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術伝流一本鍼no.28 (術伝流・養生の一本鍼・基本編(2))

慢性期の養生の診察手順


(1)はじめに

 先回は、術伝流の慢性期の養生は、腹診中心に見ていく
ことなどを解説しました。今回は、術伝流「養生の一本鍼」
での診察手順について説明していきます。

 術伝流講座では、先ず、この手順をしっかり身に付け、
迷わず手が動くように練習しています。手順で迷っている
ようでは、診察内容が疎(おろそ)かになるし、患者さん
が不安になるからです。

 この診察手順は、江戸期の漢方古方派由来のものを中心
に、筆者が現在の人を診た経験を加えたものです。

(2)礼と姿勢

 診察を始める前に先ず一礼します。初めての人が相手だっ
たら、名前を告げた方が良いでしょう。「丁寧に、きちん
と、治療します」という思いを込めて。

 右側の少し離れた所で、ゆっくり深い息を吐きながら、
礼をします。座位の場合、両手で作った三角形の中に額を
入れるように、ゆっくり、息を吐きながら、礼をし、吸い
ながら戻ります(写真1)。

写真1

 ゆっくり深い息に合わせた礼をすることで、自分も落ち
着きますし、患者さんから信頼してもらえる確率も上がり
ます。

 患者さんに近付いて右膝を患者さんの腰に軽く付け、臍
を患者さんの顔に向け、腰を立て、背は反らし気味に前傾
し、肩を下げ肘は張り気味で、手首は折らない姿勢になり
ます。

 前にも書いたかもしれませんが、刺鍼のときも含くめ、
こういう姿勢になる(写真2)と、指が自由に動くように
なります。

写真2

「鍼刺すに 心で刺すな 手で引くな
   引くも引かぬも 指にまかせよ」
                 (杉山和一検校)
への第一歩です。

 臍が患者さんの方を向かず、腰が曲がり、背がそっくり
返り、肩が上がり、肘が伸び、手首が折れた状態(写真3)
では、指が自由に動きにくいことを確認してみてください。

写真3

 刺鍼のときもそうですが、脈診や腹診のときも、手平や
指が、ゆとりをもって自由に動くことが大切です。勘が働
きやすいからです。

 そのためにも、先ずは、手平や指が、ゆとりをもって、
自由に動けるような姿勢を取れるようになることを目指し
てください。

(3)脈

 示指、中指、薬指で、前腕手首近く拇指側の脈を診ます。
(写真2)

写真2

 初めは、細かいことよりも、治療前後の脈を比較して、
ザワザワした感じの脈が穏やかになっているかどうかが分
かることが大切です。

 次は、左右差。このとき患者さんの肘が片方浮いている
状態だと違ってきますので、両方の肘がしっかりベッドや
布団に付いているかを確認してください。

 そして、浮沈・数遅・虚実などの脈状や、上焦・中焦・
下焦などの部位脈が診れるようになるとよいです。

 脈は、薬や食品添加物、野草茶などに含まれる漢方成分
などで、変わりやすいので、脈の状態と患者さんの印象が
異なっていたら、薬などを飲んでいないか確認した方が良
いでしょう。

 また、脈診から予想される体の状態と、舌診や腹診の結
果を常に比較しましょう。

(4)舌・顔

 先ず、舌を出してもらい、舌の表側を観察します。舌の
色、乾湿、腫れ具合、歯の痕、舌苔などの状態や、部位に
よる変化を観察します(写真3)。

写真3

 次に、舌先を上の歯に引っかけてもらい、舌の裏側を観
察します。特に、裏側の左右に1本ずつ走っている血管の
太さや色を観察します(写真4)。

写真4

 舌の状態も、脈診や腹診と比較します。

 また、ついでに、顔の表情を診ておいて、治療後と比較
します。治療前の浮かない暗い表情が、治療後に生き生き
晴れ晴れとしてくれば、患者さんの、その時の状態に適し
た治療ができたと言えます。

(5)腹

 そして、いよいよ腹診です。

1.手平で大雑把に

 先ず、手平で大雑把な変化を見ます。手平を体温を測る
感じで、胸部から腹部に、以下の順で、当てていきます。

①鎖骨の辺り
 拇指を開いて合谷を胸骨上部に当てるように(写真5)
写真5

②胸骨中央
 拇指を閉じて手平の中央を膻中に(以下拇指を閉じたま
ま、写真6)
写真6

③鳩尾の周り
 手平中央を鳩尾に(写真7)

