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術伝流・先急一本鍼・運動器偏 17.左腕の激痛

左腕の激痛

(1)線維筋痛症の発症時に似た訴えが増えている

 線維筋痛症という病気をご存知ですか? 原因不明の全身的
慢性疼痛を特徴とする病気です。詳しくは、以下の友の会のH
Pをご覧ください。


 筆者は、ここ10数年ほど、普通の運動器系疾患とは思えない
程の激痛を訴える患者さんに会ってきました。

 初めは、1996年のことで、左腕の痛みが長期に続いている
人で、心臓系の病気を疑われ24時間モニターなどもしたけれ
ど、原因が不明ということでした。

 腹診をしたら、左上腹部が硬かったので、それも含めて治療
したら、あっさり痛みが消えました。余りにあっさり消えたの
で、こちらがビックリしたほどでした。

 そして、そういう人が、2000年を過ぎてから多くなり、特
に、ここ数年毎年のように増えている気がして、気になってい
ました。

 線維筋痛症という病気を、鍼灸講座に参加した研修医の人か
ら教えてもらいました。調べてみたら、私が見てきた人々の症
状の訴え方が、線維筋痛症の発症時と良く似ていることが分か
り、日本全体で増えていることを知りました。

その特徴

 今まで見てきた人を振り返ってみて、その特徴をまとめてみ
ると、以下のようになります。

1.激痛を訴える

 通常の頸肩腕、腿の痛みとは考えられない程の激痛を訴える
人が増えている。

 腕の場合は、首肩も痛むが、腕の痛み・シビレの方が酷いこ
とが多く、モノが持てなくなることも多い。

2.初めは、手足どれか1カ所のことが多い

 線維筋痛症の発症時に似ているが、手足どれか1本だけのこ
とが多い。

3.90年代後半から、200年から毎年倍増?

 90年代後半から見られるようになり、21世紀に入り毎年増
えている。

4.原因不明で、治療法がない?

 原因不明で、治療法がなく、たらい回しになることが多い。

 左腕の場合には、心臓系の疾患を疑われることも多いが、検
査しても異常が見られない。

5.全身に痛みが出ると、線維筋痛症と診断

 全身に痛みが出るようになると、線維筋痛症と診断されるよ
うだ。

6.水毒の腹証・背部症候が見られる

 水毒の影響が疑われる腹証・背部症候が見られる。特に、腕
の場合は、必ずと言っても良いほど多く見られる。

 腹証は、患側の胸脇苦満、心下痞。患側の上肓愈や章門など
にツボが出る。

 背部は、患側の脊椎7~11の華陀経、痞根にツボが出る。

7.脚の場合は、患側の瘀血証の場合も

 脚の場合は、患側の瘀血証の場合もある。

 この場合のツボは、普通の小腹急結よりも外側の鼠蹊部の
(五枢〜維道、居髎)、仙骨の周り、腰徹腹に出やすい。

8.患側の脇下周りや大腿内側の筋肉に邪気が溜まる

 患側の脇之下から上腕手平側、および、上腕〜胸の間に張っ
ている筋肉、上腕〜背中の間に張っている筋肉に、邪気が溜
まっていることが多い。

 そのため、切経をしたり、摘(つま)んだりすると、非常
に痛がる。また、鍼をすると、ピリピリビリビリした感じを
訴えられることが多い。

 腿の場合には、大腿内側が多い。

 ただし、これらの上腕手平側や大腿内側の自覚痛は無い場
合が多い。そのため、触診や切経の前には痛みを訴えないこ
とが多い。

9.初めての発症は、運動直後、手術出産の後などに多い

 初めての発症は、運動した直後、または、手術や出産の後
などに多い。

 打撲捻挫、手術出産に因る内出血系の瘀血や、運動中の汗
の内攻に因る水毒が関係しているような感じを受けています。

10.上腹部の水毒から発生した邪気が原因か?

 上腹部の水毒から発生した邪気が、脇の下〜上腕陰経など
に溜まり、感覚神経に不正なインパルスを発生させているよ
うな感じを受ける。

 ヒトの神経系が絶縁されてなくて、開放系であることが関
係しているように思う。電気が溜まった筋肉などの近くを感
覚神経が通る時に、絶縁されていないランビエの絞輪などの
場所で、近くの電気の影響を受けてしまうのでは無いだろう
か?

