970 :名無しの紳士提督:2015/10/14(水) 06:02:58 ID:ihRXAbUI
ちょっと前のコメの、提督の本音が綴られた日記がうっかり艦娘の手に……というやつ。書いてたの忘れてた
皇紀二六七五年八月。夏。
(走り書きが目立つ。枠外に防空棲姫、XY、くたばれ、等と何度も書きなぐられている)
相も変わらず戦況は著しく悪い。畜生。何が幸運艦だ。危うく、報告を受けたその場で怒鳴り散らす所だった。乾坤一擲のこの大事に、我が艦隊の主力の一翼が、敵艦の一隻も蹴散らさぬうちから大破とは。キサマ、何事だ。
勿論時雨一人が責められる謂れなどはない。道理だ。けれど、そうした安っぽい小理屈で、感情を完全に納得させられるわけもない。こうして筆を取っている今でさえ、苛立ちが納まったとは言い難い。
艦隊に残された油の量。益体もない事ばかり考えさせられる。
しかし結局、俺はふっつりと黙り込んで、不機嫌を如実にあらわにしただけだったのだ。あのとき……いつのも如く、連中を出迎えるため足を伸ばした、あの時は。
そうだ。何の事はない。俺は、当の時雨の隣に立つ、
駆逐艦夕立をとてもに扇情的に思ったのだ。裸体でもないくせに妙に男を誘うその姿に目を奪われたのだ。
正直は美徳であるが俺にはその自由もない。これまで俺は艦隊の誠実な上官であり続けたが、その為か連中、どんどんとつけあがっているようだ。仮にもうら若き乙女が、無闇に男の前で肌を晒すなど、許されるものではない。嘆かわしい。俺は今まで公私を混同させた事はない。しかし、こうなってはそれがよくなかったのかもしれない。
普段の言動からは想像もつかぬ、あのにく。二の腕の。あるいは足の腿の。襟から覗く首筋の。
おんなの体だった。華奢ではない。全ての男に、抱き寄せそのにくのぬくもりを確かめたいと思わせるだけの、匂い立つような色気があった。突き出た乳房と対照的な腰のくびれ。
それを少女と呼ぶにはあまりに危うかった。
その時俺は、連日海を駆けずり回っているにも関わらず、まるで日に焼ける気配さえ見せぬ餅のような柔肌をした、犬の如き、夕立を組み敷き欲望のままに貪りたいと、それだけを考えていたのだ。
やれ、雨が降っただの、雪が降っただの、くだらない事を実に嬉しそうに逐一騒ぎ立てるあれに対して、今まで一度だってはっきりと女を思った事などなかった。一度ならず、うたた寝をしている俺に夕立が引っ付いてきて、寝入り、秘書艦に二人まとめて叩き起こされた事もあるぐらいだ。
俺にしても、艦隊の実態としてこうも女人ばかりであるから、知らぬうち、自然と線引いていたのかもしれない。無意識に、手を出すなどとんでもない事であると心中言い聞かせ続けていて、だからこそ、指揮の妨げになりかねぬ諸々の問題を犯さずに済んだのではないか。なにしろ、連中のそうした素振りも一度や二度ではないのだから。
夕立はその範疇の外にいたのだ。それは間違いのない事だ。
そのまったく範囲外から俺は己の柔らかい部分に抜き身の刃を突き立てられたのだ。
……すでに今日で二度、マスターベーションをしたが、まるで治まる気がしない。
かくなる上は、機を見計らい、当の本人に責任をとってもらうほかあるまい。
――謎の艦娘がその日記を拾い上げた。何食わぬ様子でそれを読んだ。
「ンン……? これは……この字はテイトクのものデース……」
「……ナ、ナ、ナ……なんて事デース! こんな、劣情を……!」
「しかし……これは、誰かが発散させないとイケナイデースねぇ……」
謎の艦娘は一人、こっそりとつぶやいた。
最終更新:2016年07月21日 16:45