対峙する二人の青年。その姿は鏡に映したかのごとく等しく。
そしてその在り方は、対極だった。
七原秋也の顔をした書き手――中学生ロワイアルの第三位書き手、◆jN9It4nQEMはその昏い眼差しを対面する『自分自身』に向けた。
視線を受ける男の外見も、七原秋也のそれだからだ。しかし『七原秋也』ではない。
『ワイルドセブン』。それがロワイアル×ロワイアルの第二位書き手、◆W91cP0oKwwに与えられた姿。
二人には書き手として知識が充分にあった。
そして、自らが描いてきたキャラクターに対する愛と、想いがあった。
あったからこそ、即座に自分が進むべき道を決めることが出来た。
「分かるさ。なんせ同じキャラクターの記憶と生き様を背負ってるんだからな」
「ああ、そうだな。俺たちが――『七原秋也』と、『ワイルドセブン』が選ぶ道。そして“願い”は、」
最初から決まっている。決まりきっている。
そんなもの――『革命』以外、ありえないだろう。
「俺も、お前も、同じ革命家だよ」
「……そうだよ。俺たちは革命家だ。このクソみたいな幸せゲームに反抗する、ロックンローラーってやつだ」
「よーく分かってるじゃないか。だったらさ、だったら――」
「おっと、ストップだ。きっと俺も、同じ事を考えてる」
「おっ、だったら一緒に言ってみるか? いっせーのーで……」
「「お前はどうして、そんな顔をしてるんだ?」」
「おいおい、ダメだろ、ロックンローラーがそんな暗い顔してたらよ」
「そっちこそ――革命家が、そんなヘラヘラしたニヤケ面を見せてる場合かよ?」
二人の姿が同じであっても、『七原秋也』と『ワイルドセブン』の違いがあるように。
二人の目指す『革命』も、決して一緒くたにしてしまってはいけない、まったく別の手段であり、目的だった。
『七原秋也』は夢を見られない。見てはいけない。『七原秋也』の現実は、プログラムに巻き込まれたあの日から徹底的に現実的だ。
『七原秋也』はあの日から甘さを切り捨て、革命家へとその身を転じたのだ。
中学生ロワ書き手として彼が愛したのは、中学生でありながらオトナにならざるを得なかった少年。
愛する人と離れ離れ、やっと分かり合えたかもしれないかつての最大の敵とも死に別れてしまった、悲哀に満ちた孤独なヒーロー。
『ワイルドセブン』は、夢のかたまりだ。願いの結晶、と言い換えてもいい。
かつて唄った、ロックンロールの体現者が『ワイルドセブン』だ。
どうにもならない現実がいくら襲ってきたって、叶えたい夢が、願いがあるのならばいつだって『ワイルドセブン』は右手を伸ばす。
ロワロワ書き手の彼は、『ワイルドセブン』をそんな絶対的なヒーローとして描いた。
『七原秋也』にとっての革命とは、今日という現実を変えるためのもの。
『ワイルドセブン』にとっての革命とは、夢見た明日を掴むためのもの。
二人の書き手が込めた愛に、多寡も優劣もない。
だからこそ――自らが愛した生き様の対極となる相手のことを、許容することが出来ない。
「このクソッタレ椅子取りゲームをぶっ壊す。それは一緒だよな、『七原秋也』」
「ああ。だけど俺は、お前みたいに“みんな”に手を伸ばすなんて器用な真似が出来るとは思ってないし、やろうとも思ってないぜ、『ワイルドセブン』」
「それでも俺は、お前が切り捨てようとしているものまで全部拾ってやりたいと思ってるぜ」
「出来るんなら、やってみればいいさ。だけど俺は、お前の理想や夢のせいで、俺の現実が蔑ろにされるなんてことは、許さないぜ」
「おいおいおいおい、どうしちゃったんだよ俺はさぁー。……そんなつまんない奴になりたかったのかよ、俺たちは。
違うだろ? 七原秋也がなりたかったのは――」
『七原秋也』の言葉に呆れた顔を見せる『ワイルドセブン』。
やれやれと肩をすくめ、オーバーなリアクションで『七原秋也』の真意を問う。
対する『七原秋也』は、
「……なりたかったものと、なれるものは違うんだよ。
こんなはずじゃなかった。そんなどうしようもない現実にぶち当たったって、俺たちはなんとか前に進まなくちゃいけない。
――ホントに神様になっちまった『ワイルドセブン』とは違うんだ。『七原秋也』は、ただの男子中学生なんだからさ」
