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術伝流一本鍼no.17 - (2010/07/31 (土) 13:21:43) の1つ前との変更点

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------ 術伝流・先急一本鍼・運動器偏 17.左腕の激痛 &size(24){&color(green){左腕の激痛}} ------ #contents *(1)線維筋痛症の発症時に似た訴えが増えている  線維筋痛症という病気をご存知ですか?原因不明の全身的慢性疼痛を 特徴とする病気です。くわしくは、以下の友の会のHPをご覧ください。 [[線維筋痛症友の会>http://www.jfsa.or.jp/]]  筆者は、ここ10数年ほど、普通の運動器系疾患とは思えないほどの激 痛をうったえる患者さんに会ってきました。  はじめは、1996年のことで、左腕の痛みが長期に続いている方で、心 臓系の病気を疑われ24時間モニターなどもしたけれど原因が不明という ことでした。腹診をしたら、左上腹部が硬かったので、それもふくめて 治療したら、あっさり痛みが消えました。あまりにあっさり消えたので、 こちらがびっくりしたほどでした。  そして、そういう方が、2000年を過ぎてから多くなり、とくにここ数 年毎年のように増えている気がして、気になっていました。  線維筋痛症という病気を鍼灸講座に参加した研修医の方から教えても らい、調べてみたら、私が見てきた方々の症状の訴え方が、線維筋痛症 の発症時とよく似ていることがわかり、日本全体で増えていることを知 りました。  今まで見てきた方を振り返ってみて、その特徴をまとめて見ると以下 のようになります。 1.通常の頸肩腕、腿の痛みとは考えられないほどの激痛を訴える方が   増えている。腕の場合は、首肩も痛むが、腕の痛み・シビレのほう   が酷いことが多く、モノが持てなくなることも多い。 2.線維筋痛症の発症時に似ているが、手足どれか1本だけのことが多   い。 3.90年代後半から見られるようになり、21世紀にはいり毎年増え   ている。 4.原因不明で治療法がなく、たらい回しになることが多い。   左腕の場合には、心臓系の疾患を疑われることも多いが、検査して   も異常が見られない。 5.全身に痛みが出るようになると、線維筋痛症と診断されるようだ。 6.水毒の影響が疑われる腹証・背部症候が見られる(とくに腕の場合)   腹証は、患側の胸脇苦満、心下痞。患側の上肓愈や章門などにツボ   が出る。背部は、患側の脊椎7~11の華陀経、痞根にツボが出る。 7.腿の場合は、患側の悪血証の場合もあり、この場合のツボは、普通   の小腹急結よりも外よりの鼠蹊部あたり(五枢〜維道、居りょう)、   仙骨まわり、腰徹腹に出やすい。 8.腕の場合は、患側の脇の下から上腕手ひら側に、邪気がたまってい   ることが多く、切経をすると、非常に痛がるし、鍼をすると、ピリ   ピリビリビリした感じを訴えられることが多い。腿の場合には、   大腿内側が多い。ただし、この部分の自覚痛はない場合が多く、切   経のまえには痛みを訴えない場合が多い。 9.初めての発症は、運動した直後、手術出産などの後などに多い。 10.上腹部の水毒から発生した邪気が脇の下〜上腕陰経などに溜まり、   感覚神経に不正なインパルスを発生させているような感じを受ける。   邪気は、生体内雑電気なのかなという感じもしたし、運動時の骨格   筋の活動電位がきっかけの可能性も頭に浮かんだ。 11.治療法は、運動器系の応急処置に、上腹部の水毒を減らす慢性期の   処置を組み合わせる。 12.食養としては、水毒を減らす小豆など。添加物・精製物を減らした   ほうがよい感じ。(水毒を減らす漢方薬を併用したほうが治りやす   いと思うのだが) 13.添加物・精製物の多い食事と、パソコン・携帯の使用が影響してい   るのではないか?と思う。パソコンや携帯を使う方が多くなってか   ら、こういう症状を訴える方が多くなってきたように思うので。 *(2)症例  この4月に講座参加者で似たような症例を写真に撮れましたので、解 説していきます。  上腹部の水毒を減らす慢性期の養生の処置を組み合わせているので、 厳密には、先急の一本鍼とは言えませんが、実際の臨床の場で応急処置 だけではすまない場合、というか、もう発症からだいぶ時間が経過して いて慢性期と考えてもいい場合には、筆者は、こういう治療をしている という例として、読んでみてください。  