669 :練習は大事だと感じた日―バレンタイン編―:2016/02/14(日) 18:54:45 ID:9VTy/C22
2月14日は……
「ビスマルクと伊良湖の誕生日だったよな、今日は」
戦艦ビスマルク、及び伊良湖の進水日であり、
同時にその艦の力を行使できる艦娘の誕生日でもあった。
「そうか。後で何かあげないとな」
「瑞雲でも送るのか日向」
「まあそうだな。君は何を?」
「提督として間宮のタダ券をあげたよ」
「そうか。ところで鹿島の姿を見ないが彼女はどうした?」
「鹿島は挨拶に来た新艦娘達と話をしているよ」
だから始業前の準備は日向に手伝ってもらっていたのだ。
「特訓を終えて正式に艦娘となった者達か……」
「最近は作戦にあわせて正式な艦娘として登録されるからな。
昔は作戦以外の時期にも正式な艦娘が誕生していたからな。
それとイタリアから日本にやって来た艦娘も一人いる」
「そうか。ところで今朝入ってきたニュースだが、霞達が大活躍をしたらしい。
詳しい話はまだわからないがこの鎮守府から出撃した艦娘達が活躍するのは鼻が高いな」
「そうだな。みんな若いのによく頑張っている。
それに比べて何も出来ない俺ときたら…」
「みんな若いって……君も今年三十になるところではないか」
「だけど俺は彼女達と同じような年齢だった頃には今程真剣に生きていなかったから、
幼い頃、若い頃からしっかりと立派に頑張って輝いている彼女達を見ていると
何の考えもなく生きてきた昔の自分が情けなく思えてくるよ……」
「昔の事を悔やんでも仕方あるまい。
それに今でも大きな鎮守府を統括する提督としては十分すぎるくらい若い」
「だが人間というものは無い物ねだりでさ…
俺はやはり若い頃から活躍した、って事に憧れてしまうものだ。
自分が出来なかった事…というかどちらかというと
人生の一番大事な時に回り道ばかりして生きていた事が悔しいんだ。
駆逐艦娘達はみんな艦娘としての業務をこなしながら、
学生としての本分も立派に果たす優秀な子達ばかり。
今の俺はすべき事が提督としての仕事だけであるにもかかわらず
一ヶ月経った今でも一人ではほとんど出来ない始末……
昔からもっとちゃんとやっていればこんなに苦労はしなかったろうな……」
相手が鹿島じゃないからか愚痴をこぼしてしまっていた。
もし鹿島相手だったなら弱みを見せていないだろう。
「……まるで五月病だな」
「今は二月だぞ」
「五月病は四月に新しい環境に入った人がなりやすいものだ。
君は提督になって約一ヶ月。五月病になる条件と同じだ」
「まあそうなるな」
「確かに未だに一人だけではこなせないが状況を考えれば仕方あるまい。
それよりも過去をただ悔やむのではなくこれからをどうするのかが大事だろう」
「理屈じゃわかってるけどな……」
「……君がここに来るまでに通ってきた道は寄り道や回り道だったかもしれない。
だがもしその道を通らなければここに来ることはなかったと考えたら……」
「ん…………ああ……」
日向の言う通りかもしれない。もし昔の俺が自分の将来を考えて、
真剣に生きていたとしたら鎮守府の一員となり、
そして提督になるという人生とは違う人生を歩んでいたかもしれない。
他に生きる方法ができたのなら間違いなくそちらの生き方をしたはず。
「塞翁が馬と言うが、人生というものは何がどう転ぶのかわからないな。
寄り道や回り道だって自分の望んだ幸せとは違ったものとはいえ
別の幸せへと向かう道だったと、そう考えなければやっていけないな」
「まあそうだな」
「悩んでる暇はない。今日は新たなる艦娘と会うんだ。
気持ちが沈んでちゃみんなを不安にさせてしまう。頑張らなきゃな」
俺は気合いを入れた。新たなる艦娘達に悪い印象は与えられないからな。
そうこうしているうちに時間が来た
コンコン
「鹿島です。三名の艦娘をお連れしました」
「わかった。入っていい」
「失礼します」
