コンコン。
人でなしのヴィニス(◆vNS4zlhcRM)と全ての星の始まり(◆26Zf504quw)がお菓子を片づけていた民家に、誰かのノック音が聞こえてきた。
「すみませーん、誰かいますかー?」
男性の声もその直後に聞こえてくる。
「どうします?」
「いきなり人を入れちゃまずいでしょう」
しかし、鍵をかけ忘れていたせいで、来客はあっさり部屋の中へ入ってきてしまう。迂闊だった。
ドキッとしたが、とりあえずその男には敵意はないようだった。ここにいる書き手では唯一、人間の姿をしている。
ただ、奇妙なのは、その右手に鯖を持っていることだ。
「……失礼。いきなり立ち入ってこんな事を言うのも何だが、冷凍庫を貸してくれないか?」
彼はそう言う。
「……別に冷凍庫を貸すのは構わないんですが、あなたは?」
「すまない。名乗り遅れたが、変身ロワの速筆戦隊ハヤインジャーという者だ」
男は────速筆戦隊ハヤインジャー(◆gry038wOvE)であった。
変身ロワにて、2013年7月現在50話を執筆。2位は25話──つまり、2倍である。それは俺ロワでもなく、ましてやカオス系のロワでもない。
分割話も多い正統派なロワである変身ロワで、この話数はなかなかの快挙だろう。
しばらくは姿を消していたが、また帰ってきて十日足らずで三本投下(十日と投下をかけたダジャレ。えへへ。)し、二週間程度で前回の月報の記録に追いつくに至った。
冷蔵庫に向かうハヤインジャーは、すぐに右手の鯖を冷凍庫に仕舞い、安堵したように深いため息をついた。
「……本当にすまない。鯖を支給されて、これをどうしようかと思っていたところだ。早く冷凍庫に仕舞わないと腐ってしまうからな。これで一安心だ。しかし……」
鯖を冷凍庫に入れたハヤインジャーはすぐに他の書き手の方を向き、言いにくそうに言う。
「二人とも、初見でこんな事を言うのは失礼かもしれないが……凄い姿になったな」
「ええ……」
パロロワメモリによって変じたそれぞれの姿を比較するが、やはりハヤインジャーにとって目の前の二人は異質だったのだろう。
映画でまた出てくる事が決定した有名すぎるポケモン・ミュウツーと、2chのまとめブログなどでよく見かけるやらない夫だ。一応、ハヤインジャーはそれらについて知っていた。
「一応、こちらも牙狼の鎧を召喚……いや、変身というべきか? とにかく変身できるといえばできるが、やはり変身した方がいいか? 99.9秒しか変身できないうえに、それ以上変身すると暴走して自我を失うが……」
「……いえ、それなら結構です」
流石に暴走して自我を失うリスクまで抱えさせて自分たちに合わせてもらう気にはならなかった。
「あの、こっち名乗ってませんよね?」
「……そうだったな」
今度は残り二人の方が自己紹介を始めることになる。
「……私はミュウツーの姿をしているが、パラロワの書き手、人でなしのヴェニスだ」
「俺はオールスターロワっていう俺ロワで書いてた全ての星の始まりという者です」
「オールスター……ああ、あのペプシマンの──」
ドンッ!