慢性期の養生の処置に関しては、来月以降、「術伝流・養生の一本鍼」 として、診察から順番に解説していく予定です。   **1.経過  3月12日「左腕激痛の為、救急車で運ばれそのまま入院。多分頚椎 ヘルニア。痛みで一睡もできなかった。」とのメールがはいりました。 結局、7日間入院して牽引と鎮痛剤だけだったそうです。  後頚部や、左肩や、左肩甲骨まわりに怠さ・鈍痛が残り、鎮痛剤を飲 んで自宅療養を続けたそうで、4月5日に講座に来る途中も数回激痛が 出たそうで、2時間ほど遅れて会場に到着されました。 **2.腹診をしてみると  今まで同じような方を診てきた経験から、腹診をしたかったので、仰 向けになれないか頼んだところ、きついのか時間をかけて仰向けになり ました。  腹診をしていくと、(1)で書いたように、案の定、左胸脇苦満と心 下痞がありました。肋骨下部を左右交互に押してみると、左側だけ何か 詰まっている感じで押せませんでした(写真1)。 &ref(DSCF0191.JPG)写真1  また、腹側から肋骨下縁に指を入れようとしてもはいりません(写真2)。 &ref(DSCF0193.JPG)写真2  左上腹部が硬く、臍の左上2cmくらいにツボ(左上肓愈と仮称して いる)が出ていました(写真3)。 &ref(DSCF0206.JPG)写真3 **3.慢性期の養生の型で、手から治療開始  筆者は、慢性期の治療は、仰向けで手腹足、うつ伏せで背腰足、座位 で肩首頭手甲という順で治療しています。この手順で治療する意味は、 来月以降の「養生の一本鍼」のなかで説明していきますので、それまで お待ちください。  簡単に言うと、腹のまえに手に刺すのは、腹に鍼したときに動く邪気 が頭のほうへ向かうのを防ぎ、手のほうに誘導するためです。  この場合には、左上腹部の水毒から発生し、左腕、左肩、左肩甲骨な どの痛みの原因になっていると思われる邪気を左腕に誘導しようという ことです。邪気は、鍼したほうに集まってくる性質がありますので。鍼 の原則「手足の引く」の一例です。  というわけで、まず、手の陰経陽経の順でツボを探し刺鍼しました (写真4、5)。 &ref(DSCF0194.JPG)写真4 &ref(DSCF0198.JPG)写真5 **4.水毒を動かすため、腹に刺鍼  つぎは、腹の水毒をへらすため、腹へ刺鍼しました。まずは、横腹 から(写真6)。 &ref(DSCF0199.JPG)写真6  これは、いきなり腹の中心に刺鍼すると、急に邪気がうごき患者さん がつらい思いをすることもあるためで、まず邪気をより陽位である横腹 に引くためです。  鍼の原則『陽に引く」の一例で、このあたりの説明も「養生の一本鍼」 で徐々にしていく予定ですが、はやく知りたい方は、術伝HPの「手足に 引く、陽に引く、下に引く」のページを読んでみてください。  それから、左上腹部の水毒のときにツボがよく出る左上肓愈、左章門 を調べたら、ツボが出ていたので刺鍼しました(写真7、8)。 &ref(DSCF0203.JPG)写真7 &ref(DSCF0204.JPG)写真8 **5.足にも引くため足の陰陽経に刺鍼  腹の邪毒を足にも引くため、言い換えれば、腹の状態を足のツボでも 改善するため、足の陰経、陽経に出ていたツボにも刺鍼しました(写真9、10)。 &ref(DSCF0207.JPG)写真9 &ref(DSCF0209.JPG)写真10  この場合に、腹のツボの位置との関係から足のどの辺りにツボが出や すいかは、だいたい予測できるのですが、長くなりますので、「養生の 一本鍼」でくわしく解説したいと思います。 **6.うつ伏せで背中などに刺鍼  つぎに背部のみるためにうつ伏せになってもらいました。やはり、ゆっ くりとうつ伏せになっていきました。  みていくと、やはり、 背中側胸椎7〜8の左華陀経に、径2cmくら いで、ズブズブにへこんだ(虚した)ツボが出ていましたし、左痞根が 板のように硬くなっていました。順番に刺鍼しました(写真11、12)。 &ref(DSCF0211.JPG)写真11 &ref(DSCF0213.JPG)写真12  そのあと、左背中の状態を足のツボでも改善するため、左足ふくらは ぎに出ていたツボに刺鍼しました(写真13)。 &ref(DSCF0214.JPG)写真12 **7.座位で、左首肩に刺鍼  つぎに座位になってもらいました。