自分自身に言い聞かせるように、言葉を吐いた。
この書き手ロワにおいて、書き手たちの能力は所属するロワ、書いた作品によって決定される。
例えば『ワイルドセブン』はロワロワ内で起こったWaqWaq(ワークワーク)とのクロスオーバーにより護神像そのものとなったことから、神にすら匹敵する力を持って書き手ロワに召喚された。
他のロワの書き手たちだって、その殆どがパロロワの華である超常バトルの能力を得て、己の力を見せつけてくるだろう。
しかし『七原秋也』は違う。ただの一般的な男子中学生と殆ど変わらない――七原秋也が平均よりずば抜けた身体能力の持ち主であっても、それは誤差レベルに過ぎない――能力しか持たず、殺し合いに放り込まれた。
それでも『七原秋也』は、『七原秋也』を貫きたいと思ったのだ。
己の無力さを痛感しながらも最後まで足掻き続け、世界を革命することを諦めない『七原秋也』でありたいと、思ってしまったのだから――いったい誰が、彼を責めることが出来るだろうか。
「……覚悟はしてるってことは、よく分かったよ。
でもな『七原秋也』、お前が“夢”に“現実”を踏みにじられたくないように、俺だってつまんねー“現実”なんかに“夢”を邪魔されたくなんかないんだよ」
「それが通用するのは中学生までだぜ? 中二病乙ってやつだ。ロワロワもうちより年食ってんだからいい加減現実を見ようぜ?」
「あっ、なんだよお前、後輩のくせに生意気だな! それこそ高二病乙ってやつだぞ! 俺より若いんならもっと目ェキラキラさせとけよ!
ハァ……こりゃ、平行線だな。いくら言い合ったってまるで決まる気がしないわ」
このまま平行線の議論を続けたところで、お互い譲ることはないだろう。
彼ら自身が七原秋也というキャラクターを愛しているからこそ分かる。
どちらの言い分もまた、正しいのだと。どれも七原秋也の一側面であることに間違いはないのだ。
「でもなぁ、さすがにこのままあっさり別れるわけにもいかないっしょ? だって俺たち、書き手だしさ」
「多分ここで『こうして二人は別々の道を進むことになったのだ――』なんてナレーション入れて後続にパスしちゃったら、イマイチな登場話ってことで近々処理されちゃう気もするな」
「それは『七原秋也』にとっても、『ワイルドセブン』にとっても美味しい話じゃないよな。だけど、どうやって白黒つけるつもりだ?」
「平行線の俺達が共に納得できる位置、異なる考え方の一致する場所でも探してみるかい?」
「それはなぁ、いくらロワロワが参戦作品外からネタを引っ張ってくることに定評があっても怪しいラインな気がするよなぁ」
たとえ中学生ロワでタイトル元ネタに使われてたとしても、さ」
「だったら、俺たちと一番因縁深いアイツのやり方を――ちょっとお借りさせてもらおうか。
都合がいいことに、何故か俺のポケットにコイツが入ってたところだぜ」
『七原秋也』は、ポケットからコインを取り出し、ピンと指で上空に弾く。
それが『七原秋也』の手の甲に収まる前に、『ワイルドセブン』が横取りする。
『ワイルドセブン』はニヤリと笑い、
「おっ、洒落がきいてるね。さて、このロワに『アイツ』はいるのかね。うちの大将あたり、『アイツ』で出てきそうな気もするけどな」
「おたくの大将、どう動くんだろうな。うちの書き手もどうするつもりか分からないとこあるけどさ」
「敵になるか、味方になるか――こればっかりは会ってみないと分からないのがパロロワだからな。
さて、賭けに勝ったほうの方針に、とりあえず従う――くらいでいいか?」
「とりあえず、ね。そのくらい気楽なほうが俺達にはちょうどいいさ。
きっといざ目の前で事が起きたとき、俺達は我慢できない。勝手に身体が動いちまうだろう。
でもそれまでは――波風立てずに仲良くやっていくのもいいよな。一人はやっぱり、疲れるもんだ」
それじゃ、と『ワイルドセブン』がコインを握った右手の親指に乗せる。
表が出れば夢を――『ワイルドセブン』の方針に従う。
裏が出れば現実――『七原秋也』の方針に。
かくして、一枚のコインが宙を舞い――
多くのパロロワにおいてそうであったように、そのコインが素直に表か裏かを示すことはなかった。
