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 周りに懐疑的で私自身にも懐疑的じゃあ、おしまいだ。
 授業中も考えた。
 だからその日の授業は何をしたのか覚えていない。
 …………今日の弁当の中身さえ覚えないといえば嘘になるけど(苦笑)。
 先生に集中しろと言われたかも知れない。でも覚えていない。
 勉強より、旅館のことで頭が一杯だった。
 私のいる環境のこと。
 しかし、いくら考えたところで私が『薬袋美雪』である以上、それは変わらない。たとえ、私が旅館を離れてたとしても。
 ならば素直に『それ』を教授するべきなのだろうか。

 ……一度は決心した。
 だが、何かの拍子に決心が揺らぐかもしれない。私の決心など脆くて脆弱だ。
 どうせ働くなら一生懸命に働いた方が良いに決まっている。
 世の中には人間以外のモノと関わりたくてしょうがない人がいる。そういった人物に限って縁はないのは皮肉だろう。
 私のクラスにもいる。しかし私と同じように知って関わっている人は学校全体でもきっと両手の指を使っても余るだろう。
 少なくとも私の知る限りはいない……ああ、龍巳がいた。
 昨夜、私の弱さの一部の語った龍巳は除くとして……私の境遇を話し解り合える人がいなかった。
 私の境遇は隣で私と同じく自転車をこいでいる、親友のゆき(萩野雪恵)にも言えない。


 学校帰りにコンビニに寄ることにした私とゆき。
 私の高校から私の家までで急な坂がいくつかある。旅館は私の家からさらにその先にある。
 自転車で通学するには少々大変な道。途中で一休みしたくなるのも無理のない話しだった。
「みぃちゃんって、今日ずっとぼーっとしてたよね」
 ふと、ゆきに話し掛けられる。
 ゆきとは中学校で知り合って以来の親友。旅館の近所に暮らしている。
 私が放課後は旅館でバイトをすることになったので、ゆきと一緒の道を帰れる。そのことは私は素直に嬉しく思っていた。
「…………。私、そんなにぼーっとしてた?」
「そうだよ! 弁当の時以外はね」
「あぁ、そうですか」
 私は自然に足元を見ていた。
「どうせ、私は食い意地が張ってますよ」
「私の言おうとしたことを先読みして言わないの。みぃちゃんって、よく人の事を先読みするよね。……まぁ、みぃちゃんが何で悩んでいるのかだいたい分かるよ」
「えっ……?」
「だって、このタイミングを考えるとそれしかないじゃん。あそこの旅館のバイトのことでしょ?」
「……うん」
 さすがに何も知らないちぃちゃんに神や妖の事を話すわけにはいかない。
 うまく伏せながら、旅館で働く事になった経緯や一度は決心したが、どうしても一歩を踏み出せなくなりそうな気持ちを話した。

「それでね、これからどうしようかって考えてたの。……その、気持ちの問題として」
「結局、みぃちゃんは本当はどうしようと思ってるの?」
「そうだねぇ……。しっかりと気持ちを引き締めて、働きたいの」
 一度決めたことはしっかり責任を持ってやり遂げたい。
「うん……みぃちゃんなら嫌な事でも、すぐにやり甲斐を見つけて一生懸命になれると思うな」
 ゆきの言葉が理解出来ない。
「ゆき、それってどういう……?」
「だって、みぃちゃんってさ、この前のテストの練習問題集をさ、『めんどくさい』とか言っときながら、結局私より早く終わらせちゃったじゃない」
「それで?」
 ゆきは私を真剣な眼差しで見詰めてきた。
「つまり、みぃちゃんはどんな事にもしっかり努力できる力があるってってこと。自信を持ちなって」
 ちぃちゃんの言葉には確かに力強さが篭っていた。
「ありがと、ゆき……」

 ゆきの言葉に感動しかけていたのだが、それはゆきの次の一言で見事に打ち砕かれた。
「ところで、あの旅館って龍巳先輩がいるところだよね?」
「……………………、……………。…………はい?」
「だから、龍巳先輩の暮らしている旅館だよね。大久野屋旅館って」
「……そうだけど…………それが?」
「私ね……龍巳先輩のことが好きなの」
「ここで、いきなりのカミングアウトですか!?」
 脈絡もなく何を突然言い出すんだ、この娘は!?
「え? 旅館の話じゃん。そんなに驚いた顔して」
「私が旅館で働く心構えの話だったでしょうが!?」
「あの旅館って、高校生のバイトって募集してるかしら?」
「話を聞けっ!」
「あ~、龍巳先輩~」
「っていうかさ、龍巳……くんのことが好きなら同じ写真部に入ればよかったじゃないの?」
「いやいや、私なんてきっと駄目だって」
「でも、写真でしょ?」
「みぃちゃんは芸術を解っちゃいないね。絵と写真。この二つの芸術に共通して評価される対象の一つは?」
「なんだろう……?」
「構図だよ、構図。一瞬を写し取る芸術は構図がものを言うわ」
「でも……駄目って?」
「私の美術授業の作品を知ってるねぇ?」
「……ああ、そうですね」
 ゆきの作品。まぁ、物の形を捉えるのは上手い。だけど……構図、物の配置は小学校の高学年以下。一言で表すなら『残念な』って感じ。
「まぁ、茶化しはこれくらいにして」
「茶化しだったの!?」
「言った内容はほとんど本気だけどね」
「どっちなのよ!?」
「とりあえず、一生懸命にがんばりなよ」
「……。うん」


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最終更新:2014年12月01日 21:31