提督×鳥海15-37「二度と取り戻せぬもの、もう一度取り戻せるもの」



『これは私の計算ミス……ごめんなさい…………』

「…っ!?」

俺は飛び起きた。見たくもない悪夢を見たからだ。俺の心臓は激しく鼓動していた。
最愛の妻が海の底に沈んでしまう……そうなってしまえば俺は朝の選択を後悔するだろう。
今日11月3日は俺の誕生日。本当なら愛する妻と息子と一緒に穏やかな日を過ごすはずだった。
だが妻の非凡な力ゆえにそれは許されなかった。
俺の妻は第二次世界大戦で名を残した伝説の重巡洋艦鳥海の魂を受け継ぎ、その力を持つ艦娘である。
そんな彼女はこの鎮守府で一番指揮能力があったため、今日行われる作戦を遂行する艦隊の旗艦として推薦された。
本来なら別の鎮守府の中将の艦娘が旗艦となるはずだったが、
予期せぬ事故により不可能になった為急遽彼女に白羽の矢が立った。
俺は大佐だったが指揮艦娘の選択権は俺に委ねられた為、鳥海ではなく他の艦娘を旗艦にするということも出来たのだが、
俺の私情で最大戦力を運用しないわけにはいかない。俺は補佐に摩耶を付けると指示し、鳥海に出撃命令を出した。
珍しく鳥海は…妻は不満を口にした。
よりによってどうして今日なのですか、仕事ばかりではなくもう少し自分の事も考えたらどうですか、と。
俺の立場や気持ちも十分理解している上での事とは承知していたが、
それでも不満をあらわにしていた彼女に申し訳ない気持ちになった。

「提督…………起きてらしたのですか?仮眠の邪魔をしてしまったみたいで申し訳ありませんでした……」

鳳翔が赤ん坊を抱きながら俺に声をかけた。鳳翔には鳥海が任務中の時に俺の息子の世話を任せていた。

「ごめんなさい…この子、珍しく泣き止まないんです。
 おっぱいが欲しいわけでも、おむつを変えなきゃいけないわけでもないみたいで……」

俺は鳳翔から息子を受け取った。それでもすぐには泣き止まなかったが、
父親に抱かれた安心感からかじきに泣き止んだ。

「申し訳ありません、この子を上手にあやせなくて提督の邪魔をしてしまって…」
「いや、そんなことはない。俺が起きたのは嫌な夢を見てしまったからだ。
 それで考え事をしていて、鳳翔に声をかけられるまでこの子が泣いている事に気がつかなかった」

ふと時計を見たら昼の2時の少し前だった。それはちょうど俺がこの世に生まれた時間でもあった。

「そうですか…でもなんでいつも大人しいこの子が泣いて…………まさか!?」
「…いや、滅多な事は考えるな。彼女を信じるんだ……」

その言葉は鳳翔にではなく自分自身に言い聞かせるように言ったのかもしれなかった……
眠気が消えた俺は落ち着いた息子を再び鳳翔に預け、仕事をまた始めたが、あまり身が入らなかった。
文化の日なのに雨が降っていたことや、さっき悪夢を見たせいというのもあるが、
朝妻と喧嘩してしまったことが俺の心の中に残っていた。
俺はかつて初恋の女性に対し軽い気持ちで悪口を言ってしまった。そのため仲違いをしてしまった。
俺は本当に軽い気持ちでまたいつもみたいな関係に戻れるだろうと思って謝ることをしなかった。
それが古くから…物心付いた時から10年以上も結び続けていた絆を断ち切ることになってしまったのだ。
そして人生の岐路、卒業式くらいは仲良くと思っていたがそんなことにはならず、
喧嘩別れをし、大人になって再会してもあの頃のように戻ることはなかった。
俺が謝りたいと思ってもその子と連絡が取れず、とうとう謝ってもどうにもならないことになってしまった。
俺は後悔した。そして同じ過ちは繰り返さないと誓った。
妻と付き合う前、一度すれ違いがあったが、俺はすぐに謝り、気持ちを伝え、そして二人の想いが通じ合って結婚した。
だがまた同じ過ちを繰り返した。そして今度は謝ることさえも出来ないようなことに…
いや!そんなわけない!そんなわけあるものか!!