さきほどよりはスムーズに動ける ようでした。  座位では、先ず、念のため、手の甲に出ていたツボに引き鍼しながら 首を動かしてもらい運動鍼をしました(写真14)。 &ref(DSCF0216.JPG)写真14  このあと左首肩上腕に鍼したときに動いた邪気を、より末端である手 甲に誘導するためと、首肩の痛みを大雑把に減らし、悪いところを特定 しやすくするためです。  そのあと首を調べてみたら、首の真後ろの下から1/3のところに、 やはり、表面がズブズブに虚したツボがみつかりました(写真15)。 &ref(DSCF0218.JPG)写真15  むかしムチウチをしたことがあるということなので、その名残だと思 います。こういうのを残しておくと、腹の邪毒の影響を受けやすく、そ の結果として辛い症状が出やすいので、刺鍼しておきました(写真16)。 &ref(DSCF0221.JPG)写真16  その左横から首の付け根にかけて華陀経にツボが出ていたので、そこ にも刺鍼しておきました。  つぎに、首肩が辛いときにツボが出やすいあたりを順に調べ、出てい たツボに刺鍼しました(写真17)。 &ref(DSCF0223.JPG)写真17 **8.仰向けで、上腕陰経に刺鍼  つぎに、左の脇の下から上腕陰経をしらべたら、やはり、ここにもツ ボが出ていました。 親指側(手太陰)と小指側(手少陰)にツボが出て いましたが、真ん中(手厥陰)には出ていませんでした。   安定した状態でしっかり刺鍼したかったので、もう一度仰向けになっ てもらいました。  手太陰と手厥陰それぞれを、脇の下のほうから肘に近いほうの順で刺 鍼しました(写真18、19)。この手順は、邪気を手の末端に誘導するた めです。 &ref(DSCF0226.JPG)写真18 &ref(DSCF0228.JPG)写真19 **9.また座位で、動作鍼のあと後始末  また、座位になってもらい、首腕を動かして、辛さや違和感のあると ころを教えてもらい、動作鍼の要領で、辛さや違和感がなくなるまで刺 鍼しました(写真20)。 &ref(DSCF0230.JPG)写真20  そのあと後始末にうつり、頭に散鍼し(写真21)、手の甲に引き鍼し ました(写真22)。   &ref(DSCF0233.JPG)写真21 &ref(DSCF0234.JPG)写真22 **10.終了後の様子  終了後に具合を聞いたら、すっきりよくなったということでした。そ して、そのまま、午後の操体講座に参加されていました。  次の日にメールが来ました。 「来た時あんなに辛かった後頚部と左肩があんなにスッキリと痛みが取 れたので本当にびっくりしています! あの痛みは『左腹の水毒が悪さ をしていた為』だったとは……水毒恐るべし……ですね! そして『鍼っ てすごいなー』と改めて実感致しました。 いや〜左腕が軽い♪」 **11.応急措置をするとしたら  このケースの場合で、もし発症の数日以内の治療で応急処置だけする としたら、この例の座位になってから以降の内容を中心に治療したと思 います。  念のために、手甲の引き鍼したあと、手陰経手首付近のツボにも引き 鍼してから、首肩上腕などの刺鍼をしたと思いますが。 *(3)おわりに **1.邪気って  邪気という概念に疑問をいだく方もいらっしゃると思いますが、私に は、はっきり感じられますし、つぎのような実験から、感じられないと いう方でも、体は感じていて意識できないだけではないかなと思ってい ます。  経絡上10数cm上を指をゆっくり動かしていくと、所々で跳ねたりス ピードが変わったりするのが観察できます。 &ref(jaki-wo-kanjiru.jpg) この点に関しても、詳しくは術伝HPの「鍼は邪気を引く道具」のページ に書きましたので、興味のある方は読んでみてください。  それに、こういう線維筋痛症タイプの痛みを訴える方は、患者さんご 本人が邪気やその動きをよく感じてらっしゃる場合が多いので、邪気の ことを話して、今どういう状態か聞きながら治療したほうが適切な治療 ができる可能性が高くなります。  ピリピリビリビリした感じがいまどこでおこっているか、どっちに動 いているかを言ってもらうと邪気の動きがわかりやすいということです。 **2.今後の予定  今まで「先急の一本鍼:運動器編」ということで書いてきましたが、 だいたい基本的によく使うことは書き終わりました。今回書いたように、 運動器系の痛み辛さでも、慢性期には、腹の邪毒が関係している場合が 多いです。  