【000】

タンバリン、カスタネット、トライアングル、その他諸々の楽器類。
このロワでのランダム支給品が1から3という設定ならば、楽器全部で支給品ひとつの計算なのだろう。
殺し合いでは何の役にも立ちそうにない。
けれど、今の僕には必要なアイテムだ。


【001】

湖に浮かぶボートの上に、そいつはいた。
水色の長髪に整った顔立ち。文句無しの美形。
だが、服装が問題だった。
薔薇の花のあしらわれた帽子。紫色の全身タイツのような服。腰には布が巻かれ、ブーツを履いている。
はっきりいわせてもらうなら、イタイ。
全裸かこの服を着るか、どちらかを選べと言われたら真剣に頭を抱えるレベルだ。

「エンデュランスか……だったら、僕はエンデュランスのようにあるべきだよね……」

エンデュランス。
これがきっと、こいつが姿を借りているキャラクターの名前なのだろう。

「支給品…… デイパックの中を見ればわかるけど
 それだと書き手さんが僕の支給品ひとつひとつへの反応を書くのが難しいよね……」

いきなりメタ発言だった。
そしてエンデュランス書き手はデイパックの中を見ないまま、おもむろに中へ手を突っ込む。
取り出したのは一枚の紙だった。

「地図かな。……暗くて見えないから後で」

あっさりと諦めて脇に置くと、またデイパックの中に手を入れた。
たしかに、こうしてひとつずつ出していけば、リアクションは取りやすいだろう。
このボートが沈むような、巨大な物が出てこない限りは、だけれど。

「ちゃんと武器も入ってたんだね……」

基本支給品と思われる物をいくつか出した後に出てきたのは、一振りの剣。
装飾が施されたそれは、コードギアスR2最終話でルルーシュの胸を貫いた剣だった。
つまり、少なくとも人一人を殺すことのできる武器。

「さて、と……」

再びデイパックに手を入れたエンデュランス書き手が次に引っぱり出したのは、すごく大きな猫だった。
すごく大きすぎる猫だった。
すごく大きすぎるもふもふした猫だった。
エンデュランス書き手と同じくらい、いや、それより大きいかもしれない。幅もある。
というか、おかしい。大きさはもちろんだがそれだけじゃなく、何かがおかしかった。
なんだこの違和感は――ああ、そうか。手足だ。
胴に対する手足のつきかたが、四足歩行の猫にしてはおかしいのだ。あれじゃまるで人間だ。

「ネコ……意思持ち支給品……?」
「俺はこのロワの参加者だ」

エンデュランス書き手の問いに、大きすぎる猫が答えた。
流暢な日本語で。割といい声で。
さすがに驚いたらしいエンデュランス書き手と大きすぎる猫の間に、たっぷり3分は沈黙が流れた。


【002】

互いに殺し合う意思はないとわかると、自己紹介ということになった。
それによると、エンデュランス書き手はVRロワの◆nOp6QQ0GG6、第一相”心描き”。
すごく大きなもふもふした猫は少女漫画ロワ書き手の◆RVCXqfgcSMということだった。
◆RVCXqfgcSM――めんどうだからモフネコさんと呼ぶことにする――モフネコさんは。
信じ難いことだけれど、スタート位置が第一相”心描き”のデイパックの中だったらしい。
スタート位置が湖に浮かぶボートの上というのも酷い話だけれど、上には上がいるものだ。
いや、これは、申し訳ないけれど、下には下がいた、と言ったほうが適切だろう。
ちなみに、モフネコさんはもう一度デイパックの中に入ろうとしていたけれど、入れなかった。
出てこれたのに入れない。不思議だけれど、そういうものなのだろうと納得しておくことにする。

「まったく……」

モフネコさんは機嫌が悪かった。

「俺は少女漫画ロワでは一作しか書いていなんだぞ。
 なのにどうしてこんな馬鹿げた催しに参加せねばならないんだ」

馬鹿げているかどうかはともかくとして、たしかに一作しか書いていないのに呼ばれるというのは理不尽だろう。
いや、100作書いていたとしても、いきなり殺し合いを押し付けられるのは
理不尽以外の何者でもないんだけれど。