「艦隊が戻ってきました」

艦隊が帰ってきたか……妻は…鳥海達は無事だろうか……
大破したら絶対に進軍するな、必ず戻れ、といつも言い聞かせてあるから大丈夫とは思うが
今回は大事な作戦だから無茶するかもしれないという不安はある。
今まではそんなことなく大破したらすぐに帰ってきていたが……
とにかく迎えに行こう。それで全てがわかる。俺は足早に迎えに行った。

「ッ…………」

俺は言葉が出なかった。雨に打たれた鳥海があまりにも見るに堪えない姿だったからだ。
他の艦娘達もボロボロだったが、それは精々艦装や衣服程度であり、肉体へのダメージは一切なかった。
しかし鳥海は艦装どころか肉体もかなり傷付いていた。
大きな怪我こそなかったものの所々痣や出血があったり、口からも血が流れていた。
その姿はとても痛々しいものであり、艦娘も他の人間と何ら変わりない存在だという事実を突き付けた。

「ごめんなさい…私がちゃんと鳥海の整備をしていれば……今日は出撃しないと思って後回しにしたばかりに……ッ!」
「いや…あたしがもっと空に気をつけていたら…………」
「私のせいよ……だって私は足が遅いから…そんな私を鳥海が……ううっ………」
「やめて、みんな…これは…全て私の…ミスが原因なの……だから………」

明石が、摩耶が、飛鷹が、そして鳥海自身がこうなってしまった原因は自分にあると言う。
だが誰か一人だけが原因というわけではない。
みんなのちょっとした行動全てが悪い方向に重なり合ってこんな事になったのだ。
そして俺もその中のひとつだった。俺が鳥海を出撃させなければそもそもこうはならなかったのだから。
だから誰かを責めることなんて出来ない。本当なら自分の間違いを認めたくないがために責めたいくらいなのに。
でも…………

「帰ってきてくれてありがとう……ごめんな……」

俺は傷付いた最愛の人を優しく抱きしめ、謝った。
最悪の結果という悪夢を見てしまった俺には愛する人が無事生きて帰ってきて、
もう一度謝ることが出来るというだけで怒りも何もかもなくなっていった。

「……うぅ……私こそ…ごめんなさい…………」

彼女は堪え切れなくなったのか、とうとう泣き出してしまった。

「私……怖かったの……大好きなあなたと喧嘩して…それで謝ることも…
 仲直りすることも出来ないまま死んじゃうかもしれないことが……」

いつもの丁寧な口調ではなく、まるで普通の少女のような口調だった。
俺と付き合い、結婚してから感情が高ぶると俺の前ではこんな面も見せるようになっていた。
俺と交わることによって変わったのではなく、鳥海の名を背負う艦娘として自分を抑えていたのかもしれない。
値が真面目な彼女だから鳥海であろうとして本当の自分をさらけ出すことが出来なかったのだろう。

「いいんだ…みんな生きて帰ってきてくれたんだから……だから…泣くな……」

そう言った俺も自然と涙を流していた。自分がこの世に生まれた時間に大切な人がこの世を去ることが避けられたからだ。
周りからも鼻を啜る音や仲直りできてよかったという声が聞こえた。気が付くとみんな涙を流していたのだった。
そして雨もいつの間にか止んでいた。俺達を照らす太陽の光はとても暖かかった。
このポカポカ陽気はもしかしたらあの時と同じだったのかもしれない。俺がこの世に産まれたあの日みたいに……

「さあ、素敵なパーティーしましょ!」

夕方5時、鎮守府屋上でパーティーが開かれた。俺の誕生日を祝うのではない。今日の作戦の成功を記念してのものだ。
ただ今回の作戦の責任者である中将が俺の誕生日を結果的に潰した上に、
俺の妻を傷付かせてしまった責任も感じたのかもしれない。
だからなのか作戦成功のパーティーにしてはいささか派手過ぎるものとなっていた。

