砂漠の中心に一人の男が佇んでいる。
まるで不良のようなオールバックの茶髪。
派手な緑色の革ジャンをクールに着こなした柄の悪い青年。
端正な顔を微かな苛立ちに染めながら、男は悪態をついていた。
「よりによってこいつかよ」
自らの身体を見回しながら言う男。
鏡がないため断定はできないが、特徴的な衣服から推測は容易い。
パロロワメモリなる道具によって与えられた自分の外見。
それは自らの所属する”仮面ライダーオーズバトルロワイアル”のキーパーソンであるグリードの一人・ウヴァの人間形態だった。
「書いた回数ならアンクの方が多いじゃねえかよ、わけわかんねぇ」
オーズロワは通常のパロロワとは異なった独自のルールを持つ。
最後の一人になるまで殺し合うのではなく、五つの色を冠した陣営による団体戦。
残った陣営が一つになった時点で勝利が確定する。
その中でウヴァは緑陣営のリーダーを務めていた。
主催者から特権を与えられ、第一回放送を越えた時点ではどの陣営よりも優位に立っている。
ならば何故、男は愚痴っているのか。
それは原作である仮面ライダーオーズにて、ウヴァがネタキャラとして扱われているからだ。
通称・ウヴァさん。
敬称が付いているが、決して尊敬の念からではない。
小物めいた行動や言動に対する嘲笑から、皮肉を込められているのである。
他のグリードから愚弄され、自らの命とも言えるコアメダルを奪われたりもした。
最終回まで生き残ったが、主人公とラスボスが対峙する背景でこっそり逃げた。
他にも女子トイレに潜入したり、無駄に爽やかな笑顔を浮かべたりする。
最初の方でクールに着こなしたと書いたが、そもそもそんなに着こなせていない。
多くの者から愛されているのは間違いないが、決して純粋なものではないだろう。
「どうせ変身するなら、もっとカッコいい奴が良かったぜ」
露骨に肩を竦めながら、男――――◆QpsnHG41Mgは溜息を吐いた。
彼はオーズロワの初期からいた書き手ではない。
他の書き手達の織り成す物語に魅了され、自らもその世界に舞い込んだのだ。
一人の少女を惨殺し、もう一人の少女を修羅に変貌させるという強烈なデビュー。
その後も驚異的な筆の早さから次々と作品を書き上げ、瞬く間に投下数第二位の書き手に君臨した。
今のオーズロワにとって、無くてはならない書き手である。
「さて、どうするかね」
周囲を見渡した先にあるのは、何処までも続く砂と切り立った崖。
あまりにも抽象的な世界。
その中心で、◆QpsnHG41Mgは自らの行動指針を考える。
◆QpsnHG41Mgの切り替えは早い。
何時までも外見に拘っていては、大事なものを奪われてしまうからだ。
「はん、決まってるだろ」
そして、目標の決定も早かった。
「元の世界に帰って、オーズロワの続きを書く」
オーズロワはまだまだ発展途上のロワだ。
第一回放送を越えたばかりで、まだ四分の三以上の参加者が残っている。
完結を目指すため、これからも書き続けなければならない。
「だが、一人じゃ駄目だ」
オーズロワはリレー小説である。
第一回放送を越えたばかりであり、まだまだ書き手は足らない。
一人で完結させることも不可能ではないだろうが、あまりにも困難と言っていいだろう。
他の書き手とリレーして、その先に紡がれる最終回。
それこそが真の”仮面ライダーオーズバトルロワイアル”である。
「ここにいる全てのオーズロワ書き手と帰還するッ! 俺はそう宣言してやるぜぇぇぇ――――ッ!!!!」
◆QpsnHG41Mgは砂漠の中心で高らかに吠えた。
「さて、そのためにもまずは支給品を確認しないとなァ~……!」
叫んで気分が良くなったのか、◆QpsnHG41Mgの声は弾んでいる。
背負っていたデイパックを降ろし、中身を物色し始めた。
「あぁ、なんでこんなもんが……」
物色し始めて、すぐに手が止まる。
