非エロ:加賀・赤城・瑞鶴15-75

 今日は朝からお味噌汁の具を多くしてもらえて気分が良かった。
 ほかほかと湯気の立つ真ッ白いご飯と、潮味のきいた焼きあじ。これに茄子と胡瓜のお漬け物がつ

いて、日によってまちまちだがおかずがふたっつもらえる。今日は胡麻とあえたほうれん草のおひた

しに、さんまの煮付けが一皿だ。昨日、いいさんまが安く入ったとか聞いていたから、きっとそのせ

いだろう。
 朝食にしてはやや多いと言われるかもしれないが(何度か言われた)、
 当然わたしは体調管理を怠った事などないので、いつも全品美味しくいただいている。
 やはり、一日というものは朝食から始まる。そして食事というのは白米が肝心なのだ。白米、お米

は、いい。大切だ。かつての帝国海軍における一航戦のようだ、とさえ言えるかもしれない。
「加賀さん、加賀さん。難しい顔してますよ」
「……そうですか?」
「ええ」
 生返事をしながら、手を合わせた。ここの箸は四角くて、けれど角は緩く丸められているために、全体的な印象は円に近い。手に持つと、ころころと転がしたくなる具合だ。
 まずはお吸い物に箸をつけるのがわたしは好きだ。少しだけ中をかき混ぜ、音を立てぬよう啜る。昨日はしじみだったが、今日は芋と椎茸。上には刻んだねぎが浮いている。くっと喉で飲み込むお味噌汁は熱く、胃袋がそれにつられてじりじりとした空腹を思い出す。箸でさわれば崩れる芋は煮え過ぎていたが、これもまたいい。
「……美味しい」
「ですねえ」
 あじの身を弄うわたしの右で、いそいそとご飯を頬張る航空母艦が見える。輸送艦もかくやたるさまだ。
 あじは口の中で遊ぶ小骨もまた味わいだと思う。
「む。少し、しょっぱい」
「そうですか?」
「でも、その分、ご飯が進みます」
「相変わらずね」
 かつての精鋭、一航戦赤城は白米主義の徒である。おかずはいうにおよばず、白いご飯だけでも美味しくご飯をいただけるという筋金入りの輩である。わたしだってお米は好きだが、ご飯にはやっぱりおかずが欲しい。
 そうやって、ゆっくりと、時折彼女と他愛ない会話をしながら、朝食をとっていた。その時までは。常時戦場とはいうものの、わたしはできれば食事ぐらい静かにとりたいと思う。凪いだ海のように平穏な心。それはわたしの好むところだから。

「おはようございます! 赤城さん……か、加賀さん」
「あら、瑞鶴さん。おはよう」
 そうやって名を呼ばれたそいつは“五航戦”、翔鶴型航空母艦二番艦だ。姉妹の下の、くそったれな方である。
 言葉に語弊があるかもしれないが、これは別段瑞鶴をやりこめているわけではない。いくら温厚なわたしであっても、時には隣の赤城をもくそったれめと罵りながら殴り倒してしまいたくなる場合があり、何が悪いのかといえば戦争が悪いのだとする他ない。
 くそったれ瑞鶴は二言三言赤城と言葉を交わして、わたしの左側に腰掛けた。座るよう勧めたからだ(嫌々だが)。くそったれめ。
 ――もっともそれは、わたしが瑞鶴に、そんなあからさまに顔をしかめられる理由には、ならないだろう。
「なにか?」
「いや……」
「嫌なの?」
「い、いやいや光栄ですっ」
 気に入らないのは、いま話している瑞鶴にだろうか。それとも、箸まで止めて忍び笑いをしている赤城にだろうか。
「翔鶴はどうしたの」
 そいつは随分憮然とした表情を作った。雨上がりに蝸牛でも踏みつけてしまった奴のようだ。
「姉ぇはその、いま出撃中ですが」
「ああ」
 そうだったわね、と呟いた。しかしこれは反射的に同意しただけで、どちらかというと、そうだったかしら、という感じだ。どうだったか……そうかもしれない。
「……加賀さん」
 確かに、五航戦の失敗を一番あげつらうのはわたしだろう。けれど、そうした些細な前例でもって、わたしが単なる悪意をぶつけたなどと思われては、これは心底心外だ。そも、どうしてわたしが翔鶴なんかの事まで気にしてなければならないというのか。
「加賀さんは意地悪ですね」
 右のくそったれがそういうのが聞こえた。
最終更新:2014年11月09日 11:21