ハヤインジャーが言った瞬間、全ての星の始まりは机を叩いた。湧き出る怒りが抑えきれないという様子だ。
しかし、その怒りはハヤインジャーに向けられたものではなく、この認識を覆せない自分の不甲斐なさによるものだった。
「……失礼。特命戦隊ゴーバスターズのビート・J・スタッグが参戦しているというあの?」
「いや、いいですよ。気を遣わなくて……別にあなたに対して怒ってるわけじゃありません」
ハヤインジャーは特オタなりのフォローをしたが、やはり最初にペプシマンが浮かんだ事実は覆らない。
「参戦作品外から書き手枠だしてOKってことにしたんですけど(中略)考えてしまうんです」
……という感じで、また、前の話で、人でなしの方に言った話を一通り言い直す。
人でなしのヴェニスは一度聞いた話をそのまま聞く気まずさを感じつつも、最後まで聞きとおす。頭は眠くなりつつあった。
「……なるほど。しかし、参戦作品外って何でもアリなのか。ゴーバスターズも出ている……」
「そうですね。オールスターですから。ペプシマンでも何でも」
「だが、その参戦作品外からも書き手枠が出せるってのは非常にマズいんじゃないか?」
ハヤインジャーは、目を光らせた。
他の二人に厭な予感が走る。
「もし、万が一にでも書き手枠で『ウルトラセブン』の12話からスペル星人を出すとか、『サンダーマスク』を出すとか言われたら、本当にのっけから詰むかもしれん。もう把握とか以前に、封印されて伝説の作品と化して見られない作品だ。……いや、この辺りなら海賊版ビデオが出回って、某動画サイトに上がってるだけまだマシか。
『突撃!ヒューマン』という特撮作品を知ってるか? これは既にフィルムが散逸していて、現在では海賊版が出回る余地もない幻の作品だ。俺だって見たことがない。生まれてないからな。
しかも、放送当時は人気番組『仮面ライダー』の裏番組だったために僅か13話で打ち切られ、当時の人ですら見ていた人がかなり少ない正真正銘幻の作品となっている。漫画版もあったが、これは最終回に2ページ……つまり見開き1ページしかもらえなかったらしい……。まるで『ソードマスターヤマト』みたいな次元の話だ。もしこんなのを出すと言う書き手が現れたら、リレーできる人が誰もいなくなるだろう……。
ちなみに、この『突撃!ヒューマン』は、実は新人時代の松田優作がオーディションをしていたらしい。あの『仮面ライダーW』の元ネタとなった『探偵物語』の主演──あ、ドラマの方だ。同じタイトルで松田優作主演の映画があるが、あれはドラマの『探偵物語』とは全く関係ない作品だ。
その『探偵物語』とか『太陽にほえろ!』の『なんじゃこりゃあああ!』のジーパンデカで有名な松田優作の事だ。これは私見だが、おそらく、『超光戦士シャンゼリオン』なんかも『探偵物語』をイメージソースにしているだろう。
『仮面ライダーウィザード』の主演が松田優作の演技を意識してるとか、『ウルトラセブン』のひし美ゆり子が無名時代から友人だったとか、『忍風戦隊ハリケンジャー』とか二股騒動の塩谷瞬が偶然松田優作が座った席に座って喜んだとかいう逸話も有名だ。後の特撮作品や特撮俳優にも多大な影響を与えているのは間違いようのない事実だろう。
あれだけ偉大な俳優がオーディションを受けたくらいだったが、残念ながら視聴手段が皆無だ。
あとは、『仮面ライダー』の殺陣──今でいうスーツアクターの中村文弥がこの作品の顔出しでの主演オファーを受けて、『仮面ライダーの裏番組でしょう? 仲間は裏切れませんよ』と答えて断った事も特撮ファンには印象的なエピソードだ。この様子は『仮面ライダーを作った男たち』という漫画を読めばわかる。
他にも……『ノストラダムスの大予言』や『獣人雪男』のような特撮映画も海賊版の入手が必要となる……つまり、把握で詰む。そもそも、特撮自体、DVDもやたら高く、いきなり把握するには相当危険なレベルになる。
某ロワに『ペットントン』とか出てたが、これはもはや狂気の域だ」
ついに人でなしのヴェニスは布団を敷いて寝始めていた。
ハヤインジャーは、『ウルトラマンネクサス』、『牙狼』、『超光戦士シャンゼリオン』というロワ界隈では微妙に知られてない作品を当然のように把握し、『機動刑事ジバン』や『重甲ビーファイター』のようなメタルヒーローをSSタイトルの元ネタにし、別ロワでは『円盤戦争バンキッド』という特オタしか知らないような作品をSSタイトルにしていた特オタである。
『仮面ライダークウガ』については、小説のエピソードを発売一か月後に組み込み、『仮面ライダージェネレーション2』(ゲーム)や『仮面ライダー 希望1972』(小説)のネタも入れてくる書き手である。当人はゲームはあまりやらないらしいが、レトロハードとキャラゲーはやるようである。
ロワラジオによるとスパロボプレイヤーでもあり、ダークプリキュアには『超電磁マシーン ボルテスⅤ』のプリンス・ハイネルの台詞を言わせ、『絶対無敵ライジンオー』の歌詞の一節をSSタイトルに組み込んでいる。当初こそプリキュアをほとんど書かなかったはずが、いつの間にか自分の外見設定にウエスターを推し、参戦してもいない初代やスマイルのネタを入れ始めた人間でもある。
