こたつこわい

◆4F9TRiB6OQ氏による作品です。

日本人古来より脈々と受け継がれている冬の憩いの1つに、
こたつで暖を取りミカンを食しつつゆったりと時を過ごす、というものがある。
かく言う俺も、ご多分に漏れずその伝統の愛好者であり、
その伝統を愛さぬ者は日本人にあらずと、この場を借りて力説させて頂く程である。
今日はまさに、それを取り行うにふさわしい休日であり、
更には、俺の体力的にも財布的にも厳しい、週一のあの行事のある日でもない。
となればやることはただ一つ。その伝統を厳かに実行し、
日々様々な厄介事に見舞われる俺に貴重なる休息を与えるのである。
これこそが、冬という名の寒冷たる季節における俺の、毎週日曜の慣習であり、
今回もそれはつつがなく実行される筈だったのだが…

「ねえゆきちゃん、ここ教えて欲しいんだけど」
「あ、ここはですね…」
「かがみーん、こことこことこことここわかんないんだけど」
「はいはい自分で考える気のない質問は受付不可!」

御覧の有様である。まあようは勉強会であるのだが。
問題は俺の家の、しかも俺の部屋のこたつでそれが取り行われている、ということだ。
まあ普段から仲のよい彼女たちからしてみれば、そのように4人が
勉強会と銘打ち集合場所をそれぞれの家でローテを決めつつ週1で集うというのは
確かに極々当たり前のことであり、それに関しては俺も別に何も言うことはないのだが…

「うぐぅ…キョンキョーンかがみんがフローズンキャラメルマキアートのごとく冷たいよー」
「なんだその微妙な例えは…」
「ん、最終的には甘い、という意味で、ついでに糖分たっぷりd」
「殴るわよ」
「もうなぐってるよかがみん…」

いつのまにやら、俺もそのローテのうちに入れられてたらしい。
いつものように彼女達と会話をしていたらいつの間にか今日の様な形となってしまっていた。
まさに「何を言っているのか解らないが俺も頭がどうにかなりそう」状態。
何ならポルナレフAAをその場に貼り付けてもいいくらいだ。
いや、決して彼女たちといるのがいやなわけではない。それ所かむしろそれだけなら、
綺麗どころともいえる彼女たちと時を過ごすというのは男としては憧れの状況だろうし、
もちろん健全なる高校生男子であるこの俺も、このようなことは大歓迎といっていい。
しかしだ、男である俺の家一つ屋根の下で、同年代の、しかも女子4人が、
一同に会するという事態は色々な意味においてやばいのではないのかね。ええ?
今回の発案者であるこなた、お前だよお前!

「うーー集中力もたなーい」
「はやっ!開始してまだ30分だろ」
「ねねねキョンキョン。ゲームやろっ。対戦対戦」
「もう一発いくかこなた」
「ちぇーかがみんのいけずー」
不満を漏らすこなた。だがここはかがみに同意せざるを得ない。
発案者の癖に今回の集合の第一目的からいの一番に離脱し、あまつさえ
部屋主にまで脱線を申し出るのだ。勉強しない派の俺ですらこれは嘆息ものだ。
そもそも本来、俺は貴重な休日をこたつにて安穏と過ごす予定だったのに、
今や4人に勉強という名目の元占拠され、それゆえに満席となってしまったそのこたつに、
本来の持ち主である俺は入ること叶わず、机にて、傍らに電熱ヒーターをセットしつつ
勉強して過ごさねばならぬのだ。そのような仕打ちをしておいてなおその発言。
もはや狼藉である。出会え出会え。この不届き者いかにとやせん。