「しかもいきなりデイパックの中からスタートとは……何か?
 主催は俺を支給品と間違えたのか? この姿にしたのはあいつらだぞ、それなのに……」

もっともな怒りだった。

「だいたい、何故俺はキャーなんだ。鳳鏡夜だろう、普通に考えて」

話から察するに、モフネコさんが少女漫画ロワに投下した唯一の作品は『鳳鏡夜の登場話』らしかった。
キャーというのは、その際に出てきた意思持ち支給品で、二足歩行ができる猫らしい。
それならばたしかに、普通に考えれば鳳鏡夜の姿になるところだろう。
けれど、ここは書き手ロワだ。
普通なんてものは通用しない。存在しない。普通じゃないことが普通な世界。

「落ちつきなよ、◆RVCXqfgcSM」
「これが落ちついていられるか」
「とりあえず、これからどうするかを考えないといけない……そうだろう?」
「俺はこんな場所で死ぬつもりはない。必ず生きて帰る。あと、主催に会ったらおしおきしてやらないとな」

ネコモフさんが物凄く黒い笑みを浮かべた、気がした。
猫だから表情なんてよくわからないのだけれど。
ひとつ確かなのは、彼は殺し合いを強要する主催に対し正義感からおしおきをしようとしているのではなく、
自分を巻き込んだことに立腹しておしおきしようとしているということだ。

「で、おまえはどうするんだ? 第一相”心描き”」
「僕…… 僕は、ミアとハセヲを守るよ……」
「ロールプレイというわけか。ミアとハセヲならどちらを優先する?」
「それは……まだ決めない……。序盤から選択肢を狭めるのはリレーしにくくなる要因だから……」

またメタ発言だった。
けれど、彼もまた書き手なのだからしかたがない。
一度でも書いてしまえば、書き手としての視点を持ってしまう。

「しかし、このロワにミアとハセヲはいるのか?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……今から、◆RVCXqfgcSMがミアだよ」
「何故そうなった」

本当に、どうしてそうなった。

「だって、死に設定に意味はないから……」

たしかにそれはそうだけれど。

「ミアは猫だから、君はミアだよ……」

猫ならなんでもいいということか。
随分と妥協したものだ。

「俺のボディガードになるということか」
「そう考えてもらって構わないよ、ミア」
「悪くはないな。で、ハセヲはどうする?」
「ハセヲは…… ハセヲと同じ声だったらハセヲ……」

つまり、ハセヲと中の人が同じキャラクターの外見をした書き手を守るということだろうか。
ハセヲというのは、たしか何かのゲームのキャラクターだったな、という程度にしかわからないけれど。
ハセヲの中の人ならわかる。
高嶺清麿やレイ・ラングレン、そしてロワ常連作品とも言われるコードギアスの枢木スザクの中の人だ。
たしかにこの条件ならば、一人ぐらい該当する参加者がいるかもしれない。
というか、一人、僕は知っている。
もしこのロワに参加させられているとすれば、
ほぼ確実に外見設定が枢木スザクになるであろう書き手を、僕は知っていた。

――悪いけど、利用させてもらおう。

そう、心に決めて。
僕は語り部から登場人物になるために。
この物語の舞台に上がるために。

両手にマラカスを握りしめた。


【003】

「……………」
「……………」

シャカシャカシャカ、シャカシャカシャカ、シャカシャカシャカ

「……………」
「……………」

深夜の湖に浮かぶボートの上で、一心不乱にマラカスを振りながら踊り続ける男子高校生がそこにはいた。
ていうか、僕だった。

「……………」
「……………」

痛い。視線が痛い。痛すぎる。
これは何かの拷問だろうか。
第一相”心描き”とモフネコさんの視線が突き刺さる。
このままじゃ、『死因:視線』なんてことになるのは時間の問題だ。
ん? ちょっと待て。落ちつけ僕。
視線が痛いということは、僕は彼らに見られているということだ。
見えているのならば、僕の存在をアピールする必要は無いわけで、マラカス持って踊る必要も無いわけで、
つまりこうして踊り続けているのは、まったくもって無駄だというわけだ。