「不幸だわ…みんなから誕生日を祝ってもらえないなんて……」

そう言ったのは山城だった。山城も俺と同じ11月3日生まれであった。
戦艦山城の進水式も11月3日であったため、彼女は戦艦山城の艦娘となる運命だったのかもしれない。

「仕方ないさ、祝日だしな。まあ文化の日が11月3日から変わることはないだろうな。
 11月3日は明治天皇の誕生日で、かつては天長節、今で言う天皇誕生日で祝日だったからな。
 時代が大正になり11月3日は祝日ではなくなったけど、昭和に入り明治節として再び祝日となって、
 そして戦後、日本国憲法公布と同時に文化の日として定められたんだよな。
 表向きの趣旨としては明治天皇とは一見無関係であるけど、明治天皇の功績を讃え、
 それを思い起こせるよう11月3日に日本国憲法が公布されたというのが正しいのかもしれないな」
「え、ええ……」

若干引き気味の山城。俺はわりと自慢癖があるのが欠点かもしれない。
まあ辞世の句が『な なにをする きさまらー!』となるようなことはないだろう、きっと。

「まあ文化の日で祝日だから友達とかと会うことなんて特別に予定を入れなかったらないわけだしな。
 でも俺はあまり不幸とは思わないぞ。家族と一緒にいられたわけだしな。
 いつも仕事していた父親も祝日だったら休みだったし、
 今にして思えば友達に祝ってもらえなかったけど遠くの街に行けたりして幸せだったのかもな」
「でも私には扶桑姉様しかいなかった……」

そう、彼女と、彼女の実姉の扶桑は親を病気で失ったのだった。彼女達の物心がつく前に。
そして彼女達は親戚のツテで鎮守府に引き取られ、検査の結果それぞれが扶桑型の戦艦になれると判明した。
艦娘となった彼女達であったが、艦娘への適性があったことがある種の不幸だったのかもしれない。
もし艦娘への適性がなければどこか平凡な家庭に引き取られて、
そこで義理とはいえ暖かい家族というものに触れ、
今とは違う生き方をして幸せになっていたかもしれない。

「みんなから祝ってもらったりしたいか?」
「ええ…でも祝勝会を私の誕生日を祝うことに使うなんて…」
「だったら別の形でもいいから祝ってもらえ。お前は今回の作戦で一番大活躍したのだからな」
「でも…」
「みんな、今回の作戦は山城のおかげで成功したんだ。だからみんなで山城を讃えようじゃないか」
「そうね……そういえば山城、今日はあなたの誕生日だったわね。
 あなたのおかげで今回の作戦は成功したけど、もしあなたが生まれてなかったら作戦は失敗していたかもしれないわ。
 だから私達みんながあなたの活躍を讃え、誕生日を祝ってあげるわね」
「賛成だね。山城だって、たまにはこんな時があってもいいさ」

後でそれとなく山城の誕生日の事を言おうと思ったが、
扶桑が気を利かせてくれたからこちらの手間が省けた。
俺の誕生日のことはスルーっぽかったが俺は別にどうでもよかった。
それよりも俺にはたった一人、祝ってほしい人がいたから。


祝勝会が終わったのは夜の10時だった。俺は、医務室で治療を受けていたため祝勝会不参加だった妻と共に家に帰った。
彼女は命には別状はなかったものの、傷や痣だらけだったから跡が残らないかと心配になったが、
鎮守府には艦娘のために様々な分野の優れた医師や薬剤師が常駐しているので、
彼女の傷や痣は治療によって完全になくなるだろう。
しばらくは通院が必要らしいから今日のところは防水用の特殊な絆創膏や湿布を貼っていた。

「こうして二人きりでお風呂に入るのも久しぶりですね」
「そうだな。こうして背中を流すのも随分久しぶりだ」

帰った俺達は早速風呂に入っていた。今までは風呂に入る時はほとんど一緒に入っていたが、
それはまだ小さい息子と一緒だったのであり、今日二人きりで入るのは本当に久しぶりだった。
息子は鳳翔が預かってくれていた。摩耶は今の精神状態を考えて不安だったからだ。