しかも、『仮面ライダーW』の元ネタの『探偵物語』に出てきた台詞を『超光戦士シャンゼリオン』の涼村暁に言わせ、カフカの『変身』についても言及したくらいなので、既に何オタなんだかわからない。
「……なんかスミマセン」
「いや、謝らせる気はなかった。こちらこそすまない。だが、やはり書き手枠は参戦作品内にしないと危険だ。ペプシマンだったからまだ良かったものの、『突撃!ヒューマン』の岩城淳一郎とかだったらネタにもならないうえに誰も書けないだろう……。
もしかしたら、それをしなかっただけ、ペプシマンの人に感謝した方がいいかもしれない。もしこのゲームの中で会えたら、お礼を言うのもいいかもしれない」
「はぁ……」
「そういえば、SASUKEか……あれも懐かしい。あれも特撮の俳優やスーツアクターがたくさん出ていた……。ケイン・コスギがよく出ていたな」
「ええ」
「あの人は『忍者戦隊カクレンジャー』とか『ウルトラマンパワード』とかでも有名だ」
ケイン・コスギが特撮に出ていたのは何となく他の人たちも知っている。カクレンジャーなら、ミュウツーの映画なんかを見に行った世代はまさに直撃だ。
「カクレンジャーのレッドの変身前の名前がサスケだったから、ちょっとした因果を感じる。ちなみにカクレンジャーのレッドはカクレッドじゃなくて、ニンジャレッドだから注意をしておくといい。特オタの前でカクレッドと言ったら殺される。
先述のウルトラセブンをウルトラマンセブンと呼ぶのも絶対にやめろ。ガロもガロウと読むな。こういう系統でそう呼んでいいのは、『激走戦隊カーレンジャー』のレッドレーサーをカーレッドと呼ぶことだけだ。あの作品は特殊だからな。
……そういえば、ここにはパラロワの書き手さんもいたが、……あのロワは『仮面ライダー555』が参戦してたはずだ。『プリズマ☆イリヤ』も変身モノだからうちのロワに参戦する可能性もあっただろうな」
と、ハヤインジャーが人でなしの方を見る。
……そういえば、どこにいるのだろう。ここでの団欒に彼は参加していない。
周囲を見回してみると、彼は台所にいた。
先ほどまで布団を敷いて寝ていたが、流石に無防備すぎるかと思ってすぐに起きて、軽いストレッチをしたものの、今度は別の話をしていたようなので、冷蔵庫に先ほど片づけたお菓子があるかと思って冷蔵庫を適当に開けてみたら、冷凍庫のところに鯖があったので、とりあえず調理しようとしたのだ。寝ぼけていたに違いない。
「すまない。話を聞いてなかったわけではないのだが……少し鯖を調理していた」
「どう考えても聞いてないだろそれ」
「それより、勝手に自分の支給品を調理されてることを突っ込みましょうよ」
他人の支給品だというのを忘れて調理してしまったのも、寝ぼけていたからかもしれない。
しかし、もう調理を始めてしまったのでどうしようもない。
「うん……? 少し火が弱いか?」
調理してみると、少しコンロの火が弱いことに気が付く。
それを見て、ハヤインジャーは魔導火のライターに火をつける。
「ライターの火を貸そうか?」
「いや、いい……というか、コンロの火が弱いのはライターでどうにかなるものでもないだろう」
そうこうしているうちに、残りの二人が鯖の調理に参加し、三人は協力して鯖の味噌煮を完成させる。
まるで調理実習のような楽しさだ。
「とにかく出来上がった。鯖の味噌煮だ。ティータイムついでに鯖を食べるといい。一度片づけてしまったが、お菓子……特にたけのこの里も紅茶もある」
「……斬新な組み合わせだな。しかし、鯖の味噌煮と聞くと、『仮面ライダーカブト』を思い出す 」
とにかく、二人は新しい客人とともに鯖の味噌煮を食し始めた。
なかなか火がよく通っている。
「ふわふわしてて美味しいですね」
「確かに美味い」
「自分たちで作る料理はやはり特別うまいな」
とまあ、そんな感想が出てくる。
ごはんがあれば素敵だったが、そんなものはない。
「……時に速筆戦隊ハヤインジャー。あなたにとって変身ロワらしさとは何だ?」
鯖の味噌煮を紅茶で流し込み苦い顔をしながら、人でなしのヴェニスは思い出したようにそう訊いた。前回の話もこんな感じで終わったはずなのだ。
「何?」
「参考までに訊きたい。私たちは自分たちの自分らしさ、自ロワの自ロワらしさ……それを捜しているところだ」
「なるほど……」
少し考えた後、ハヤインジャーは答える。
「……そうか。俺にとって変身ロワらしさとは…………ん? 一体何だ……? わからん」
考えたはずが、──何も浮かばなかった。
「……そうか、あなたもそれがわからないんですか」
「よく考えれば、変身ロワ自体があまり特筆すべきロワではないからな。中堅みたいな扱いを受けつつも、結局参戦作品がマイナーすぎるせいであんまり読み手とかがいないイメージが強い。
それに、変身ロワらしさと言っても、直球王道な内容ばっかりであんまり他ロワとの差別化が図れてないかもしれない……。だから、アイデンティティみたいなのは……考えてみれば、殆どない……いや、考えた事もなかった」
「なるほど……でも、前に月報+33で話題になったじゃないですか」
その時、ハヤインジャーの書き手としてのプライドが擽られた。
「──俺は月報が+33とか、そんな事はどうでもいい!! 記録を作ることだけが目的なら、分割話なんて書かないだろう!!