「……………」
「……………」
「……………」

僕がマラカス振って踊るのをやめると、気不味い沈黙が訪れた。
いや、さっきからずっと気不味かったんだけど。

「君、どこから出てきたの?」
「最初からいたんだけど」

第一相”心描き”の問いに僕が答えると、モフネコさんが僕を見てニヤリと笑った、ような気がした。
猫の表情なんてよくわからないけど、なんとなく。

「アニ3の書き手か」

僕に向けられたネコモフさんの言葉は、疑問ではなく確認だった。

「ご名答。僕はアニ3書き手、◆1aw4LHSuEIだ。でも、なんで僕がアニ3の書き手だとわかった?」
「さっきまで、東横桃子のステルスで俺たちに存在を隠していたんだろう?
 阿良々木暦の姿をして東横桃子のステルスを使える書き手という時点で、所属ロワは特定できる」

アニ3書き手だということだけじゃなく、僕の持つ特殊能力までしっかりとバレていた。
モフネコさんは侮れない。猫なのに。もふもふなのに。

「◆1aw4LHSuEIは、今まで隠れてたのに、どうして僕らに姿を見せたの?
 ずっと気づかれずにいることだってできたのに……」
「隠れたまま一人で生き残れるほど書き手ロワは甘くないだろ。
 僕のステルスが効かない奴の一人や二人、いてもおかしくないだろうし」
「そう……」
「僕は生きて帰りたいんだ。そのために協力者が欲しい」

第一相”心描き”の質問にも、僕は正直に答える。
そう、嘘は吐いていない。
――全てを話してもいないけれど。

「上手く言ったものだな」

くくっ、とモフネコさんが黒く嗤う。
今度は間違いなく、絶対に、モフネコさんは嗤った。
きっとこの人は僕の思惑を見透かしているのだ。
僕がアニ3書き手であるということがわかれば、想像できる範囲のことではあるけれど。

僕が書き手をやっているアニ3は今、合作という形をとっている。
僕もその合作メンバーの一人だ。
そして、他のメンバーもこのロワに参加させられているのなら、一緒に生還すると僕は決めた。
状態表の思考欄のいちばん上にくる、何があっても他の項目にいちばん上を譲らない、唯一にして絶対の目的。
そのためならば、人殺しだってしよう。
何の罪もない人を利用もしよう。

だって、僕だけが生還しても意味は無いのだから。
アニ3の完結。それはきっと、僕一人でもやってやれないことじゃない。
でも、僕一人で完結することに価値は無い。
アニ3を完結させるのは、◆1aw4LHSuEIではなく、他の書き手でもなく、『◆ANI3oprwOY』だ。

けれど、仮に合作参加書き手全員がこのロワにいる場合、僕一人でみんなを守ることは不可能に近い。
どうしようかと思っていたら、目の前にいた第一相”心描き”が「ハセヲを守る」と言いだした。
僕にとって、願ってもない話だった。
『◆ANI3oprwOY』の一人、◆SDn0xX3QT2。
彼がこのロワに参加しているなら、外見は枢木スザクと思ってまず間違いないだろう。
スザクならば、第一相”心描き”にとってのハセヲの条件を満たしている。
上手く会わせることができればそれだけで、◆SDn0xX3QT2の護衛を確保できるというわけだ。

まあ、それだけならば、僕が彼らに姿を見せる必要は無かったのだけれど。
第一相”心描き”とモフネコさんの強さを見極めて、
◆SDn0xX3QT2や他のアニ3書き手がいるのかをはっきりさせてからでよかった。
むしろ、そっちのほうがよかった。
でも、そうしなかったのは、ステルス状態のままではできないことがあったからだ。
彼らをここで殺さないのならば、生かしておくのならば、言っておかなければならないことがあったからだ。

