雪が、しんしんと降っている。
 銀色の月から剥がれ落ちて、地球へ降りてくるように、しんしんと降り積もっている。
 かつて、グリフィスが逝ったのは、ちょうど雪の日だったか。
 鳴海歩が看取った男を、胸中で思い返しながら、少年は独り、夜空を仰ぐ。
「パロロワメモリ、か」
 所属したロワの関係上、特撮関連の技術に触れたのは、貴重な経験と言えるかもしれない。
 新漫画ロワ書き手のナンバー2――愛と運命のテラー。
 ◆JvezCBil8Uのトリップを持つ少年は、ぽつり、とそれだけを呟いた。
 あれは自分の書いた話ではない。
 それでも、あの場に居合わせた鳴海歩は、自分のお気に入りのキャラだった。
 あの話を読んだ後、直後の話をリレーしたのは、他ならぬ自分自身だった。
 実際に書いた回数は、秋瀬或には1回劣る。それでも、彼に注いだ愛情は、秋瀬のそれには決して劣らない。
 あの時の鳴海歩は、本当のところ、何を思っていたのだろうか。
 自分が想像し、続けた通りの感情を、その場で抱いたことだろうか。
「――よう」
 その時。
 ふと、声が聞こえた。
 振り向いたその先に立っていたのは、赤紫の髪の少年だった。
 歩と同じ、スパイラルの登場人物――浅月香介の容姿だ。
 それでも、それは本人ではない。書き手ロワの舞台には、秋月本人は現れない。
「アンタも、新漫画の書き手なのか?」
 非リレーや俺ロワを除けば、スパイラルのロワ参戦回数は少ない。
 故にここにいる秋月は、きっと自分と同じ、新漫画ロワの書き手なのだろう。
 そう考え、テラーはそう問い掛けた。
「そういうアンタは、愛と運命のテラーなんだろ?」
「お見通しか」
 質問に質問を返されたが、それは同意の意志表示と見てよさそうだ。
 どころか、向こうもこちらの正体を当ててみせた。
 本物の鳴海歩がそうするように、鳴海歩の姿を持つテラーは、苦笑しながら肩を竦めた。
「何てこたねぇよ。単なる俺の願望だ」
「願望?」
「その姿は……鳴海歩の姿だけは、アンタの姿であってほしかった」
 さく、さく、さく、と。
 そう言うと、秋月の姿をした書き手が、雪原を踏みしめ歩み寄る。
「俺は◆9L.gxDzakI。螺旋と信頼のリンカーだ。つってもこの酉は、別んとこでバレちまったんだがな」
「……ああ、アンタが」
 一瞬、思い出すのに時間がかかった。
 彼は新漫画の書き手の中でも、比較的序盤に参加していた書き手だ。
 5回という投下回数は、順番に並べれば、決して低い位置にはならない。
 それでも遠い体感時間は、どうしても記憶を薄れさせる。
「アンタこそ、歩の姿になる資格はあっただろうに。書いた回数は、歩が一番多いんだろ?」
「だとしても、なりたかなかったのさ。鳴海歩の姿でいるのは、アンタが一番相応しい」
 螺旋と信頼のリンカーが言う。
 数多の書き手達の中でも、愛と運命のテラーこそが、最もその姿に相応しいと。
 鳴海歩という少年を、誰よりも深く理解し、誰よりも眩く輝かせたのは、貴方を置いて他にいないと。

