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 そこは日本のどこかにありそうな港だった。
 土地こそかなり広いが、どことなく漁村や漁港を思わせる。
 そんな港を赤色灯をつけた車たちが取り囲んでいた。
 そこへ一人の男が駆け込んだ。
「大西さん! 特務自衛隊と七三一部隊が到着しました!」
「ちっ、素早い対応だな……」
 大西と呼ばれた中年の男はあからさまに嫌そうな顔をした。
「……何か、気になることでもあるんですか?」
「葦原中国の軍と立場を転々とするやつらでしょ、悪く言えば。どちらも俺は好きではない……。お上は背に腹は代えられないとでも言うんですかね……。まぁ、正直言って、まともに考えれば俺たちに対抗する術はない……」
「……そうですね。拳銃でカラシニコフに対抗できませんって、七三一じゃあるまいし。今度上にせめて機関拳銃くらい限定的でいいから配備してくれって要求してみますか」
「手元には38口径のリボルバーしかない。……それでも俺は突入するつもりだ」
「おっ、大西さん! 考え直してください! 背に腹は代えられないんだったら、それは自殺行為ですよ!」
 そこへ淡泊的を装って玄が割り込んだ。
 玄は彼のような情熱を持った男は嫌いではなかった。だから、これから言う言葉を少し躊躇ってしまう。
「ちょっと失礼。ここの警察組織の方ですか?」
「そっ、そうですが……」
 大西は玄を睨みつけた。
「特務自衛隊の篠藤一等特尉です。よろしく。いきなりですが……あなた方には引き上げ命令が出ているはずです」
「そっ、それは……」
「あなた方の気持ちはわかります。ですが、以後この現場は我々が制圧します。何が起こるともわかりません……」
「我々は引け……。そう言いたんですか?」
 大西は皮肉っぽい言い方で返す。
「…………。既に各班が初期配置へ向かっています。我々が介入するからには他の組織に被害を出すことはできません。そこのところをどうか……」
「……自分だって護るものがあるんです! せめて、自分が作戦に加わることはできませんか!?」
「それを……認めることはできません」
 それを聞いて大西は苦虫を噛み潰したような表情をする。
 彼にだって今までこの地の治安を守ってきたプライドがある。
 できることなら自分を慕う部下を引き連れて単独で乗り込んで殉職することすら本望だった。しかし、確実に自分たちの手にには負えない。
 大西は自らを犠牲にしてでも住民の安心を護りたかった。だからこそ……退くことを選んだ。


『CROWN3より七三一全班。各班の状況を確認。班長はACCORDに報告。ACCORDは全班の確認がとれしだい、CROWNへ』
『ACCORD1よりCROWN3。全班の確認がとれました』
『こちらA班。A班からE班、初期配置につきました』
『CROWN3より七三一全班。邪魔者は排除。作戦の開始を待て』
『Dead foxよりAからE班へ。こちらも行動開始を待て。開始予定時刻は1200』
『特自、七三一全班へ連絡。作戦行動を開始する』
『CHASER、了解』
『240SX、了解』
『A班、了解』
『180SX、了解』
『CRESTA、了解』
『C班、了解』
『B班、了解』
『VEROSSA、了解』
『D班、了解』
『E班、了解』
『MARK、了解』
 続々と無線が飛び掛かった。

『CROWN3よりCHASER、240SX、180SX、CRESTA、VEROSSA、MARKへ。作戦開始だ』
 CROWN3こと怜緒那の冷静な声を隊員は聞いた。
 それと同時に特務自衛隊側も動く。
『切り込み班、A班は行動準備にかかれ。第一関門突破はお前らにかかっている。覚悟していけ!』



