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 昨日の一件で美雪にとんでもない弱みを握られてしまった。
 普段、威勢の良い姉貴みたいに振る舞っているだけに……恥ずかしい。
 雷にびびって、おもらしして、妹分の美雪に引っ掛けちゃったくせに、後始末を美雪にやってもらうなんて……。
 穴があったら速攻入って、そのまま冬眠してしまおうか?
 あれ……狐って冬眠しったっけか? 確か、熊は冬眠したよな?
 あたいの頭の悪さはともかく、……千春の奴は雷、平気なんだよな。
 本当にあたいがあの役でよかったのだろうか。もし仕事中に激しい雷雨でもあれば、何も出来ない内に終わるだろうな。
 昨日のが春や夏の嵐だったら、こんなには気にしないだろう。こうして、うじうじと考えるのは十月があと数日なのだから。
 とりあえず、十月中のことを美雪に話しておかなければ。
「あのさ、美雪」
「なんです?」
 ……美雪の視線が冷たい。いや、痛い。
 そこへ拓弥の勝手な同居人と化している晴美が部屋の戸を開けた。
「夕飯の準備が出来ましたよ」
「はぁい。ほら、行きますよ奈積さん」
「はい…………」
 なんか調子狂う。


「本当に晴美さんって料理上手いですよね」
「だからってあたいの皿から横取りするな」
「奈積さん。昨日のアレ、ばらしても良いんですか? 私は今日のおかずをくれれば無かった事にするつもりですけど?」
 ……なかなか狡猾な奴め。
 だが、晴美の料理は美味い。あたいだってもっと食べたい。
「そういや、奈積と千春。今年も例年通りで良いのか?」
 そう拓弥が尋ねてくる。
 今日みたいに大久野さんがいないときは拓弥が仕切るときがたまにある。
「はい。今年もお供で行きます」
「ほうけ。しっかり調整すっから旅館のこんは何も心配すんな」
「ってな訳で、明日から忙しくなるから、気を引き締めな」
 仕切りすぎだろ、拓弥。
 ……美雪はいまいち飲み込めていないようだ。
「美雪、あたいと千春は十月中はこの旅館にいないからさ、しっかりやれよ」
「えっ? どうしてです? あっ、十月って確か神無月って……」
「そう。あたいと千春は出雲に行くんだ」
「でも、奈積さん。奈積さんは会議に必要な存在なんですか?」
 じゃあ、千春は必要かもしれないのか?
「あたいの一族、稲垣家の家業があってなそれで行くんだ」
「どんな仕事なんですか?」
 千春があたいの代わりに答えた。
「伏見稲荷ってあるでしょ? 私たち稲垣家はその伏見稲荷に使える一族なの。それで稲荷神様も出雲になの行かれるんだけど、その付き人として稲垣家当代の一家がお供するの。
 今の稲垣家の当代は私となっちゃんのお父さん稲垣毅なの。それで、付き人として私たちも同行するってわけ」
「ふぅん。確かに十月は出雲に神々が集まるっていうし。なら、この旅館も暇ってことか」
「なに寝ぼけてんだ、美雪ちゃん。さっき俺、言ったよな。忙しくなるって」
「えっと…………」
「しっかり高根の言い伝えにもあるぞ。十月に清里の美ヶ森に神々が集うって」
「何それ……」
「つまり、数ある別会場の一つがこの地だってこと。
 ウチの広間も使われるし、人間専用の客室以外はほとんど使われる」
「それが一ヶ月!?」
「あぁ」
「いつも以上に働くのが一ヶ月続くの!?」
「あぁ」
「二人抜けるのに!?」
「あぁ」
「拓弥さんは行かないんですか?」
「あぁ。……戦闘部隊関連は外部からの危険性を考慮してこっちでやる」
 いくら美雪が言葉で屈伏させようとしても拓弥はしれっと返すだけだった。
「出雲に行くのは位の高い者だけなの。だから、拓弥みたいに戦闘部隊を率いているくらいじゃあ、だめだし……」
「あのさ、千春さんよ、さらっと俺らの悪口言ってないか?」

 

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最終更新:2013年02月16日 12:46