「……いつもごめんな。危険な場所に出撃ばかりさせて…今日だってこんなに…」
「いいのですよ、私の力がみんなの役に立っているんですから……
 ねえ…満月じゃありませんでしたけど、月も綺麗でしたから久しぶりにしましょう。最近ご無沙汰でしたし」
「け、けどさ…そんな体で…」
「あなただっておちんちん、腫れているじゃない」

彼女はそう言って振り返り、大きく硬くなった俺のちんちんの皮を剥き、たわわに実った豊かなおっぱいで挟んだ。
彼女とはゴム付きでのセックスが大半とはいえ幾度もしていたものの、包茎だった俺には刺激が強かった。
包茎だったが剥くことは出来たためいつも綺麗にしていた。
彼女のおっぱいは柔らかく、かつ弾力性があった。
そんなおっぱいで挟まれたり、上下に擦られたりされるのはとても気持ちがいい。
だがされるがままというわけにはいくまい。俺は反撃に出た。

「ひゃあんっ!?」

俺は彼女の乳首をつまんで刺激した。そして彼女が怯んだ隙に彼女の下腹部にある割れ目に指を挿れた。

「ん……あ…んっ………」

感じながらも彼女は俺のちんちんをおっぱいから離そうとはしなかった。
俺はなるべくちんちんがおっぱいから抜けてしまわないよう、ゆっくりと彼女の下腹部に顔が行くように体を動かした。
そしてシックスナインの体勢のような感じになり、そこにあった花びらと豆を舐めた。

「なんだよ、そっちだってクリトリスが腫れているじゃないか」

俺はお返しといわんばかりにそう言った。

「っ……もう……負けないわよ!」

今までの落ち着いた態度から一変。胸だけでなく口や舌も使って刺激してきた。
さっきよりも強い刺激が俺を襲う。俺も負けじと愛撫をしつつ激しく舐めまわした。
互いに譲らず一進一退……とはならなかった。

「も…もう……」

俺は限界に達した。それに反応した彼女は俺のちんちんを口で咥えた。

その刺激が更なる引き金となり、彼女の口の中にぶちまけてしまった。

どぷんっ!どぷん!どぷっ!どくん…………

自分でも感じるくらい濃厚に粘りつくような粘度だった。
それを彼女は何も言わず受け止めていた。

「……ん…………」

長い射精が終わっても尿道に残ったものまで吸い取るような感じで咥え続けていた。
そして全て吸い取ったのか、俺のちんちんについていたものを最後にペロリと舐め取って、それから口を離した。

「ん……………………」

ゴクン……

彼女は口から離そうとはせず、口の中に吐き出されたものを味わい、飲み込んだ。

「げほっ…………もう…あんなに絡みつくような膿が溜まってたんじゃ、あんなに腫れてもおかしくはなかったわね」

大人のお医者さんごっこのつもりだったのか、彼女はそう言った。

「……さっき出し切ったと思ったのに、まだこんなに大きいなんて……
 やっぱりおちんちんを小さくするには…これしかないわね……」

そう言われて気がつくと俺のちんちんはまだ硬かった。そして彼女は寝そべり、脚を開いた。

「ねえ…来て……今日は大丈夫な日だから…」

そう言われるや否や俺はちんちんを突っ込んだ。先程から充分濡れていたからか抵抗らしい抵抗もなくすんなり入った。

「あぐっ…」
「ん…」

さっき出していなければ久しぶりの生での感触であっさりと果てていただろう。
俺はなんとか耐えながら、腰を激しく動かした。そして彼女に口づけをし、激しく舌を絡め合った。
互いに全てを感じながら獣のように激しく貪り尽くし合う内に互いに限界が訪れた。