 突然響いた何台もの車のエンジン音に港にいた男たちは何事かと見回した。
 そして、一体静まった自分達を抑え付けようとする勢力の攻撃が始まったのを悟った。
 各通路に設置したバリケードを装甲車はいとも簡単に突破する。
 彼らは悟った。
 さっきまでの奴らとは違う。本格的な戦闘組織が来たのだ、と。
 そして車両に書かれた文字を見て、それが特務自衛隊の介入だと知った。
 ……この段階で日本政府が介入してくるとは考えてもみなかった。
 あくまで自衛隊なのだ。まだ一発たりとも日本に向けて撃っていない。
 これから日本へ攻撃を仕掛ける拠点として港を強引に占領したというところで……。早速、その芽が潰されようとしていた。
「くそっ! ここで退くわけにはいかねぇ! どんな方法を使ったでもぶっ殺す!」
 AK47をもった男たちが二階建てのプレハブ小屋から出てくる。もちろん車両から降りた特務自衛隊隊員も89式小銃を手にしている。

「なっ、何だよあれ!? 走り屋か!?」
 そこへ通路を突破したの装甲車の隙間から爆音を轟かせ、スポーツ走行仕様に改造された車たちが流れ込んでくる。
 改造車たちは車両や隊員より前に出ると、黒いタイヤの跡を残し、白煙を巻き上げながら踊るように走る。その突然の光景に今まさに照準を定めようとしていた男たちの意識を分散させた。
 走り回る上に車から箱乗りの状態や窓から腕を伸ばしての銃撃が加わる。
 その隙を突いて攻撃するのが、車両に乗っていた隊員の最初の役目。
 改造車たちは走り回りながら、だんだんと男たちの出てきたプレハブ小屋の方へと近づいていた。
 ドリフトで巻き上げられる白煙、ゴムの焦げたような臭い。
 特務自衛隊隊員たちは八九式を構えながら前進する。
 改造車たちが揃って動きを止めた直後、特務自衛隊隊員たちの八九式が唸りを上げる。七三一部隊隊員たちもAK47や拳銃を手に援護する。
 そして改造車や即座に築き上げたバリケードを盾にした銃撃戦へと発展する。このまま撃ち合っても膠着状態にしかならない。


 この状況は怜緒那と玄は予想ができていた。その上でこの状況を故意に起こしたと言っても良い。
 AK47を撃ち続ける男たちの背後に拳銃を持った男たちが迫っていた。

『Sambar1よりCrown3。Sambar1から10は作戦位置につきました。Hijet1から9はバックアップ。Minicab1から15は哨戒へ回ります。それからB班、C班も作戦位置へ』
「『Crown3了解』……篠藤さん、予定通りですね。……死人は出てませんよね?」
 Dead foxこと篠藤玄、Crown3こと志村怜緒那は前線から引いた場所で指揮をとっている。
「死者は出てないぞ。しかし、クラウンとか180SXって、誰かさんの趣味丸出しだな。作戦にチューニングカーを使うあたりも」
「出来る限り殺すなよぉ……俺たちの目的は大量殺戮じゃないからな。よし、動くぞ! 『Crown3より各班へ。第二波を開始する。軽トラ部隊は細心の注意を払え!』」
 一番後方にいた男が背後に忍び寄った気配に気づく頃には既に……銃口が向けられていて…………。
 着物の男が素早く至近距離に入り込み、二発銃声が響く。隊員のMP5が火を噴く。
 相手の組織はあまり場数を踏んでいないことを知った怜緒那の作戦だった。
 異変に気づいた男たちが横や後ろを向く。それが更なる隙を生む。
 改造車やバリケードから前に進む、隊員たち。
 男たちが発砲する前に取り押さえる、その手際の良さ。後ろから忍び寄った隊員の近接戦闘術も冴え渡る。
 手錠の代わりに俗にタイラップと呼ばれる結束バンドで縛っていく。

『Dead foxよりB班、C班は第三派位置へ』
『Crown3よりSambar、Minicabも特自に続いて第三派攻撃に加われ』
「意外と手早く済みそうですね、怜緒那さん」
「相手の絶対的な経験値がないからですよね、やっぱり。……! あれは!?」」
 とっさの判断で怜緒那が自らの愛車である漆黒のR32GT-Rに乗り込むと、キーをひねる。600馬力クラスのRB26DETTが吼える。
 先程銃撃戦があったばかりの場所。まだ、隊員や男たちがいる。
 地面に散らばった薬莢を蹴散らし、人や物をよけR32GT-Rはプレハブ小屋の方へ向かう。
『怜緒那さん、何を!?』
「『殺さない程度に轢く!』……間に合えぇ!」
 怜緒那がGT-Rをスピンターンさせる。リアバンパーの角が一人の男に当たり、弾き飛ばす。
「死角を上手く突いたのは良い判断だが、仲間も巻き添いになる可能性があるからって躊躇ったな……。なら、RPG-7なんか持ち出すなよ!」
 怜緒那は車から降りて、足元に転がるRPG-7を見ながら言った。

