その男は冷たい夜風を身体で浴びていた。
紫色のメッシュが入った茶髪は風に流れる中、男は自分自身の身体を見つめる。いつの間にか随分と引き締まった肉体に纏われた黒いジャケットは、見覚えがあった。
そして、今の俺は仮面ライダーWに登場する大道克己というキャラクターの姿ではないか、と一瞬で気付く。
「そういえば、俺は克己を……そしてエターナルを何度も書いた。そして、足掻き続けたから克己になったのか?」
星空の下で呟くが、答えは見つからない。
男の名は◆MiRaiTlHUI。仮面ライダーオーズバトルロワイアルを始めとした、様々なロワに参加している書き手の一人だ。ちなみに、違う酉を使って他のロワで書いたことも何度かあるが……ここでその詳細は語らない。
突如として殺し合いに巻き込まれてしまった彼は、主催者が放り込んだパロロワメモリの効果によって克己の姿となってしまったのだ。カーブミラーを見上げてみたら、そこに映るのはやはり克己と瓜二つ……否、全く同じ姿になってしまった自分自身だ。
確かに大道克己というキャラクターは大好きだ。劇場版WやエターナルのVシネマを見る度に、彼のような男になりたいと思ってしまう。
だが、本当になってしまうとは夢にも思わなかった。あと、実際に殺し合いに巻き込まれてしまうことも。
「この姿にさせれば、殺し合いを円滑に進められると思ったのか……? ハッ、だとしたら随分と甘い考えだったな」
きっと、どこかで参加者全員を見下ろしているであろう主催者に言い聞かせるかのように、◆MiRaiTlHUIは独言した。
W原作において克己は、死人兵士NEVERとなって仲間達と共に世界各国で破壊活動を繰り返し、風都を絶望のどん底に叩き落とした。そんな克己になったからには、参加者全員に絶望を齎す存在になると主催者は考えたのだろう。
だが、◆MiRaiTlHUIは殺し合いに乗るつもりは微塵もない。むしろ、全ての悪を打ち滅ぼそうとすら考えていた。
「俺はオーズロワの書き手。そして、オーズロワの克己は何を失おうとも、そしてどれだけのものを奪われようとも……懸命に足掻き、そして真っ直ぐに明日を求めた。そんな克己を書いた俺に、明日を奪わせようだなんてお笑いだな!」
仮面ライダーオーズバトルロワイアルに参加している大道克己は、RETURNSでユートピア・ドーパントを倒した直後から参戦している。その頃の克己は、死人であろうとも正義の戦士・エターナルとして人々の明日を守る為に戦っていた。
そんな克己を書いた◆MiRaiTlHUIに、殺し合いに乗る選択肢などない。違うロワでは悪魔になった時期から克己を参戦させたが、ここにいる◆MiRaiTlHUIはオーズロワの◆MiRaiTlHUIなので気にしない方が正解だ。
「いいぜ、お前らの望み通りに奪ってやる! だが、俺が奪うのは殺し合いに従う奴ら……そして、こんな殺し合いとやらを開いたお前達の明日だ!」
◆MiRaiTlHUIの力強い宣戦布告は夜空の下に響き渡る。
戦うこと自体に抵抗はない。しかしこんな意味のわからない戦いを強要する気に入らない主催者の言いなりになるなんて、死んでも御免だった。
いくら強大な力を持っているからと言って、それを理由に不条理を受け入れて言いなりになってしまっては、それはもう生きているとは言えない。己の意志を欠片も持たないなど死人と同じで、ましてや殺しを始めたら悪魔に成り下がるだけだ。
◆MiRaiTlHUIはそうなるつもりなどないし、他の誰かをそんな奴にするつもりもない。そして殺し合いを打ち破る為に戦い、最後には『愛と正義が勝つハッピーエンド』を作る。
それこそが◆MiRaiTlHUIの欲望だった。その為にも、まずは脱出の手掛かりと協力者を探さなければならないが、簡単にはいかないだろう。世界とは残酷なもので、どれだけの秩序や大義を作ろうともそれに反する者は必ず現れる。それはこの殺し合いも同じで、優勝を目指す者が現れるかもしれなかった。
だが、そんな奴らを叩き潰すことで誰かの明日を守れるならば、喜んでこの手を汚すつもりだ。例え、その果てに『悪魔』と呼ばれて守りたかった人々に疎まれようとも、希望が生まれるならば甘んじて受け入れよう。
(誰かを殺す……か。もしかしたら、NEVERになると殺しに対する躊躇いもなくなっちまうのかもな)
不意に◆MiRaiTlHUIは、そんな思考をするようになった自分自身を軽く自嘲した。
NEVERになると、過去の楽しかった思い出や人間らしい優しい感情が自分の中から消えていくらしい。パロロワメモリとやらは、そんな効果まで再現しているのかと思わず感心してしまう。
