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横輪切りの原則 - (2010/08/09 (月) 09:03:23) の編集履歴(バックアップ)


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横輪切りの原則

体は自然、臨床は対話 【1】体は自然 [2] 動作負荷の分担原則
(1) 横輪切りの原則

1.はじめに

 こんどは具体的に、特定の動作をくりかえすことでどういう部分に
ツボができていくかを見ていきます。つまり、ある動作をしたときに
かかる負荷を分担する仕組みを順に見ていきます。

2.咳をするときの姿勢と咳のツボ

 腰痛や肩こりでもよいのですが、咳(せき)から話をはじめます。

 咳をする姿勢を思い出してください。咳をするときには、背中側の
肩胛骨上半分ぐらいの位置で背中を前に曲げ、おなか側では鎖骨のす
こし下ぐらいをいちばん縮め、腕と胸のあいだは縮め、背中と腕のあ
いだは伸ばしたかっこうをしていませんか。そして、口元に手を近づ
けるため、肘の親指側を曲げていませんか?

 そういうところに、咳を治療するツボが出ます。

 喘息は息が吐けなくなる病気なのだそうです。息を吸いきった姿勢
を思いうかべると、胸の胸骨中央付近や腕と胸のあいだを伸ばし、反
対側の肩甲間部の上半分や腕と背中のあいだを縮めていますね。喘息
のツボはそういうところに出ます。

 それは、咳の場合と場所が同じなのですが、姿勢は反対のように思
えます。なぜかなぁと考えています。

 ひょっとしたら、喘息の発作というのは、咳をしつづけて歪んだ体
をもとにもどそうとする自然発生的なもの、つまり、寝返りやアクビ
やノビ、ちょっと歪みがひどくなったときのカゼのような感じの、咳
というか呼吸器系用の専用のあともどりシステムの可能性ってないで
すか。考えすぎかな。

3.中府をくすぐったら酸素ボンベが外れた

 腕と胸のあいだにある呼吸器系に効くツボのことでは、忘れられな
い思い出があります。

 私の次男は、626g、23週の超未熟児として生まれ、6ヶ月入
院したあと、肺に後遺症がのこるといわれ、酸素ボンベをつけて退院
しました。その次男が、そこのツボをくすぐっていたら、2ヶ月ほど
で、肺の影が消え、酸素ボンベを外してよいことなりました。

 なんでも、23週くらいだと、まだ、肺呼吸の段階でないのに出て
きてしまっているので肺に負担がかかるうえに、男性ホルモンと肺の
発達にバッティングする部分があるので、男の子では肺に後遺症がの
こる、そのことを覚悟してくださいという説明を主治医から、受けて
いました。

 たしかに、TVや新聞などで報道される超未熟児は女の子ばかりで
す。

 じつは、このときには、私は、腕と胸のあいだ、正確には、腕に近
い胸のくぼみが肺に効くことを知っていませんでした。

 生まれてすぐから6ヶ月入院したあと、酸素ボンベをつけて帰って
来た次男は、はじめ、泣きも笑いもせず、親に抱かれるのを突っ張っ
てこばむ状態でした。病院で抱かれるということは痛い処置をされる
ことだったからだと思います。

 これでは、積極的に何かしかけないほうが良さそうだということで、
イヤがれることはしない、必要なことはしてあげるということしかで
きませんでした。

 2ヶ月してイヤなことには泣いて抗議するようになり、3ヶ月して、
抱いてはじめて笑ったときには涙がこぼれました。

 さぁ、いよいよ、橋本敬三先生が赤ちゃんには何でも効くと書きの
こしていた「脇腹くすぐり」だぁとやってみたのですが、ぜんぜん反
応がありませんでした。

 しばらく落ちこんだあと、落ちこんではいられないと、全身くすぐっ
てみることにしました。そしたら、胸のいちばん腕に近い部分だけ大
変くすぐったがったのでした。

 しかも、指先よりも唇をかるくふれて横に振るのにいちばん反応す
ることがわかり、それから、お風呂にいれるときやおしめをかえると
きをはじめ、しょっちゅうくすぐっていました。