「そんなところで寒そうにしてないでさ、こっちきなょ~あったかいョ」

……
はい、ミルコ先生出番です。すなわち『お前は何を言ってるんだ』


こっちきなよ、とは、どの口がいえることなのだろうか。
重ねて申し上げるがこのこたつは俺のであり、そのような決定権は本来俺が持つべきものである。
さらに言えば、今こたつは4人に占拠されており、物理的にも俺が入る所などない。本当にお前は何を言っているんだ。
「そのことなら問題ないヨ、私んとこに入りなよ。私ちっさいから窮屈じゃなくすむヨ」
そう言う問題かっての。こたつのスペースも小さいんだ。
いくらお前のサイズが小さかろうが、その、なんだ…
「密着、するから?」
こなたが、あの糸目でこちらを見てくる。完全にいたずらモード入ったようだ。ああくそっ。
「いやー流石は純情キョンキョンだねぇ、そんなことでも密着と判断して煩悶するキョンキョン萌え」
言うなニヤつくなこっち見んな。
ああもうこれで、彼女たちが帰るまでこのネタでいじられ続けるのは確定事項のようだ、忌々しい。
いたずらな表情のままこちらをしばし見ていたこなたは、
「さてと、私はちょいとトイレに行って参りますかね」
といい、おもむろに立ち上がり、こうほざきやがった。
「よかったね~キョンキョンや。つかの間のこたつのぬくもり、せいぜい楽しみたまへ」
よかったも何も、再三言うがこれは俺のなんだがな…まあいい、今回はお言葉に甘えるとしよう。
入ろうとした瞬間三人の視線を察知する。あのみなさん、俺の顔に何か…
何でもない、とばかりに自らの学業に再び没頭しだすみなさん。
…あ、そういうことか、なるほど。ご安心ください淑女方。
私は今こたつに当たる目的で入ろうとしているのであって、決してやましい目的で、
たとえば脚を伸ばして淑女方の御見脚に接触を図ろうとかいう不埒な思考など
…一応頭にだけはもたげるあたりは男の生理的思考の悲しいところではあるが…
まあ谷口あたりではあるまいし、実行に移そうなどとは思ったり致しませんので、
できますればご安心を頂けるとこれ幸いに存じます。
そういった紳士的思考をアピールしようと俺は、
なるべく脚を伸ばすことなく坐るように最初から胡座を作り、
しかるのちに尻をずらしていくという、謙虚的とも言える方法でこたつに侵入をはかる。
勿論接触領域を広げぬよう、脚を最大限に狭めての胡座であることは言うまでもなし。

む、いま膝の先に何かが当たったような、
左側のつかさがそれに合わせてピクンとするのを見た。くすぐったかったかな。
まあ足元が伺えぬ元での行動だ。この程度なら不可抗力だろう。
「あ、ごめんな」ここは申し訳程度に。
「あ、ううん、だいじょぶ…」少しうろたえたが、まあ故意にあらずと判断してくれたようだ。
とりあえず脚が触れてしまったからには、そこを限度とすべきであろう。
前後位置はここでよし…あとはつかさに触れぬよう脚を少しだけ右へ…
「んっ」
不意に右側から声がするのを聞いた。右側に位置するかがみからのものだ。
どうやら姉妹そろって膝が敏感のようである。
「あ、すまん」
「あ、ううん、気にしないで。」少し照れた顔でそういうかがみ。

さて、第一次侵入作戦を無事終了させた所で、
俺はこなたが帰るまでの間少しでも暖を取ろうと
このままの体勢でしばしいることにした。
しかしあれだな。一定の緊張感を保ちつつ、しかも容易に脚が動かせない状況で
こたつで暖を取るというのは、意外に困難なんだな。
さっきから3人より、こちらを見てないながらも一種の緊張感みたいなものを感じている。
少しでも気を紛らわせるため勉強に再着手しようにも、気づけばその為の道具を1つも持たず全くの手持ち無沙汰。
ゆっくりしようにもこれではできず、さりとて折角ここまで侵入しておいた脚を
勉強道具のために一旦戻すのもなんかマヌケだ。どうにもままならぬ状況だ。
こなたよ、さっきまで忌々しく思っていたのは謝る。とりあえず戻って来い頼む。
だが、この膠着状態を破ったのは、意外な人物だった。