それで、筆者は、2、3回応急処置してもぶり返すようなら、腹診を して慢性期の養生と組み合わせて治療させてもらうことにしています。 また、内科系の病気の慢性期にも、腹診は大切です。  そこで、次回からは、慢性期に対する「養生の一本鍼」について解説 していこうと思っています。  しかし、引き続き、「先急の一本鍼」のモデルも募集します。慢性期 の養生の例もふくめ、少しずつ増やして、ゆくゆくは、深谷先生の「お 灸で病気を治した話」の写真入り版のようなものを目指していきたいと 思っています。よろしくお願いします。  というわけで、「養生の一本鍼」の解説をしつつ、その症例を出した りするのをメインに、興味深い先急の症例があれば解説したり・・・と いう感じですすめていきたいと思います。 追記:いろいろあって、先急の一本鍼の内科系が先になりました。    つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.18]] ------ *お知らせとお願い **「術伝」症例相談用メーリングリストの参加者募集 「術伝」では症例相談用メーリングリスト( [[術伝ML(muchukand)>http://groups.yahoo.co.jp/group/muchukand/]])の 参加者を募集しています。 **術伝掲示板の参加者募集  術伝掲示板[[養生の杜>http://otd12.jbbs.livedoor.jp/1000035852/bbs_plain]]にも、症例相談などをどんどん書き込んでください。  とくに、匿名希望で、術伝MLに参加しにくい方など。 **術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集  術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役 をしてくださる方を募集しています。  くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。 **間違いなどがあったら  このページに間違いなどおかしなところを見つけた方は、 [[術伝事務局>jutsuden-jmkk@yahoogroups.jp]]へ、メールをください。 よろしくお願いします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
------ 術伝流・先急一本鍼・運動器偏 17.左腕の激痛 &size(24){&color(green){左腕の激痛}} ------ #contents *(1)線維筋痛症の発症時に似た訴えが増えている  線維筋痛症という病気をご存知ですか?原因不明の全身的慢性疼痛を 特徴とする病気です。くわしくは、以下の友の会のHPをご覧ください。 [[線維筋痛症友の会>http://www.jfsa.or.jp/]]  筆者は、ここ10数年ほど、普通の運動器系疾患とは思えないほどの激 痛をうったえる患者さんに会ってきました。  はじめは、1996年のことで、左腕の痛みが長期に続いている方で、心 臓系の病気を疑われ24時間モニターなどもしたけれど原因が不明という ことでした。腹診をしたら、左上腹部が硬かったので、それもふくめて 治療したら、あっさり痛みが消えました。あまりにあっさり消えたので、 こちらがびっくりしたほどでした。  そして、そういう方が、2000年を過ぎてから多くなり、とくにここ数 年毎年のように増えている気がして、気になっていました。  線維筋痛症という病気を鍼灸講座に参加した研修医の方から教えても らい、調べてみたら、私が見てきた方々の症状の訴え方が、線維筋痛症 の発症時とよく似ていることがわかり、日本全体で増えていることを知 りました。  今まで見てきた方を振り返ってみて、その特徴をまとめて見ると以下 のようになります。 1.通常の頸肩腕、腿の痛みとは考えられないほどの激痛を訴える方が   増えている。腕の場合は、首肩も痛むが、腕の痛み・シビレのほう   が酷いことが多く、モノが持てなくなることも多い。 2.線維筋痛症の発症時に似ているが、手足どれか1本だけのことが多   い。 3.90年代後半から見られるようになり、21世紀にはいり毎年増え   ている。 4.原因不明で治療法がなく、たらい回しになることが多い。   左腕の場合には、心臓系の疾患を疑われることも多いが、検査して   も異常が見られない。 5.