そう言って鹿島がドアを開けて司令室に三人の艦娘を連れて入ってきた。
「君達がこの度新たに艦娘となった子達、
そしてイタリアからやって来た子だね」
「はい。私は夕雲型駆逐艦、その十四番艦の沖波です。
えっと…はい、頑張ります。よろしくお願い致します!」
まず沖波という少女が名乗った。
眼鏡をかけていて少々おどおどとした感じだが、
精一杯頑張ろうとしている姿勢が伝わってくる。
俺もよろしく頼むと返して次に沖波の隣の艦娘に顔を向けた。
「秋月型駆逐艦、その四番艦、初月だ。お前が提督か」
「ああ」
「ちょ、ちょっと、初月!?」
「気にしないでくれ。『お前』という言葉そのものは
本来は相手を敬っている意味合いの言葉だ」
「そうなのか」
「ああ」
驚いた沖波だけでなく初月自身も言葉の意味を知らず、
一般的に使われる意味合いで使っていたようだ。
「駆逐艦初月はその活躍や最期が正にストロンガーと言わざるをえない艦だ。
君も初月の名に負けぬ活躍をするよう期待しているよ」
「言われなくてもそのつもりさ」
そして俺は最後に初月の隣の子に顔を向けた。
「イタリアから参りました、ザラ級重巡洋艦、その一番艦、ザラです。
巡洋艦同士の昼間水上砲戦なら、誰にも負けない自負はあります」
見た目からして日本人離れしているこの子はイタリアから来た艦娘ザラである。
ザラは駆逐艦の二人とは違って前々から艦娘だった。
「君は艦娘としての経験はかなりあると聞いたが
日本での本格的な活動は初めてだろう。
君も、新人の二人も、これから共に戦うのだ。
互いに色々と知っておくべきだと思い会食の場を設けた。
そこまで案内しよう」
俺達は三人を連れて鎮守府の大食堂に行った。
「対空に優れた秋月型駆逐艦…いつか手合わせをお願いしたいです」
「提督からストロンガーだとか言われていたけど、
なんだか改造人間みたいな異名ね」
「そりゃあ駆逐艦なのにこんなポディ、
改造でもしたんじゃないかって思いたくなるわよ」
「ず、瑞鳳さん、そういう意味じゃないと思います…」
初月は武勇艦である。その為か他の艦娘達の興味を引いていた。
「まるでライダーみたいですね」
「ずばりライダーを指すぞ三日月」
「えっ。でも駆逐艦初月は仲間を逃がす為に
たった一人で艦隊に立ち向かい、そして沈んでいった……。
でもストロンガーがそうしたという話は聞いたことが…」
「20年ちょっと前に児童誌に載ってた漫画でな、
脱出するV3達を守る為に一人ボウガンで戦うも弾切れし、
自身は戦闘員のボウガンで撃たれるも
それでも倒れる事なく守りきり死んでいったんだ」
「ヒーローが死んじゃうとかどう考えても児童誌に載るような話じゃありませんよ」
「しかもSDだ」
「よくもまあそんな話……昔っておおらかな時代でしたねえ……」
「…………」
「あっ、ごめんなさいね。提督はこういった例え話をよく用いりますから…」
「…鹿島から聞いた通りの人ね。だけど提督としての能力はどうなのか。
私にはあなたは提督としてまだまだだと感じます」
場を凍り付かせるような言葉を口にしたのはザラだった。
「ザラさん」
「日本の中心にあるこの鎮守府は大きな工業地帯の守りも考えて作られたと聞きます。
ならばそこを総轄する者には優れた能力が必要なはずです」
「あんたに提督の何がわかるってのよ!」
俺の能力を不安に思っている
(そしてだいたいあってる)ザラに対し
曙は反発の言葉を述べた。
「最近提督となった事は知っています。
この鎮守府の前の提督はイタリアの鎮守府でも名が知れた方でした。
その提督の後任であるこの提督も素晴らしい提督かもしれないと思っていました。
鹿島が恋に落ちて結婚することを決意した相手ですから
とてもすごいと感じられるような人だと思ってました」
「司令官に何か落ち度でも?」
「落ち度はありません。人間的にもいい人とは思います」
「そもそもあんたは提督を評価できるほど一緒にいたわけないでしょ!
