―寝覚月―
白地に黒の粒子,もしくは黒地に白の粒子が沢山散りばめられている空間を,
私は浮遊していた.此処は一体何処で,私は何をしていると言うのか.
それさえもはっきり分からないまま,成す術もなくただ飛行している.
途中に見えたものがあった.十数種類にも及ぶ飛空挺と,混沌の女神の姿であった.
いや,もしかすると秩序の女神なのかもしれぬ.現に私が今いる場所は,14番目の世界
ですらないのかもしれないのだから.・・・私の頭の中に残っている記憶は,次元城で
クリスタルで出来た「ルーク」,パンデモニウム城で同じくクリスタルで出来た「キング」,
そして過去のカオス神殿でガーランドと戦ったものしか残されてはいなかった.そして今,
私はこうやって白と黒のモノトーンの世界で宙に浮かび,ただただ紫じみた黒い流体に
身をまかせて漂い続けている.
1つ思うことがあった.
現在私がいる場所に似た所で,とある少年が私に語りかけていた事.
「僕はね,今度は空を飛びたいと思っているんだ・・・」
私は正しくその少年が作ったクリスタルで出来た駒を倒したのだ.2つの駒,「ルーク」と
「キング」をな・・・.だが,何故あの少年はルークとキングしか作らなかったのだ.
他にも,ポーン,ナイト,ビショップ,クイーンがいてもおかしくはないだろうに.
駒の名前とあの2柱の神がいた異世界での戦士達の通り名から察するに,ポーンは兵士
クラウド,ナイトは騎士セシル,ビショップは妖魔暗闇の雲,クイーンは魔女アルティミシア
といったところだろう.
…だが,そんなことを考えたところで何になるというのだ.何処へも辿り着くともせぬ
この状況下で何を考えても・・・.私がその様な考えに陥りそうになった時,周囲に変化が
起きた.白の粒子と黒の粒子がそれぞれ集まり出し,白い平面と黒い平面が私の目の前に
展開された.そして・・・声を聞いた.
「さぁ,破ってご覧,白と黒の狭間を・・・.光と闇の境界を・・・.光と闇,両方にも
属せぬ貴方なら出来るはず・・・.この終わり無き幻想跳躍に終止符を打てるのは貴方だけ」
私はその「声」に従い,光と闇が作る境界線を,紛う事無き両者の狭間を,力を込めて
勢い良く引き裂いた.手応えはあった.光は闇の中へ,闇は光の中へ,さながら陰陽魚
太極図の様にそれぞれは溶け合い,そして消え去って行った.私の意識も遠のいて消えて
しまうかのようだった.
夢から醒めたかの如く,私は目を覚ました.本当に短い夢を見ていたかのようだった.
郊墟の黒蛮宮にて起き上がった私を,骨蛮竜達は温かく迎えてくれた.闇に染まった私を,
何の疑いも無しに近付き,懐いて来る骨蛮竜達は,聞くところによると,此処無の世界の
原住民であるというのだ.それはともかく,私がみた夢・・・?は不思議なものであった.
久しぶりに思い出した我が弟の名,あの少年が作った駒,そして幻想跳躍云々の話をして
いた声・・・.偶には,不可思議な夢を見るものだ.
最終更新:2011年06月15日 18:57