非エロ:提督×曙1-248避

提督×曙シリーズ
248 :提督×曙 side曙:2014/06/01(日) 23:44:04 ID:MpmLk9d2
「曙」
「なに。わざわざ名指しで呼び出すなんて、ずいぶんと偉くなったものね。このクソ提督」

あたしは駆逐艦娘、曙。
大破して放棄され、遠い昔に役目を終えたはずのあたしが、どういうわけか人間の女の子のカタチを借りて
今度は米英ではない謎の敵、通称「深海棲艦」を相手に、再び人間と戦うことになってしまった。
はじめはこの体にも戸惑ったけど、今では慣れ、この鎮守府で戦いの日々を送っている。
で、あたしを呼び出した目の前の男、この人がこの鎮守府の主である「提督」。
『前』の上官は、まあ確かにあたしたちの力が及ばなかったこともあったけど、理不尽なことばかり言うクソみたいな奴だった。
けど、この世界で上官になったこの人は…超有能というわけではないけど、うん、それなりにマトモだと思う。
まあ、認めてあげないでもない、かな。
で、その提督だけど…呼び出したクセに何やら書き物をしながら顔も上げない。
久々に呼び出されたのにあたしが少々不機嫌なのは、それが理由だ。

「…お前、強くなったよな」
「そうね。誰かさんのシゴキのお陰でね」

そう、あたしはここでは結構古参だ。古参なりに練度はかなり高いと自負していたけど、
ここ最近、既に制海権を得たエリアの残敵掃討に毎日駆り出されていた。
その作戦目的は知らされていない。訊ねても「今はまだ教えられない」の一点張り。
納得はいかなかったけど…まあ、仕方ないわね。それにも何か理由があるんだろう。

「その話を切り出してくるってことは、そろそろ最近の不可解な出撃の訳を話してくれるってことでいいのかしら」
「ん、まあそんなところだ。お前の練度は現状、俺の施してやれるほぼ最高のレベルに達している」
「ふーん…で?もうこれ以上能力は上がらないから第一艦隊から外すって?」
「んー…ま、そうするのもいいかも知れんがな」
「…」

しまった、また憎まれ口を叩いてしまった。
その上、返しのセリフ(多分冗談だけど…多分)で勝手に傷ついて、あたしってほんとバカ。
この人のことは…うん、正直言うと、感謝している。
あの頃のあたしは上官なんて碌なもんじゃないと思い込んでて、最初の時、顔を合わせるなりクソ提督呼ばわりしてしまった。
今ではそんな人じゃないことはわかってるけど、今更変えることも出来なくて、こんな態度を取ってしまう。
顔には出さないけど、多分嫌われてるだろうな。当然だけど。
でも、そんなあたしを遠ざけることもなく…むしろ他の子達よりも積極的に、いろんな任務を任せてくれた。
期待に応えられているかはわからないけど、それなりに信頼してくれている…と思う。少なくとも艦娘としては。
ごほん、と咳払いをして顔を上げた提督が用件を切り出す。

「本題に入るぞ。上が艦娘の能力を更に引き出す、新しい技術を開発したそうだ」
「新技術?」
「ああ、そうだ。今のお前の限界を超える力が手に入る。正確には、従来の限界を超えて鍛錬の効果が出る、ということだそうだ」

へえ…本当だとしたら、ちょっとすごい話だ。
あたし自身艦娘がどういうものなのかもよくわからないのに。

「他にも燃費が少々良くなるらしい。あと、ささやかな加護が得られるそうだ」
「ふうん…加護ってのがよくわからないけど、燃費が良くなるなら大型艦向きじゃない?」
「で、それをお前に施そうと思う」
「あんたあたしの話聞いてた?元々消費の軽い駆逐艦の燃費を上げてどーすんのよ。
 それに、たかが駆逐艦の能力をこれ以上上げたって大した戦力増強にならないわ」

