非エロ:レーベ・マックス 18-229

228 :名無しの紳士提督:2015/11/19(木) 03:45:21 ID:Xc9ivw9Q

マックスのディアンドルがないやん!と憤りを抱え気づいたら時期が過ぎていました。
正確に数えてはいませんが、遅刻ったって81019190721時間ぐらいだと思うのでイベントが始まるまでのロスタイムディアンドルです。


229 :名無しの紳士提督:2015/11/19(木) 03:53:15 ID:Xc9ivw9Q

 短くはない戦火の飛沫によって人類は疲弊し、自分のような若造でさえこのような不相応な地位にある。だが、幸いにして秘書艦霞を筆頭に皆よく力になってくれている。ただ感謝の念しかない。
 しかし、女性ばかりの場の中に、つくねんと男が突っ立っているというのは、これは中々に大変な事やもしれぬぞと、うすらうすら思わせられるこの頃である。
 彼女たちは紛れもない女人の性であり、そして女性というものは少なくとも自分という男に対しては極めて強固な一つの集団であり、さながら大海に一滴垂らした朱が、あっという間に溶けて見えなくなるように、こと私に関する事象、失敗も口舌の一つ一つまでも、彼女たちにとっては格好の話のネタになっているようである。
 先日、酒の席での話が弾み、それがいったいどう転がったものか、各々の持つ家庭観への議論がなされた。そこは流石に歴戦のネイヴィー、独立独歩の気風の高い彼女たちからは、家庭に入るというものは中々聞こえてこなかったと記憶している。けれど、恥ずかしながら自分はそうではない。妻として迎える伴侶には家を守ってもらいたい。それと小遣い制とやらに少しばかり憧憬がある。そんな事を言った。
 後日になって、その時は同席していなかった阿賀野が自分に尋ねてきた。
「提督はお小遣いがいいのね! でも、じゃあ、具体的にはどのくらいがいいのかしら?」
「……んん? いや……それはまあ、当人同士での話し合いにもなるんじゃないか。ああ、でも時々でいいから趣味の分を考慮して頂きたいものではあるかな」
「趣味?」
「洋酒さ。道楽だよ」
「ふーん、お酒ね。ほどほどにするなら、考えてあげる」
「ああ。ありがとう」
 両者がよくわからない認識をすり合わせ合意に至ったあたりで、能代がしきりに畏まりながら姉を引き取っていった。扉が閉まるや否や、阿賀野をたきつけたらしき連中を叱り飛ばす能代の声が響いた。
 誰かに話してさえいればある程度は「こいつも聞き及んでいるだろう」というアテができるのは、これはこれで便利なものでもある。


 あるいはまたいつだったか。
 レーベレヒト・マースが故国の民族衣装を披露した時だ。
 自分はこれを絶賛した。今まで衣装といえば和装、あの実に男の事を考えて作られた機能美とでも言うべき服装こそが女性を最も引き立たせるとの信念を抱いていたが、その幻想は、目の前の“彼女”によって粉微塵に打ち砕かれたのだ。
 目新しさ。それもあるかもしれない。なにせ周囲は同郷の女人ばかりであり、顔かたちはおろか、制服から伸びるすらりとした手足の寸法、肉の付き方からして異なるのだ。あの碧眼に下から見上げられ、ゆっくりと言葉を囁かれ、心の沸かぬ男がどこにいるというのか。それを一時の気の迷いとする事は至極当然で、けれど胸にある感じはこれはどうしようもない単なる事実だった。
「あ……あの。これ……ドイツの、その、キモノみたいなもので……」
「うん……」
「その……どうかな、提督。……変に見えないかな」
「……うん。いいね。いい……凄くいい。可愛いな。うん、可愛い。これは凄く可愛いな。好きだ」
「あ……ありがとう。……好き?」
 問題はこれが例によって酒の席で、前後がうろ覚えだという事だ。レーベもドイツ製ビールサーバーとして甲斐甲斐しくしていたようである。
 自分がそこで一体何を口走ったのか、当の本人には幸い後日さけられたり聞こえる距離で陰口を叩かれるといった様子はないが、艦隊の風紀が乱れたと秘書艦の霞には思い切り叱りつけられた。何が拙かったのだろうか。結果だけを鑑みるならば、翌日の朝一番にディアンドル姿の隼鷹が現れた事だろうか。しかし、あいつは酒精の信奉者だ。ドイツの水にいたく感動したのだと考えればそう不自然でもない。たしかに……たしかにその後、那智や摩耶といった連中までもがその格好をし始めたのは事実だ。流行ったのだといえる。


 部屋にマックスを招き入れ、改めて彼女らドイツ人が纏うこの衣装の雰囲気というものを眺めながら、そんな事を考えていた。
「どうしたんだ、こんな時間にまた突然」
「Ja、少しお邪魔してもいいかしら。提督、ビールはお嫌い?」
「もう廊下も冷え込む時期だろう。まあ入れ」
 ちなみに彼女が携えたのは鎮守府最寄のコンビニのビールだった。これならば誰何の際、せめて酒の銘柄でも答えさせるべきであったかと自省する次第である。異国の美少女を肴にあおる酒は金だった。黒ならいいという話でもなく、プルタブを空ける音がする度に、「なにかが違う気がする」という漠然とした気持ちが募る。
 流行った、と誤解を恐れず言ってしまえば、それはそうかもしれない。
 しかしマックスが今さらになってこの格好をしてくるのは、何かしらの思惑か……都合か。腹回りの肉の都合がつかなかったのかもしれない。可能性は否定できない。
「……どうしたの、変な顔をして。もう、酔いがまわってきたの。赤くなってるわよ」
 怪訝な口ぶりは滑らかだ。彼女は酒に弱くないらしい。
 ならばなぜ、そういうお前も赤いのか。その様子はどうしたというのだ。俺だけに見せびらかしにでもきたのか。
「Ja、そうよ。……あなたに見せにきたの」


 日の出る前の夜の海が、彼女たちの戦場だ。
 自分の足元さえも不確かなあやふやさの中で、それでも前に進んでいくしかないのだろう。


+ 後書き
話全然変わるんだけどレーベ“レ”ヒトなのか。zweiなのにレーベヒト・マースだとずっと思ってました
字にして始めて気づいた。反省してます


233 :名無しの紳士提督:2015/11/19(木) 06:41:23 ID:oKa0qCzA

乙デス。ビス子以外のドイツ艦のSSはこれが初投下だね。


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2016年08月01日 16:55