 そしたら、そこをくすぐりはじめてから2か月ほどして受けた定期
的な肺の検診のときにレントゲン断層撮影をした結果、胸に影がない
ことがわかり、酸素ボンベを外してよいことになりました。

 肺のいちばん小さな単位である肺胞がつぶれていたので呼吸能力が
低かったし、それが影として写っていたという主治医の説明でした。
びっくりされたようでした。

 あとで鍼灸学校にはいって、ここが「中府」とよばれ、おなか側で
は肺の病にいちばん効くツボ(「肺の募穴」)と古典にも書かれてい
ることを知り、私がツボや経絡にのめりこむきっかけになりました。

 昔の人もウソは書いていない、ただ、いまの人にはわかりにくい言
葉で書いているだけだ、体の自然をよく観察し、昔の人が伝えのこし
たかった内容をいまの人にもわかりやすい言葉になおせばよいだけの
ことだと思うようになりました。

 もちろん、時代によって、働くときの体の使い方などが違うので、
違う部分もあるとは思いますが、それも現在の体の使い方などをふく
めて考えていけばよいと思っています。

4.臓器の横輪切りにツボが出る

 さて、おなかが痛いときには、おなか側では、鳩尾(みぞおち)か
ら臍(へそ)くらいをいちばん縮めますから、背中側は、その真裏が
いちばん伸びますね。ちょうどそのあたりのおなか側にも背中側にも
腹痛によく効くツボが出ます。

 とくに背中側は、お灸の世界では「胃の六灸」とよばれる有名なツ
ボが並ぶところです。

 同じおなかが痛いときでも女性の方の生理痛など下腹部が痛いとき
には、下腹部をいちばん曲げますから、ウェストラインよりも下側の
背中側が伸びることになり、そのあたりにツボが出ます。

 つまり、だいたい、内科系の病気では症状が出ている臓器の横輪切
り、つまり、立った姿勢での地面に水平な面と体表面や筋肉の交わる
あたりにツボがならびます。

 これがツボの出方の第一原則です。鍼灸で、頭・首・胴の部分のツ
ボを探すときの目安になります。按摩指圧や操体でも同じです。

 この横輪切りの中ではじめにツボが出るのは、背中では脊柱起立筋
のいちばん太いあたりで、おなか側では腹直筋のいちばん太いあたり
です。

 とくに、背中側は、いちばんはじめに出るせいか「足太陽経1行線」
とよばれ、肺愈、心愈、肝愈、胃愈など、「臓器をいやす」という意
味のツボがならぶラインです。

 これは、まずは、いちばん太いところでバランスのくずれを支えよ
うとするからだと思います。

 しかし、その状態が長く続くと、すこしづつ横にズレていくようで
す。つまり、歪んでから時間がたつにつれて、中心よりと外よりに出
ることが多くなります。

 中心よりでは、背中側は、背骨のあいだ(棘突起間、督脈)や背骨
のすぐわき(横突起間、華陀経)、おなか側は、正中線上(任脈)と
そのすぐわき(腹の腎経)や臍(へそ)まわりに出ます。

 外よりでは、背中側は脊柱起立筋のいちばん外よりのはじ(足太陽
経2行線)に、おなか側は肋骨の下の外よりや腰骨のおなかよりに出
ます。

 くわしく書くと、この話は長くなりますので、あとで、「古いツボ、
古い病」という話題で、まとめて書きたいと思います。

 とりあえず、ここでは、横輪切りの中ではじめにツボが出るのは、
背中側もおなか側も筋肉のいちばん太いところだと思っていてくださ
い。

5.病の初期状態を太陽位でわかるわけ

 ところで、漢方の世界では、肩胛骨から上の背中側を太陽位とよん
で、病の初期状態をそこのところで判断することがおおいです。

 これは、カゼをはじめとする病のかなり多くが口・鼻・喉(のど)
などを経由する上気道感染症であるためだと思われます。つまり、横
輪切り原則によって、その場合には、口鼻喉など(上気道)の背中側
にも変化が現れたり、ツボが出たりするからだと思います。

脱線:傷寒は、新型インフルエンザ?