不意に、俺の膝先に、何かが触れるのを感じた。
両側の姉妹を見てみるも、動いた様子がない。黙々と勉学に打ち込んでいるようだ。
ふと正面を見てみると、これまで一番勉学に集中し、
周囲の状況に一番動じていなかったみゆきが、やたらうろたえを見せている。
「も、申し訳ありませんっ!」
そのあわてぶりはさっきのつかさ以上だ。してみれば、今脚にあたったのはみゆきか。
「ちょっと姿勢をなおしていましたら、つい…」
ちょっとしたことだというのに何故にこのお方は、後一歩押したら泣いてしまいそうに見えるくらいおどおどするのか。
なるほどこなたが「歩く萌え要素」と絶賛するのも解る。目の当たりにして思わず納得してしまったよ。
「いやいやそんな気に病まなくても、ちょっと当たったくらいだし」
思わず笑いそうになるのをこらえ、何とか微笑み程度でなだめてみる。
「あ…ありがとうございます」
ほっとすると同時に、見る見る表情がほころび笑顔になる。
鳴呼其微笑如至高乃花哉。高嶺の花と呼ばれる所以が今まさに俺の眼前に繰り広げられております。これは眼福であります。

再び、両サイドから緊張感を感じた。
目を向けるも特に変わった様子はない。…気のせいなんだろうか。
不意に右側の足に何か当たるのを感じた。
「あ、ごめんね、ちょっと姿勢を直してたの」
つかさがちょっと照れぎみにそう言う。なんのなんの、その愛らしい微笑みの前に、
許さない奴がいたら俺がとっちめてやるさ。
間髪入れず左側から感触。
「あ、ごめん…私も、姿勢…」
かがみが照れながら反省するように言う。これまたなんの。許すも許さないもないさ。
誰だ、かがみにそんな顔をさせたのは、俺がとっちめてやる。
「…ていうかさ、当たるたびに意識するのも、なんか変じゃない?
 私は気にしないからさ、少し楽にならない?」
ちょっと反省ぎみになったと思えば、自分に納得できないことが発生したら途端に、
話題を切り返していくあたりは流石はかがみといった所か。
…でもなあ、おまえたちはいいかもしれないが、俺は一応、男なわけだし…
!!
そう思った瞬間、俺の脚左側に大きな感触。
かがみが業を煮やしたのか、こたつ内に大きく脚を伸ばしたようである。
「ある程度なら気にしなくていいって。やましいこと、ないんでしょ?」
かがみが、にやりとしながらそう言う。
やばい、こなたのために目立たないけどこいつも隠れ悪戯属性あるんだっけ…

そりゃ、少しくらいの接触なら問題ないかもしれないが、
あなた今、こたつの中に脚を投げ出してますよ。おもいっきり触れまくってますよ!
俺の膝先が、爪先が、かがみの脚の柔らかさとかハリとかを…
…ほお、見た目細いのに意外と肉付きいいな、だが肌感触は悪くない…っておい!
かがみさん、なんですかその期待するような目は。期待の内容の詳細を希望する。
「そっか~じゃあ私も、すこーし楽になろっかなっ」
そして右舷より更なる危険信号発生。
つかささん、楽~になるのはかまいませんが、程々に頼みま…ってえ!
かがみ同様、遠慮躊躇なしで脚を伸ばしてきましたよ!
しかもなんでわざわざ俺の方に脚を投げ出してくるんだ…
…ふむ、こちらは同じ細めでも柔らかいな。つかさの性格を裏切らぬ感触…ってこら!
つかささん、その、何かを問おうとするような目はなんでございますか…
ていうか両サイドからの視線がすごく…熱いです…
なんだかこれだけで暖が取れそうです。いや今取れました。たった今!
だからこたつより謹んで出させていただき…って、2人ともその視線で縛るんじゃない。動くにうごけん。

「やふ~たった今真打登場!待ってたかねみなのしぅ~」
救世主登場!こなたよ、おまえのKYっぷり、今は感謝せねばなるまい。
だが、このタイミングでの登場が、まさか仕組まれていたものだったとは、
場に圧迫されてどうにもならなかったその時の俺には、知る由もなかったわけで…


じいいいいいいいいいいいいい

例の糸目が俺を捉えている。救世主であるはずのこなたの視線だ。
その顔はただのニヤけから徐々に悪意が現れている。
どう見ても悪戯モード絶賛継続中です。本当にありがとうございました。
「先程までは、お楽しみでしたね~」
オーマイガッ!やっぱりさっきまでの状況はお見通しであったか。
しかしよくよく考えてみたら、
「ちょいとトイレに行く」にしてはやけに長い時間、
いくら彼女が人と違う感性をしてるとはいえ人様の家で予告なく時間の掛る方を致すほど
慎みを逸した人間ではない、
そして彼女は、それで余った時間をただ漫然と過ごすような人間ではない。
以上3点から導き出される結論は唯一つ。
「一部始終を覗き見していた」
うむ、至ってシンプルである。そう帰結すること位、予想しえたはずだったのだ…
まあ目の前のこたつの温もりという誘惑に抗えぬ事も、予測に入れてたんだろうね。こやつは。