デイパックの中には、あまりにも目立つ支給品が入っていた。
「おいおいおいおいおい、おかしいだろうがよォォ!」
焦り、喜び、怒りの全てが混ぜ込まれたような声。
そこに入っていた支給品は間違いなく『当たり』である。
自らの目標を果たすために、これ以上の武器は無いだろう。
しかし、◆QpsnHG41Mgはその武器を信用できなかった。
何故かと言えば、自らが投下作によってその武器に名声は地に落ちたからである。
「待てよ、これがあるってことはまさか……」
ふとした閃きが脳裏を過る。
その閃きに従い、脳内で念を送ってみる。
すると、予想通りの現象が自らの身体に起きた。
「おいおい、マジかよォ~」
これがパロロワメモリの効力だろうか。
オーズロワには仮面ライダーWが参戦しているため、ガイアメモリについての知識はある。
ガイアメモリは”地球の記憶”を封印したメモリだ。
オーズロワの――――おそらく自らの作品を記憶したメモリなため、このような現象が起きたのだろう。
「なんか不安だぜ……」
本来ならば非常に頼りになる支給品。
だが、それらは自らの投下作によって地の底まで名声が落ちている。
不安は払拭することができなかった。
「まっ、いっか、使えるもんは使うのが俺の主義…………ん?」
遠くから足音が聞こえてくる。
だが、そこには奇妙な音が混じっていた。
砂を踏み締める音に混じり、何かが上下するような音。
その特徴的な音を例えるのならば――――
――――カシャ、カシャ、カシャ、カシャ
「アン、タは……」
対峙した瞬間、全身から汗が吹き出た。
視界に入れることすら拒みたくなるような威圧感。
だが、砂漠という何もない空間であるが故に嫌なほど目立つ。
夜闇の頂に君臨する月が、まるでスポットライトのようにソイツを照らしている。
銀の鎧、緑の複眼、黒の突起、紅の剣。
――――世紀王・シャドームーン。
「我が名は【世紀王】K.K.。……今は多ジャンルバトルロワイアルの書き手だ」
その名を聞いた時、◆QpsnHG41Mgは心臓が爆発するような衝撃に襲われた。
多ジャンルバトルロワイアル。
オーズロワと同様に仮面ライダーが参戦し、もうすぐ完結しようとしているロワ。
そして、◆QpsnHG41Mgは一つの事実を知っていた。
多ロワでの象徴とも言える参加者――――シャドームーン。
初登場から一人の参加者を虐殺し、その後も数多くの死者を出している。
少し前に投下された話では、六分割にも及ぶ激戦を繰り広げた。
それらの話を書いたのが、目の前にいる男だということを。
「貴様の名は?」
「お、俺は…………◆QpsnHG41Mg」
「フッ、やはりオーズロワの書き手か」
仮面ライダーオーズのキャラクターであることから推測したのだろう。
K.K.は短く笑うと、右手に握り締めた紅剣――――サタンサーベルを振り下ろした。
「しかも最初に出会えたのが貴様とは運がいい、シャドームーンを『綿棒』などというふざけた名前で愚弄した貴様とな」
心臓がバクバクと鼓動を早くする。
全ての思考回路が逃げろ、逃げろと警鐘を鳴らしている。
「世紀王の名を汚した罪、ここで清算してくれる」
「うわああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――ッ!!!!」
両者が動いたのはほぼ同時だった。
K.K.が踏み込んだと同時に、◆QpsnHG41Mgは先程と同様に念を送る。
すると腰回りにベルトが出現し、続くように彼の身体も銀色の鎧に包まれた。
それは目の前にいるK.K.と同じ姿――――世紀王・シャドームーン。
支給されたサタンサーベルを構え、雄叫びを上げながら疾走する。
「オラァァァァァァァァ――――ッ!!」
K.K.が振り下ろした斬撃を受けるように、◆QpsnHG41Mgも斬撃を繰り出す。