 その頃、倉庫では再び銃撃戦が行われていた。
 倉庫という室内戦のでは特務自衛隊の隊員たちが本領を発揮する。
 後に残るのは空薬莢と硝煙の臭いと血の匂いだった。
 玄と怜緒那の会話の通り、経験という差で男たちは壊滅状態へと追い込まれていく。
 ごく一部の例外はあったが、拳銃やアサルトライフル同士の銃撃戦。戦力的な条件はほとんど同じだったのだ。そうなれば経験がものを言うのはどんなことでも、同じなのだ。
 

「くそっ! このまま、やられるかってんだ。せめて一矢報いてやる……」
「俺も同じですよ!」
「よし、残った奴で船に乗り込むぞ! 船には銃も弾もある!」
 捕まらなかった数人の男たちは小さめのフェリーへと走った。それを見逃すほど七三一部隊も特務自衛隊も甘くはない。
 制圧しようと後を追うが、一番後ろを走っていた男が何かを地面に落とした。
「なっ……!」
 視界が一気に悪くなる。強力な煙幕だった。
 後続の隊員たちは構わず追うものの、方向が分からない。煙幕で撒くためにわざと違う方向に走って煙幕を仕掛けている間に方向転換している可能性もあった。
 そんな状況の中、男たちを追えた隊員が二人いた。
 それは玄と怜緒那だった。
 二人は男たちのすぐ後ろに走っていたために煙幕の影響をあまり受けなかったのだ。
「あのフェリーに乗るつもりかっ!」
 二人は全速力で走るが、一番後ろを走る男がフェリーに飛び乗った瞬間、フェリーが動き出した。
「くそっ、何としてでも止めなければ……」
「篠籐さん、あの漁船で追いますよ!」
 怜緒那が指差す先には大型漁船があった。
「運転できるのか!?」
「免許はないがな」
「………………そっ」

 操舵室に駆け込むと、怜緒那はいくつかのスイッチをいじり、配線を手繰り、エンジンをつける。
「…………直結しやがったよ」
 怜緒那は船を全開で進ませる。
「大型漁船があってよかったな」
「全くだ。異界の漁船とはいえ漁船とフェリーじゃ、パワーが違いすぎる。よしっ! 飛び乗るぞ!」
 怜緒那がフェリーの横に漁船が並びかけたのを確認するとロープを持って、船の先頭へと出る。そして船のデッキの手すりに目掛けてロープを投げ、先端がひっかかる。
「いったい……? あれは!? ……ロープの先に鉤爪がついている……?」
 まるで忍者のようだと玄は思った。
「篠籐一尉も早く!」
 そう呼ばれ、我に返った玄は怜緒那が上った後のロープを登り始めた。


「既に乗り込むことは操舵室から見えているはずだ。気を引き締めていくぞ」
 ロープを使い、デッキへ上がると船内へと続くドアを開ける。
 ふと、上を見上げと、あそこが操舵室だろうか。広く見渡せる場所がある。
「わかってます。篠籐一尉」
 怜緒那は腰のホルスターからステンレス仕上げの大型拳銃を取り出した。
「相変わらず、オートマグⅢか。手に余るだろ、そのグリップサイズじゃあ」
「でも9ミリルガーじゃ、動きを封じることもできない可能性がありますし」
「マグナムオートが必要なのはわかるが、デザートイーグルじゃダメなのか? リボルバー用の44マグナム弾使えるし……」
「……………………………ぁ」
「………………………………そっ」
「…………………」
「まぁ、デザートイーグルもグリップサイズはでかいけどな」
「そっ、それにさ、.30カービンも色んな世界で流通しているし……」
「あんたの場合はそんなに必要ないでしょうに」
 側デッキから先へ進み、本格的なに船内の入口となるドアを開ける。
「俺は客室及び操舵室を制圧する。怜緒那さんは機関室などを制圧してください」
「わかりました」
「よし。3カウントで開始する。3…2…1…」
『0』のタイミングで怜緒那は地下へと続く階段を早足で降りていき、玄も客室の方へと足を進める。ちら、と玄は船の案内図を見た。
 どうやら客室の廊下を通り抜けるしか操舵室に行く方法がないようだ。正確には地下を通って行くルートもあるが、地下は怜緒那の担当。自分は自分に課した課題をこなさなくてはならない。
 玄は気を引き締めてサプレッサーを取り付けたの9ミリ拳銃とナイフを握り締めた。