ちょっとの時間で全部を判断されてほしくないわよ!」
曙の言った通りザラは今日初めて俺と顔合わせをした。
事前に話を聞いていたとしても直接目にする機会はなかったはずだ。
他所の鎮守府に知られる程の功績も落ち度も何もない。
「確かに。ただ今は彼からはすごいという印象を感じられないだけです。
仕事をしている姿を見れば少しは違った印象を受けるでしょうけど……
鹿島が信じた人だから、私も提督の力を信じたいのです……」
仕事をしている姿を見せても彼女が少しは認めるくらいのレベルに
能力が現時点で達しているという自信は今の俺にはなかった。
仕事は大淀に支えられながらであればかなりこなせたものの
大淀が礼号作戦でこの鎮守府にいない今、
鎮守府の機能は十分に発揮されているとは言えなかった。
艦娘達の戦闘訓練の時間を削って仕事を手伝ってもらい
何とか十分に発揮出来ている状況である。
提督として情けない俺だが、経験不足を言い訳にする事も出来ない。
俺を選んでくれた人、支えてくれる人に申し訳が立たないからだ。
俺の気分がよく沈むのもそういった事が関係していた。
「ところでさ…あんたさっきから鹿島鹿島と馴れ馴れしいんだけど
あんたは一体鹿島の何なのよ!?」
「……曙ちゃん、ザラは私の昔からの友達なの…」
「昔からの…友達…」
「私達が艦娘になるずっと前、子供の頃からの親友なの」
「子供の頃からの親友?」
「ええ…私は小さい頃から旅行が好きで…
イタリアに行った時にザラと知り合って、友達になったの。
それからずっと親交を深めていたわ。
艦娘になる前も、なった後もずっと……
みなさんごめんなさい……ザラが楽しい雰囲気を壊しちゃって……
彼女は本当はとてもいい子なの……」
「わかってるよ。鹿島が親友って言ってたくらいだしさ。
だけどザラの気持ちもわからなくはない。
自分の友達がもし変な奴との付き合いがあったら……
そう思って心配する気持ちとか、
変な奴に対して何か言いたくなる気持ちとかもわかるよ」
「へ…変な奴だなんてそんな…」
「それにザラは別に俺の事を悪いと言ったわけじゃないし、
少なくともまだ俺に期待して発破をかけてくれているみたいだしさ。
もし問題があるのならどんどん言ってほしいものさ」
「……………提督………」
「ザラ…」
「やっぱり鹿島は間違っていなかったみたいね…
…私もあなたに期待できます……」
俺を認め始めるような事を言ったザラはみんなの方に向いた。
「みなさん、このような楽しい場を壊してしまって本当に申し訳ありませんでした」
自分の軽率な行動が雰囲気を壊してしまったと思ったのだろう。
自らの非を詫びる彼女に他の艦娘達もザラを責めようとはしなかった。
こうしてまた楽しい会食は再開されたのだった。
会食が終わり、俺達は午後の仕事が始まる前の小休止をとっていた。
「提督さん、本当にごめんなさい……」
「鹿島、君が謝る事はないだろう。
確かにザラは感情的になってしまったのだろう。
だけどそれは俺と一緒にいる君を心配してつい言ってしまったのだろう。
感情的になった面こそよくなかったが…いい友達を持ったな鹿島」
「すみません…」
「提督、チョコレート…って鹿島さんすみません」
「いいのよ。私に気にしないで」
「すみません…………司令官さん、チョコレートです」
俺は艦娘達からチョコレートをもらった。
他の事務員他裏方スタッフはチョコの代わりに喫茶店のスイーツ無料券をくれた。
これで鹿島をデートにでも誘えと言いたいのだろう。
「あ、これは大淀と足柄からの贈り物です」
「これは……」
袋の中は箱以外にボトルっぽいのもあるみたいだけど何だろう…
「そうそう。提督、私達は気の利いたお返しは望んでませんから。
鹿島さんへのお返しのためだけに気を利かせてくださいね」
「ありがとう」
「ところで鹿島からチョコレートを貰いましたか?」
「いや、まだだけど……」
「まだなのですか?ねえ、鹿島さん。どうして提督に一番にあげないの?」
「だってチョコレートをあげるにもタイミングがありますし…」
「あなたは午後からザラさん達を次の鎮守府まで護衛をするのでしょう」