「いや~美味しく拝見させていただきました。キョンキョン、いいよいいよっ、そのあわてよう、鼻の伸ばしっぷり。美味しいねぇ~」
ネタ食いバクに最良の餌を与えたといった按配である。
この猛獣はしばらくの間これを反芻し味わい尽くす気なのであろう。全くもって忌々しい。
先程までこいつを救世主と呼んだ自分をストンピングで踏みにじってすり潰したい気分だ。

「まあまあ、あのような状況にでもなれば、健全な男子なら誰だってそうなるって、気にしない気にしない」
しれっとそんなことをいいつつ、彼女はこたつに入ろうとする。
至極ナチュラルに、俺のとなりに。
一寸待て。とりあえず待て。
「ん?何かな」
何普通に俺の隣に入ろうとしてるんだお前。
「え?どういうつもり?キョンキョンは私をこたつに入れないとでもおっしゃるのっ。非道いお方っ」
その妙に上手い新劇芝居をやめろ。目を輝かすな。
入るなとはいってない。何故俺の隣だといってるんだ。
「んーだって、ここ先程まで私が坐ってたし」
元々これは俺のなんだがな。まあそれはいい。
じゃあ一言位あってもいいはずだろ。そしたら俺も普通に立ち退くさ。
「えー…でちゃうのぉ…キョンキョンの隣がいぃのぉ~」
だからその芝居風味の声色で猫撫で声をやめんか気色悪い。
ほれ、俺はもう出るから、入るなら入れ。
「ん、いーよキョンキョンはそのままで」
言葉尻だけならいじけてすねたようにも感じれるのだが、
あの何かを企んでるような糸目がその考えをことごとく消してくれる。
俺だってこたつにはあたりたいので、いいというならこのままでいるのだが…

結局、こなたは進入先をかがみの隣と決めたようだ。
こたつ布団をまくりあげ、頭から一気に侵入する。
ったく、先程の俺の紳士的な行動をことごとく否定しかねん思い切りっぷりだな。
…って…ちょっと待て…頭からだと!?
「ひゃ」突然、どんな剛直な人間をも骨抜きにしかねない位可愛らしい悲鳴が、
対面から聞こえてきた。言うまでもなくみゆきのものだ。そして次の瞬間、
「突撃!隣のマッターホルン」
そんな奇天烈な掛け声と共に、あわてまくる悲鳴の主にお構いなく、その胸元から現れるこなた。
そう、強制的に、みゆきに「だっこ」させる形をとったのである。
「ちょっと、何やってんのよこなた!」
「んー、性格的にも体的にも女性的魅力満ちあふるるみゆきさんの、余す所なき体感」
かがみの非難にも全くひるむことのないこなたのこんなセリフに、
不本意ながら同意してしまう俺。「隣のマッターホルン」把握。
一瞬、「こなた代われ」という思考が頭をよぎった俺を、誰が責められよう。


「やっぱり萌え要素にだっこしてもらうってのは、一種憧れの状況でしょ。常識的に考えて」
おまえの常識とやらがどの立場においてのものなのかは取りあえずさておくとして、
確かに憧れの状況というのは、絶対口外不可ながらも同意しよう。しかしだ、
お前は憧れる度に、何でもかんでも即実行に移すのか。ソレナンテハルヒ?
「やらなくて後悔するより、やって後悔した方がいいって言うよね」
そのセリフトラウマなんだ。やめてくれ。聞く度に古傷が痛む。
しかしまあ…こうして改めて眺めると、
かたや、寸足らずで天真爛漫に動き回る元気な甘えん坊。
かたや、けしからん特盛と大人とも呼べる落ち着きで全てを包み込める人格者。
この二者がこのような形で融合すると、ある関係を表す言葉しか思い浮かばなくなる。
「しっかし、こうなるとつくづく親子っぽいよねあんたら」
今かがみがあきれまじりに、俺の言いたかった言葉を代弁してくれた。
「そだねー、ゆきちゃんおかーさんみたいー、いいなー」
つかさが、それに追従する。
「にゅふふ、そだよー。ねーみゆきままー」
いいながら顔を緩ませ甘えにかかるこなた。
いつのまにかみゆきも、そんなこなたの様子を見て微笑んでいる。
それこそ、まるでわが子を見守るかのような優しい目で。
こいつは不覚、なんというかその、和んでしまうねこりゃあ…こっちまであてられそうだ。