 邪気は、生体内雑電気なのかなと言う感じも受けた。また、
運動直後の発生については、運動時の骨格筋の活動電位が切っ
掛けの可能性も、頭に浮かんだ。

11.水毒と瘀血を減らすと改善する

 治療法は、「運動器系の応急処置」に、「上腹部の水毒と、
下腹部や古い打撲捻挫などの場所の瘀血を減らす慢性期の処
置」を組み合わせる。

 水毒や瘀血が排泄されると、一気に改善が進む。

 水毒の排泄は、新しければ汗が多い。古くなると、湿疹の
形で出ることが多い。古い水毒が動いた時の湿疹は、直3
cm〜数cmで淡いピンク色が多い。

 瘀血が動いた時は、新しければ、下血、ドロッとした血液、
黄色い輪(へログロビンがビビルビンに変化)などの形。古
い瘀血が動いたときは、湿疹の形が多い。この場合の湿疹は、
直径2〜3mm位の細かいもので、鮮紅色が多い。

12.食養は水毒を減らす小豆など、漢方薬も

 添加物・精製物を減らした方が良い感じ。

 水毒や瘀血を減らす漢方薬を併用した方が治りやすいと思う。

13.合成物精製物と、パソコンや携帯の使用が影響?

 化学合成物や高度精製物の多い食事と、パソコン・携帯の使
用が影響しているのではないか?と思う。パソコンや携帯を使
う人が多くなってから、こういう症状を訴える人が多くなって
きたように思うので。

 化学合成物や高度精製物は、血中濃度が直ぐ上がり直ぐ下が
り、薬としては切れ味が良いとされているようだ。が、血中濃
度が下がっても全て体外に排泄されるわけでは無いようだ。

 化学合成物や高度精製物を常時多量摂取している人の筋肉は、
そうでない人の筋肉と比較すると、粘っこい感じを受ける。鍼
を刺して動かそうとすると、抵抗を受けて動かしづらい。

 筋肉に溜まった化学合成物や高度精製物の残滓が、蓄電池で
の電解質のような役割を演じて、電気みたいな邪気を溜め込ん
でいるような感じを受けた。

(2)症例

 この4月に講座参加者で似たような症例を写真に撮れました。
解説していきます。

 上腹部の水毒を減らす慢性期の養生の処置を組み合わせてい
るので、厳密には、先急の一本鍼とは言えません。が、実際の
臨床の場で応急処置だけでは済まない場合、と言うか、もう発
症から大分時間が経過していて慢性期と考えてもいい場合には、
筆者は、こういう治療をしているという例として、読んでみて
ください。

 慢性期の養生の処置に関しては、来月以降、「術伝流・養生
の一本鍼」として、診察から順番に解説していく予定です。

左腕の激痛

1.経過

 3月12日「左腕激痛の為、救急車で運ばれそのまま入院。
多分頚椎ヘルニア。痛みで一睡もできなかった。」とのメール
が入りました。結局、7日間入院して牽引と鎮痛剤だけだった
そうです。

 後頚部や、左肩や、左肩甲骨周りに怠さ・鈍痛が残り、鎮痛
剤を飲んで自宅療養を続けたそうで、4月5日に講座に来る途
中も数回激痛が出たそうで、2時間ほど遅れて会場に到着され
ました。

2.腹診をしてみると

 今まで同じような人を診てきた経験から、腹診をしたかった
ので、仰向けになれないか頼んだところ、きついのか時間を掛
けて仰向けになりました。

 腹診をしていくと、(1)で書いたように、案の定、左胸脇
苦満と心下痞が有りました。肋骨下部を左右交互に押してみる
と、左側だけ何か詰まっている感じで押せませんでした(写真
1)。

写真1

 また、腹側から肋骨下縁に指を入れようとしても入りません
(写真2)。

写真2

 左上腹部が硬く、臍の左斜め上2cm位にツボ(左上肓愈と
仮称している)が出ていました(写真3)。

写真3

3.慢性期の養生の型で、手から治療開始

 筆者は、慢性期の治療は、仰向けで手腹足、うつ伏せで背腰
足、座位で肩首頭手甲という順で治療しています。この手順で
治療する意味は、来月以降の「養生の一本鍼」で説明していき
ますので、それまでお待ちください。