しかし、そうなるとこのまま時間が経てば経つほど、忘れてしまうのかもしれない。書き手として頑張ってきた思い出と、一緒にロワを進めて来たみんなとの絆も……そして、今を生きていると言う実感すらも、全て消え去ってしまうだろう。
己の存在をこの世に刻み続ける為に運命と戦い続けた克己は、ずっとこんな辛さとも戦っていたのだろうか。克己の姿となった◆MiRaiTlHUIは、そう考えてしまう。
「……らしくないな、ウジウジするなんて。俺は明日を奪わせない為に戦う……それだけだ」
頭を振りながら◆MiRaiTlHUIは自分自身にそう言い聞かせた。
何の因果か、手元にはT-2エターナルメモリとロストドライバーまである。加えて克己が吹いていたハーモニカや、エターナルになる前から持っていたナイフもだ。
ここまで用意された装備やアイテムを見る限り、余程克己になりきって欲しいと運命は望んでいるのだろう。憧れていたキャラクターになりきれるのがこんな機会だなんて、皮肉にも程がある。
もっとも、克己として戦って欲しいなら戦ってやるまでだが。
「お兄ちゃん……もしかして、◆MiRaiTlHUIでしょ?」
そんな◆MiRaiTlHUIを呼びかける声が、背後よりいきなり聞こえてくる。
声から考えて、まだ十歳にもなってないであろう幼い少女かもしれない。そして、少女の声が◆MiRaiTlHUIには聞き覚えがあった。
どくん、と胸の奥が高鳴るような感覚を抱いた彼が振り向くと、すぐに見つけた。
「まさか……!」
◆MiRaiTlHUIは目を見開く。
現れたのは◆MiRaiTlHUIにとってよく知った少女だった。修道服を纏った彼女の髪は腰に届くまで長く、背中から生えた刃物のような二つの翼が異様なオーラを放っている。
オーズロワの参戦作品の一つ・そらのおとしものに出てくるカオスというキャラクターと、瓜二つだった。
それに気付いた瞬間、◆MiRaiTlHUIは思い出す。ついこの間、オーズロワには期待の新星とも呼ぶべき凄い書き手が現れて、カオスの心理描写をとても丁寧に書いていたことを。
つまり、ここにいるのは……
「……◆z9JH9su20Q、なのか!?」
「ピンポーン!」
少女はにっこりと笑いながら、元気よく答えた。
そう。◆z9JH9su20Qという名の、仮面ライダーオーズバトルロワイアルに参加している書き手の一人であった。
○○○
気がついた時には、◆z9JH9su20Qの姿はそらのおとしものに登場するエンジェロイドの一人、カオスに変わっていた。
どうして、シナプスの技術によって生み出された混沌の名を持つ少女になってしまったのか? 参加者全員に差し込まれたパロロワメモリがその答えだった。
参戦作品の一つである仮面ライダーWに出てくるガイアメモリの技術を応用しているなら、こうなってしまうのも当然かもしれない。
だけど、今はそんなことなんてどうでもよかった。
会場に放り込まれて、これからどうしようと考えながら進んでいたら……オーズロワに参加している書き手である◆MiRaiTlHUIを見つけた。
「で、お前はどうする?」
「どうするって?」
「お前がこれからどう動くかだ。言っておくが、もしもお前が殺し合いに乗るつもりなら同郷のよしみでも容赦しない……俺は、明日を奪う連中を一人残らず叩き潰すつもりだからな」
そう宣告する◆MiRaiTlHUIの黒い瞳からは、ナイフのように鋭い雰囲気が感じられる。
それは当然だった。彼はこの殺し合いを打ち破り、殺し合いに巻き込まれた全ての参加者を救うつもりでいるらしく、とことんオーズロワの克己を再現するようだ。
対するにオーズロワのカオスは参加者の中でもトップクラスに危険なマーダーだ。ロリコンホイホイな可愛い外見でありながら、他の参加者を無差別に襲っては強くなっていく。同行者の志筑仁美が殺されてからは、もっとヤバくなっている。
そんなカオスになったら殺し合いに乗ると思われても仕方がないかもしれないと、◆z9JH9su20Qは思った。
「決めてない」
「何?」
「まだ、決めてない。これからどうするかなんて」
突き刺さるような視線に対して、◆z9JH9su20Qはあどけない少女のように答える。
実際、カオスになったからといって殺し合いに乗る気が起きない。戦うことに抵抗はないけど、今は積極的に殺し合おうとも思えなかった。
オーズロワで一緒に書いた書き手に出会ったからか? それともカオスが知りたいと思っている「愛」という感情が、殺し合いは駄目だと告げているのか?