…かと思ったのもつかの間。こなたはおもむろに体を反転させ、
「ばぶー、おっぱいちょだい」
とか言いだしつつみゆきの胸にむしゃぶりつきやがった。
前言撤回。やっぱりこいつの中身はおやじだ。大きいお兄ちゃんだ。
「え…あれ?こなたさん??」
案の定みゆきが取り乱してる。ったく、そろそろ一撃が必要かね。
「いい加減にしろ!この親父が!」
「あだっ!」
またしてもかがみが代行を務めてくれた。自重を知らぬ狼藉者に拳骨一閃。
「馬鹿なことやってないで、とっとと勉強再開しな。人様の家だということの自覚くらい持て!」
嗚呼、今日はかがみにMVPをあげたい気分だ。
俺のやりたいこと言いたいこと全てかがみがやって下さる。

「いちちち…んもーかがみんてば加減ってもんを知らないのかねー」
「誰のせいだと思ってんだ!」
「わかったよもーぶちぶち」
しぶしぶながら、こなたは再びこたつに潜っていく。かがみの隣に戻るだろう…その時俺はそう思っていた。
だが。あえて言おう、甘すぎた、と。
こいつが、自重を知らぬこいつが、こんな程度で引き下がるようなタマではなかったと。
突如、俺の足元に重量感を感じた。
先程の柊姉妹による脚侵略作戦程度なんてチャチなもんじゃ断じてない。
感触で解る。これは手だ、頭だ、て言うか上半身そのものだ。
「突貫!ベルリンの壁!」

再び意味不明な掛け声を発するや否や、今度は俺の胸元からはいでてきやがりました…。


一体これはどう言う類の悪戯なのか。

母さん…現在わが膝元には、いくら糸目とはいえ、同い歳の女子が鎮座してるわけで…。
無邪気にはしゃぎまわる児童や小学生ならまだしも、
高校生たる女子がその位置にいる、という事態なわけで…。
その意味を、そのまずさを、この目の前のアホ毛は、それこそ毛ほども理解していないのかとも一瞬思考するが、
俺の困惑する様を肴に飯を食いかねないこやつに限ってそんなことはあるまいと思い直す。
「…こなたよ…」
「なにかな、キョンキョン」
改めて問い直すのも溜息ものだが、一応聞いてみる。
「これはなんのマネだ」
「男の匂いに満ち溢るるキョンキョンの、余す所なき体感」
おいおい、そのセリフ先程のみゆきになぞらえ対比させたものだろうが、恐ろしく意味が変わってるぞ。
気のせいか、こなたの声に先程までの悪戯的アグレッシブさが感じられないし。
上目遣いに俺を見上げるこなた。これまたなぜか、先程までのふざけを感じないまっすぐな目。
おい…その…何かを求めるような目は一体なんだ。
俺の中で、脳内警告シグナルが点滅しだしてる
こなたが今しがた発した言葉、それにより起こる声と息と体の振動、1つ1つ意識しちまう。
こんな体勢の時に限って急にしおらしくなりやがるのが原因だ。
一体何考えてる。どっきりか。窓の外あたりに谷口g(ry
「パパぁ」
不意に声色を愛らしくし、こなたがそう呼び掛けてくる。同時に頭をこすりつけてくる。
ったく…何かと思えば…そうか、さっきみゆきにも同じことをしてたものな。
性格的にも、どうやら俺は父親的立場…俺って…そんなにふけてるのか…
何をいまさら、のようにも思えてくるが、やはりあらたまれるとショックなんだぜこれ。
「…にぶちん…」
ん?何か言ったかこなた
「なんでもなーいよ」
そういいつつ、さらに頭をこすりつけてくる。
おいおい。いくら親子役だからといってこれはちょっと…
こすりつけることにより、こなたの匂いがダイレクトにくるんだっての。
妹から発せられる幼児独特の匂い…これはこれで問題大ありなのだが…とは全く異なる、
れっきとした「女の匂い」というやつが…だな…
それに、密着している体もまた、細くて小さいくせに意外と柔らかいし…
いかんいかん!意識するんじゃない!
「ん?どしたのカナ」
こちらを向けていたこなたの顔が、不意にあのいつもの糸目猫口に変わっていくのを見た。
こいつ…このタイミングでいつものペースに戻るだと…忌々しい。
だが、おかげでやっと、妙に意識してしまうモードから脱出することができたのには感謝せずばなるまいね。