速筆……そんな事はもはやどうでもいいんだ。だが、実際に俺が言われるのはそればかり……まさか、俺は変身ロワにとって、東映の用心棒こと井上敏樹と同じ扱いなのか?
確かに井上敏樹は偉大だ。パラロワにも『仮面ライダー555』が出ている……あれの脚本を全話書いて映画版も書いたのは井上敏樹に違いない。
自ロワの『超光戦士シャンゼリオン』も殆どそうだし、『仮面ライダークウガ』だってあの男が路線変更に異を唱えなければ名作とは呼ばれなかったかもしれない。
俺が最も尊敬する脚本家の一人だ、だが……速筆の部分だけでそう思われてしまうのも忍びない!」
「……」
「俺がどんな話を書いているか。それを他の人から見た客観的なデータ……それをもらった事がほとんどない。では、俺の作品とは何だ……? 熱血寄りか? 鬱寄りか? 面白いのか? つまらないのか? 文章力は? 台詞のセンスは? たまに挟むギャグは受けてるのか?
……それさえわからない……よく考えれば、俺は本当に速さだけ言われ続けた。書き手として純粋に内容の評価をされた記憶が、ない」
「……わかりました。あなたも俺たちと同じだったようですね」
「ならば、私たちと共に探そう。自分らしさとは何か……その答えを」
「そうか……俺も同じだったのか。運命が俺達をめぐり合わせてくれたのか」
ハヤインジャーは思わず、「牙狼」の最終回でカオルが描いた絵本を読んだシーンのように涙を流していた。
速筆戦隊ハヤインジャーという名前さえも皮肉だ。この名前自体が、仕事の速さしか触れていない。作品の出来や傾向など蚊帳の外にした、機械的なデータが詰め込まれたような名前だった。
それだけじゃない。
自分の中にある、速筆以外の自分らしさ──それを、見つけたい。
「で、俺達はまずどうすればいいんだ?」
「ふむ。まずは───」
「皿と箸を片付けるとしよう」
「またそれかよ!!」
【一日目・深夜/D-2 黎明】
【速筆戦隊ハヤインジャー(◆gry038wOvE)@変身ロワイアル】
【状態】健康、満腹
【外見】冴島鋼牙@牙狼
【装備】魔戒剣&魔導火のライター@変身ロワ
【持物】基本支給品
【思考】
基本:対主催として、殺し合いを防ぐ。
0:とりあえず食器を片付ける
1:人でなしのヴェニス、全ての星の始まりとともに速筆以外の自分らしさを探す。
※冴島鋼牙@牙狼─GARO─の外見です。
【人でなしのヴィニス(◆vNS4zIhcRM)@パラレルワールド・バトルロワイヤル】
【状態】健康
【外見】ミュウツー@ポケットモンスター
【装備】たけのこの里
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:自分のあり方を考える
1:とりあえずまた出した食器を片付ける
2:たけのこの里おいしい、鯖もおいしかった
【全ての星の始まり(◆26Zf504quw)@オールスターロワ】
【状態】健康
【外見】やらない夫
【装備】ティーセット (現地調達)
【持物】基本支給品 、不明支給品1~3
【思考】
基本:ペプシばかりでない自ロワの魅力を伝えたい。
0:こんな状態で一体これから何をするんだよ
1:速筆戦隊ハヤインジャー、人でなしのヴェニスと協力。
最終更新:2013年09月18日 08:42