全身に痛みが出るようになると、線維筋痛症と診断されるようだ。 6.水毒の影響が疑われる腹証・背部症候が見られる(とくに腕の場合)   腹証は、患側の胸脇苦満、心下痞。患側の上肓愈や章門などにツボ   が出る。背部は、患側の脊椎7~11の華陀経、痞根にツボが出る。 7.腿の場合は、患側の悪血証の場合もあり、この場合のツボは、普通   の小腹急結よりも外よりの鼠蹊部あたり(五枢〜維道、居りょう)、   仙骨まわり、腰徹腹に出やすい。 8.腕の場合は、患側の脇の下から上腕手ひら側に、邪気がたまってい   ることが多く、切経をすると、非常に痛がるし、鍼をすると、ピリ   ピリビリビリした感じを訴えられることが多い。腿の場合には、   大腿内側が多い。ただし、この部分の自覚痛はない場合が多く、切   経のまえには痛みを訴えない場合が多い。 9.初めての発症は、運動した直後、手術出産などの後などに多い。 10.上腹部の水毒から発生した邪気が脇の下〜上腕陰経などに溜まり、   感覚神経に不正なインパルスを発生させているような感じを受ける。   邪気は、生体内雑電気なのかなという感じもしたし、運動時の骨格   筋の活動電位がきっかけの可能性も頭に浮かんだ。 11.治療法は、運動器系の応急処置に、上腹部の水毒を減らす慢性期の   処置を組み合わせる。 12.食養としては、水毒を減らす小豆など。添加物・精製物を減らした   ほうがよい感じ。(水毒を減らす漢方薬を併用したほうが治りやす   いと思うのだが) 13.添加物・精製物の多い食事と、パソコン・携帯の使用が影響してい   るのではないか?と思う。パソコンや携帯を使う方が多くなってか   ら、こういう症状を訴える方が多くなってきたように思うので。 *(2)症例  この4月に講座参加者で似たような症例を写真に撮れましたので、解 説していきます。  上腹部の水毒を減らす慢性期の養生の処置を組み合わせているので、 厳密には、先急の一本鍼とは言えませんが、実際の臨床の場で応急処置 だけではすまない場合、というか、もう発症からだいぶ時間が経過して いて慢性期と考えてもいい場合には、筆者は、こういう治療をしている という例として、読んでみてください。  慢性期の養生の処置に関しては、来月以降、「術伝流・養生の一本鍼」 として、診察から順番に解説していく予定です。   **1.経過  3月12日「左腕激痛の為、救急車で運ばれそのまま入院。多分頚椎 ヘルニア。痛みで一睡もできなかった。」とのメールがはいりました。 結局、7日間入院して牽引と鎮痛剤だけだったそうです。  後頚部や、左肩や、左肩甲骨まわりに怠さ・鈍痛が残り、鎮痛剤を飲 んで自宅療養を続けたそうで、4月5日に講座に来る途中も数回激痛が 出たそうで、2時間ほど遅れて会場に到着されました。 **2.腹診をしてみると  今まで同じような方を診てきた経験から、腹診をしたかったので、仰 向けになれないか頼んだところ、きついのか時間をかけて仰向けになり ました。  腹診をしていくと、(1)で書いたように、案の定、左胸脇苦満と心 下痞がありました。肋骨下部を左右交互に押してみると、左側だけ何か 詰まっている感じで押せませんでした(写真1)。 &ref(DSCF0191.JPG)写真1  また、腹側から肋骨下縁に指を入れようとしてもはいりません(写真2)。 &ref(DSCF0193.JPG)写真2  左上腹部が硬く、臍の左上2cmくらいにツボ(左上肓愈と仮称して いる)が出ていました(写真3)。 &ref(DSCF0206.JPG)写真3 **3.慢性期の養生の型で、手から治療開始  筆者は、慢性期の治療は、仰向けで手腹足、うつ伏せで背腰足、座位 で肩首頭手甲という順で治療しています。この手順で治療する意味は、 来月以降の「養生の一本鍼」のなかで説明していきますので、それまで お待ちください。  簡単に言うと、腹のまえに手に刺すのは、腹に鍼したときに動く邪気 が頭のほうへ向かうのを防ぎ、手のほうに誘導するためです。  この場合には、左上腹部の水毒から発生し、左腕、左肩、左肩甲骨な どの痛みの原因になっていると思われる邪気を左腕に誘導しようという ことです。邪気は、鍼したほうに集まってくる性質がありますので。鍼 の原則「手足の引く」の一例です。  というわけで、まず、手の陰経陽経の順でツボを探し刺鍼しました (写真4、5)。 &ref(DSCF0194.JPG)写真4 &ref(DSCF0198.JPG)写真5 **4.