だが…俺はこの時点で感づくべきだったのだ。
さっきこなたに一撃入れていたかがみが、今妙におとなしいことに。
こなた以外の面々が、一言も発せず全く動かずに俺とこなたのやりとりを見ていたことに。
そもそもそれより以前に、こなた以外の面々は今日ずっと挙動不振だったことに。
そう。この勉強会自体が、最初から仕組まれていたものだったことに。
それも、こなただけではなく、この場の4人、全  員  に。

「いけませんよ」
こなたの好き放題っぷりに、今度はみゆきが注意に入る。
そうですよねえ、さすがにこれは色々まずいですよねえうんうん。
みゆきはおもむろに立ち上がり、こちらに歩いてくる。
そうそう。こちらに来てこの狼藉者を指導してやってくださいな。
ああ、なんだったら一撃入れてくれても…って…何故俺の後ろに位置する?
そのまま膝立ちになり、俺の首に両腕を廻してって…な、何ですとおっ!?
「一人占めは、いけませんよ、こなたさん」


引き下がりかけてた意識モードが急激に復帰するのを感じる。
いや、復帰というレベルではない。これはもう意識の押し出し、寄り切り、出血大サービス、主に鼻。
ただ今わたくし、至上の花畑に包まれておりまする。
それは一面優しき芳香とやわらかな感触にてわたくしを包みこみ、
特に2つの芸術的な円形を誇る盆地などは、わが背中を柔らかく受け止めて…
いかん、言語がいい具合にひどいことになってる、おちつけ俺!
落ち着いたところで状況が変わるはずもなし。俺が!男で!ある以上!特盛!
だあかあらあ!
「どうか…されました?」
みゆきが心配そうに聞いてくる、うぐっ…この体勢でそれは反則っ…耳元来てるっ…声っ…息っ…
「あの…これは一体どのような…?」
危機一発何とか理性を保つべく、俺はみゆきに素朴な疑問を聞いてみる。
「キョンさんがお父さんなら、さっきお母さんと言われた私は…そう思いまして」
ははあ、なるほど、確かにそれならつじつまが…っておい!
それってつまり…その…
「キョンさんさえご迷惑でなければ…不束者ですが…」
迷惑だなんてそんなははははは、こちらこそ不束者ですが…っていい加減にしろ俺!
つうかみゆきさん、あなたもあなたです…このキャラの変わりようは何ぞ…
「あーみゆきさんずっこーい」
こなたも余計なちゃちゃ入れんな。ていうか動くな刺激すんな。
ただでさえみゆきから受けてる仕打ちのせいで、かなり今やばいんだ…その…俺のジョンが…
このままだと、血液がジョンに吸い集められ、元気なるシンボルを形成しかねん。
落ち着け落ち着くんだそうだこの場合えっと素数だっけ羊の数をかぞえるんだっけ
ええと…水平リーベ僕イケメン…え?あれ?
必至に理性を総動員し、こなたの内部攻撃とみゆきの外部攻撃に耐えつつふと気づくと、
手持ち無沙汰で床に付いていた両腕が、包まれている感触を覚えた。
そう、温かく、柔らかな、感触が、両腕に!両腕!ま さ  か…