 簡単に言うと、腹の前に手に刺すのは、腹に鍼した時に動く
邪気が頭の方へ向かうのを防ぎ、手の方に誘導するためです。

 この場合には、左上腹部の水毒から発生し、左腕、左肩、左
肩甲骨などの痛みの原因になっていると思われる邪気を左腕に
誘導しようということです。邪気は、鍼した方に集まってくる
性質がありますので。鍼の原則「手足の引く」の一例です。

 というわけで、先ず、手の陰経陽経の順でツボを探し刺鍼し
ました(写真4、5)。

写真4
写真5

4.水毒を動かすため、腹に刺鍼

 次は、腹の水毒を減らすため、腹へ刺鍼しました。先ずは、
横腹から(写真6)。

写真6

 これは、いきなり腹の中心に刺鍼すると、急に邪気が動き、
患者さんに辛い思いをさせてしまうこともあるためです。先ず
邪気をより陽位である横腹に引くためです。

 鍼の原則『陽に引く」の一例で、この辺りの説明も「養生の
一本鍼」で徐々にしていく予定ですが、早く知りたい人は、術
伝HPの「手足に引く、陽に引く、下に引く」のページを読んで
みてください。

 それから、左上腹部の水毒の時にツボが良く出る左上肓愈、
左章門を調べたら、ツボが出ていたので刺鍼(写真7,8)。

写真7
写真8

5.足にも引くため、足の陰陽経に刺鍼

 腹の邪毒を足にも引くため、言い換えれば、腹の状態を足の
ツボでも改善するため、足の陰経、陽経に出ていたツボにも刺
鍼しました(写真9、10)。

写真9
写真10

 この場合に、腹のツボの位置との関係から足のどの辺りにツ
ボが出やすいかは、だいたい予測できるのですが、長くなりま
すので、「養生の一本鍼」で詳しく解説したいと思います。

6.うつ伏せで背中などに刺鍼

 次に背部の診るためにうつ伏せになってもらいました。やは
り、ゆっくりと、うつ伏せになっていきました。

 診ていくと、やはり、 背中側胸椎7〜8の左華陀経に、径2
cm位で、ズブズブに凹んだ(虚した)ツボが出ていましたし、
左痞根が板のように硬くなっていました。順番に刺鍼しました
(写真11、12)。

写真11
写真12

 その後、左背中の状態を足のツボでも改善するため、左足脹
脛に出ていたツボに刺鍼しました(写真13)。

写真12

7.座位で、左首肩に刺鍼

 次に座位になってもらいました。先ほどどよりはスムーズに
動けるようでした。

 座位では、先ず、念のため、手甲に出ていたツボに引き鍼し
ながら首を動かしてもらい、運動鍼をしました(写真14)。

写真14

 この後に左首肩上腕に鍼したときに動いた邪気を、より末端
である手甲に誘導するためと、首肩の痛みを大雑把に減らし、
悪い所を特定しやすくするためです。

 それから首を調べてみたら、首の真後ろの下から1/3の所
に、やはり、表面がズブズブに虚したツボが見付かりました
(写真15)。

写真15

 以前にムチウチをしたことがあるということなので、その名
残だと思います。こういうのを残しておくと、腹の邪毒の影響
を受けやすく、その結果として辛い症状が出やすいので、刺鍼
しておきました(写真16)。

写真16

 その左横から首の付け根にかけて華陀経にツボが出ていたの
で、そこにも刺鍼しておきました。

 次に、首肩が辛いときにツボが出やすい辺りを順に調べ、出
ていたツボに刺鍼しました(写真17)。

写真17

8.仰向けで、上腕陰経に刺鍼

 次に、左の脇の下から上腕陰経を調べたら、やはり、ここに
もツボが出ていました。 拇指側(手太陰)と小指側(手少陰)
にツボが出ていましたが、真ん中(手厥陰)には出ていません
でした。