「きゃはきゃは――」
放たれた刃が、中空でコインを二つに割る。
「面白そうなことしてるじゃねーか」
現れたのは、細身の男。全身を忍装束に包み、不可思議な笑い声をあげながら、男はゆっくりと二人に近づいてくる。
この男こそ新西尾ロワ筆頭、◆mtws1YvfHQである。またの名を――『雄健魁偉』零崎崩識。
崩識、この者の狙いは――その名の示す通り、理の崩壊。
「傑作だぜ」「いや、戯言だね」「いきなり二人も見つけるだなんて、幸先がいい……いえ、悪いのかしら?」
「カッ、アンタにゃ悪いけどよ――」「ゆらぁり……」「二人を殺すのが、私なの」『でも、僕は悪くない』
『七原秋也』と『ワイルドセブン』の目の前で、男はその背格好を――いや、性別すらも変えていく。
見る見るうちに。変わっていく。おぞましさは――そこにはない。あっという間に、口も挟めぬうちに、次々と姿を変え、声を変え、口調を変え。
最後には男装の――しかし、少女の姿へと変わり。
これが私の能力ですよ、とその表情だけで二人へ伝える。
これが崩識に与えられた能力の一つ――忍法・骨肉細工(真)である。
崩識は一度でも書いたことのあるキャラクターならば――瞬時にその姿へと変化出来るのだ。
西尾キャラに対する愛が為せる、まさに人外の術――書き手として彼の血となり肉となったキャラクターたちを、彼は自らの身体を以てして再現するのだ。
崩識、目標を二人の七原秋也へと定める。
彼の狙いは、一族――新西尾ロワ書き手を除く全参加者の抹殺。
一族に歯向かう者も、そうでない者も――果ては、この書き手ロワイアルを開いたあの男も。
全て殺す。
殺して、殺して、殺し尽くした先――? なぁに、崩識の能力があれば、どうとでもなるだろう。
対して、崩識の標的となった二人は。
自らの手に――分かたれて落ちたコインを、見つめていた。
「……ああ、こういうことがあるから、ロワは面白いんだよな、『ワイルドセブン』」
「こいつはちょっと予想してなかったな、『七原秋也』」
零崎崩識の攻撃で、二つに割れたコイン。
『七原秋也』の手の中に落ちたコインが示したのは――表。
『ワイルドセブン』の手の中に落ちたもう半分は――裏を示した。
「俺がお前で」「俺はお前だ」
奇しくも、コインが指し示した結果は各々が目指す理想の、逆。
「知ってるぜ。お前は『七原秋也』のことも、大好きなんだよな」
「お前だって本当は、『ワイルドセブン』に憧れてるんだろ」
「「お前なら、立派に『七原秋也』/『ワイルドセブン』をやってくれるさ」」
「きゃはきゃは――そろそろおっぱじめても構わないかい? ああ、その前に。
一応、お前たちの名前くらい、聞いておくぜ」
「あだ名――か。今俺、ちょっと格好良いのが浮かんだんだよな」
「奇遇だな。俺もだぜ。よーし、よーく聞いとけよ、蝙蝠野郎」
「中学生ロワ書き手、『ロックンローラー・七原秋也』と、」
「ロワロワ書き手、『革命家・ワイルドセブン』だ!」
【一日目・深夜/E-3】
【ロックンローラー・七原秋也(◆jN9It4nQEM)@中学生バトルロワイアル】
【状態】健康
【装備】特になし
【持物】基本支給品、不明支給品0~2
【思考】
基本:『ワイルドセブン』をやってやる
1:“みんな”を救うべく右手を伸ばす
※七原秋也がベースの戦闘力となっています
【革命家・ワイルドセブン(◆W91cP0oKww)@ロワイアル×ロワイアル】
【状態】健康
【装備】特になし
【持物】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:『七原秋也』をやってやる
1:ままならない“現実”を前にしても、歩みを止めない
※護神像関連の能力(詳細不詳)を持っています
【『雄健魁偉』零崎崩識(◆mtws1YvfHQ)@新西尾維新バトル・ロワイアル】
【状態】健康
【装備】特になし
【持物】基本支給品、不明支給品1~3
【思考】
基本:一族以外を皆殺し
1:殺して、殺して、殺し尽くす
※忍法・骨肉細工(真)は自らの身体で西尾キャラを再現する能力です
再現度、強度などの詳細設定は後続にお任せします
最終更新:2013年04月11日 13:59