世紀王専用の武器であるサタンサーベル。
悪魔の名を冠した紅の刃が空中で拮抗する。
「なっ……」
だが、拮抗は一瞬だった。
◆QpsnHG41Mgのサタンサーベルに亀裂が走り、砕け散る。
対するK.K.のサタンサーベルは無傷。
「う、嘘だろォ!?」
「当然だな」
K.K.は何の感慨も無さそうに、まるでそれが当然であると言うように告げる。
「クソォ! シャドーパンチッ!!」
キングストーンから右腕にエネルギーに送り、◆QpsnHG41Mgは必殺の拳を繰り出す。
仮面ライダーの宿敵として君臨し続けた王の拳。
砕けないものなど、無い。
「シャドーパンチ!!」
合わせるようにK.K.も左拳でシャドーパンチを繰り出す。
二つの拳が衝突し、周囲に余波が飛び散る。
砂が舞い、岩が砕け、大地が振動する。
「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」
耳を劈くような悲鳴が反響する。
拳と拳と激突に敗北したのは◆QpsnHG41Mg。
激痛という言葉すら陳腐な痛みが襲い、左拳は粉々に砕け散る。
それを耐えることができず、◆QpsnHG41Mgはたたらを踏んだ。
「その程度か、なら終わりだ」
冷酷に、残虐に、死刑宣告をするk.K.。
腰部のキングストーンが輝きを放ち、両足にエネルギーが供給される。
その場で飛び上がり、空中で旋回。
両の足を揃え、絶叫を上げながら立ち尽くしている◆QpsnHG41Mgへと蹴り込む。
「シャドーキック!!」
高密度のエネルギーを纏った一撃は、激痛で動けない◆QpsnHG41Mgを容赦なく蹴り抜く。
◆QpsnHG41Mgのキングストーンは破壊され、銀の鎧は消滅する。
ウヴァの姿に戻った◆QpsnHG41Mgは、数十メートルは吹き飛んだ後に岩石に叩き付けられた。
「ゲホッ……ゲホッ……なん、で……」
砂の上で蹲り、血を吐きながら◆QpsnHG41Mgは問う。
同じシャドームーンでありながら、どうしてここまでの差が生まれるのか。
激痛で支配された頭では、その答えを導き出すことができない。
――――その答えはそれぞれの出典元にあった。
オーズロワと多ロワではシャドームーンの原作が違うが、それは大きな違いではない。
ここまでの力量差が生まれた理由は、二つのロワのシャドームーンにあった。
そもそも、何故◆QpsnHG41Mgはサタンサーベルを見つけた時に顔を顰めたのか。
それはオーズロワのシャドームーンが余りにも不甲斐なかったからだ。
途中までは世紀王として順調に活躍していたシャドームーン。
だが、脳噛ネウロとの邂逅がそれを一変させた。
一切の抵抗もできないまま一方的に嬲られ、拷問にかけられて無残な姿を晒す。
挙句の果てに隷属させていたウヴァに裏切られ、首を撥ねられた。
他でもない◆QpsnHG41Mg自身が書いた話だ。
その際にネウロが放った『綿棒』という一言が住人に受け、以後彼は『世紀王』ではなく『綿棒』と呼ばれるようになる。
死者スレでも、死亡者名鑑でも、ラジオでもそう呼称されている。
一方で多ロワのシャドームーンは、今に至るまで恐怖の帝王として降臨し続けた。
殺害数だけを考慮すれば、他の参加者に一歩及ばない。
だが、それを覆すほどの戦果を上げているのだ。
龍騎のライダーが三人掛かりでも歯が立たず、二体のサバイブすらも押し退ける。
仮面ライダー龍騎が更なる進化を遂げ、ようやく互角で渡り合うことができた相手。
二人が変身したのは、シャドームーンであってシャドームーンではない。
原作とは剥離した、それぞれのロワのキャラクターなのである。
「無様だな」
カシャ、カシャと音を立てながら、K.K.は歩を進めてくる。
死神が、一歩ずつ近づいてくる。
「や、やめてくれ……俺が居なくなったらオーズロワの書き手が減っちまう、完結から遠のいちまうんだッ!