あたしは自分が正しいと思ったことは口に出すタイプだ。
『前』にあたしに乗っていた人たちはこれが災いしたのかもしれないけど、艦娘になってもこれは変えるつもりはない。

「付け加えると、これを受けられるのはひとつの鎮守府につき一人の艦娘だけ、ということだ」
「はあ?じゃあますますあたしに施す意味が薄いじゃない。
 武蔵さんや長門さん、加賀さんたちのためにとっておくべきでしょうが」
「まあ、理屈で言えばそうなるな」
「だったら…!」
「それでも俺は、お前に施したい」
「何でそうなる…施し『たい』?」

まくしたてたところで、違和感を感じた。理屈が通ってないところもそうだが、決定権がまるでこちらにあるかのような口ぶりだ。

「ああ。この件に限っては、艦娘側に受けない自由がある。命令じゃない」

どういうことだろう?下が拒否できる命令…命令じゃないんだっけ?なんて聞いたことがない。
あと、何やら提督がやたらと不安げな、そわそわした表情なのも気になる。

「これが、…その、装置だ」

提督が引き出しから黒い小箱を取り出して、あたしに渡した。

「ふうん?ずいぶんと小さいのねえ」

そんなすごい技術が詰まっているにしてはずいぶんと小さな装置だ。そう、ちょうど―

「本当にそんな効果がある…の…」

ちょうど指輪の箱ぐらい、と思いながら何の気なしに小箱を開いたら…本当に指輪(にしか見えない)が鎮座していた。
え?え?指輪型装置?にしては包装が大仰だしそうちょうど贈り物の指輪がこんな感じでもこれは言うなれば艦娘用パワーアップパーツのはずで…

「こ…れは、また、タチの悪い、冗談ね…」

混乱の渦の中、やっとのことでそう結論づけ言葉を絞り出す。

「まさか。正真正銘、上から降りてきた新技術…その恩恵を受けるための装置、いや、証と言った方が正しいかな。
 練度が最高レベルに達した艦娘にしか、効果が無いそうだ。…お前の、ここ最近の出撃の、理由だ」

ということは、本当にこれを指にはめると(そうやって使うとしか思えない)限界を超えることができるってわけ?
何でこんなカタチにしたの?これを開発した誰かはバカなんじゃないの?これじゃまるで―

「言い忘れていたが、その技術の名前は、"ケッコンカッコカリ"…と、言うそうだ」

ええ!?ホントにそういうものなの!?
ちょっと待って、鎮守府で一人だけしか受けられない、指輪、ケッコンカッコカリ、提督が…うわ顔真っ赤だ、そわそわしてる理由…
え、え、ええ~っ!?そ、そういうことなの!?

「いや、な?カッコカリと付いてる通りあくまでこれは艦娘強化策の一つであってだな、
 これを開発した連中が脳内お花畑の馬鹿野郎だってのは間違いない、
 まあ中にはマジで挙式する提督もいるらしいがいやそんなことは今関係ない…」
「…そ、それじゃ、ささやかな加護って…」
「…たぶん、愛の力、とか?」

何言ってんだコイツ…聞いてるこっちが恥ずかしいじゃない。
案の定自分のセリフで悶えてるし。バカじゃないの。バカじゃないの。

「ごほん、あー、さっきも言ったが、艦娘側に受けない自由があるというのは…まあ、そういう、ことだ」
「…」

言葉が出ない。これじゃ…まるでプロポーズ…というか、提督のセリフが…完全に…
訊きたいことが次々と生まれてくるけど、あまりに想定外すぎるこの状況に口から出てこない。

