日本武道館。武術の聖地であるここは、同時に歌手の聖地でもある。
今ここに、一人の少女が立っていた。
クソ長いお下げの少女……ぶっちゃけて言うと初音ミクの姿を持つその少女は、
ロボロワ書き手◆vPecc.HKxU。通称は「
言葉要らずの歌い手」である。
彼女の手には、支給品であるカラオケマイクが握られていた。
姿がミク。スタート地点が日本武道館。そして、支給品がカラオケマイク。
これだけの条件が揃っていれば、歌い手が自分のやるべきことを見いだすのもすぐだった。
歌を、歌おう。
観客は一人もいない。だが、それでもいい。私は歌おう。
ロボロワで満足に歌えぬまま儚く散っていった、本物のミクの分まで。
マイクに向かって、歌い手は叫ぶ。
「私の歌を聴けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
歌い手は歌い続けた。誰もいない武道館で、自分が知る限りの歌を。
さすがはVOCALOIDの体と言うべきか、どんなに歌っても喉が枯れることはなかった。
歌い始めてから、どれほどの時間が経っただろうか。歌い手が今歌っているのが何曲目なのかわからなくなってきた頃、その男は姿を見せた。
歌い手がその男に気づいたのは、誰もいなかったはずの観客席から拍手が響いたからだった。
予想していなかった事態に、歌い手は思わず歌を止めてしまう。
「おっと、すまんかった。歌を邪魔するつもりはなかったんじゃがの」
低い声を響かせながら、男は歌い手に向かって進み始める。
近づいて来るにつれ、歌い手からも男の姿が確認できるようになる。
男は、紋付き袴を着た小柄な老人だった。そう、その姿はまさに、
漫画ロワのかりそめの主催者たる徳川光成であった。
光成の姿を持つ男は、杖をつきながら歌い手のいるステージへと上がってくる。
「いやあ、いいものを聞かせてもらった。名前を伺ってもいいかの?」
「あ、はい。私はロボロワの、言葉要らずの歌い手。トリップは◆vPecc.HKxUです」
「vP? ひょっとして、漫画ロワの……」
「ええ、漫画ロワでは『死亡者名鑑の守人』と名乗っていました。その姿からすると、あなたも漫画ロワの書き手さんですか?」
「いかにも。わしは漫画ロワのウィーヴじゃ。初っ端から同郷の書き手さんに会えて安心したぞ」
「いやあ、でも私はこの姿を見るにロボロワからのエントリーなので……。同郷と言っていいものかどうか……」
微笑を浮かべながら、和やかな声で歌い手はウィーヴと言葉を交わす。
「ところで歌い手さん。あんたの歌は素晴らしいが……。これがバトルロワイアルである以上、ずっとここで歌っているわけにはいかんじゃろう」
「それは……」
痛いところを突かれ、歌い手の表情が曇る。彼女としてはこのまま歌い続けていれば満足なのだが、ロワという環境はそれを許さないだろう。
「どうじゃ、わしと一緒に来んか? わしは対主催でいく予定じゃが、あんたのような清涼剤になれる人がいてくれれば明るい展開を引き込めそうじゃ。
あんたにとっても悪い話じゃないぞ? あいにくわしは戦う術を持たぬ老いぼれじゃが、口先には自信がある。
誰か腕に覚えのある参加者を仲間にできれば、あんたも気兼ねなく歌い続けるじゃろう」
「確かに……」
ウィーヴの提案は、歌い手にとって魅力的に思えた。戦闘力のある仲間がいれば、ミクのように非業の死を遂げる確率は低くなるだろう。
生き延びれば、それだけ長い間歌い続けることができる。
それに、仲間が増えるということは自分の歌を聴いてくれる人間が増えるということだ。
聴いてくれる人間がいなくてもそれはそれでかまわないが、やはりいないよりはいた方が歌い甲斐がある。
「わかりました。これからよろしくお願いしますね、ウィーヴさん」
「おお、来てくれるか! こちらこそよろしく頼むぞ、歌い手さん」
無邪気な笑顔を浮かべながら、ウィーヴは右手を差し出す。歌い手も、その手を握る。
その瞬間、歌い手の右手に存在する関節が全て「分解」された。
「え?」
何が起きたのかわからず、歌い手は思わず間抜けな声を漏らす。
「駄目だよ、歌い手くん。ロワの中でそう簡単に人を信じちゃ」
先程までとはまったく異なる声で、ウィーヴが言う。だが歌い手がそれを疑問に思うことはない。
なぜならそんな間も与えられずに、ウィーヴの持つ仕込み杖が彼女の喉を貫いていたからだ。
(喉は……やめて……。歌え……なく……なる……)
何よりも歌を欲した書き手の最期の言葉は、声にならず風切り音として広い空間に消えていった。
◇ ◇ ◇
「悪いねえ、歌い手くん。君に恨みはないし、君の歌が素晴らしかったのも事実なんだけど……。
これからのために、ね」
息絶えた少女の前で、ウィーヴは笑いながら語る。その笑みは、先程までの無邪気な笑みではない。
見ているものがたじろいでしまうような、黒い笑みだ。具体的に知りたければ、からくりサーカスを読んでほしい。
「さてと、それじゃあ始めるか」
ウィーヴは歌い手を凝視しながら、自分の体を弄り始める。すると、みるみるうちに彼の体が変形していく。
数分後、そこには徳川光成から、初音ミクへと変貌を遂げたウィーヴの姿があった。
「よし、上出来だね。あー、でも服はどうしようか。
どうせ書き手ロワだからカオスな服装でも怪しまれないだろうけど、そもそも元の服はサイズが合わないしなあ。
死体の服を剥ぐのも、僕の趣味じゃないし……。ああ、そうだ。たしか支給品に女物の服があったっけ。それでいいや」
長々とひとりごちると、ウィーヴは自分のデイパックをあさり始めた。
そしてセーラー服を取り出すと、それを身にまとう。
「準備完了! それじゃあ、出発しようか」
ウィーヴの目的。それは主催者打倒でも優勝でもない。
「黒幕」としてロワを引っかき回し、惨劇を起こすこと。それが彼の望みだ。
終盤から参加した書き手と思わせておいて、実はOPの作者であった彼にとって「暗躍」ほど楽しいものはないのだ。
(まずはこの可愛い姿を使って、対主催の集団にでも紛れ込もうかな。演技には自信があるからね)
今後の身の振り方を考え、ウィーヴは期待に胸をふくらませる。
「覚悟しててね♪ みっくみくにしてやんよ!」
【言葉要らずの歌い手@ロボロワ 死亡】
【一日目・深夜/東京都・日本武道館】
【
【無貌】ウィーヴ@漫画ロワ】
【状態】健康、初音ミクの姿
【装備】リシュウの仕込み杖@ロボロワ、北高の制服@
kskロワ
【道具】支給品一式×2、カラオケマイク@ライダーロワ、光成の服@初期装備、不明支給品0~3
【思考】基本:「黒幕」を演じ、他の参加者をもてあそぶ
1:ミクの容姿を利用して対主催集団に潜り込み、惨劇を起こす
※デフォルトの外見は徳川光成@グラップラー刃牙、能力と性格はフェイスレス@からくりサーカスです
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最終更新:2009年03月21日 11:50