「でもここからそんなに離れてませんから今日中には…」
「何かあって今日中にここに帰って来れなかったらどうするのよ。
さっさと渡してあげなさいよ!」
「は~い」
「不満そうな顔しない」
「別にあげたくないわけじゃありませんよ。タイミングというものが…………」
鹿島は少し不満そうだったが、一旦間を置いて、
笑顔で、でも少し恥ずかしがって緊張しながら
赤いリボンでラッピングされたピンクの箱を俺にくれた。
「ありがとう」
「どんなチョコレートでしょうかねえ。提督、開けて食べてみてください」
「い、今!?明石さん、ちょっと!?」
「鹿島さん、何を慌ててるんですか?」
「そ、それは…」
「今食べられてまずいことでも?」
「その……提督さんが食事を終えてからまだそんなに時間が…」
「甘いものは別腹というだろう。それだって限度はあるけど、
昼食も少なめにとったからチョコの一つや二つは大丈夫だ」
「………どうぞ……」
鹿島は観念したかのような顔だった。
一体なんでそういう態度を取るのかわからないけど、とりあえず俺は箱を開けた。
「これ、パンですか?形はシンプルにハートマークですけど色は茶色…
っていうか珈琲の香りがしますよ」
「うむ……ああ、これはサンドイッチだな。中にチョコレートが挟まっている。
鹿島らしいアイデアだな。んじゃ、いただきます」
俺は鹿島の珈琲パンのチョコレートサンドを食べた。
「………どう……ですか…………」
「うん、おいしいよ。チョコレートはちょっと変わった味だけど別に妙な味ではないな。
甘さにくどさがなくてコクも柔らかさも調度良い。
それに珈琲の苦味がチョコレートの甘さを調度よく引き立てていておいしいよ」
「よかったぁ……」
「本当によかったですね鹿島さん。でも変わった味ってどんな味ですか?」
「どんな味って………栄養ドリンクっぽい気がしたよ」
「栄養ドリンク?ひょっとして鹿島さん、ユンケルでも入れましたか?」
「………うん……」
漣の問い掛けに鹿島が恥ずかしそうに答えた。
漣がユンケルと断定的に言ったのは
鎮守府がコラボしたコンビニでユンケルを買うと店舗ごとに先着十数名に
鹿島のタペストリーが貰えるキャンペーンが明後日からあるからだろう。
ちなみに鹿島がコラボした見返りにもらったというわけではなく、
ユンケルってどんなのかなあと思って試しに買ってみたらしい。
「あらら?冗談のつもりでしたのにまさか本当にそうだったなんて。
でも、入れたのはともかくとしてどうして今食べちゃ駄目だったのですか。
夜に渡そうとしてたみたいですし、ひょっとしてまさか…」
「あの、チョコレートは何を使いましたか」
このままだとたたならぬ事になりそうだったからか、
伊良湖が話を逸らそうと鹿島に話しかけた。
「何を使ったって…」
「レシピが知りたいんです。今後の参考にしようと思って…
とりあえずチョコレートは何を使いましたか?」
材料やレシピが知りたいというのも伊良湖の偽らざる本心だろう。
彼女の料理人としての好奇心と向上心はかなりのものである。
「チョコレ~ト~は~明治」
「マージか」
「………………」
「………………」
つい駄洒落を飛ばしてしまったが、
みんなの顔を見るにどうやら通じなかったようだ。
「…………あっ、もうすぐ12時30分だ!早くしないと!」
壮絶に滑った俺は誤魔化すかのように言った。
実際に時間が迫っていたのもあったが、
状況が状況なだけに誤魔化したように思われてるだろう。
「あっ、そうね。もう行かなきゃ!伊良湖さん、レシピはまた今度ね」
「わかりました。それではお気をつけて」
俺達は別の鎮守府へ三人の艦娘と共に出発した鹿島達を見送り
午後からの仕事に取り掛かり始めたのだった。
午後六時。今日は日曜日であった為五時半頃に仕事を中断し、
恒例である笑点を見ながら夕食をとっていた。
もちろん緊急事態があればこんな事はしていられない。
「煮干しのお吸い物、どうでしたか?」
「大根に煮干しの出汁がきいていて中々だったよ」
「お口に合ってよかったです」
伊良湖はほっとした表情だった。
「でもどうして煮干しの出汁汁に大根だけなんですか?」