「んっ…!」
「んーーーーーっ!!」

ビュルルルルッ!ビュルルルッ!ビュルルッ……

俺は我慢なんてしなかった。一番大事なところで俺の想いを受け止めてほしかったから…………

「私で感じてくれてありがとう……私も気持ち良かったです……」

穏やかな顔だった。本当にそうなんだなと感じられるくらいに。

「今日の出来事を官能小説にしたらどれくらい売れるかしら…」
「おい!?」
「冗談よ。でもね…私、本当は小説家になりたかったの。それも夢のあるような内容の…
 小さい頃から色んな空想をしたりしていたの」

俺も知らなかった彼女の夢である。でも彼女は俺と出会う前から日記を毎日書き続けていたみたいだから、
今にして思えば物書きとしての片鱗を感じさせていたのだろう。

「夢を叶えるためには、世界を平和にしなくちゃ」
「そういや鳥海の艦装はどうしたんだ?」
「修理に凄い時間がかかるみたい。高速修復剤も効果がないし…」
「まあ無理はしない方がいい」
「そうよね。だから今は感じていたいの。ずっと触れ合えなかったあなたの暖かさを……」

二人で達した後も繋がったまま風呂に入っていた。互いの温もりを感じ合うためにだ。
ただ繋がっているだけのに、それは互いに快楽を求め合う行為以上に心の中が幸せだった。
互いを隔てるものもなく、一番大切なところで触れ合う。
たったそれだけのことがいかに尊く、愛と幸せを実感できる素晴らしいものか……

「……最高の誕生日プレゼント、ありがとう……」

俺は感謝した。彼女によって快楽を得たということよりも、
ただ彼女と繋がり、互いの温もりを感じながら同じ時間を一緒にいられる幸せに…………

それから約二ヶ月が経った。妻の傷も何もなかったかのように完全に回復した。
年が明けた1月1日、俺は家族三人で俺の故郷に帰省した。
子供を俺の両親に会わせたかったからだ。
夏は大きな作戦があったため帰るに帰れず、今になってやっと帰る暇ができたからである。

「やっとお義父様とお義母様にこの子を会わせられましたね」
「ああ」
「そして、あなたの御祖母様にも……」

俺にとって祖父や祖母の記憶があるのは父方の祖母だけである。母方の祖父は小さい頃に亡くなったからあまり記憶がない。
祖母の墓参りのために線香と花を買いに行ったとき昔の知り合いと出会ったが、俺の妻を見て驚いていた。
お前は未だにあの子のことを引きずっているのか、って感じの目で。
だが俺が彼女を愛した理由にかつて好きだった女の子が関わっているのも事実だし、
その子を好きになったのも俺の母と似ていた(といっても眼鏡をかけていたくらいか)からだろう。
だから俺が妻を好きになった理由に俺にとって大事な女性達が関わっていることは否定しない。
それに俺は単に外見だけで選んだのではなく、彼女の奥ゆかしい内面にも惹かれていたのだった。
それと最近知ったことだが重巡洋艦鳥海は進水日4月5日であり、その艦娘である彼女も同じ誕生日であった。
奇しくもそれは俺の父がこの世に生まれた日でもある。
そして重巡洋艦鳥海が沈んだ10月25日は俺の祖母が亡くなった日でもあった。
『鳥海』は俺の大切な人達の何かと間接的にせよ何かしら関わっている存在であるといえよう。
今の幸せな俺が存在するのは彼らのおかげであり、
そんな彼らの要素がこじつけとはいえ少しでもあった彼女と俺が結ばれたのはもしかしたら運命だったのかもしれない。

「でももうそろそろ帰らないと…」
「そうだな。俺達はこの国を…いや、この世界を守らなきゃならないからな」
「ええ……また三人でここに戻って来たいです。その時は……」
「よし、一日でも早くこの世界を安寧させなきゃな!」
「私は今はまだ戦えませんけど、摩耶達に『鳥海』の優れた点を教え込まないといけませんからね。さあ、やるわよ!」

だが『三人でここに戻って来る』。この願いが叶うことはなかった…………

それから更に一ヶ月、あの時から調度三ヶ月後の2月3日、節分の日のことだった。

「恵方巻って太いわよねえ……さあ、いくわよ!」

もはやつっこむのも面倒な如月の言葉と共に俺達の艦隊は恵方巻を恵方に向かいながら無言で食べた。
みんな思い思いに願い事をしながら食べていた。
そしてみんな食べ終わってほんの少し後、異変は起きた。

