「あの……」
「何かしら?」
と言いつつ質問する内容は判っているって顔をしている。
やっぱりそうだ……。間違いない。
「鈿女さんは『異聞』っていうか、『読心術』を使えます……よね?」
前置きなど置かず、本題をきっぱり言う。もう敬語とか何?
「……あら? どうしてそう思うのかしら?」
鈿女さんは少しにやけながら理由を尋ねた。
「私の口に出してない考えまで読んで会話してましたので」
「それもそうね。……あなたも異聞が使えるでしょう?」
「判っちゃいますか……? でも、この旅館で働き始めるまでこの世界とは距離をおいてましたので、熟練してはいませんが」
「そうなの」
そして、鈿女さんは遠くを見詰めるような目をした。
「私はあなたと同じなの」
「…………?」
「元々、異聞の使える人間だったの。ちょうど今のあなたと同じ歳くらいまでかな」
「それって……?」
それはつまり、鈿女さんに私と近い歳くらいの時に何らかの事情があったということか。
「私はヒトと紙を繋ぐ……今でいう巫女をしていたわ。村の決め事でそれは決まったわ」
「それは異聞があったからですか?」
「そうよ。皆より力があるから神との対話もしやすいからってね。周りの気持ちを感じてしまって、子供らしさが少なかった」
鈿女さんと私は似たような境遇だったのだろうか…………。
鈿女さんは続ける。
「昔は大人になる年齢が早かった。だから、単純にあなたと私を比較は出来ないわね。でも当時の他の子より子供らしさが少なかった」
私も良く親戚から『少し子供らしさがない』なんて言われた。言い訳がましいが私のいる環境のせいと知らずに私だけが悪いように言われ続けた。
「……でも決まっていたのは巫女役だけじゃなかった」
突然の話の切り替えに、はっ、とする。口調も僅かに変化していた。
「ある日、村の馬鹿が禁忌を犯した。主様はたいそうお怒りになられた」
思わず、息を飲んでしまう。それはつまり……。
「あの馬鹿が捧げ物になれば良かったんだ! 全部あいつのせいなのに……っ!」
鈿女さんは突然怒りを表に出してに言い放った。
眉間にしわが寄り、いつの間にか手を強く握りしめている。
そう、鈿女さんに決められた役割は神への捧げ物、つまるところの生贄なのだろう。
鈿女さんの話が頭をよぎる。
『最後まで自分でやり遂げる。失敗したら自分で後始末をする。それが責任』
『責任を引き受けてもらったからってなんでもしていいって訳じゃない。自分にも責任がまわってくるつもりじゃないとダメ』
……つまり、鈿女さんは責任を負わされた身ということだ。
自分の犯した禁忌なら仕方ないだろう。でも、禁忌を犯したのは村の一員とはいえ他人。
言葉では言い表せないくらい悔しかったのだろう。
自分と同じような気持ちを誰かが少しでも感じて欲しくない。そういった意味も含めて私を諭したのだろう。
「うっ……うぅ……」
鈿女さんは涙を流していた。
声を殺して泣いていた。
今の鈿女さんは心の中をさらけ出している。さっきまで感じていた薄い壁(簡単に気持ちを探られないようちするための術だろうか?)が消え、異聞を持つ私に……悲しみが直に伝わってくっ……る……。
私も思わず悲しい気持ちになってしまい、涙を流していた。
そんな私の様子に鈿女さんは気がついたようで、私の背中をさすってくれていた。
「ごめんね、私の気持ちを映しちゃて……」
「いえ……いいんです」
私は指で涙を拭いながら言った。
「いいんです。鈿女さんが私と悲しい気持ちを共有して、それで、少しでも心が軽くなるならいいんです」
鈿女さんが簡単に感情を曝け出したのは私の姿を見て昔の自分を思い出したからのようだった。
此処まで感情的になる程悔しい。私が今まで経験した事のないくらいの憎しみがそこにはあった。
「ありがとうね……」
『いくら言葉にしても伝わらないこの気持ち……。伝わらないからあまりこの事は話さないでいたわ』
心に直接伝わってくる。
本能的に私を心で言葉を紡ぐ。
『私も相談じゃなくて、この……同じ気持ちを体験した人話すのは初めてです』
同じ異能を持つ者同士の、会話。
似たような境遇。心を互いに読む不思議な感覚。
『私は人の世を追われ、神の住まう世で神となった。一人ぼっちだった。……でもすぐに親身に接してくれる男の人が現れた』
『恋人、だったんですか?』
『違うわ。……なんていうか、お兄さんのような人だったわ。今でも、その人の生まれ変わりの人と仲良くしてるわ』
『それって、誰なんです?』
『ふふふ。秘密よ。……私はその人に孤独を救ってもらったわ。美雪ちゃんはそういう特別な人っている?』
『まだ判らないですけど、……私に優しい言葉をかけてくれる人が、ここに、この旅館にはたくさんいますよ』
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