「…あたしなんか、可愛げもない、ただの駆逐艦なのに…、どうして告白なんかしちゃってるのよ…」

やっとのことで、一番最初に感じた疑問を絞り出す。

「あー、まあ何だ…惚れちゃったもんだから仕方ないな」
「惚れっ…!?」

今、惚れたって言った!?提督が?あ、あたしに!?
恥ずかしさに、思わず憎まれ口を叩いてしまう。

「よ、よくそんな、恥ずかしいこと言えるわね!顔、真っ赤っ赤じゃない!」
「うるせえ、お互い様だ。そりゃクソ恥ずかしいが、言わなきゃイカン時ってのはあるんだよ。曙…俺とケッコン、してくれ」
「……!」
「曙には、これからも秘書艦をやって欲しい。…ずっと、俺の…傍で、だ」
「…」

顔を真っ赤にしたまままっすぐこっちを見てそんなことを言える提督はすごいと思った。
ちょっと、そんなことを考えている場合じゃないでしょ!何か、何か返事を…

「あー… 曙、さん?」
「どうして、あたしなの…?」
「え?」
「どうして、あたしなのよ…! あたしみたいな一駆逐艦じゃなくたって、もっと綺麗で強い、戦艦や空母の方々にだって、
 アンタをすっ…好きだって…言ってる人もいるのよ…!」
「あー、金剛なんか特にな。光栄なことだよ…でも俺は、お前がいいんだ」
「…っ …あたしは…っ 提督に、いつもひどいことばかり、言って…っ」
「もう慣れたよ」
「ド、ドMなのっ!?」
「ははっ、そうかもしれんな…で」
「え…」
「どう、なんだ。受けてくれる…か?」
「…」

多分提督はあたしが返事するまでずっと待ってくれる。だから、応えなきゃ。
あたしが、提督をどう思ってるか、はっきり、正直に。

「あたし…は、提督のこと、は…好きとかっ、そんなんじゃ、なくて…」
「うん」
「どっちか…って、言えば、…その、かっ、感謝とか、尊敬とか、信頼とか、そういうので」
「…うん」

そう、あたしは提督のことは好きだ。でもそれは、上官としてで、恋仲とか、だ、男女の関係とか、そんなことは、
…そりゃちょっとは考えたことはあったけど、バカバカしい妄想として諦めていた。でも…

「でもっ…提督が…そう言ってくれる、なら」
「うん」
「まあ、応えてあげても、いいかなって… きゃっ!?」
「やった!曙、俺はお前を幸せにするぞ!んで、俺もなるぞ!」

突然抱きしめられた!
ちょっと待ってまだ心の準備ができてないっていうか今そんなことされたらいろいろ抑えられないというかああもう!

「ち、ちょっと!いきなり何サカッてんのよこのクソ提督!」
「うるせえ!これがはしゃがずにいられるか!コラ暴れるな大人しくしろ!」
「それが好きな女の子に言うセリフ!?ちょっと苦しいってば一旦離れむぅっ…!?」

いつの間にか提督の頭が目の前に迫ってて、口を何かで塞がれた。数瞬遅れてそれがキスだと気づいたあたしはまたびっくりして固まる。
あの提督に、キス…されちゃってる。今日はびっくりしてばかりだ。
提督はキスを続けながら頭を撫でてくれた。固まっていた体と心が解けていくみたい。
うん…悪くない。

「ぷは…っ …ちゃんと、セキニンは、取りなさいよ」
「勿論だ。ずっと大切にするよ、曙」

いちいちセリフが卑怯なのよ、このクソ提督。いつもはこんなカッコつけた事絶対言わないのに。
そんなこと言われたら…ほんとに好きになっちゃうでしょ…

「ふん、今までだって、…大切にしてもらってたけどね。これからは、あたしも返してあげるわ」
「しおらしい曙も可愛いぞ」

こんなこと囁かれて、嬉しさと恥ずかしさで爆発しそう。でもずっとこんな調子でも困るから、一応釘は刺しておく。

「うるさい。一言多いのよ、アンタは」
「…曙」
「なに」
「…これからも、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくね。…提督」

*


この後、実は何人とも「ケッコン」できる方法があることが判明し、ちょっとした騒ぎになるのはまた別の話だ。
…信じてるからね?提督。

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最終更新:2020年10月12日 21:06