「今日はふんどしの日であり、煮干しの日でもあるからな」
「??……煮干しはともかく、大根と褌に何の関係が……」
「……昔とある勇者がふんどしともいえるような踊り子の服を見て興奮し、
仲間から落ち着けと言われてとった行動が
『ふんどし!』と言いながら大根を掲げた事だったんだ」
「はぁ……」
伊良湖はよくわかってないような顔だった。
元々みんなが知ってるような話ではない事くらい俺だってわかっている。
このネタがわかる奴はおっさんだろう。
「それにしてもずいぶんと元気になったな。
昼前までは少し暗かったが今はもう大丈夫みたいだ」
「日向や鹿島、ザラ達のおかげだ」
「私達のおかげ?」
「君達に言われた言葉とか、鹿鹿島の存在とか、
そういった事があって気を持ち直せたよ。
寄り道や回り道ばかりしていた俺にかけてくれた日向の言葉、
そして鹿島が俺にチョコを渡す時に言ったタイミングという言葉……
その二つが繋がって俺を前に向かせてくれた」
俺が鹿島と結ばれる事ができたのも言ってしまえばタイミング…
その『瞬間』何をするかしないかの判断がよかったからだろう。
俺が一度は新泊地に着任する事になると知らされた時、
鹿島が勇気を出して俺をデートに誘い、
俺が怖じけづく事なく彼女の誘いに乗り、
そして互いの包み隠した気持ちのぶつかり合いの末に
勇気を出して本当の気持ちを伝え合い、そして結ばれた…………
もし鹿島が本当の気持ちを打ち明けなかったら。
もし俺が怖じけづいて鹿島の誘いを断っていたら。
もし鹿島が俺を誘わなかったら。
もし俺が新泊地へ行かされると聞かされなかったら…………
小さい頃からの俺の数々の行動は数センチのズレとなって重なり合い、
幼い頃に思い描いていた幸せからは離れてしまったが
それがなければ今ある幸せは手に入らなかったかもしれない。
数センチのズレを重ねて向かった今の幸せ…
一度数センチのズレを重ねてしまい幸せから遠ざかってしまったゆえに
これ以上ズレてはいけないと思い、
懸命に動いた為に幸せから遠ざかるという過ちを繰り返さずに済んだ。
まあ結局新泊地へは俺が行く事はなく、
鎮守府提督という今に至るわけだが。
「かつての大平洋戦争は多くの悲しみを生み、あらゆるものを破壊した。
もし戦争がなかったら失われた芸術や文化、技術とかもなかっただろう。
だが戦争があったからこそ結果的に生まれたものだってある。
俺達とてあの戦争がなければこの世に生まれて来なかった可能性もある……
だからといって戦争を肯定できるものではない。
確かにその過去があったから現在というものがある。
だけど過去の出来事という変えようのないものは
肯定するものでも否定するものでもなく、
これからをどう生きるかという事を学ぶべきものだと思う。
日向が言った事、鹿島が言った事、
そしてザラが言った『鹿島が俺を信じている』という言葉……
それが俺を前に向かせ、今をどう生きていくかという事を教えてくれた。
暗い気持ちで生きるなんて俺を信じてくれる大切な人である鹿島を
俺が信じていないって事にはなりたくないしさ」
「……迷いは消えているみたいだな。今の君の目はとても輝いている」
「朝はすまなかったな日向。愚痴を聞かせてさ…」
「気にするな。君が立ち直ったならそれでいい。
鹿島には聞かせられないようなことだってあるだろうし、
何事も一人で抱え込んでいいというものでもない」
「ありがとうな。二人とも、今日はもう仕事を終わっていいぞ」
「提督、君はどうするのだ?」
「俺は鹿島が帰ってくるまで仕事をしているよ。
彼女が帰ってきた時に報告するべき相手がいないんじゃ可哀相だしさ」
「そうか。だが無理はするなよ」
「もしお腹が空いたら、私が何かお作りしますね」
日向達を見送った俺は再び仕事を始めた。
そして仕事をすること約3時間…………
「提督さん、鹿島、ただいま戻りました。
艦娘三名、無事送り届けました」
「ご苦労様だったな。おかえり」
鹿島が帰ってきたのは夜の9時だった。
「本日の仕事はこれで終了だ」
「お疲れ様です。これからどうしますか?」
鹿島が期待に満ちた目で俺を見つめていた。
「これって……コンドーム…ですよね……?