「ずるいよーこなちゃんもゆきちゃんもー」
「そうよ。もう私たちも限度…なんだから…」
ブルータスお前もか。しっかり両サイド、つかまれております。By柊姉妹
俺の腕を両腕でしっかりと抱きしめて体を密着させ、肩に顔を預けて…
「な…お前らまで一体…」
これ以上しゃべる前に、両サイドからすりすりと刺激が来て思考中断。
どうやら柊姉妹、顔を腕にすりつけ、いわゆる「甘え」をしておるであります。
一体俺の腕のどこに、そんなに甘えられる要素があるというのか、
ていうか、そんなにすりつけないでください。
あなた方の体とか、やわらかさとか、その、ふくらみとか、その、、、、足とか間、、、、とか
色々まずいですから………ていうか素でまずいって!マジで!!
お前らスカートだろ!スカートの中に入ってるっての!手が!おいっ!

「私たちね、これでも結構、さ」
「随分と前々から、貴方のことを」
「気にかけてたんだよね~」
「わっかるかな~わっかんないよね~w」

俺をやさしくも精神上よろしくない牢獄につなげた状態のまま、
彼女たちは一人ひとりずつ言葉を繋げだした。

ていうか!!さりげにコクられてないか?俺!!


「あ~キョン君驚いてる~」
「これは今気づいた、って顔よね」
「さっすがはキョンキョンwww」
「様々なことに神経を使っていると、言葉中枢の伝達に遅れが出るものなのですね」
口々に勝手なことをいい繋いでいる。ほっとけ、頭の悪さはどうしようもない。
つうか彼女たち、つくづく器用というか、恐ろしいコンビネーションだな…。

「でもさ、こんなふうに」
「鈍感だもんね、キョン君」
「時に、男女間言語も一般解釈に強引に変換するほどですよね」
「ほんっと、わざとやってるんじゃないかって思っちゃうよwww」
……

「もう私ね、キョン君以外の人、考えられないんだよね~」
「私も、もういい加減限界。これ以上待ってられないし、でもあんたらも大事だしね」
「私もです。いくら知識を拾ってもあなたへの想いは解決できませんでした」
「当然、わたしもなのだよ。でもって譲れない。で、だよ。キョンキョン」
「「「「誰を選ぶの(ですか)」」」」
完璧なるコンビネーションかつシンクロにより俺に回答を迫る彼女ら。
だが待て、一寸待て。イキナリそのようなことを言われても…
お前たちは、結構話が合うから、普通に友人として…だな…

「…はあ、やっぱりか…素だったのねあの鈍感ぶり、私らに今まで意識のいの字もなかったわよコレは」
「コレはもう、決めようがないっぽいね、今のままだと私たち、平等にフラレそうだよね」
「粗方予想はついてました。もういっそのこと、決定させるのをやめましょう、みんなで分かち合いましょう」
「アイマムみゆきさん。つまりね、ハ ー レ ム ル ー ト 突入なのだよキョンキョン」
…はい?
意味が分からんし笑えない。いいからそのくっついてる体をどかせ。
「うん、ソレ無理w」
「だってわたし」
「本当にキョン君が」
「好きなんだもん」
だからトラウマセリフを変換すなおまえら!

この瞬間からずっと彼女たちのターンだった。
首に巻いていた腕をさらにしめてきて、背中に当たっている胸をさらに押し付けてくるみゆき
両サイドのすり付けがさらに激しくなり、胸のふくらみをこすり付けてくる柊姉妹。
そして体を反転させ、上半身を俺の胸に預けてくるこなた。
う…服の上からでもわかるこの感触。まさかお前ら…
周囲を見回すと、やはりだ…各自のブラが床に脱ぎ捨てられていた。いつのまにか!
ほお、柊姉妹は双子なのに、ブラのサイズは違うんだな。
みゆきはさすがに一回り違うな、こなたはスポーツブラか、納得。
…てえ!冷静に分析してるバヤイかああああああああああ!
くっついてる部分、とりわけ各自の胸に、いやがおうにも集中してしまう我が本能の悲しさよ。
それぞれの形、サイズ、感触などをはっきりと認識でき、そういったことが、
さらに俺の生理的反応を呼び覚ます。い、いかん、我が理性の牙城が…
ジョン!ストップ、ジョン!ハウス、ジョン!静まれ我が本能……
ココで手を出したら、色々な意味で俺は……終わってしm……

