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 突然、拓から携帯に電話があった。
「とりあえずS2000が仕上がったんで、ちと来てくれんか?」
「なんで? お前が俺の車で迎えに来ればいいだろ?」
「あのなぁ、俺の車をお前に渡したら俺の足が無ぇじゃんか。だから、工場まで来てくれ」
「はいはい。ジープはお前の工場に置いておくから、明日の朝は俺の家まで迎えに来いよ。明日の帰りにジープは取りに行くから」
「了解」


「どうだ?」
「結構感じが変わったな」
 工場で見たS2000の姿に俺は驚いた。
 外見はフェンダーが大きくなっていてウイングも大きいのが付いている。俺が顔を見せてなかった数日でここまで変わるものなのか?
「ボンネットもカーボンで軽いんだぜ」
 黒い色をしているボンネットはカーボン製か。そのほかは元々俺が塗装したオリーブドラブに処理されている。元々のより仕上げが美しい。
 これがプロの自動車屋のクオリティなのか。
「やってくれる店を探すのを苦労したんだぞ。普通は艶を出すのに艶消しのくすんだ緑だからな」
「それはどうも」
 なんかけなされた気分なので、ぶっきらぼうに答える。
「見た目どころか中身もずいぶん違うぞ」
 そう言って中身も見せてくれた。エンジンじゃなくて、室内だったが。
「シートも違うんだな」
「運転席だけだけどな。ブリッドのフルバケだぞ。タカタの四点式もしっかり付けたぜ」
「しかし……一番違うっていえばこの補強パイプか」
「補強パイプって……。まぁ、あってるけどロールゲージって言ってくれない? 業界用語的に」
 そのほかにも色々メーターが追加されていて、ステアリングコラムにはブーストメーターが付いていた。
 それにしてもこの追加メーターは軍用もものと違い、なかなかオシャレなものだな。
「よし、峠でセッティングを出しに行くか」


 俺はS2000に、拓はハチロクに乗って田代峠へと着いた。もうここからだと駐屯地も近いな。
「とりあえず、お前の腕も見せてもらうかな」
 そう言って、拓は頂上の駐車場でノートパソコンを持ち込んで助手席に乗り込んだ。
「さて、どうなるかな。こいつは」
 そういいながらパソコンと車体側の何かをケーブルで繋いだ。
「何やってるんだ?」
「モーテックで色々セッティングしててな、基本的な設定はできてるんだが、お前好みに合わせるために実走して微調整していくんだ」
「中々ハイテクなんだな」
「俺のハチロクだってモーテック制御だし、こいつはターボにS2000の後期用の電スロまで装備してるんだぞ。ノーマルとは色々違うし」
 アクセルペダルを踏み込みエンジンを吹かす。F20C改ターボは軽快なエキゾーストノートを奏でた。
「クラッチ……重くなったな」
「当然だ。ターボのトルクに耐えるようにとりあえずツインプレートの中でも凄いのを組んでるんだからな」
 強化クラッチに交換した為に重くなったクラッチペダルを踏み込み、シフトノブを握り締め一速にギアを入れる。
 クラッチを踏んだまま、二、三回軽く吹かした後、クラッチペダルをゆっくり離しながらアクセルを踏み、車を発進させた。
 駐車場から峠にS2000を進め、ステアリングを真っ直ぐに戻すと同時に、アクセルを目一杯開ける。
 加速Gが体をシートに押さえ付ける。それに怯むこと無くクラッチを蹴り、シフトを二速に叩き込む。
 一瞬Gが抜け、前のめりになりそうになる。そして、再びGがかかる。
 同様に三速、四速とシフトをぶち込み、スピードメーターはあっという間に100km/h以上を示した。
 最初のコーナーが迫る。
 ブレーキペダルを強く踏む。ABSをわざと効かせる。ペダルがキックバックのを更に踏み込む。的確なヒール・アンド・トゥで回転を合わせ、ギアを合わせる。
 ブレーキを軽く残しながら、ハンドルを切り込む。
 S2000を滑らかにコーナーへ滑り込ます。
 スキール音と焦げたゴムの匂いを残してコーナーを後にした。
 再びアクセルを踏み込む。
 S2000は漆黒の闇へと走り続けた。


 峠を何往復もして、峠の頂上にたどり着いた。
 拓のハチロクが置いてある展望台兼駐車場辺りが峠を攻める時の頂上地点らしい。他にも何台か走り屋らしい車がある。
「中々の腕じゃないか。医者の癖に遊んでるな? ……しかし、こんな設定でよく踏めるよ。人のこんは言えんけど」
 ターボ化したS2000は希望通り出力重視のセッティングになった。
 もちろん拓のハチロクとはブーストの立ち上がりなどが違うのだが、エンジンの特性の他に拓なりに俺の運転を見て癖に合わせたらしい。……実に胡散臭いのだが、扱いずらいわけではない。
 まぁ、ターボ車特有のタレに対応する運転を覚えなければいけないのが当面の俺個人の課題か。
 セッティングを終え拓はPCをシャットダウンさせている。