それと……チョコローション……」
『夜戦』前に大淀と足柄がプレゼントしてくれた袋を
開けてなかった事を思い出して開けたが中身はこの二つだった。
「大淀さんに足柄さん……ナニを考えているんでしょう……
家族計画は私たちが考えることなのに……」
「それだけ鹿島の力はここになくてはならないものだという事かもしれないな……」
「チョコレートの香りがするローションか…
コンドームもチョコレートの香りがするらしいし……」
「……もしかしたら避妊どうこうというよりも
コレで夜戦を楽しんでってことなのでしょうか?」
「そうかもな」
避妊とか感染予防が目的ならわざわざこんな事はしないだろう。
最初から普通のコンドームを普通に渡せばいいだけの話だ。
「……たまにはこういうのもいいでしょうね。
それじゃ私が付けてあげますから準備してくださいね」
「よし」
俺は彼女の下の口に食べさせようとずっと大きくなっていたチ〇コバナナの皮を剥いた。
「いきますね。ん……」
「おうっ!?」
「な、何か!?」
「いや、少し驚いただけだ…」
「えっちな漫画とかで見たことを真似してみようと思って…」
彼女がどんなエッチな漫画を読んでいるのかは知らないが、
俺が読んだ事があるようなエロ漫画ではほとんど…
というか全くといっていいほど見ない。
ゴムを着けるシチュエーションさえもレアなのに
口でゴムを着けるなんて更にレアである。
「いけなかったかしら…」
「そんな事はない」
「よかった。それじゃもう一度…」
気を取り直した彼女は俺のチ〇コバナナにゴムを口で着けた。
チョコレートの香りがするゴムは色合いこそやや薄い茶色だったが、
俺のチ〇コバナナに被さっているのを見ると
チョコプレッツェルを若干彷彿とさせた。
「美味しそう……」
物欲しげな目をしながら彼女は呟いた。
美味しそうと評した俺のチ〇コプレッツェル…
…ボッキーを食べたくて彼女の口が涎を……
「ん……ちょっとまだ……」
あまり垂らしていなかった。十分に濡らさないとマズイ。
こちらはゴムをしている以上カウパー液による潤滑効果にも頼れない。
「このローションも使ってみるか」
「使ってみましょ。せっかくのバレンタインなんですから」
プレゼントされたチョコローションが早速役に立つ。
俺は彼女の下の口にローションを注ぎつつボッキーにも満遍なく塗り、
彼女の下の口に指を入れて確認した。
一本………二本………三本…………行けるはずだ。
「俺のボッキー、存分に味わえよ」
「ええ、それじゃ、いただきますね」
にゅるりっ
「やんっ!?だからっていきなり…」
俺もここまでいきなり全部入れるつもりはなかったが
ローションのおかげか予想以上にすんなりと入っていった。
もちろん今までの積み重ねも大きいだろう。
去年のクリスマス…彼女が全く男を知らなかった頃に
同じ事をしても初めての行為に緊張してしまってこうはならなかっただろう。
約二ヶ月近くの間に幾度も互いの愛を確かめ合ってきたからこそ
彼女は今こうして苦もなく俺を受け入れられるのだ。
「…あの…どうしましたか?気持ち良くありませんでしたか?」
「あ、いや、君があんな声をあげたからちょっと…」
確かに今までとは違って気持ち良さは感じにくい。
しかしそれはゴム一枚を隔てて触れ合っているからであり
決して彼女に問題があるわけではなかった。
「少し驚いただけです。痛くも苦しくもありませんから、どうか…」
「わかった」
彼女に請われて俺は早速腰を動かしボッキーを擦らせた。
にゅるっにゅるっにゅるっ
「やっ、いつもとちょっ…違っ…けど気持ちいいですっ!」
ローションのおかげかいつもより滑りが良い。
それに俺からしたら感覚を鈍らされてるようなものだが
彼女からしたらいつもと違う感覚という事だろう。
ならそれでいい。彼女が気持ち良くなっているなら俺の事など。
パンッ、パンッ、パンッ!