水毒を動かすため、腹に刺鍼  つぎは、腹の水毒をへらすため、腹へ刺鍼しました。まずは、横腹 から(写真6)。 &ref(DSCF0199.JPG)写真6  これは、いきなり腹の中心に刺鍼すると、急に邪気がうごき患者さん がつらい思いをすることもあるためで、まず邪気をより陽位である横腹 に引くためです。  鍼の原則『陽に引く」の一例で、このあたりの説明も「養生の一本鍼」 で徐々にしていく予定ですが、はやく知りたい方は、術伝HPの「手足に 引く、陽に引く、下に引く」のページを読んでみてください。  それから、左上腹部の水毒のときにツボがよく出る左上肓愈、左章門 を調べたら、ツボが出ていたので刺鍼しました(写真7、8)。 &ref(DSCF0203.JPG)写真7 &ref(DSCF0204.JPG)写真8 **5.足にも引くため足の陰陽経に刺鍼  腹の邪毒を足にも引くため、言い換えれば、腹の状態を足のツボでも 改善するため、足の陰経、陽経に出ていたツボにも刺鍼しました(写真9、10)。 &ref(DSCF0207.JPG)写真9 &ref(DSCF0209.JPG)写真10  この場合に、腹のツボの位置との関係から足のどの辺りにツボが出や すいかは、だいたい予測できるのですが、長くなりますので、「養生の 一本鍼」でくわしく解説したいと思います。 **6.うつ伏せで背中などに刺鍼  つぎに背部のみるためにうつ伏せになってもらいました。やはり、ゆっ くりとうつ伏せになっていきました。  みていくと、やはり、 背中側胸椎7〜8の左華陀経に、径2cmくら いで、ズブズブにへこんだ(虚した)ツボが出ていましたし、左痞根が 板のように硬くなっていました。順番に刺鍼しました(写真11、12)。 &ref(DSCF0211.JPG)写真11 &ref(DSCF0213.JPG)写真12  そのあと、左背中の状態を足のツボでも改善するため、左足ふくらは ぎに出ていたツボに刺鍼しました(写真13)。 &ref(DSCF0214.JPG)写真12 **7.座位で、左首肩に刺鍼  つぎに座位になってもらいました。さきほどよりはスムーズに動ける ようでした。  座位では、先ず、念のため、手の甲に出ていたツボに引き鍼しながら 首を動かしてもらい運動鍼をしました(写真14)。 &ref(DSCF0216.JPG)写真14  このあと左首肩上腕に鍼したときに動いた邪気を、より末端である手 甲に誘導するためと、首肩の痛みを大雑把に減らし、悪いところを特定 しやすくするためです。  そのあと首を調べてみたら、首の真後ろの下から1/3のところに、 やはり、表面がズブズブに虚したツボがみつかりました(写真15)。 &ref(DSCF0218.JPG)写真15  むかしムチウチをしたことがあるということなので、その名残だと思 います。こういうのを残しておくと、腹の邪毒の影響を受けやすく、そ の結果として辛い症状が出やすいので、刺鍼しておきました(写真16)。 &ref(DSCF0221.JPG)写真16  その左横から首の付け根にかけて華陀経にツボが出ていたので、そこ にも刺鍼しておきました。  つぎに、首肩が辛いときにツボが出やすいあたりを順に調べ、出てい たツボに刺鍼しました(写真17)。 &ref(DSCF0223.JPG)写真17 **8.仰向けで、上腕陰経に刺鍼  つぎに、左の脇の下から上腕陰経をしらべたら、やはり、ここにもツ ボが出ていました。 親指側(手太陰)と小指側(手少陰)にツボが出て いましたが、真ん中(手厥陰)には出ていませんでした。   安定した状態でしっかり刺鍼したかったので、もう一度仰向けになっ てもらいました。  手太陰と手厥陰それぞれを、脇の下のほうから肘に近いほうの順で刺 鍼しました(写真18、19)。この手順は、邪気を手の末端に誘導するた めです。 &ref(DSCF0226.JPG)写真18 &ref(DSCF0228.JPG)写真19 **9.また座位で、動作鍼のあと後始末  また、座位になってもらい、首腕を動かして、辛さや違和感のあると ころを教えてもらい、動作鍼の要領で、辛さや違和感がなくなるまで刺 鍼しました(写真20)。 &ref(DSCF0230.JPG)写真20  そのあと後始末にうつり、頭に散鍼し(写真21)、手の甲に引き鍼し ました(写真22)。   &ref(DSCF0233.JPG)写真21 &ref(DSCF0234.JPG)写真22 **10.終了後の様子  終了後に具合を聞いたら、すっきりよくなったということでした。