褐など 葛、靄、蠍
捨、舗 旧字体にて土が干に成る。
渉、頻 涉、頻、捗、瀕、顰 旧字体にて少の右点が無くなる。
俱、惧 旧字体にて目の縦棒が下の長き横棒に付く。
又虫 騒、掻 騷、搔
免の旧字体。
晩、勉 晚、勉、挽、娩、冕 旧字体にて免の真中の縦棒と儿の左払ひを一画に書く。
涎、筵 旧字体にて止の最後の二画を一画(L)に書く。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
調、週、彫、鯛など 蜩、稠、雕、簓 旧字体にて土の部分が横棒二本を貫く縦棒に成る。
顏、諺 旧字体にて立の縦棒が㐅に成る。
碑、痺、顰 旧字体にて十の左上の点が無くなり、田の中の縦棒が左払ひの一画に成る。
覀土 煙、甄など 旧字体にて覀が西に成る。
新字体の良の点無しが旧字体にて点有りの良に成る。
旧字体にて日の部分が⺜に成る。
御、禦 旧字体にて六画目と七画目を一画に書く。
旧字体にてEの中の横棒が縦棒を突き抜く。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
艹口丨三 勤、謹 勤、謹、僅、懃
𦰩 漢、難、嘆 廿口夫 漢、難、嘆、灘、歎、艱
一由丶寸 博、薄、簿、縛 圑、搏、傅、榑
構、溝など 篝、韝 旧字体にて冉の長き横棒の一つ上の横棒も突き抜く。
割、轄 旧字体にて龶が丯に成る。
概、慨 旣、既 槪、慨、廐
溺、鰯、嫋、蒻 旧字体にて冫の部分が左払ひに成る。
兼の旧字体。上の丷がハに成る。
嫌、謙、鎌、廉 簾、賺、蠊 旧字体にて上の丷が左払ひに成る。
新字体の良の点無しが旧字体にて点有りの良に成る。
木の右上に点一つ。
墨、(黙)など 墨、(默) 「黙」は「里」と「犬」と「灬(れっか)」との組み合はせに無く「黒(黑)」と「犬」との組み合はせなり。
橫、廣
撃、繋 𣪠 擊、繫
鄕、鄉 響、饗、嚮
旧字体にて立の縦棒が㐅に成る。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
旧字体にて冫が氵に成る。
冖と几の間に横棒一本。
夂と生の間に横棒一本。
簡など 癇、燗 異体字として扱はるる事有り。
襖、燠 旧字体にて米の部分が釆に成る。
異体字として扱はるる事有り。
婿 異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
譲、嬢 讓、孃 旧字体にて六の点二つの部分が吅に成る。
𤋱 勲、薫 勳、薰、燻
穢、噦
見の足のところに点一つ。
旧字体にて王が𡈼に成る。
山と𡈼の間に横棒一本。
罒と心の間に横棒一本。
鼾、嬶 旧字体にて下の廾が丌に成る。
獰、檸、嚀 旧字体にて罒が皿に成る。
旧字体にて戊の中が丶に成る。
冖と禾の間に横棒一本。
濱、嬪 旧字体にて少の右点が無く成る。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。
憲 旧字体にて龶が一番上の横棒が左払ひの丰に成る。
異体字として扱はるる事有り。
異体字として扱はるる事有り。

新字体 旧字体 備考

戦前の辞書に頻出する変体仮名集

画像 元の
漢字
*1
*2
最終更新:2024年10月26日 11:34

*1 「お」も是れなるが字形少し異なり。

*2 「な」も是れなるが字形少し異なり。