「乗り込んだのは二人だって?」
「直接攻撃に加わってなかった奴らだがな。……一人はGT-Rで轢いてたな」
「来るぞ!」
 階段を駆け足で降りる足音が響く。
「考えなしの特攻か?」
「返り討ちにしてやれ!」
 階段の方向へ男たちは照準を定める。
 足音が段々近づいていていき……。
 ひゅん。
「……………?」
「……………ぇ?」
 赤い筒状の物が投げ込まれた。そして、皆が床を転がるそれを見た。
「は……発煙筒……………?」
 煙と光を吐き出すそれは自動車に備えつけられているタイプの発煙筒だった。
 既に点火されて時間が経っていたのか、狭い通路に煙が立ち込める。
 パァン!
 不意を突き怜緒那が発砲する。
「くそっ! 煙幕がわりにする気か!」
 パァン! パァン!
 パァン!
 パァン! パァン! パァン!
 狭い通路に充満し始める中、怜緒那は迷いなく引き金を引く。
 パァン!
 パパパパァン!
 パァン! パァン!
 パァン!
 硝煙や血の臭いよりも、発煙筒の臭いが鼻をつく。

 廊下の制圧を確認した怜緒那は勢い良く開け放った。
 パァン! パァン! パァン!
 銃声が響く。
 ドアを開けて間髪入れずの銃撃に銃を手にしていたのにも関わらず、制御室にいた数人は何もできずに倒れる。
「な、……なんで……一撃で仕留めようとしないんだよ……?」
 怜緒那が撃った弾の着弾点は全て頭以外だった。
 マグナムオートくらいの威力があれば胸でも瀕死にできるが頭……つまりヘッドショットを狙い、それが当たれば確実に死にと追いやれる。しかも、怜緒那の射撃は正確であった。
 だが怜緒那は頭以外の確実に動きを封じる場所に弾丸を撃ち込んでいた。
「ふん。本部長の趣向さ。ありがたく思いな。親に自分の死に顔も見せることができないなんて、もし死んでも死に切れないしなぁ!」
 パァン!
 怜緒那の攻め入ってない機関室は戦慄していた。
「つ、強いぞ、あいつ……」
「しかし、なんか変だ。銃である以上は……特にあの弾幕の張り方は……」
「き、来たぞ!」
 パァン! パァン!
 パパパァン!
 再び激しい銃声が響く。
 地下に何層もある機関室は物陰を使う室内戦の戦場と化す。
 怜緒那は上から制圧をし、下を目指そうとする。
 一人で機関室に乗り込んだ怜緒那ではやはり人数では分が悪い。致命傷にはなっていないが無数にできた掠り傷から血が流れる。
 少しでも気を抜いたら間違いなく死ぬ。そう怜緒那は直感した。
 アサルトライフルや数人相手では正面から突破などできるはずがなく、隙を突く戦い方しかできない。
 まるで綱渡りの如く、糸のように脆くなった集中力を最大限に使い丁寧に仕事をこなす。それは死を引き換えにしても貫く怜緒那の戦闘員としての自尊心だった。