④腹寄りの左右の肋骨上
 軽く押して左右の硬さを比較(写真8)
写真8

⑤左右の上腹部
 左右の張り具合を比較(写真9、写真10)
写真9
写真10

⑥臍の周り
 手平の中央を臍に(写真11)
写真11

⑦下腹部
 手平の中央を関元に(写真12)
写真12

⑧左右の脇腹
 左右の温度差などを比較(写真13)
写真13

 手平で診るときに一番分かりやすいのは温度差でしょう。
慣れてくると、動悸などそれ以外の情報も伝わってくるよ
うになります。

2.四指の先で細かく

 その後、四指の先で細かく診ていきます。痼りや筋張り
を中心に、以下の順で腹部を診ていきます。

①鳩尾
 正中線上の少し離れた所から、鳩尾の方に指先を入れて、
硬さを中心に診る(写真14)
写真14

②中脘
 鳩尾から指先を臍の方にズラして、鳩尾と臍の中間の辺
りで凹んでいる所を診る

③肋骨下縁右
 鳩尾の辺りから指を滑らして、右の肋骨の中央の辺りの
少し離れた所から、肋骨に直角の向きで、肋骨の下に指先
を入れるような感じで、硬さを中心に診る。指先が肋骨の
下に入り込んでいきやすければ柔らかと判断し、入り込ん
でいきにくければ硬いと判断。(写真15)
写真16

④肋骨下縁左
 右と同じように、左肋骨の中央の辺りの少し離れた所か
ら、肋骨に直角の向きで、肋骨の下に指先を入れるような
感じで、硬さを中心に診る(写真16)

⑤腹直筋、遠側の腹直筋の臍寄り
 (4) から指を斜め左下に滑らせ、そこから正中線に平行
に足の方に指を滑らせてツボを探し、指先を奥まで差し入
れ、それ以上は入らなくなったら、指先を横に振って、痼
りや筋張りを診る(写真17)
写真17

⑥腹直筋、遠側の腹直筋の臍より下
  (5) の指先を皮膚表面まで上げ、そのまま足の方へ指を
滑らせ、ツボを探し、指先を奥まで指し入れ、指先を横に
振って、痼りや筋張りを診る(写真18)
写真18

⑦腹直筋、近側の腹直筋の臍より上
  (5) と同じような感じで(写真19)
写真19

⑧腹直筋、近側の腹直筋の臍より下
  (6) と同じような感じで

⑨臍下の丹田
 臍から正中線上を足の方に指を滑らせ凹んだ所を探す。
息をゆっくり吐いてもらい、吐く息に合わせて静かに四指
の先を奥まで十分に差し入れる。それから、息を吸っても
らい、吸う息に従って指先を押し上げてくる力の強弱を診
る(写真20)。押し上げてくる力が弱い時には「臍下不仁」
という証。
写真20

⑩左右の脇腹
 四指の先を差し入れ、左右交互に上下に振り(背から腹
へ、腹から背へ)、筋張りの左右差を診る。筋張りの強い
側は、肋骨側と骨盤側とを比較し、どちらの筋張りがより
目立つかも診る。(写真21)
写真21

3.古いツボの出やすい所

 腹診の終わりに古いツボの出やすい所を診ます。

①章門
 肋骨下縁で脇腹に近い左右の章門の辺りを押して、左右
を比較(写真22)
写真22

②臍の斜め上
 臍から2,3cm離れた、左斜め上、右斜め上の左右を比較
(写真23)
写真23

③臍の斜め下}
 臍から2,3cm離れた、左斜め下、右斜め下の左右を比較
(写真24)
写真24

④五枢〜維道
 骨盤(蝶骨)の腹寄りの五枢〜維道の辺りを、蝶骨に拇
指の先を巻き入れるように押し付けて、左右を比較(写真25)
写真25

追記:20170201ーーー 瘀血の腹診ポイント ーーー
 此処に書いた瘀血の古いツボの出やすい所は、私が沢山
の瘀血の患者さんを診た結果を帰納したものです。が、漢
方医の寺澤捷年先生の『和漢診療学』を読んだら、ほぼ同
じ所が出ていて、ビックリすると同時に、嬉しかったです。

『和漢診療学』の読書メモ
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(6)足

1.足先の冷え

 足は、先ず、足先や足甲に手平を当てて、冷えを診ます。
足先、足甲の順で、左右の温度差を比較してみます(写真26)。

写真26

 また、腹診のときに診た胸腹部の温度と比較してみます。

2.足の陰経陽経

 次に、膝から足首に向かって、下腿の陰経陽経を触れて
いき、各経絡の状態、先ずは温度差、そして虚実などを診
ます(写真27,28)。

写真27

写真28

 必要の応じて、大腿部も診ます。

 温度差は、胸腹部や足先とも比較してみます。

 素足の状態なら、凹凸、色、 浮腫、 静脈の状態(静脈
瘤、細絡)なども参考になります。

(7)おわりに

 繰り返しになりますが、一番大切なことは、手順を迷わ
ないことです。迷うと患者さんが不安になります。迷わず
に、ボーっとしていても手が手順通りに動くようになる位
まで、練習して身に付けてください。内容はその次です。


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最終更新:2018年01月10日 16:35