アンタだってそうだろ! 自分のロワの完結を目指しているんだろ、俺の気持ちが分かるだろォォォ――――ッ!?」
もはや恥も外聞もない、無様な命乞いだ。
だが、オーズロワのためなら苦では無かった。
そもそもパロロワの完結とは、決して楽しいだけの道のりではない。
苦労して書いた話が受け入れられず、修正議論等の槍玉に上がることもある。
致命的な矛盾が見つかり、破棄になることもある。
自分の大好きなキャラクターを、何の見せ場もなしに殺さなければいけないこともある。
苦しくて、逃げ出したくなることもある。
それでも逃げ出さずにいれるのは、他の書き手がいるからである。
自らの書いた話が繋がれるのが見たいから、他の書き手が書いた話を自分で繋いでみたいから。
そして何より、オーズロワの完結が見たいからである。
「……確かに多ロワの完結は目指している
だが、それは今は関係ない」
K.K.は◆QpsnHG41Mgの懇願をばっさりと斬り捨てる。
「今の私が行うべきは、世紀王の絶対的な強さを知らしめる
ただ、それだけだ」
あまりにも残酷で、そして純粋な言葉。
今のK.K.の一言で◆QpsnHG41Mgは気付いた。
目の前にいる男は、誰よりもシャドームーンが好きなのだ。
仮面ライダーブラックの前に立ちはだかり、最後まで悪を貫き続けた仇敵。
その後も多くの作品で仮面ライダーと対峙し、今もなお多くのファンの心に根付いている。
歴代の仮面ライダーの中で最強の悪役。
K.K.という男は、それをたまらなく愛しているのだ。
そして、同時にもう一つに事実に気づいた。
それは自らがオーズロワに投下してきた作品群の傾向。
初投下で一人の少女を惨殺し、もう一人の少女を修羅に変貌させた。
その後もマーダーによる対主催への蹂躙は続き、一時は対主催に傾いていた戦況を瞬く間に塗り替えた。
悪による蹂躙、無情な死。
それこそが◆QpsnHG41Mgという書き手の作風である。
「死ね」
サタンサーベルが迸る。
冷たくて硬いものが自らの首に侵入してきた感覚を最後に、◆QpsnHG41Mgの意識は粉々に砕け散った。
★
「なんだこれは」
◆QpsnHG41Mgの首を斬り落とした瞬間、その死体は大量のメダルへと姿を変えた。
百を悠に越える銀のメダルに、着色されたメダルが少数。
緑の数が多いようだが、他の色のメダルもいくつか転がっている。
「コアメダルか」
仮面ライダーオーズにおいて、グリードは消滅するとメダルに姿を変える。
少々語弊があるが、今回は詳しい説明を控えよう。
そのルールはオーズロワでも採用されているため、ウヴァの姿で参戦した◆QpsnHG41Mgはメダルに姿を変えたのだ。
周囲を見回すと、◆QpsnHG41Mgの体内から飛び出たメダルが散乱している。
シャドーキックで蹴り飛ばした際、周囲に散乱したのだろう。
「私には関係のない話だ」
手にしておけば強力な力を得れるかもしれないコアメダル。
だがそれを、K.K.はあえて拾わない。
多ロワにおいて、シャドームーンはサタンサーベル以外の支給品を使用しなかった。
書き手として参加したのだからそれを遵守すべきである、と判断したのだ。
「次に行くとしよう」
散乱するメダルに背を向け、K.K.は歩き出す。
その胸に抱いているのは、シャドームーンへの愛情。
自らが優勝することで、その強さを知らしめる。
ただ、それだけだ。
【◆QpsnHG41Mg@仮面ライダーオーズバトルロワイアル 死亡】
【一日目・深夜/F-7/爆発シーンのロケ地】
【【世紀王】K.K.(◆KKid85tGwY)@多ロワ】
【状態】健康
【外見】シャドームーン
【装備】サタンサーベル@多ロワ
【持物】基本支給品×1、不明支給品0~2
【思考】
基本:シャドームーンの強さを知らしめる。
1:シャドームーンを愚弄した者を抹殺する。
[備考]
※行き先は不明です。
※F-7・爆発シーンのロケ地にコアメダル(カマキリ×2、バッタ×2、サソリ、ショッカー、ライオン、クジャク、カメ)とセルメダル(100個以上)が散乱してます。
また、この周囲には◆QpsnHG41Mgのデイパック(基本支給品×1、不明支給品0~2)が落ちてます。
※クワガタ(感情)が砕けたかどうかは不明です。
またオーズロワのルールに従い、◆QpsnHG41Mg氏が復活するかどうかも不明です。
※オーズロワwiki・ルールのページより引用。
2.コアメダルについて
(1)対応するグリード不在中に限り、同色3種の500枚のセルメダルが揃う場合、そのグリードは復活する
最終更新:2013年05月09日 20:08