「いつもより…激し…です…っ…」
ローションが彼女への負担を減らしていた為、
俺の腰は欲望を全開にして激しく動いていた。
ゴムによる感覚の鈍りこそあったが、
いつもより激しいピストン運動による刺激が俺の性感を補っていた。
「ごめん、そろそろ…」
「くっ……いいです…先に…イッても………」
彼女のその言葉に俺の我慢は解かれた。
俺は無駄と知りながらも一番奥までボッキーを突き入れた。
どくんっ
俺は射精した。しかしチ〇コバナナはコンドームに包まれている為、
行き場のない精液がゴムの先端に溜まって…
「あ……びくん…びくん…ってして……
お腹の奥……あったかぁい……」
「え…」
俺は思わずボッキーを彼女から引き抜いた。
びゅるん、ポタッ…びゅるん、ポタッ…
なんという事だ。ボッキーの先っぽが溶けていたかのように
チ〇コバナナの中身が剥き出しになっていた……
……要するにコンドームの先端が破れてしまっていて、
抜いたチ〇コバナナから放出された温かい特製ホワイトチョコが
彼女のお腹の上に吐き出されていた。
予想外の出来事に二人とも呆然とする事しか出来ず、
放出が終わった後も沈黙が支配していた。
「……ごめんなさい、私が練習もせずにえっちな漫画の真似をして
コンドームを口で着けるなんて真似をしたからこんな事に……」
先に謝ったのは彼女の方だった。
「……よくよく考えたら俺達は結婚していたわけだろう。
コンドームが破れてしまって思わず動転してしまったけど
前々から何回も生でしていたわけだしさ」
「あ…………それもそうでしたね…………」
達した為に賢者タイムとなった俺は
いち早く冷静になって彼女を落ち着かせた。
「……もう一回できませんか……今度は生でしてほしいです……」
「いいよ。君も俺もまだまだ不完全燃焼だろうしさ」
「いいんですか!?体は大丈夫ですか?」
「君がお昼にくれたユンケル入りの特製チョコの珈琲サンドイッチで、
今日の仕事も捗っていたし、『夜戦』だってまだまだ頑張れるさ」
「本当ですか?よかったぁ……」
彼女の安心した笑顔を見ていると
本当に彼女と結婚してよかったという事と
これから頑張らなきゃという事を思った。
「艦娘はストレスが溜まりやすくて、
成長期の子達の成長が鈍くなることもありますけど
大人でも生理不順になって排卵日を特定できなくなっちゃいますから
やれることはできる時にできるだけやっておきたいです。
あなたは一人っ子でしょう。だから、少しでも早く
お義父様とお義母様を安心させてあげたいし……」
「俺もできる時ならしたい。さあ、本番……始めるぞ」
今日は2月14日だ。煮干しのように枯れ果てたって構わない。
俺達は恋人の日の夜戦を心行くまで愉しんだのだった。
《続く》
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後書き |
685 :名無しの紳士提督:2016/02/14(日) 19:26:34 ID:9VTy/C22
以上です
まさか鹿島に完全書き下ろしな限定グラが突発で来るとは思いませんでした
どうにか限定グラの要素も話の中にちょこっと入れれました
16日からのローソンのフェアは深海棲艦との戦い以上の激戦となるでしょうね
提督とテンバイヤーの熾烈な争いが間違いなく起こるでしょう
バレンタインの話なので当然ホワイトデーの話に続きます
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これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/
最終更新:2016年10月05日 15:46