 さて、すこし脱線します。漢方の基本的文献である『傷寒論』とい
う本は、当時の中国ではいちばん南方のほうで「傷寒」という新しい
病気がはやり、その治療に努力した人によって書かれました。

 どちらも「太陽病」である、「中風」という軽い病気と「傷寒」と
いう重い病気をくらべて書かれています。

「太陽之為病、脈浮、頭項強痛而悪寒」
(たいようのやまいたる、みゃくふ、ずこうきょうつうして、おかん
 す)

「太陽病、発熱、汗出、悪風、脈緩者、名為中風」
(たいようびょう、はつねつ、あせいで、おふうし、みゃくかんなる
 もの、なづけてちゅうふうとなす)

「太陽病、或巳発熱、或未発熱、必悪寒、体痛、嘔逆、脈陰陽倶緊者、
 名曰傷寒」
(たいようびょう、あるいはすでにはつねつし、あるいはいまだはつ
 ねつせず、かならずおかんし、からだいたく、おうぎゃくし、みゃ
 くいんようともにきんなるもの、なづけてしょうかんという)

 中国南方のこの地域は、いまでも新型インフルエンザやSARSな
どの新らしいウイルスによる上気道感染症の生まれる地域として知ら
れています。

 ウイルスは、渡り鳥によって運ばれ、アヒル・ニワトリや豚などの
家畜類と人間のあいだを行き来しながら新型へと変異していくようで
す。

 この地域は昔から人間とそれらの家畜が一緒に住んでいたので、新
しい感染症の発生地になったようです。

 私には、「傷寒論」は、現在の言葉でいえば、普通のカゼと、新型
インフルエンザやSARSなどの人類が初めて出会うウイルスによる
上気道感染症の治療法の違いを書いたもののように思えます。

6.横輪切り相関でツボが出る例

 この横輪切り相関の例は、鍼灸の本以外にもあります。

 操体の橋本敬三先生の本では『万病を治せる妙療法』のp66に

「腹痛には、背中の胸腰椎境界付近」

という例が、p210に

「マストから落ちて額を陥没骨折した人の後頭部の対称点にひどい圧
 痛があり、痛くない程度に押したら気持ちよいということで、2,3
 ヶ月続けたら、額の陥没骨折の痕があまり目立たない程度になった。」

という話がのっています。

 頭の後ろ側にツボが出る例では、私自身は、網膜剥離の方でちょう
ど目の真後ろにあたる後頭部にベコベコにヘコんだツボが出ているの
に出会ったことがあります。

 網膜剥離の人は、やはり適度な圧で後頭部のツボを押すと気持ち良
いということで、橋本先生のマストから落ちた人の例を話し、ときど
き押しなさいと助言しました。

 また、その本には、足の内側横(中央、足厥陰経)の経絡が眼に関
係することも書かれていたので、それを伝えたところ、スネの骨のと
ころのツボ(中都、蠡溝(れいこう))に灸すると気持ち良いと言っ
ていました。(これは、次回の縦割りのツボです)

 この人は私の鍼灸学校時代の1年後輩で、網膜剥離の進行が早く、
このままでは失明する可能性が高いといわれ、そのまえに技術を習得
しようと鍼灸学校にはいった人でした。

 ふたつのことを続けたら、進行が止まり、視力もあるていど快復し、
もとの仕事にもどり、ときどき鍼灸の仕事もされているようです。

 また、便秘によく効くお灸のツボとして知られる沢田流神門も、こ
の横輪切り原則が当てはまる例かなと思います。沢田流神門は手首小
指側のくぼみにありますが、普通に立ち、手を垂らした状態では、胴
体のS状結腸・直腸がある部位と地面からほぼ同じ高さで、前横後ろ
という分類では後ろ側になるからです。

 ここまで横輪切りにふくめるのは異論があるかもしれませんが。

6.おわりに

 ツボの出方の第一原則として、頭・首・胴の症状の出ている部分を
とおる地面に平行な面と、体表面や筋肉のまじわる付近、つまり、立
ち姿勢での横輪切りにツボが出やすいということを紹介しました。

 次回は、立ち姿勢で体の縦切りにもツボが出やすいという話です。





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