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術伝流一本鍼no.4 (術伝流・先急の一本鍼・運動器編(4))
腰痛の応急処置の基本

(1)はじめに

 今回は、腰痛の応急処置の基本です。

 多くの人にとって、おそらく、臨床の場に出てから最も頻繁に
使うことになる内容だと思いますので、よく理解し、しっかり身
に付けてください。

(2) 応急処置の基本

 先回も説明したように、応急処置の基本は「遠くに強く引く」
ことです。

1)先ず遠くに強く引き、
2)それから患部やその周囲に軽く刺し、
3)もう一度遠くに強く引いて終える

のが、基本手順です。

 患部付近は散鍼だけにして、刺さないこともあります。

 「遠く」とは、患部から遠い所で、頭や胴体が患部の時には、
手首足首から先をよく使います。

 肘膝から先、特に手首足首のように、手首足首から先では遠く
とは言えない場合には、前後・上下・左右や、それらを組み合わ
せた対角の反対側を使うこともあります。が、今回のテーマの腰
痛は胴体部にあるので、「遠く」は「足首から先」を使います。

(3) 運動器系の陽位の痛みの応急処置の概略

 運動器系の陽位の痛みの応急処置の概略は、図1の通りです。


先ず陽経陽位で対処してみる

 腰痛など運動器系の痛みでも、腹など体の中で陰に分類される
部分が原因しているものもあります。が、患者さんが腰など体の
陽に分類される部分の痛みとして認識している場合には、初めて
応急処置をするときは腰と足の陽経側だけを使って対処します。

 理由は二つあります。

 一つは、患者さんの状態や体のクセがよく掴めないうちに、応
急処置として陰経や陰に分類される腹などに刺鍼すると、かえっ
て痛みが増すこともあるからです。

 もちろん、腕が上達すれば、初めての患者さんの腹側が原因の
腰痛もきちんと治療できるようになりますし、なるように練習し
ていきます。が、初心者のうちは、陽経・陽位だけで治療した方
が無難ですし、その治療だけ続けていても陰経側や腹側なども良
くなることも多いです。

 もう一つの理由は、自分が訴えていない部分を刺鍼されること
をイヤがる患者さんもいらっしゃるからです。少しずつコミュニ
ケーションを取りながら、体全体を刺させてもらえるようにして
いきましょう。

 初めは、患部以外は足の陽経を刺させてもらえるよう説得しま
しょう。

 初めにその人の腰痛に関係する足甲のツボを取り、そこを強め
に押して痛みを感じてもらいながら、「そういう腰痛なら、ここ
も痛いでしょう。ここに初めに鍼すると腰の痛みが軽くなるので、
ここにも鍼させてください」というような感じで説明すると、患
部以外の刺鍼も受け入れてもらえる可能性が高くなります。

手順

診察

 手順としては、先ず症状を話してもらい、動作制限などがある
場合には痛くない範囲で動いてもらい、動ける範囲を確かめてお
きます。

 終わった後で改善した感じを患者さんに自分で感じてもらうた
めにも、治療前の可動範囲を患者さんにもしっかり確認してもら
いましょう。

 次にラクな姿勢になってもらい、その姿勢で、痛む所や、それ
に関係する陽経の走る手足や、その先の手首・足首をよく調べ、
出ているツボを探します。

刺鍼

 刺鍼は、手足の甲に強く引くことから始めます。このときに患
者さんが動けるようなら運動鍼をしてもよいでしょう。

 次に患部近くのツボに軽く刺します。

 その後、その患部と手足の甲との間の陽経部分を、患部に近い
側から手首・足首の方へ順番に刺していきます。

 この時、末端に近づけば近づくほど強めに刺鍼します。

 動作制限のある場合には、最後の刺鍼をする前に、動ける姿勢
になってもらい、動作鍼(次回説明)や手甲のツボを使った運動
鍼をして改善します。

 おわりに、座位などで手首・足首から先に再度強く引いて終わ
ります。

(4) 腰痛の応急処置の基本のツボ

 腰痛の場合には、症状を確かめた後にラクな姿勢になってもら
うと、痛む側を上にした横向き寝の姿勢になることが多いです。

 そのため、ラクな姿勢が分からない場合には、比較的痛みが強
い方を上にした横向き寝になってもらいます(写真1)。

写真1

 腰痛の応急処置の基本のツボは、この姿勢で上になるラインに
並びます。上になる所は、重力負荷を受けないため、比較的痛み
にくいので、そういう姿勢で寝るのがラクなのかなと思います。

