アットウィキロゴ

「私と博麗の巫女の付き合いはかなり長いの」
 霊夢の反応をニヤニヤと眺めながらルーミアは続ける。
「色々恐い噂のある先代にも仲は悪くなかったって言ってたよな」
「人の母親にどんなイメージを持ってるのよ? しかも私が捨て子とか言ってるんだって?」
「ぜんぜん聞こえないな」
「でも、赤子に妖怪であるルーミアさんが近づいても退治されなかったという事は、余程信頼されてたんですね」
 普通は妖怪なんて近づけたくはないと思うでしょうし、と針妙丸は言う。
「巫女とはいわゆる……初代からの付き合いだからね」
「ええ!?」
「初耳だぜ!」
「私は何回か聞いたわね」
「そりゃ、霊夢は付き合いからだろ」
「私は海外の出でね、日本には年号で言うとの慶雲の頃に来たの」
「幽々子とタメ張れるな。亡霊が歳取れるのかは知らんが」
「まぁ、西行寺の姫君の事はどうでも良いんだけどさ、」
「言われてみれば顔つきも里の子供とも針妙丸みたいに見た目が幼い他の妖怪とは違うわよね」
「……霊夢、人の話を聞いてる?」
 ルーミアは大きなため息をついた。
「……でも、やっぱり違和感ある?」
「そうは言っても一度気にしたら、そうとしか見れないぜ」
「そうですよね」
 霊夢、魔理沙、針妙丸がそれぞれ頷き合った。
「これでも日本人寄りの顔つきになってきてるんだけどね」
「背丈とかは変わらず顔つきだけ変わるもんなのか?」
 それは成長とは違うものなのか? と魔理沙は問う。
「血の通う肉体を持っていても妖怪の根源は概念的なモノというわけですね」
「長いこと日本で『宵闇の妖怪』なんてやってるからでしょうね。でも流れる血は出身の地までは否定きれなかったたってわけね」
「…………?」
 霊夢はルーミアの事情をある程度知っているのか、納得していたが、魔理沙と針妙丸はルーミアが何かを否定したがっていた事までしか分からなかった。
「でさ、日本に来てから暫くは稗田の家に身を寄せてたの」 
 場の空気が悪くなり始めそうなのを感じたルーミアは明るく話を続ける。
「妖怪を阿求の家が受け入れてたのか?」
 意外な名前が出てきて魔理沙は驚いた。
 稗田家は当時の天皇家に使えていた人物をも輩出していたかなりの名家である。
「みょんな事で知り合ったの。今より妖怪が妖怪らしい時代とはいえ、私の姿は異国の少女にしか見えなかったみたい」
「まぁ、顔つきが違うとなれば、仕方ないな」
「頼れる人が少なかったから、絶対稗田家には危害を加えたくないと思ってたし、人外だとバレた後でも私の気持ちは伝わってたわ」
「異国の事は詳しくないけど、日本なら妖怪と神なんて曖昧だし、相互に信頼関係があればなんとでもなるわね」
 水辺で悪戯をする妖怪を水神として祀ったように。
「それで、稗田の本家が八ヶ岳の方へ館を移すことになってね。私も付いて行ったの」
「妖怪の山がかつての八ヶ岳の姿って聞いたことはあるな。大きさまでその通りかは怪しいけど」
「どうして八ヶ岳の方へ住居を移したんでしょうね。当時の稗田の家は都のはずでしょうし、人の畏怖が大きく関わる妖怪にとっても都のそばに居た方が都合が良いんじゃ……」
 針妙丸の疑問は当然である。
「富士山と八ヶ岳がそれぞれ姉妹の神って話は知ってる?」
「富士山が木ノ葉ノ佐久夜姫、八ヶ岳が石長姫。ニニギの命が佐久夜姫だけを関係を結んだから、人間(天皇)の寿命は短くなったっていうあれだろ?」
「八ヶ岳の石長姫はその名が示す通り石の用に永い命の象徴。永い命を持つ人外が集まっても不思議ではないわね」
 魔理沙と霊夢がそれぞれの知識を出す。
「そう。実際当時はただの山奥の里なのに力の強い妖怪が集まっていた」
「それが現在の幻想郷の場所だったってわけね」
「そして、そこには初代博麗の巫女、つまり霊夢の祖先が居たわけだな」
 その時から博麗の巫女とルーミアの関わりができた。
「でさ、その地に神社が建立されたばかり、って聞いたから見に行ったら退治された。かなりボコボコにね」
「まさに博麗」