「……やっぱりだ」
「何がです……?」
「あれだけ撃って弾倉を替えてない」
「……まさか、そんな馬鹿な」
「一瞬見えたが、奴のあれはオートマグだ。ガバメントクローンになってからのな。単列弾倉だから装弾数は十発以下。普通はたくさん替えの弾倉を用意する。実戦なら空の弾数なんか下に落とす。七三一なんか特にな」
「つまり……」
「薬莢の転がる音はしても弾倉の落下する音がない」
「……意外に鋭いな。ちょっとは見直そう」
 その声に振り返ると懐中電灯を片手にオートマグⅢの銃口を向ける怜緒那がいた。
「くっ……上や他の奴らはどうなったんだ…………」
「全部片付けたさ。ある程度の術者なら相手の殺気くらい感じられるさ。そこから人数や身長や向きを割り出してさ……」
「身長や向きを割り出せるなんて、凄腕のやることじゃねぇか……!」
 確かに自分たちとて殺気から位置は割り出せるが……。だが、それなら一人でここまで来た理由は解る。
「あんたたち二人に与えられた選択肢は二つ。素直に投降して裁判を受けるか、無謀にも銃を振り回して最悪の場合死ぬか……」
「そんなの決まってんだろ!」
 男の一人が懐から閃光手榴弾を床に落とした。
「くっ…………!」
 閃光手榴弾の放つ強烈な光に紛れて二人は散った。
 視界が戻る頃には怜緒那が既に隠れた一人に照準を合わせてオートマグⅢの引き金を引いていた。
「くそっ……勝ち目無しか……。でも、せめて奴の秘密くらいは……。ん………………あれは……!?」
 怜緒那が弾幕を張っているがおかしい。弾倉を替えるどころか地面に散らばる薬莢が異様に少ない。
 今排莢されたばかりの薬莢を見る。それは地面に転がり、数発続けてオートマグⅢの銃口が火を噴いた後に消えた。
「なにぃっ……!?」
 怜緒那がこちらを向いたのを見て、男は咄嗟に身を引く。
 パァン!
 一瞬遅れていたら、当たっていた……。
「そうか……奴は術者。……ループだ。ループを使っているんだっ!?」
「そこまで勘が鋭いとは……。この局所廻廊を使えば弾切れになる前に銃に使えばいくらでも撃てるし、弾と薬莢は元に戻っても弾がつけた傷は消えないしな!」
「横かぁぁあああ!?」
 男は咄嗟に声のした方にAK47を向けた。
 パパパパパァン!
 だが怜緒那は物陰に身を隠す。すぐに怜緒那から反撃があるものとして男も身を隠す。
 互いに動きゆ読み合う。
 次に互いの姿を見た時が決着の時だと二人は察した。
 既に組織間の戦いではなく、互いに一人の戦士としての殺し合い。そこには『戦場で生き残る』という本能のみがあった。
 最初に動いたのはAK47の男だった。
 閃光手榴弾を投げ、強烈な光を発生させる。

 怜緒那とAK47の男が動いたのは同時だった。

 目をつむり、全く見えない視界の中、互いに相手の放つ殺気を頼りに照準を定め、引き金を引いた。
 パァン!
 怜緒那の放った弾丸はAK47の男の心臓を撃ち抜き、AK47の男の放った弾丸は怜緒那のオートマグⅢを弾き飛ばしていた。
 AK47の男は倒れ込み、動かない。
 怜緒那のオートマグⅢを飛ばしたのは狙いが狂ったのか、それともわざとなのか。それはもう誰にも解らなかった。


 客室の廊下の前に閉められた扉が鎮座していた。
 まさか鍵が閉められたか?
 これだけ豪華な扉だ。ショットガンのスラグ弾じゃないとぶち破れない。九ミリパラでは役不足だ。
 だが、迷ってる暇はない。
 鍵が掛かっていないのならそこで待ち構えているはずだ。
 その時小さく銃声が聞こえた。
 それは怜緒那が発煙筒を投げた後に放った一発目の銃声。それを合図に玄は扉を蹴破る。
 鍵は掛かっておらず、扉は勢い良く開く。
 やはり、いた。
 扉の向こうにはAK47や何やらを持った奴らが待ち構えている。

