コスモスレポートα



私は一介の生物行動学を専門とした科学者に過ぎませんでした.また,私は
科学者としてではなく,純粋に自然を愛していましたし,今も愛しています

私の研究成果がガイア・アカデミーに認められ,ガイアという国の軍研究員として
招かれたのが,後に語られる数多の幻想の全ての発端かもしれません.
私はそこでシドという軍研究所主任の男性と恋に落ちました.軍研究員として数年
働いた後,私は彼と共に研究所を後にし,ガイアの郊外の森の中で一緒に暮らし始めたのです

しかし,彼は研究所を離れた後も自分の専門とする鷹揚物理学に勤しんでいました.
私はそんな彼に寂しさを抱きながらも応援して日々過ごしていたのです.
彼が研究に没頭している間は,私は偶にガイアの首都近くにある邦畿の白砂宮で生物行動学の
書物に何時間も費やしたり,森の中に時々現われる黄色い鳥獣
餌をやったりして過ごしていました.
そこへある日,研究所から使者がやって来たのです.

「セーラ殿,素晴らしいサンプルが出来ましたぞ!」

という一言と,「あの子」を連れて.


コスモスレポートβ



その子は,使者によると,「あらゆる隙間を裂き,強烈なエネルギーを放出し,
いかなる時空間へ移動できる兵器」との事でした.
何故その子が出来たのか,いえ,出来てしまったのかは分かりません.
ただ,私は悪い予感を持っていました.

一方,私の彼はようやく「音と光を相互変換する技術」を完成させたばかりでした.
私は彼の研究の完成を素直に喜び,お祝いのパーティを開く事にしました.
そこでは久しぶりに彼の笑顔を見る事が出来て,私はとても幸せな気持ちになったのです.
あぁ,この人と一緒にいて良かった,と.

彼はその場でその子の名前を付けてあげました.完成させた技術と同じ名前である,
「フーリエ」と.それからは,私たち3人の家族生活がしばらく続きました.
研究所からの使者によると,「隣国とのせめぎ合いにより各地で紛争が起こっているから
匿ってくれ」と.私は実の子どもを授かったようで,これからの生活が楽しみな反面,
度々訪れる蛮族の争いに耳を傷めていました.ガイア郊外にある郊墟の黒蛮宮の人々が
ここに来ないかと恐れていたからです.

パーティの翌日の事でした.
ガイア―テラ戦争,別名テラホーミング作戦が勃発したのは.


コスモスレポートγ



戦争が始まってしばらくすると,フーリエはガイア国軍の使者に連れて行かれてしまいました.
その使者によると,もうそろそろ「境界の力」が芽生えつつあると.

「ママ,どうしてぼく,このひとたちといっしょに行かなきゃいけないの?」

私には返す言葉が見つかりませんでした.そしてそのすぐ後,私もガイア国軍に連れられ拘束
されてしまった.研究所のビーカーの中で力を強化されていきながらも以前のフーリエとは
全く別人になっていく姿を見せつけられた私の苦しみが分かりますか?


テラホーミング作戦が終結した後,軍は愚かなことに第2次テラホーミング作戦を
開始させようとしていました.それに反対した私と夫は軍の地下牢に幽閉されてしまったのです.
そこで私たちは,軍の恐るべき研究を知ってしまいました.クローン技術です.
創られた命,コピーを生み出す・・・.私はフーリエの母として,そして一科学者として納得が
いきませんでした.私たちは,反旗を翻すことにしました.

地下牢に幽閉されていた私たちは,何とか脱獄に成功し,フーリエのいる研究所へ急いで行き,
彼を見つけ・・・.

そして,「境界の力」は限界突破したのです.研究所・・・いえ,ガイアさえこの世界から
消え去ってしまいました.それ程フーリエの力は凄まじいものだったのでしょう.

私は夫からもしもの為に,と言い渡されたワープキューブという転送装置で,ルフェイン人という
人たちが住む街へ行き,そこで彼らから「記憶継承」の話を聞かされました.
いなくなった子どもの行方を知りたいか,と問われ,私はすぐ様「はい」と答えました.
すると彼らは,「これから数多の幻想が幕を上げる.そこへ,あなたの記憶を受け継がせよう.
この儀式が終わったら,最愛の人のところへ向かうがいい」と促されました.
私は夫からもう一つ渡されたリュートで,一番目の幻想へ旅立ちました.

思えば,これが始まりなのかもしれません.フーリエを捜す為の旅,「幻想跳躍」の.


コスモスレポートΩ



夫の開発したフーリエ機関とは,音を奏でる事により究極の幻想へ
行くことが出来るというものです.
夫から渡されたリュートは,これから始まる全ての幻想を紡ぐ,
時空を超えた調べを奏でる楽器なのです.

コーネリアという国へ着いた私は,ルカーンという歴史学者と対話しました.
一番目の幻想では,私はセーラというコーネリアの王女になっていた様です.

そこで私は,一人の男性に求婚されます.コーネリア一の騎士でした.私には最愛の人シドが
既にいましたから,丁重に断った積り・・・だったのですが,その方は納得がいかなかったらしく,
私を手篭めにしようとコーネリア近辺にある神殿に篭城しようとしました.
生憎にも,その神殿には私のシドがいたのです.久しぶりに再会したはずでしたが,
満月の夜の事でした,神殿へ行く途中その男性は私の大切にしていたリュートを
踏み潰してしまった・・・.そこで,幻想の中に"異説"が生じてしまいました.

フーリエ機関の一つであるリュートが誤作動を起こし,幻想跳躍「フェニックス」が発動,
私は転生の女神として,数多の幻想へフーリエを捜す旅に出ることになったのです.
私は自然を愛し,整った未来を信じていましたから,「コスモス」と名乗る事にしました.


一方,シドもフーリエを捜す為に,研究に研究を重ね,かつてのガイア国軍が秘密裏にしていた
クローン技術を完成させました.シドは,自身のコピーを「カオス」と名付け,私と同じ様にして
フーリエを捜す為,幻想跳躍したようです.


これから始まるのは,私たち夫婦の,愛する我が子を捜す為の物語.

(【愛にすべてを】より.)






最終更新:2011年05月18日 23:39