 刺す順番に説明します。

 初めに強く引く足首から先のツボは、足の甲の4~5間、地五会
〜臨泣あたり(写真2)に出ます。

写真2

 次は患部の腰回りで、出やすい場所は、3つあります。

 一つ目は、骨盤と腰椎4~5番の間で一番凹んで痛い、大腸愈の
付近(写真3)。骨盤がこの辺りで尻の方に曲がり、腰椎との間
は三角形の形になっているので、その真ん中を調べると、見付け
やすいです。

写真3

 二つ目は、大転子と腰骨の上部外端を結ぶ線の後側で、押すと
一番凹む、環跳(写真4)。大転子と骨盤上部外端を結ぶ線を底
辺とする正三角形の頂点あたりを探します。

写真4

 三つ目は、殿部中央の、見た目には出っ張っていて、押すと凹
むあたり(写真5)。解剖学的には、奥に大座骨孔のある所です。
「臀央」と仮称しています。

写真5

 その次は、大腿から下腿にかけてですが、腰痛の時によくツボ
が出る場所は、4つあります。

 一つ目は、大腿横側の中央の風市(写真6)。

写真6

 二つ目は、膝裏の皺(シワ)の小指側の端(委陽)の2,3cm下方
(写真7)。ここには正穴(名前がついた正式のツボ)はないの
で、「下委陽」と仮称しています。膝裏の皺の両端には、縦に溝
が走っていることが多く、その溝に沿って指を滑らすと見付けや
すいです。

写真7

 三つ目は、その溝をそのまま、脹ら脛の終わる辺りまで指を滑
らせて、押すと凹む所で、外丘〜飛揚の辺り(写真7)。ここは
押すと大変痛いので、押す力を加減しましょう。

 四つ目は外踝(くるぶし)の後ろ側の窪み(昆侖)の踵(かかと)
より(写真8)。踵に押しつけるように押すと痛いです。大鐘の
陽経側です。ここも正穴はないので、「陽大鐘」と仮称してます。

写真8

 そして、足首の前側になりますが、外踝前下方の窪みで押して
痛い所(写真9)、丘墟です。

写真9

 以上のツボは、腰痛の人の8割位には出ます(図2)。

図2

 先ず、このツボの取り方を覚え、確実に取れるようにしてくだ
さい。他にツボが出ている場合でも、これらのツボの刺鍼だけで
大きく改善させることもできます。

(5) 手順と刺鍼法

 先ずは、足の甲の地五会〜臨泣にツボを探し(写真10)、引き
鍼をします。

写真10

 そして、刺鍼したまま運動鍼をします。先回も説明したように、
腰は動かしにくいので、代わりに、首や手首を動かしてもらうと
よいです。

 左右捻転制限がある場合には、首や手首を左右にラクにできる
範囲で、ゆっくり捻転してもらいます(写真11,12)。

写真11
写真12

 前屈制限のある時には、ラクにできる範囲で、首を顎(アゴ)に
近付けたり離したりしてもらいます(写真13,14)。

写真13
写真14


 患部に近い、大腸愈、環跳、臀央の三つは、軽めに刺します
(写真15)。

写真15

 ツボが深くて鍼先がツボの底に届かなかった場合には、回旋術
を軽く1回しておきます。左右どちらか捻りやすい方に軽く捻っ
てから、パッと離します。

 大腿から下腿の、風市、下委陽、飛揚〜外丘、陽大鐘の4つは、
足先に近づくほど強めになるように刺鍼します(写真16)。とは
言っても加減が難しいので、心がける程度で充分です。

写真16

 陽大鐘は、押して痛かった方向、踵の骨の上側に向かって刺鍼
します(写真17,18)。

写真17
写真18

 次に、動作制限があった場合には、立ち上がってもらい、先回
説明した、手甲4~5間に刺鍼しながらの運動鍼をしたり、動作鍼
をしたりして改善します。動作鍼は次回説明します。

 その青と、座ってもらい、仕上げの引き鍼として、丘墟に強め
に引いて終わります(写真19)。

写真19

おわりに

 繰り返しになりますが、今回練習する腰痛の基本刺鍼は、多く
の人にとって開業してから最も頻繁に使う刺法なので、繰り返し
練習して、ぜひ身に付けてください。


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最終更新:2015年06月09日 13:12