「……俺はな。スパイラルの原作が好きだった」
 知っている。
 リンカーが投下した作品には、必ずスパイラルのキャラが登場していた。
「だから、新漫画でスパイラルが当選した時、俺は心底嬉しかった」
 知っているとも。
 新漫画ロワが発足した当時、進行していたロワの中には、他に参戦していたロワはなかった。
 当時においては、新漫画こそが、唯一スパイラルを書けるロワだった。
「俺は嬉々として書いたさ。スパイラルのキャラクターを、ひたすらに予約して書き続けた」
 同じロワの書き手だからこそ、その気持ちは理解しているとも。
 この鳴海歩の登場話を書いたのは、目の前に立っている男だ。
 安藤と歩を共に予約し、最初の一話を書いたのは、螺旋と信頼のリンカーだった。
 神と魔王を断つための、二振りの剣の因縁は、彼なしには存在し得なかった。
「その時、そこにアンタがいた。アンタが書いた『銀の意志』が、本スレに投下されたんだ」
 それは遠い昔の記憶。
 第一放送よりも昔に書いた、鳴海歩の登場する四部作。
 思えば彼とはその時にも、リレーをしていたのだなと、愛と運命のテラーは思い出す。
「正直、圧倒された。俺のちっぽけなプライドは、その時粉々に砕け散った。
 あんなに歩を深く理解し、輝かせることのできる書き手が、この世にいるとは思ってなかった」
 愛と運命のテラーは、自らの手がけたキャラクター達を、誰よりも深く理解していた。
 原作に生きていた彼らを愛し、その魅力を尊重し、輝かせる物語を紡ぎ続けた。
「アンタは他の誰よりも、スパイラルを愛してた。アンタにだけは勝てねぇと、その時思い知らされたのさ」
 原作に捧げたその愛は、誰にも負けないと自負していた。
 それでも、目の前に現れたテラーは、自分を遥かに超える力で、その大きな愛を見せつけてきた。
 これほどの強さには追い付けない。これほどの高みには至れない。
 だから勝つことはできないと。そう思わされたのだと。
「……だからアンタは、うちで書かなくなったのか?」
「他にも要因は色々あったさ。書ける奴は大幅に減ったし、他のロワも忙しくなっちまった」
 さすがに負けを認めただけで、いじけて引きこもるほどの馬鹿じゃない。
 そう言いながら、螺旋と信頼のリンカーは、肩を竦めて笑みを浮かべた。
「アンタは、俺を憎んでるんじゃないのか?」
 紡ぎ手は繋ぎ手にそう尋ねる。
 かつて鳴海歩が、兄・清隆にそう感じたように。
 己を踏み越えていったこの自分を、妬んでいるのではないのかと。
「アンタはとても遠すぎる。嫉妬する気すら起きねぇよ」
 あっけらかんと、テラーは答えた。
 後ろめたさやウラは見えない。きっと、真実なのだろう。
「むしろ、俺はアンタが好きだ。アンタの作品に、その愛に、俺は純粋に憧れてた」
 だからここで会えたのは、とても幸運なことだったのだと。
 言いながら、テラーは背中に手をかけて、背負っていたデイパックを降ろす。
「持ってってくれ。きっと役に立つはずだ」
 そう言って、螺旋と信頼のリンカーは、鞄をテラーへと差し出した。
「アンタはどうする」
「アンタを守れりゃいいんだが、生憎、俺は投下数が少ねぇ。邪魔者は大人しく消えるとするさ」
 言いながら、リンカーは懐へ手を伸ばす。
 上着の内側に仕込んでいた、黒光りするピストルを取り出す。
「殺し合いに歯向かってもいい。最悪、乗ってくれてもいい。
 その代わりアンタは、俺のアイテムを使って、長生きしちゃくれねえか」
 その銃口が向かうのは、リンカー自身の眉間だった。

「……俺はアンタが愛していた、鳴海歩本人じゃない。
 アンタの思うような鳴海歩とは、違う何かになり果ててるのかもしれないぞ」
 テラーはそれだけを男に告げる。
 微かに眉根をひそめつつ、目の前のリンカーへと念を押す。
 この身のパロロワメモリには、膨大な量の記憶が蓄積されていた。
 総勢31作分の作品には、その数だけのキャラの生き様が、克明に刻み込まれている。
 全てを認識したわけではないが、その果てに得られた戦闘能力は、途方もないほどに強いかもしれない。
 暴力での解決を嫌っていた、鳴海歩の姿とは裏腹に、暴力の権化と化すかもしれない。
 そんなキャラ崩壊を容認してでも、お前はここで逝くのかと。
 そんな危険を孕んだ男は、本当に、己の人生を託すに値するのかと。
「構わねぇさ。俺が繋ぎたいと願うのは、愛と運命のテラー自身の命だ」
 静かに、リンカーは微笑する。
 浅月香介そのもののような、不敵な笑みを浮かべて告げる。
「そうか」
 テラーの答えも、短かった。
 きっとそうやって笑うなら、止めることはできないのだろうと、愛と運命のテラーは知っていた。
「……愛することそのものには、きっと貴賎はないと思う。アンタも同じ作品を愛した、同じロワの仲間だった」
 最後に、それだけを口にした。
 彼がスパイラルという作品に注いだ、その愛を否定しないと誓った。
「ありがとな」
 引き金が鳴る。
 銃声が聞こえる。
 暗闇と銀世界の狭間に、灰色の硝煙が立ち上る。
 静かな雪原に咲いたのは、赤い大輪の花だった。
 満足そうな笑みを浮かべて、螺旋と信頼のリンカーは、その花の上に横たわっていた。


「約束する」
 少年は虚空にそう告げる。
 手にした黒鉄の拳銃に誓う。
 土の底に埋葬した、同じロワの同志に宣言する。
「アンタの命は無駄にしない。俺は必ず、運命を打ち破ってみせる」
 選択肢など他にはなかった。
 殺し合いに乗るつもりなど、最初からテラーにはなかった。
 こんな残酷な運命になど、従ってやるつもりはない。
 目の前に立ちはだかる壁は、この両足で踏み越えてみせる。
 それが運命に立ち向かう、新漫画ロワのキャラ達を手掛けた、愛と運命のテラーの行く道だ。
 確たる決意を胸に固め、少年は降りしきる雪の中、最初の一歩を踏み出した。


【螺旋と信頼のリンカー@新漫画バトルロワイアル(◆9L.gxDzakI) 死亡】
※外見は浅月香介@スパイラル~推理の絆~です


【一日目・深夜/B-5 雪原】

【愛と運命のテラー@新漫画バトルロワイアル(◆JvezCBil8U)】
【状態】健康
【装備】SIG SAUER P226(14/15)
【道具】支給品一式、不明支給品2~6
【思考】
1:運命を打開し、殺し合いを止めてみせる
※外見は鳴海歩@スパイラル~推理の絆~です

018:新世界の神、新人類、募集中 ◆時系列順に読む 020:クソゲだぞクソゲ
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螺旋と信頼のリンカー 死亡

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最終更新:2013年04月12日 22:42