6月5日、土曜日。
昨日と同じで、よく晴れた日。
本来なら、今日は学校はない日。
なぜ、私たちは今こうして学校に来て授業を受けているのかというと、5月に一日授業が丸々潰れたからだ。
5月の高校総体で何の気まぐれか総合で私の通う高校が三位になってしまい、全員で閉会式に向かう羽目になった。つまり、それの帳尻合わせである。
ちなみに甲府の高校に進学した坂田玲ちゃん曰く、『ウチは工業高校だから男子が多いでしょ? だから男子の部で上位に食い込むことが多いから、予め閉会式に出ることになっても平気なようにしているんだって』とか。
とりあえず来年ウチの高校が上位に食い込める可能性は低いので参考にならないだろう。
そもそも帰宅部の私にはどうでも良い件である。
「~はxに置き換えるから……」
午前中最後、4時限目の授業は有坂先生の数学。
小学校の頃から算数が嫌いで、中学生になってからも数学嫌いな私が高校に入って急に数学が得意になるわけもない。
私にとっては数学の授業なんて眠いだけの授業と化していた。
私以外にも無気力な奴は数学に限り大量発生する。
はっきり言って生徒からの有坂先生に対するの人気は全く無い。
気に入らないからと舐めて、無駄話をするヤツも出てくる。
その無粋な下らない雑談はこっちにとっては凄い不快なんですけど?
有坂先生は何かと口うるさいという評判だが、私は別に気にはならない。むしろ教えてもらえるだけで感謝という考えで私は授業を受けている(フリをしているとも言うが)。
まぁ、口うるさいのが嫌いという人もいるだろう。が、その原因を作っているのは自分たちだと自覚しているのだろうか、特に男子。特に教室の角だよ、そこ。
そもそも私たちは(授業料は無償化されたが)お金を払い、先生に教えてもらっている立場だということを忘れていないだろうか?
そのことを問い詰めたい。小一時間くらい問い詰めたい。
確実に言えるのは有坂先生は生徒に舐められているということ。(私とて結局授業を一生懸命に受けようとはしていない)
とにかく、いくら注意しても生徒が聞く耳を持たない。それではさすがの有坂先生も参ってしまうだろう。実際…………。
「今日はこれまで。週番、号令を」
「…………………」
「週番?」
「……みぃちゃん号令だよ、号令」
私の肩を叩きながら、後ろの席のゆきに声をかけられる。
そう言えば今週の週番は土曜日までだったわね……。って、えっ!?
「起立! 気を付け! 礼!」
慌てて立ち上がり、号令をかける。イントネーション変になっていないか、気が気でしょうがない。
「ありがとうございました!」
今まで抑圧されていた反動だろうか、妙に元気の良い声が響く。終わる時だけ調子いいんだから、こいつらは。
しかし、私がその内の一人であるのは否定できない。授業中より休み時間の方が集中して課題に取り組めるとか、末期の一例である。
「さぁ、お弁当食べよ!」
昼休みになればそれそれの仲良しグループでお弁当を食べる。良くも悪くもありふれた学園生活である。
私は積極的では無いほうなので、一人飯を食べずに済むというのは実にありがたい。
私は階段を上って屋上の向かう。
屋上の角が私たちのグループの定位置である。
「ほら、みぃちゃんも早く来なよ」
「まって~! 今行く~!」
私がいる女の子のグループのリーダー的存在であり、私の親友の『ゆき』こと萩野雪恵は私が最後に来たことを確認する。
大親友で同じクラスに在籍しているゆきが私よりも先に屋上にいるのは、場所取りのため廊下を猛ダッシュしているから。
「ねぇ、ゆき。あんたが廊下を全速力で駆ける姿が何かヤバいって、吹奏楽の先輩が言ってたわよ?」
隣のクラスでゆきとは小学校の頃からの付き合いの鈴木郁美がジト目と呆れた声で言った。
「たははは。高中最速と呼ばれた私の伝説はまだ死んでいないってことね」
「たぶん、それは褒め言葉ではない。それに高中最速なんて初耳よ」
ゆきの全力疾走は既に峡北高校の名物であるらしい。