 そこへ一人の男が近づいて来て窓をノックした。
 何だろうと思い、窓を開けたのだが……。
「お前だよ、お前!」
「おっ、俺?」
 さっき気持ちよく走ってたのにすごい勢いで抜きやがって!」
 見るからにものすごく怖い人が出てきましたけど!?
 細身で天パーでメガネだけどなんかオーラが黒いですよ!?
 ……まぁ、素人が相手だから本気を出せば素手でボコボコにできるがな(ニヤリ)。
「なんだ、なんだ? 喧嘩売ってんのかぁ?」
 不機嫌そうに言いながら、拓が遅れて助手席から降りてきた。拓、お前さんまでさりげなくガンを飛ばすな。
「あっ……拓弥。こいつ拓弥の知り合いか?」
「まぁな」
 一気に大人しくなりましたけど、知り合いですか?
「こいつは俺の古い知り合いでよ、俺の店でこのポンコツにターボを付けたんだ」
 ポンコツは止めんかい、ポンコツは。
「拓弥はいいですけど、こいつここは初めてじゃないですか。それなのにすごい勢いで抜かれてムカつくんだよ」
「ああさっきオーバーテイクしたR32……お前のだったのね」
「判ってて言ってないか?」
「黒の32GT-Rなんていくらでもいるだろうが」
「とりあえずバトルしてスッキリさせたいんだよ」
「ははは、いきなりバトルかい。ま、がんばれ」
「そこは止めないのかよ!?」
「なら話は早いな」
「俺の言葉は無視ですか!?」
「勝負は下りの一本。ここは道幅があるから、横に並んで競争する奴でどうだ」
「ああ。了解した」
 仕方ない。ここは腕試しのつもりで受けてみるか。
 しかし、こいつ初対面相手にバトルを挑むとかどうかしている。……それとも拓の知り合いだから遠慮は無用とでもいうのか。
「そうそう。このR32も俺がチューンしたやつだから。排気量アップにHKSのタービンをツインで」
「思いっきり知り合いなんだな」
 そして拓はハチロクに載せられている無線で呼びかけていた。
「業務連絡~業務連絡~。今から下りバトル開始~。黒のR32と緑のS2000が爆走するんで、路肩に寄せるか、近い方のスタート地点に急いで走って~w」
「コースを開けるのか。ああ。下手くそがスピンしてそこに突っ込んだらバカみてぇじゃん」
 さも当然のように言ってのける拓。

 無線を聞いている人がほとんどなのか、次々に上ってきて駐車場に車を入れる。
 平日ということもあり、そんなに台数はいないと思っていたのだが、意外といるもんだ。
 道を攻めるのに集中していたからか、ほかの車を気にしていなかった。事実黒のGT-Rなんていたかどうか覚えていないわけだし。少しでいいから余裕を持たないと死んでしまうだろうな。


 しばらくして、コースを走る車はいないという連絡があった。
 拓の誘導に従いガードレールの切れ目の延長線上に車を並べる。
 相手のR32GT-Rは見たところノーマルで逆にウイングが無い。遠くから見たらただのスカイラインだろう。
 …………が、やけに低い車高は甘い考えを打ち消すのに充分な迫力を演出している。アイドリング音だって安定した音を奏でて、重い凄味があって……。

 一旦車を降りて、細かい拓から細かい説明を受けた。
 俺のS2000は車載無線がないため、もし一般車が上ってきたときなどの合図などを聞いた。
 違法行為とはいえできる限りの安全を取るために独自のルールを徹底させている訳だ。
 拓はスターター役を募りに行くとか何とかで野次馬共の方に向かっていった。
 そしてすぐに「俺がやる!」とかいろいろな声が聞こえた。
 GT-Rの男が俺の方を見た。
「さっきは喧嘩腰で悪かったな。でも、お前は速そうな奴だから……いずれにせよ、バトルを申し込んだかもしれないな」
「いえ。こちらこそ」
「控えめな態度だな。まぁ、謙虚なのはいいことだしな。それでいてただ者じゃないオーラがある」
「そう……ですか?」
「雰囲気とでも言うのかな。普段はできるだけそれを感じさせない、手練れの軍人のようなものがお前にはある」
「…………」
 彼の言ったことは、あくまで例えだろう。だが、普段の俺の事も言っているようで一瞬ドキリとした。
 分野は違ってもある程度の技量に達した者なら手練れを見抜けるのだろうか。
「おーし、カウントやる奴決まったから、そろそろ準備してくれ~!」
 拓の呑気な声が聞こえた。
 拓の方に振り返った瞬間、GT-Rのナンバーがちらっと見えた。
「あれ?」
「どうしたんだい?」
「八王子ナンバーじゃないですか。地元じゃないんですか?」
「ん~とな。俺と拓弥は……まぁあんたよりは年季はないが昔からの付き合いでな。よく甲斐の峠にも来ているんだ」
「そうだったんですか……。初対面ですけど……お互いにベストを尽くしましょう」
 分野が違っても俺にも解る。この人は恐ろしく速い。
 俺が追い抜いたときはきっと流していたんだろう。
「あっ……自己紹介がまだだったね。俺は志村怜緒那。よろしく」
「篠藤玄です。よろしくお願いします」

 

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最終更新:2013年04月20日 18:12