「熊野ー、提督ー!おっやつの時間だよー!」
時刻は午後三時を少し過ぎたところ。
溜まった書類の処理にも目処がつき、そろそろ一息入れようかと思っていたところに鈴谷が司令室にやってきた。
手に持ったお盆の上にはケーキや紅茶が載っている。
「間宮さんのところで貰ってきたんだ、二人と一緒に食べようと思ってねー」
テーブルにそれらを並べながら鈴谷が答える。
「あら、ちょうどいいですわね。一息入れましょうか、提督」
書類の処理を手伝ってくれていた秘書艦・熊野も同じ気持ちだったようだ。
かくして午後のちょっとしたティーパーティが始まった・・・のだが・・・。
(何で俺はコーヒーだけなんだ・・・)
熊野の手元にはチョコレートケーキと紅茶、鈴谷の手元にはモンブランとコーヒーが置いてある。
しかし、提督の手元にはコーヒーが一杯だけ。しかも砂糖もミルクも入っていないブラックである。
別に提督は甘いものが嫌いなわけではない。というよりむしろ好きだ。甘党だ。
そのことは付き合いの長い鈴谷も知っているはず。
なのに、である。
(貰い忘れたのか?いや、それなら一言入れるはず・・・)
(なんでこんな仕打ちを・・・鈴谷め・・・)
談笑する熊野と鈴谷を恨めしそうに見つめる提督。
その視線に気づいた鈴谷がいたずらっぽく微笑んだ。
「な~に?提督、ケーキ分けてもらいたいの?」
「べ、別に・・・」
鈴谷の問いに少し意地を張る提督。
「もーそんな意地張んなくていいからさぁ。はい、アーン♪」
鈴谷はモンブランをフォークに乗せ、提督に差し出す。
口の中がブラックコーヒーの苦味で満ちた提督にとって誘惑はまさにクリティカルヒットであった。
「し、仕方ないな・・・」
「でも、ざ~んねんっ」
口をあける提督。
しかし、鈴谷のフォークは提督の口の前でどこぞの艦隊ばりのUターン。そのまま鈴谷の口の中に納まってしまった。
「お、おい!鈴谷・・・!」
「んふふ~♪」
むっとして語気を強める提督。
しかし、鈴谷はニコニコしながら立ち上がり、提督のところにに駆け寄ってきたかと思うと
ちゅっ!
提督に唇を重ねてきた。
と同時に何かが提督の口に押し込まれる。
「ど?おいしい?」
「え?・・・ああ・・・?」
唇を離した鈴谷がまたもいたずらっぽく微笑む。
突然の出来事に提督は口の中のモンブランの味を確認することも、鈴谷へまともに返事することも出来ない。
「な、な、ななな、何してますのー!!!」
顔を真っ赤にした熊野が立ち上がり叫ぶ。
「え~・・・おすそ分け?」
「そ、それにしたって、く、口移しだなんて・・・!」
平然と答える鈴谷とうろたえる熊野。提督は未だに夢から覚めない。
「だったらさー、熊野もやれば?」
「そ、そんなっ・・・!」
「いいのかなー?提督、鈴谷のモノにしちゃうよー?」
「っ~~~~!!」
鈴谷が熊野を煽る。
熊野は意を決したかのように目を瞑り、チョコレートケーキを一かけら口に放り込んで提督のところに駆け寄り、
んちゅっ!
唇を重ねた。
「・・・どうですの?鈴谷のよりも、甘いでしょう?」
唇を離し、頬をますます赤らめ、問いかける熊野。
提督は口の中のケーキとは違う甘さを、ぼんやりとした頭で感じていた。
― 結局このあと、熊野と鈴谷によるケーキの口移しキス合戦が行われ、提督の口がケーキ1ホール食べたかような甘ったるさに包まれたのはいうまでもない。