「この高校の廊下で競争をやったら、女子最強、男女総合でもトップ10に入るのでしょ? 間違いなく」
「帰宅部なんてやってないで、陸上部にでも入ったら?」
「狭く複雑な廊下を速く走るテクニックと広く単純なトラックを速く走るテクニックは違うのだよ」
「それ、ウチの兄さんたちが似たようなこと言ってる。車の話なんだけど」
「どういうこと?」
「こっちの話し」
何となくアンダーグラウンドな雰囲気がしますけど? まぁ、それ以上は判らないか。本人もあんな感じだし。
「まぁ、休日出勤で金曜日の深夜アニメがリアルタイムで見れなくて残念な今日だが」
「出ました、オタク発言」
「それは関係ないでしょ! そんなことより、私たちにとっては特別な日。まぁ、昨日から言っているんだけど、みぃちゃんの誕生日が今日!」
誕生日。
今日……六月五日は薬袋美雪の十六歳の誕生日。
十六歳になった。私自身、それ自体はどうでも良い事のように思っている。
でも私のことを想って、祝ってくれる人がいる。それは素直に嬉しい。
「何のことはないいつものお弁当だけど優先権は全てみぃちゃんだからね」
弁当のおかずはみんなで分け合うのがこのグループのルール。
元々、お弁当に食べたられない物が入っていた時の対処法がいつの間にかおかず全般に適応されている。
が、あくまでも表向きの理由。なおかつそれが首謀者の作戦。
実はゆきがあるアニメ作品に出てくる『部活』のような雰囲気のものを作り上げるために作り上げられた作戦なのを私と首謀者以外は知らない。ちなみに『部活』って何部なんだろうか?
みんなが持ち寄るお弁当の中でも人気があるのは私の弁当だ。種類が豊富でゆきを筆頭に自分の弁当の中身より期待されている。
その理由は種類の豊富さだ。人気があるゆえにいつも私は自分のお弁当のおかずにありつけない…………ということにはならない。なぜなら……。
「それにしてもみぃちゃんの弁当箱大きいよねぇ~」
「だって、弁当箱の形で言えば女の子じゃないもん」
「あっ、あはははは……」
現物が私の手元にあるだけに否定できず、苦笑するしかない。
私が女の子でこれを言うので色気もへったくれもないのだが、私は大食いだ。おそらくクラス1位2位は争えるくらいの。
「そんなわけで、私たちはそんなみぃちゃんを喜ばそうと、ちょっと豪華なおかずを用意してきました」
「ふふふ。食べ物、それも豪華なもの如きでこの薬袋美雪様が満足するとでも?」
「と、言いつつ次々に箸が伸びるみぃちゃんはやはり食い意地が張っていることを確信した。あと、これは私からのおごり」
「私もあるよ」
「…………まぁ、自分で言うのも空しいけどさ、あまり積極的でなはい私のためにおごってくれるのは嬉しいけどさ、……全部コーヒー牛乳ってどういうことよ?」
「えへへへ~」
みんな笑ってごまかすばかりだ。
そりゃ、コーヒー牛乳は私の一番好きな飲み物だ。至高の飲み物と言っても(私の中では)過言ではない。
でもいくら私とて、合わせて1リットル以上になるこれを女子とは思えない量の弁当を食べつつ、飲むのは無理に近い。はぁ……。
「それにしても、昨日の席替えさぁ、席が一番前になって喜んでいたのみぃちゃんだけだよ?」
「そう? 結構前の方の席好きだよ、私」
「私は後ろの方がいいけどなぁ。隠れて携帯いじり放題」
「ほら、なんだかんだ言ってみぃちゃん真面目だから」
「そっかぁ!」
「って、ゆきは勝手に納得してますけど、その割に信用ないキャラが定着しているのは気のせいですか?」
「どうしてか教えてあげましょうか?」
「えっ? 何?」
「真面目だけど、要領が意外と悪いから」
「解り易すぎる回答ありがとうございます」
ちなみに自分でも要領悪いのは分かってます。
「それにしても、みぃちゃんそんなに食べて太らないわよねぇ。うらやましいわ」
「なんですか、それ嫌味?」
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