「うう………ゔゔっ!!」
「!?おい鳥海、しっかりしろ!」

真っ先に摩耶が声をかけた。当然周りはざわめいた。
提督夫人であり、それ以前に大切な仲間である彼女に何かあったら……
それを一番心配したのは飛鷹だった。彼女が恵方巻を作ったからだ。

「今医務室に連絡しましたわ。早く!」

吐瀉物を如月が回収しつつ叫んだ。俺達は全速力で医務室に向かった。


「鳥海は妊娠していたのね。しかも双子……何とも言えないわ…」
「でもよかった…鳥海に何も悪いことはなくて…」

貴重な戦力でもある存在が子を身篭るということにどう反応したらいいのかわからない山城、
自分が作った恵方巻が原因ではなく、ただの悪阻だったことに心から安心した飛鷹。

「でも私の計算では…こんな事…」

彼女は妊娠三ヶ月だった。彼女の計算ではあの日は安全日であり、
しかも毎月の日記から乱れは少しもなかった。
強いて言うならばあの日以来生理の日はなかったものの、あの日の出来事が原因な一時的なものだと決め付けていた。

「でも…なんとなくわからないでもない…あの日激しく傷付き、命の危険すら感じただろう。
 その時、種の保存本能が働いて排卵が起こったのかもしれないな。
 だが何故起こったのかを今言ってても仕方ないだろう。
 授かってしまった以上これからどうするかを考えるしかない。
 『鳥海』の艦装の修復は思ったよりもかかっているから、出撃とかはまったく考えなくてもいいだろう」
「あたし、もっと頑張るよ。今まで以上に、鳥海みたいに頭良くなるよ!」
「頑張ってね摩耶……私も頑張るから」
「二人とも、あまり根を詰めすぎちゃダメよ」
「そうなのです!私達もいるのです!」
「だからもーっと私達に頼ってもいいのよ」

摩耶も飛鷹も三ヶ月前と比べて完全に元気になった。
幼かった雷と電も随分頼れるようになった。
他のみんなも大切な仲間のためにやる気満々みたいだ。

「ありがとうみんな。でも時々思うの。私がこのまま艦娘として戦いに出ない日々が続いたら、
 私の力が衰えて、いざという時に足手まといになるんじゃないかって……
 そう思うとみんなに頼りきりというのも怖いの」

最近妻は普通の女の子みたいな喋り方をするようになった気がする。
鳥海の艦装を着なくなってからこうなった気がする。
初めて妊娠したときは戦場に出ずとも艦装を一日一回は着ていた。
もしかしたら俺達が今まで見てきた彼女の性格には、
鳥海の艦装の影響も少しあったのではないか、と。
あるいは責任感から己を抑えていたのか……

「心配するなって。鳥海の強さは頭にあるんだ。みんなに鳥海の頭脳が加われば最強さ!」

摩耶は自信満々に言う。俺もそう思うと同意した。

「本当にありがとう……」

妻は涙を流しながら喜んでいた。

「……あの時の願いは叶わなくなっちゃったわね……」

あの時の願い、それは『俺の故郷に三人で戻って来る』ということだった。
でも妻が双子を妊娠したことにより五人でということになってしまった。

「どんな願いだって、願った以上のことになるんだったらそれでいいじゃないか」
「これから大変なことになりそうだけどね。でもあなたがいるから私は頑張れるわ。
 だから、これからも一緒に居ましょうね。もし私に困ったことがあったら、
 そしてあなたに困ったことがあったら、いつでも二人きりで将来のことについて語り合いましょう」
「ああ!」

俺は力強くうなづいた。二人なら越えられないものはないって俺は心から信じているから。
信じている限り決して何も失うこともないと。
そして俺はどこまでも頑張れる。そう、君がいるから――――


―完―

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鳥海
最終更新:2014年11月09日 11:27