「私が余りにも弱いし、「あの」稗田の家と仲が良いのを知って態度が改まっちゃってさ」
「霊夢よりは柔軟なんだな」
「うるさい」
「でさ、おまけに封印までされちゃってね」
 魔理沙がふと浮かんだ疑問を口にする。
「ちょっと待て。封印前でも力は弱かったなら、封印されたのは何故だ? そもそも何を封印したのさ?」
「……私を危険視した妖怪の賢者が博麗の巫女にやらせたの。『あなたが今まで力として取り込んできた闇は醜悪すぎる』なんて言ってさ」
「取り込んだ……闇」
 ルーミア本人は特に問題はないような態度を取っていたが、妖怪の賢者……おそらくあの八雲紫がそう断言して封じた。その事実に魔理沙は驚きを隠せない。
「何引いてるのよ、魔理沙。ルーミアは闇を操る妖怪よ」
「つまり、正確には様々な『闇』を操れて『宵闇』ってのは言葉遊びみたいなものか」
「妖怪としての力が弱いなら、それを補えば良い。……私が使った小槌のように」
「でもさ、私はそれを使って騒動とか起こすつもりは無かったの。理不尽だよね」
 リボンのように髪に付けられた封印の札である赤い布に触れて、痛みが走る。やれやれとルーミアは笑った。
「それでさ、お前は妖怪で……妖怪は人喰いなんだよな?」
 稗田家との現在の関係をルーミアは語っていないが、少なくとも昔は仲良くしていた。
 そして阿求が書いた幻想郷縁起には妖怪は例外なく人喰いと書かれている。
「ああ、それ? 確かに人肉を喰らった事もあるわ。でも、私は心を糧に生きる類の方の妖怪……人の闇を恐れる恐怖心を糧に生きる妖怪」
「人の心……」
「小傘みたいなタイプね」
「札の効果なのか分からないけど、あまり必要なくなってるけどね」
「少しは必要なんですね」
 針妙丸のは警戒していた。だから大丈夫だって、とルーミアは苦笑する。
「食べ物と心の闇。その二つが私の命を繋ぐ方法だからね。どちらかだけを食べることを止めれば死んじゃうよ。妖怪の概念的な問題以前に」
「とはいえ、あの紫が警戒するんだから……よっぽどの代物だろ」
 ルーミアの態度から自分の力をどの程度把握しているのか、魔理沙は不安に思った。
「紙のお札よりは丈夫な布製でも効果は長いものじゃないから、定期的に神社に来るようにって言われさ、よく神社に行くようになったの。
 封印されてても生活には支障がなかったしね。私が神社に通って半年くらい経った頃には互いに気心許せるまでになってたの」
「妖怪は人間に退治されるもの。妖怪は人間を襲うもの。が根底から覆りそうだな(笑)」
「やがて、巫女は結婚して子を産んだ。それからはその子供の遊び相手役が私になっちゃってさ」
「まぁ、実年齢はともかく見た目は子供だもんね、あんた」
「それで、その子にとって私はずっと仲良しの幼なじみ。その子が博麗の巫女を継いで、私が妖怪と知ってても退治しようとは思わなかったみたい。
 札の手入れや交換も母親と同じようにしてくれたの。そして、その子が愛する相手を見つけて、私は生まれた子供の遊び相手。それを今まで繰り返してきたの」
 永年続いてきた巫女と宵闇の妖怪の関係を素直にすごいと針妙丸は感じていた。
「という事は、いずれは霊夢さんの子供の遊び相手になるんですね」
「まぁ、そうなる可能性はかなり高いかな」
「確かに霊夢がルーミアのリボンを外して髪をすいたりして手入れしてるところを見たことあるけど、あれは札の交換のついでだったのか」
「魔理沙、あんた見てたの?」
「変な趣味でも始めたのかと思ってその日は声を掛けずに帰った」
「あることないこと言いふらしてないでしょうね?」
 妖怪が霊夢を好いているのはともかく、霊夢が妖怪と仲がよいと思われては博麗の巫女としての面目が丸つぶれである。
「言ってないぞ。霊夢にも面子ってもんがあるのは知ってるさ」
 霊夢は胸をなで下ろした。


「そもそも、変な趣味ってなんなのさ」
「外の世界では『ろりこん』というらしい。早苗から聞いた」
 


戻る
宵闇の瞳 一覧

最終更新:2014年12月02日 00:34