「あ、天龍ちゃんだ」
司令官室にいた龍田が窓の外へ目を向けるとラバウル基地の港に近づいてくる艦隊を見つけた。天龍を旗艦とする第二艦隊だ。
「損傷は?」
後ろから低い声がした。龍田は窓から目を離さないまま、クスクスと笑う。
「天龍ちゃんと暁ちゃんの服がちょっとボロボロだけど、あとはみんな無事ですよぉ」
そう言ってクルリと室内を振り返った。執務机に座って書類の処理をしていた提督が手を止めて龍田を見ていた。
「入渠時間は短くすみそうだな」
「でも予定時刻より少し早いですよ。任務は達成できたのかしら」
「失敗してても次がある。龍田、第二艦隊を見てきてくれ」
龍田はニコリと笑った。
「はーい、行ってきます」
怪我をしていたのは天龍と暁だけだった。入渠ドックを見ると空きは一つしかなかった。他は戦艦と空母が使っており、次に空くのは一時間後だった。天龍は暁を先にドックにいれようとしたが、一人前のレディーとしてのプライドで暁は天龍の後にすると聞き入れなかった。天龍は龍田に目配せをすると龍田は膝を立てて座り暁と目線を合わせた。
「ごめんね~天龍ちゃんはこれから提督にご報告をしないといけないのー 旗艦だったし、待たせる訳にはいかないでしょ?」
ね?とお願いするように龍田は首を傾げた。暁はツンっと不機嫌そうな顔になった。
「もう、分かったわ。そこまで言うなら暁は先に入るから」
「そういうことでよろしくね~」
いい子いい子と龍田は暁の頭を撫でた。暁の顔がさらに不機嫌になる。
「子供扱いしないでよね!」
龍田の手を払うと暁は早足で入渠ドックの出入り口へと向かい、ピタッと止まってから後ろを振り返った。
「ほ、ほんとに先に入っちゃうからね」
天龍は呆れた顔で手を振った。
「いいから気にすんな、さっさと行けよ」
暁は両手でスカートの裾を掴み顔を伏せた。龍田と天龍からは暁の表情は分からなかった。
「あ……ありがと」
小さなお礼の言葉を聞いて天龍はニヤニヤと笑う。
「声が小さくて聞こえねーぞ一人前のレディさん」
暁が真っ赤な顔をあげた。
「う、うるさいわね!もう言わないんだから!」
プリプリした顔で暁はドックの中へと消えていった。天龍はカッカッカッと笑っている。
「もぉ~ダメでしょ天龍ちゃん。暁ちゃんはからかうとすぐ拗ねちゃうわよ~」
「お前こそガキ扱いして怒らせてんだろ」
「そんなことないわよ~」
天龍と顔を見合わせて龍田もクスクス笑った。天龍はポンっと龍田の肩に手をおく。
「んじゃあいつに報告よろしく」
「予測より敵艦船が少なくて、あと鋼材もいつもより取れた、ってことでいいかしら」
「そーそー量数えんのも任せた」
「あら~私だけで確認するの~?」
「俺そういうの苦手なんだよ。ドックが空くまで部屋にいるわ、じゃーな」
天龍はヒラヒラと手を振るとその場を離れた。龍田はヤレヤレ、と呆れたようにその背中を見つめる。
「秘書艦も楽じゃないわねぇ~」
その声はどこか楽しそうだ。
「これ報告書です~」
龍田は二枚の書類を提督に渡した。提督は受け取ると書類に目を落とす。
「遠征は大成功、といったところか… 鋼材は多くあっても困らないからな」
「そうですね~また戦艦や空母を建造します?」
ニコニコ顔の龍田とは対照的に提督の顔は苦渋の表情だ。先日調子に乗って新しい戦艦や空母を作ろうとしたらすべて失敗に終わり、一時期修理に必要な鋼材が足りないという事態に陥ったからだ。
「し…しばらく控える…」
「あら~残念です~」
「もう少し資源が溜まったらまた建造するさ。新しい仲間はまた今度な」
提督は申し訳なさそうな表情で言った。
「気にしないでください~それに、そういう意味じゃないので」
「そういう意味じゃない?」
「うふふ~何でもないですよ~」
龍田の意味深な言葉に提督は不思議そうに首を傾げた。龍田はフフフっと笑う。恐らく提督は龍田が新しい仲間を心待ちにしていると思っているのだろうが、龍田はお目当ての戦艦や空母が出来なかった時の落ち込んだ提督の姿を見るのが好きだった。もちろんそんな事は誰にも言ったことはない。これは龍田の秘密のお楽しみなのである。
「でも建造もいいけど装備も開発しなくちゃ」
提督はあぁ、と頷いた。
「偵察が西方海域で
潜水艦を発見したらしいしな、潜水艦に対抗できるものを作らないとな…」
提督はファイルを開いてページをめくった。
「…よし、装備を作る余裕はあるな…龍田、開発室に行くぞ。手伝え」
提督は椅子から立ち上がった。
「はぁ~い」
龍田は柔らかい声で返事をした。
これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
最終更新:2016年03月01日 22:57