土臭い風が吹いていた。
収穫期を向かえ穂を実らせる田園地帯に挟まれた細い能動を一人の男が歩く。
肩には支給されたものとおぼしきデイパックがぶら下げられていた。荷物と言えばそれくらいであり、他に同行者の姿も見えない。
「現実はロワほど上手くいかない、ってことかよ」
誰にともなく、独りごちる。遮るもののない農地だったが、小さな呟きは彼方の地平線に届くこともなく乾いた土に吸い込まれて消えた。
バトルロワイヤアルが始まって早数時間。岡山から始まりぶらぶらと兵庫までやってきた。
今もってなお、接触した参加者は零である。
避けられていたとか隠れていたという訳ではない。
運が悪かった。それだけだ。
崩壊のときは近づいている。
男はスパイク・スピーゲルの姿をしていた。
そして、頭にネコミミを生やしていた。
おもちゃのようなチャチなものではない。自前である。妙に似合っている。
スパイクの姿をした男は最初から頭にネコミミを生やしていた。
今回付けられた名は『幸福なる終焉《ハッピーエンド》』。
この度主催としてこのバトルロワイアルを開催した◆ANI2to4ndE誕生の発端となった書き手である。
「俺何か嫌われるようなことしたか?や、自分だからって優遇されても気持ち悪いが」
アニロワ2ndの最終回が合同で行われたのも、それに併せて専用トリが用意されたのも元を辿ればハッピーエンドの発案である。
ぶっちゃけ専用トリとか思いつきである。
トリがそのまま「アニ2と読んで」と読み下せることにも最初気付いてなかったくらいである。
とはいえ仮にも最終回の音頭をとったのはハッピーエンドであるし、そうであるなら恐らく主催の中核を成しているのも自分なのだろう。
であればこんな形で自分達がバトルロワイアルに巻き込まれたのも自分に大きな要因があると、考えられなくもない。
実際のところは、誕生秘話がどうあれ少なくともこのロワでは『あの主催』と『自分』に繋がりは感じられないので、どんな理由があるかは知らないのだが。
一方的に嫌われてるんじゃないかと言う気はするが。
崩壊のとき目の前にまで近づいている。結局誰にも会えなかった。イベントにも巻き込まれなかった。
次のマップに渡ろうにも、それを叶えるのに必要な旅の扉は見つかっていない。
いや、厳密に言うと旅の扉自体は見つかった。
だが。
「小さすぎんだろうが。何だ、何ロワの書き手ならこんなちっこい姿になるんだ」
見つかった旅の扉は、雑草に紛れるように小じんまりとしていた。
覗き込むハッピーエンドに微かに落胆の色が見える。ジト目に合わせるかのようにネコミミが垂れ下がっていた。
いくら視線を注いだところで扉の大きさが変わるわけでもない。
周囲は開けている。残り時間は極僅かであり、次の扉を見つけられるとも思えなかった。
「打つ手なし、だな」
完全に手詰まりである。
伸びをするようかのように大きな動作で立ち上がった。
せっかくロワに出たならそれなりに色々とやってみようかとも思ったのだが。
「ま、仕方ない」
ハッピーエンドは軽い口調でそう言うと、メモ帳を一枚破りそこにさらさらと何かを書き記した。
自分が残れないならせめて代わりに何かを残そうと。
いわゆる、フラグである。
ハッピーエンドがメモに記したのは主催◆ANI2to4ndEのトリップキーである。
トリップとは書き手が本人であることを証明する唯一の存在。
サーヴァントで言えば真名にあたる、非常に貴重な情報だ。
本人しか知りえないはずのそれを知っている理由もまた、主催誕生の発端となったが故である。
書き手のアイデンティティーを保証するものであるだけに、後に主催と相対するものにとっては貴重な戦力となり得るだろう。
「ならないかも知れないがな」
まぁ、それは後に続く者が決めることだ。
おどけた笑いを浮かべてハッピーエンドは紙を放る。
折りたたまれた紙片はひらひらと宙を舞い、吸い込まれるように旅の扉の中に消え次のステージに移った。
ハッピーエンドの役目もこれで終わりだ。
フラグを折るも折られるも、もう自分が関与することではない。
主催が途中で逃げ出したら自分のやったことは意味ないよなと、それだけを思った。
だって、アニ2だし。
主催が首だけになった帰って来るロワだし。
とはいえ。
結局。どうなろうとも。
まぁいい。
「ばぁん」
指鉄砲が鳴り、掻き消されるようにゆらりと扉が閉じた。
【幸福なる終焉《ハッピーエンド》@アニロワ2nd フィールド崩壊に巻き込まれ死亡】
※主催のトリキーが記されたメモ帳が次のフィールドに移りました。
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最終更新:2009年06月13日 19:10