僕にはパパ,ママがいる.
お互いに愛し合う二人に,子どもがいたらやっと彼らは「家族」を呼べることを,
エコール・ノルマル・シュペリュール
―学校みたいなものだ―の家庭科の授業で習った覚えがある.
じゃあ,パパ,ママはもちろんお互い愛し合っていたから・・・
僕達三人は立派な「家族」と言えることになるよね?
僕は孤児だった.幼い頃―正確に言うと8才の頃―に父と母を亡くした僕は,早くも天涯孤独の身
になってしまったわけだ.そしてエコール・ノルマル・シュペリュールに遠い親戚に入学させて
もらって,友達も出来たんだ.僕の友達は3人いた.よく4人で数遊びをしたっけなぁ.
数遊びといっても,それは大人が認める,しっかりとした算術法だった.そしてその算術法・・・
タイムアタックと後に呼ばれるそれは,単なる子ども達の遊びではなく,僕らを教えてくれていた
先生達の研究テーマでもあったんだ.
先生達は4人いて,どの先生も個性的な人ばかりだった.それだけに,僕が新しく生み出した
タイムアタックを見た時の反応はそれぞれの先生毎に違っていた.気難しそうなラグランジュ先生
とベルヌーイ先生は最初僕のタイムアタックが価値がないものとして投げ出し,頭が柔らかそうな
ラプラス先生とアンペール先生は早くに8才の子どもが成した事に驚きを隠せずにいたみたいだ.
まぁ,頭が固そうなベルヌーイ先生も最終的には僕のタイムアタックを認めてくれたんだけどね.
やがて僕の生み出した算術法は同じ年齢くらいの子ども達の間で
大人気となり,その数遊びをする
人のことをタイムアタッカーと呼ぶようになった.あまりの大流行ぶりに,それに対するものが
生み出されるまで.
僕の一つ下の学年の,ディリクレがタイムアタックに対する「思考の鍵」を発見したんだ.
タイムアタッカー達を静める「思考の鍵」.僕は悔しかった.自分の偉業に対抗するものが現われ
たのだから.でも,このタイムアタックと思考の鍵,当時の社会に絶大な影響を与えた二つは,
現存する世界とそうでない世界両方を結びつけることになる.つまり,リアルとファンタジーの
「狭間」を掻き乱す,危険因子と成りかねなかったんだ.
最終更新:2011年05月30日 19:26