  安定した状態でしっかり刺鍼したかったので、再度仰向け
になってもらいました。

 手太陰と手厥陰それぞれを、脇の下の方から肘に近い方の
順で刺鍼しました(写真18、19)。この手順は、邪気を手の
末端に誘導するためです。

写真18

写真19

9.また座位で、動作鍼をしてから後始末

 また、座位になってもらい、首腕を動かして、辛さや違和感
のある所を教えてもらい、動作鍼の要領で、辛さや違和感が無
くなるまで刺鍼しました(写真20)。

写真20

 それから後始末に移り、頭に散鍼し(写真21)、手甲に引き
鍼しました(写真22)。

写真21

写真22

10.終了後の様子

 終了後に具合を聞いたら、すっきり良くなったということで
した。そして、そのまま、午後の操体講座に参加されました。

 次の日にメールが来ました。

「来た時あんなに辛かった後頚部と左肩があんなにスッキリと
痛みが取れたので本当にビックリしています! あの痛みは、
『左腹の水毒が悪さをしていた為』だったとは……水毒恐るべ
し……ですね! そして『鍼ってすごいなー』と改めて実感致
しました。いや〜左腕が軽い♪」

11.応急措置をするとしたら

 このケースの場合で、もし発症の数日以内の治療で応急処置だ
けするとしたら、この例の座位になってから以降の内容を中心に
治療したと思います。

 念のために、手甲の引き鍼した後、手陰経手首付近のツボにも
引き鍼してから、首肩上腕などの刺鍼をしたと思いますが。

(3)おわりに

1.邪気って

 邪気という概念に疑問を抱く人もいらっしゃると思いますが、
私には、はっきり感じられます。また、次のような実験から、
感じられないと言う人でも、体は感じていて意識できないだけ
ではないかなと思っています。

 経絡上10数cm上で指をゆっくり動かしていくと、所々で跳
ねたりスピードが変わったりするのが観察できます。


この点に関しても、詳しくは術伝HPの「鍼は邪気を引く道具」
のページに書きましたので、興味のある方は読んでみてくださ
い。

 それに、こういう線維筋痛症タイプの痛みを訴える人は、患
者さん御本人が邪気やその動きを良く感じてらっしゃる場合が
多いです。そのため、邪気のことを話して、今どういう状態か
聞きながら治療した方が、適切な治療ができる可能性が高くな
ります。

 ピリピリビリビリした感じが今何処で起こっているか、どっ
ちに動いているかを言ってもらうと、邪気の動きが分かりやす
いと言うことです。

2.今後の予定

 今まで「先急の一本鍼:運動器編」ということで書いてきま
したが、基本的に良く使うことは、だいたい書き終わりました。
今回書いたように、運動器系の痛み辛さでも、慢性期には、腹
の邪毒が関係している場合が多いです。

 それで、筆者は、2、3回応急処置しても再発するようなら、
腹診をして慢性期の養生と組み合わせて治療させてもらうこと
にしています。また、内科系の病気の慢性期にも、腹診は大切
です。

 そこで、次回からは、慢性期に対する「養生の一本鍼」につ
いて解説していこうと思っています。

 しかし、引き続き、「先急の一本鍼」のモデルも募集します。
慢性期の養生の例も含め、少しずつ増やして、ゆくゆくは、深
谷先生の「お灸で病気を治した話」の写真入り版のようなもの
を目指していきたいと思っています。よろしくお願いします。

 というわけで、「養生の一本鍼」の解説をしつつ、その症例
を出したりするのをメインに、興味深い先急の症例があれば解
説したり・・・という感じで進めていきたいと思います。

追記:色々あって、先急の一本鍼の内科系が先になりました。

追記:2017.01.10…似たような症例や邪気の解説など

 その後に見た似たような症例に関しては、以下に書きました。
「応用(9)筋痛症(線維筋痛症の初期症状に近いもの)」
→ 術伝流一本鍼no.57 

 また、症例問答にも、足背の激痛の例があります。
→ 鍼灸症例問答no.7

 邪気に関しては、先ず以下を読んでみてください。
→ 鍼灸漢方用語の術伝的解釈:邪気


   つぎへ>>>術伝流一本鍼no.18



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最終更新:2019年08月10日 16:04