「愛」が知りたい。「愛」が欲しい。「愛」を見たい。「愛」をあげたい。「愛」を取り戻したい……
そんなことを考えながら会場をうろついている中、◆MiRaiTlHUIと出会ったのだ。
「なら、俺と来るか?」
「えっ?」
「どうせ決めてないんだろ? なら、俺の仲間にしてやる……」
そう言いながら手を伸ばしてくる◆MiRaiTlHUIの瞳には相変わらず敵意が感じられるも、笑みを浮かべている。
それは他者を見下すような笑顔ではなく、どことなく温かさが込められているかのような笑顔だった。
「オーズロワのカオスは「愛」を探していたんだったな? そんなカオスになったのなら、お前も「愛」を探しているはずだ」
その言葉に反論することが◆z9JH9su20Qにはできない。
この姿になってから「愛」に対する渇望と、誰かに「愛」をあげたいという気持ちが強くなっていた。いつもならそんなことなどないのに、ロワに放り込まれてからこうなっている。
書き手として付き合いが長い彼だからこそ、そんな想いを見抜けたのかもしれない。
「俺と来るか?」
「……うん!」
眩い笑顔を浮かべながら、◆z9JH9su20Qは頷く。それは、オーズロワ本編で志筑仁美と出会ったカオスが作った笑顔と寸分の違いがなかった。
◆MiRaiTlHUIの提案に反対する理由など、◆z9JH9su20Qにはない。「愛」を探し求めるカオスのようになれるし、何よりも信頼できる書き手と一緒に行動できるのが嬉しかった。だから、彼と共に歩むのだ。
それに、彼といると「心」が温かくなる。もしかしたらこれもカオスが求めていた「愛」の一つかもしれないと考えながら、◆z9JH9su20Qは歩いた。
こうして出会った、二人のオーズロワ書き手。
殺し合いの中で彼らの欲望が叶うのかはまだ誰にもわからない。全ての参加者を殺し合いから解放して、愛を見つけることができるのか……それとも、何もなせないまま終わってしまうのか。
それはまだ誰にもわからない。
そして、そんな二人を影から見ている者が、この物語にいた。
○○○
「……あの二人、やっぱり一緒に行動するようね」
暗闇に溶け込むような長髪が風に揺れる中、少女はぽつりと呟く。
青を基調としたブラウスに、太股を僅かに露出させたホットパンツを纏ったその姿は、仮面ライダーオーズに登場するメズールという名のグリードと全く同じだった。
彼……否、この場では彼女と呼ぶべきかもしれない。パロロワメモリによってメズールとなってしまった彼女の名は、◆l.qOMFdGV.。
オーズロワのOPを投下した書き手であり、プロ顔負けの文章で読む者全てを魅了させる書き手だった。
(このまま行けば、あの二人は対主催として動く……でも、この場でそれは危険だわ。この地には、殺し合いに乗る可能性がある書き手が大勢いるんだから)
◆MiRaiTlHUIと◆z9JH9su20Qの遭逢を、◆l.qOMFdGV.は穏やかに見ることはできなかった。
パロロワでは、同作キャラの早期合流=惨劇が起こるフラグという法則がある。どこの誰がそれを生み出したのかは知らないが、このままでは近いうちにあのコンビにとんでもないことが起こると◆l.qOMFdGV.は危惧していた。
とはいえ、ここで下手に姿を見せて助言をしては火の粉が降りかかる恐れもある。オーズロワの書き手を失いたくない気持ちはあるが、余計なことをして被害を増やしては本末転倒だった。
(……これからの私、それにあの二人はどうするべきかしら?)
実は言うと、この場における彼女のスタンスはまだ定まっていなかった。殺し合いの打破や脱出を目指す対主催か、あるいは己の欲望に従って暴れまわるマーダーか、それとも策を弄して暗躍するステルスか……まだ、決まっていない。
オーズロワのメズールはグリードのリーダーとして、そして全ての「愛」を手に入れる為に、巧みな話術で参加者を騙して殺し合いの扇動者となった。上手く行けばこの場でもそれをすることができるかもしれないが、簡単に籠絡できない参加者もいるだろう。
とはいえ、いつまでも悩んでいられない。欲望の化身となった彼女の出した答えは……
【一日目・深夜/A-4】
【◆MiRaiTlHUI@仮面ライダーオーズバトルロワイアル】
【状態】健康
【装備】T-2エターナルメモリ&ロストドライバー@オーズロワ
【持物】基本支給品、克己のハーモニカ@オーズロワ、克己のナイフ@オーズロワ
【思考】
基本:大道克己となったからには、参加者全員を殺し合いから解放して、主催者を倒す。
1:今は◆z9JH9su20Qと共に行動する。
2:殺し合いに乗った奴は容赦しない。
※外見は大道克己@仮面ライダーWです。
【◆z9JH9su20Q@仮面ライダーオーズバトルロワイアル】
【状態】健康、愛への欲望
【装備】不明
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:「愛」がとても気になる。「愛」を知りたい。
1:今はMiRaiTlHUIと一緒にいる。
※外見はカオス@そらのおとしものです。
【◆l.qOMFdGV.@仮面ライダーオーズバトルロワイアル】
【状態】健康
【装備】不明
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:?????
1:この場ではどう動くか……?
※外見はメズール@仮面ライダーOOOです
※現在の所、スタンス及び上記以外の思考は不明です。
最終更新:2013年09月18日 08:43