「アニ3の書き手だけは、絶対に殺さないでほしい」

僕はそう言って、頭を下げた。


【004】

僕の頼みは、第一相”心描き”から「ミアとハセヲを傷つけないなら」という条件は出されたものの
あっさりと了承された。
マーダーになる気の無さそうな二人だったから予想できていたことではあるけれど、
それでもはっきりと答えをもらうまでは緊張した。
拒否された場合は殺すつもりでいたけれど――彼らにだってきっと、待っている住人がいるのだ。
殺さなくて済むのなら、それに越したことはない。

「一応、話はついたわけだ。さっさと岸に向かうぞ。言っておくが俺はボートを漕ぐ気は無いからな」

どうもモフネコさんは、労働は嫌いなようだった。

「僕が漕ぐよ…… ミアのためだし、オールは僕の方にあるからね」

そう言って、第一相”心描き”がゆっくりとボートを漕ぎだした。

「もう少し速くならないのか」
「ミアがそう言うなら…… でも、どうしてそんなに急ぐんだい?」
「気づいてないのか?」

何をだろう。
一応、これから情報収集をするということで話が纏まっている。僕はステルスでついて行くだけれど。
少しでも早く僕以外のアニ3書き手、特に合作参加者がこのロワにいるのかどうかを調べたい僕としては
急いでもらったほうがありがたいのだけれど、
主催におしおきをする気はあっても、ロワをやる気はないらしいモフネコさんに急ぐ理由なんてないはずだ。

「気づくって、何を? ミア、僕にはわからないよ……」

僕の疑問は、第一相”心描き”が代弁してくれた。
モフネコさんはあからさまな溜息を吐く。

「このボートはおそらく、C-5にある『カップルで乗ると3時間以内に破局すると噂のボート乗り場』の物だ。
 ここは書き手ロワだぞ。ただの噂だけで実際は何もないとは考えにくい。
 カップルでなければ何も起こらない可能性はあるが、カップルが破局するような何かが
 必ず起こるということも十分に考えられる」

なんだかすごく嫌な予感がしたのは、きっと気のせいだと思いこもうとしている男子高校生がそこにはいた。
ていうか、僕だった。


【一日目・深夜/D-6・湖】

【第一相”心描き”(◆nOp6QQ0GG6)@バーチャルリアリティロワ】
【状態】健康
【外見】エンデュランス@.hack//G.U.
【装備】二期最終回でルルーシュに突き刺されたやたら豪華な装飾の剣@オールロワ
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:ミアとハセヲを守る
1:ミア(の代わりの◆RVCXqfgcSM)を守る
2:ハセヲ(の代わりにハセヲと中の人が同じキャラの書き手)を探して守る
3:ミアとハセヲのどちらが大事かはこれから考える

【◆RVCXqfgcSM@少女漫画キャラバトルロワイアル】
【状態】健康
【外見】キャー@ぼくの地球を守って(身長2メートル弱)
【装備】なし
【持物】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:死なないために最善を尽くす
1:とりあえず情報収集
2:主催に会ったらおしおきする

【◆1aw4LHSuEI@アニメキャラバトルロワイアル3rd】
【状態】健康
【外見】阿良々木暦@物語シリーズ(アニメ)
【装備】なし
【持物】基本支給品、楽器セット、不明支給品0~2
【思考】
基本:◆ANI3oprwOY全員で生還する
1:しばらくは第一相”心描き”とモフネコさん(◆RVCXqfgcSM)と行動し、情報を集める
2:同じロワの書き手のためなら殺しも厭わない
3:もし◆SDn0xX3QT2@アニロワ3rdが枢木スザクの姿でこのロワに呼ばれているなら、第一相”心描き”に守らせたい
【備考】
※東横桃子@咲-Saki-のステルスを使えます。

081:偽りの戦場 ◆時系列順に読む 083:【寄生獣】イーボゥが一体出た!
081:偽りの戦場 ◆投下順に読む 083:【寄生獣】イーボゥが一体出た!
第一相”心描き”
◆RVCXqfgcSM
◆1aw4LHSuEI

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最終更新:2013年05月09日 19:48