「ウェイクアップ、ジョン」
不意にそういいつつ、こなたは今まで見たことのない妖艶な微笑を浮かべると俺のジョンをひと撫でした。
そして次の瞬間

こなたは俺の唇を…深く、奪ってきた。
みゆきは、俺のうなじに深く、口付けてきた。
つかさは俺の右耳を、かがみは俺の左耳を、それぞれ噛んできた。

ソレが、トドメとなったようである。

然様なら、我が純潔。

 * * *

あくる日、彼女たちに起こされ黄色い太陽を拝みながら起床。
よくよく考えてみたら妹や母親がいなかったのだが、後々聞いたら
妹はミヨキチんとこにお泊り、母親は友人との付き合いでこれまたお泊り、という、
なんともよく出来すぎた偶然であり。
ちょくちょく彼女たち、俺んとこに遊びに来るたびにリサーチしてたな、と結論づく。
帰ってきた妹が、俺の臭いをかいできて、突然泣きながら一言
「うえええええんキョンくんが浮気したああああああ」意味分からんのだが。

そして今、俺は魂が抜け落ちたような感じで、登校のいつものアスレチックを励行する。
周囲を付いていく、お肌がやけにつやつやしていらっしゃる淑女4名と共に……
ていうか、着替えも万全だったんかいお前ら。

当然のことながら、妙な雰囲気に包まれる我がクラス。
谷口は俺を見ながら「裏切り者だあ売国奴だあ、国辱罪で軍法会議だあ」と
意味不明の言葉を発しつつ涙を流し。
国木田からは微笑み7割増しで「よくがんばったね」となぜか労われる始末。

ハルヒにいたっては…まあ言うまでもあるまい。
視線で殺されるどころか、もはや粉々にされる勢いだ。
すまんな古泉、お前は今日が命日かもしれん。俺を含めて。
ていうか、当の俺自身が、なぜにこうも冷静に事を受け止めているのか、
答えは簡単だ。とっくに覚悟は完了しているからだ。
どんな仕打ちだってドンと来いだ。
但しアナルだけは勘弁だ。そんな予感がしたら舌を噛み切ってやる。

そんな白装束な思いで部室の扉を開けると、しかし部室は意外と平静だった。
朝比奈さんはもちろんのこと、いち早く俺の情報を察知してそうな長門が、全くの平穏。
朝っぱらから不機嫌どころかダークサイドにすら落ちていたハルヒが、この上ない笑顔。
これはいかなることだろう。ん、そういえば古泉がいないな。
「古泉君はバイトだって」ハルヒが、笑顔を絶やさず簡潔にそう述べる。
なんだろうこの違和感、みんながみんな、笑顔だ。
それも怒ってるときに貼り付けてる笑顔ではない。なんか素の笑顔だ。
長門は、まあ無表情だが、なんとなく気分が5分増しほど上昇している雰囲気だ。
でもなぜか、素直に喜ぶことが出来ない俺。違和感の正体は一体なんだ。
そして足元をみてはっと気づく。

こたつが置かれていたことに。

「さあキョン、勉強会を始めるわよ!!」



日本人古来より脈々と受け継がれている冬の憩いの1つに、
こたつで暖を取りミカンを食しつつゆったりと時を過ごす、というものがある。
かく言う俺も、ご多分に漏れずその伝統の愛好者であり、
その伝統を愛さぬ者は日本人にあらずと、この場を借りて力説させて頂く程である。
俺の心の洗濯は、その伝統を厳かに実行し、貴重なる休息を過ごすこと。
であったはずなのだが…
もはやコタツは、俺にとって体力をさらに奪い取る代物であり。
疲弊と快楽と気苦労を嫌でも大量に頂戴できる、甘くて苦い牢獄でしかない。



「どうしたんですかお兄さん?そんなにやつれて…疲れてませんか?
 そうだ!今度みなみちゃん家で勉強会やりませんか?
 コタツもあるからゆっくり休めますよ!
 そうだ。ひよりちゃんにパティちゃんも呼ばなきゃ……」



母さん 貴方の息子は 宇宙一情けない死に方が出来そうです やれやれ



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最終更新:2009年06月28日 00:57
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