そ して、そのまま、午後の操体講座に参加されていました。  次の日にメールが来ました。 「来た時あんなに辛かった後頚部と左肩があんなにスッキリと痛みが取 れたので本当にびっくりしています! あの痛みは『左腹の水毒が悪さ をしていた為』だったとは……水毒恐るべし……ですね! そして『鍼っ てすごいなー』と改めて実感致しました。 いや〜左腕が軽い♪」 **11.応急措置をするとしたら  このケースの場合で、もし発症の数日以内の治療で応急処置だけする としたら、この例の座位になってから以降の内容を中心に治療したと思 います。  念のために、手甲の引き鍼したあと、手陰経手首付近のツボにも引き 鍼してから、首肩上腕などの刺鍼をしたと思いますが。 *(3)おわりに **1.邪気って  邪気という概念に疑問をいだく方もいらっしゃると思いますが、私に は、はっきり感じられますし、つぎのような実験から、感じられないと いう方でも、体は感じていて意識できないだけではないかなと思ってい ます。  経絡上10数cm上を指をゆっくり動かしていくと、所々で跳ねたりス ピードが変わったりするのが観察できます。 &ref(jaki-wo-kanjiru.jpg) この点に関しても、詳しくは術伝HPの「鍼は邪気を引く道具」のページ に書きましたので、興味のある方は読んでみてください。  それに、こういう線維筋痛症タイプの痛みを訴える方は、患者さんご 本人が邪気やその動きをよく感じてらっしゃる場合が多いので、邪気の ことを話して、今どういう状態か聞きながら治療したほうが適切な治療 ができる可能性が高くなります。  ピリピリビリビリした感じがいまどこでおこっているか、どっちに動 いているかを言ってもらうと邪気の動きがわかりやすいということです。 **2.今後の予定  今まで「先急の一本鍼:運動器編」ということで書いてきましたが、 だいたい基本的によく使うことは書き終わりました。今回書いたように、 運動器系の痛み辛さでも、慢性期には、腹の邪毒が関係している場合が 多いです。  それで、筆者は、2、3回応急処置してもぶり返すようなら、腹診を して慢性期の養生と組み合わせて治療させてもらうことにしています。 また、内科系の病気の慢性期にも、腹診は大切です。  そこで、次回からは、慢性期に対する「養生の一本鍼」について解説 していこうと思っています。  しかし、引き続き、「先急の一本鍼」のモデルも募集します。慢性期 の養生の例もふくめ、少しずつ増やして、ゆくゆくは、深谷先生の「お 灸で病気を治した話」の写真入り版のようなものを目指していきたいと 思っています。よろしくお願いします。  というわけで、「養生の一本鍼」の解説をしつつ、その症例を出した りするのをメインに、興味深い先急の症例があれば解説したり・・・と いう感じですすめていきたいと思います。 追記:いろいろあって、先急の一本鍼の内科系が先になりました。    つぎへ>>>[[術伝流一本鍼no.18]] ------ *お知らせとお願い **術伝流鍼灸操体講座で患者さん役を募集  術伝流鍼灸操体講座は、実践面を重視しています。実際に症状が出て いる方の治療を見たほうが勉強になります。そこで、講座で患者さん役 をしてくださる方を募集しています。  くわしくは、[[術伝流のモデル]]をみてください。  よろしくお願いします。 **感想など  感想などありましたら、[[「術伝」掲示板>http://jutsuden.bbs.fc2.com/]]に書いてください。  また、「術伝」掲示板でも、旧掲示板「養生の杜」と同じように、 養生についての雑談や症例相談などもしていきたいと思っています。  よろしくお願いします。 **間違いなど  間違いなど見つけた方は、[[術伝事務局>jutsuden-jmkk@yahoogroups.jp]]あてにメールをください。  よろしくお願いします。 **「術伝」症例相談用メーリングリストの参加者募集  「術伝」では症例相談用メーリングリスト( [[術伝ML(muchukand)>http://groups.yahoo.co.jp/group/muchukand/]]) の参加者を募集しています。  よろしくお願いします。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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