 三人か…………。
 玄は一瞬で状況を判断すると、一気に駆け寄った。
 タン、タン!
 サプレッサーの効果で減音した銃声が小さく聞こえる。
 一人を九ミリ拳銃で仕留め、間髪入れずにもう一人を撃つ。
 怜緒那とは違い確実な致命傷を与える場所を撃つ。心臓だろうと頭だろうと関係なく。
 そして、最後の一人の背後に素早く回り込むと、頸動脈をナイフでかっ切った。
 玄が次の行動に移るのは数瞬の後。
 操舵室へ向かって走り出した。
 長い廊下を駆けていくと、ひとつの客室の扉が開いていた。
 間違いなくそこに誰かがいる……!
 玄は九ミリ拳銃をある一点に向ける。
 そして部屋から男が飛び出して来たのと、男の身体に弾丸が叩き込まれたのは同時だった。
 これまでに玄が数多くの経験で培ってきた勘がものを言う。
 素人丸出しの特攻など意味がない。

 玄は客室を抜けると階段を駆け上がる。途中で出会う雑魚には容赦なく弾丸を浴びせる。
 ここが操舵室。そしてここにリーダーがいる。
 玄が操舵室に飛び込み室内の人数及び位置を瞬時に把握。同時にフラッシュバン(閃光手榴弾と同類のもの)を放つ。
 閃光に乗じて九ミリ拳銃の引き金を引き、制圧しかけたが……。
 パァン!
 頬に走る痛覚。
 はっきりと視界が戻ると玄が狙った通りに頭へと弾丸は放たれていたのだが…………。
「―――――――っ!?」
 目を眩ませて生まれる隙を突いて撃ったはずだし、確かに当たった。ただ一人を除いては……。
 それは一番最後に刺すつもりでいた人物。……おそらくリーダー格。
「しかも、あれはデザートイーグル……!?」
 銃口の大きさから、あれ50AE仕様だ。
 リボルバー用弾薬も用いる44マグナムと357マグナム仕様はそれなりに流通していると聞いたが……。
 それに目眩ましが通用しなかったのか……。ここまで順調に進んでいたせいか、普通の人間以外を相手にしていることにすっかり失念していた。
 玄は瞬時に身を翻し、物陰へと隠れる。
 隙を見て応戦しようとするが、デザートイーグルの戦闘力は凄まじかった。机の陰に隠れている玄はとても不安を覚えた。
 金庫ならいざしらず、一般的な机だ。破壊力のある弾丸が当たらないとも限らない。心細いにも程がある。
「そんなものか! 特務自衛隊とやらは! 一人だと何もできないか!?」
「――――――――!」
 次々に弾丸が注がれる中、その言葉は玄の気持ちに再びの火をつけさせた。
 そうだ。
 自分が自衛隊になった理由……。
 初志を貫徹するからには、ここで縮こまっているわけにはいかない。
 その時一瞬銃声が止み、何が床に落ちる音がした。
 ……マグチェンジだ。空の弾倉を落としたな。
 瞬時に玄は机の陰から飛び出し、照準を定める。男は新しい弾倉を込めてスライドストップを解除しようとしていた。
 タン、タン!
 玄は銃を握る男の右腕と右肩に当てる。ならば、と男は左手で別の銃を握るが……。

 パァン!

 玄のいる方向、つまり玄に撃たれた場合の反動とは正反対の方向へよろめく。
 ちらっと見えた男の後ろにオートマグⅢを構えた怜緒那がいた。
 畳み掛けるように玄は残りの弾丸を放つ。
 タン、タン、タン、タン!
 頭、肺、心臓と狙い撃つ。
 あまりの素早さに男は痛みにもがく叫び以外に声を発することができなかった。


 事件報告
 平成22年6月28日未明。
 日本国政府は異界のひとつ(通称、常住ノ世、とこじゅうのよ)において以前から日本国に危害を加える可能性が危惧されていた組織のひとつ『常の軸(とこの軸)』が武力行使の動きを見せたとの情報を入手した。
 彼らは常住ノ世と日本国との境界の特殊性を利用しての攻撃を目論んでいたものと思われる。
 一般自衛隊に対処しにくいこと、地元警察との銃撃戦の事情を考慮して同日、早期の対処として特務自衛隊に出動要請が出された。
 12時00分突入。12時36分作戦終了。
 首謀者死亡のため、死亡のまま第三者機関へと書類送検となった。
 また、作戦の遂行に非合法の組織の協力があった事実を付け加える。

 

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最終更新:2013年04月20日 18:28