閉じ篭る事は決して悪い事ではない。
悪いのは常に下を向き、後ろを向く事。
彼女がその事に気付けるのに何が必要?
私の名は西邑澪。二十代の姿をしているが、正体は大正生まれの座敷童である。
この一年間私はアパートに閉じ篭り、心に閉ざしている。
「和人……」
きっかけは愛しい人と死別。
和人は私と同じ座敷童。ただ、病弱であった。
私の看病もむなしく、和人は一年前の春に亡くなっってしまった。
その後の私は何をするにもやる気か起きず、仕事もせずにこの部屋にいる。
カーテンを閉めきった薄暗く物が散乱した部屋の中、私は膝を抱えて背中を丸めていた。
このアパートの中の私の部屋だけ時間が止まっている。
ふと、テーブルの上にあるの物に目がゆく。
煙草の箱とオイルライター。
そういえば『くわえ煙草の澪は可愛い』なんて和人にからかわれったけ……。
澪は箱を手に取った。封は開けてあったが、一本も減っていない。
いつからここに、一本も吸って無い煙草の箱があったのか……。
煙草を一本取りだし、口にくわえる。ライターのホイールを回し、火花を飛ばした、
火花は薄暗い部屋の中で一瞬輝いた。だが、オイル切れのライターは火が点かない。
何度試しても点かない。それが判っても私はホイールを回し続けた。
その火花は、まるでを想いを寄せても届かない自分を見ているようで…………。
「………………」
耳に聞き覚えのある雑音が入る。
「……あいつのスカイラインか」
少ししてアパートの部屋の扉の鍵を開ける音が聞こえた。
「志村かよ。何か用?」
部屋に入ってきた男は志村怜緒那。
和人の親友であり七三一部隊の隊員。私自身としても仕事で七三一部隊と繋がりがあり、志村とは知り合いである。私の仕事はここでは語る必要もないので割愛する。
なかなか外に出ようとしない私を説得しようと、たまに訪れる。きっと、今日もそれだ。
「わざわざ東京からご苦労様です」
挑発するように私は言った。
「澪さぁ、いつまでそうしてるつもり?」
「………………」
「辛いのは判る。だがな、いつまでもそうしている訳にはいかないだろ? 澪がしっかり生きる事で和も安心するだろ? ウチはあんたが必要なんだ。解ってくれ」
「……………………」
私は膝を抱え下を向いたまま黙っている。
「何とか言ったらどうだ?」
「…………。――――」
くわえていた煙草が床に落ちる。
「何か言ったか?」
「――、綺麗事ばっか並べやがって、吐き気がすんだよ!」
オイルライターを玲英那に投げ付けると、勢い良く立ち上がり志村に殴りかかった。
「…………っ!」
が、あっさりとかわされてしまう。
細身で天然パーマの眼鏡と一見弱そうな志村だが、彼は七三一部隊での戦闘の一端を担っている。それなりに技術もある。
顔色を変えずに拳をかわした体勢から私の右腕を掴むとそのまま背負い投げをした。
物が散乱している部屋が余計に散乱する。
一瞬の出来事に目を丸くするしかなかった。
「勘違いすんなよ、澪。ウチは使える奴しか面倒見ないんだぞ。その辺は覚えとけよ。これ以上働かないなら、それなりの覚悟をしときな」
志村はそう言い部屋を後にした。
「…………んなの……解ってんだよ…………。…………でも、どうしようもないじゃん………………」
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