編集:足立(07/02/09)


1)手法の体系

 一国の経済活動におけるフローとストックは、国民経済計算体系(SNA)によって体系的・統一的に記録され、これに基づいてGDPなどが算出されている。ところが、SNAでは、経済活動中の環境保護活動状況の把握は困難であり、経済活動に伴う環境の悪化(外部不経済)を捉えることはできない。そこで、環境と経済を統合し、「持続可能な開発」を実現する見地から、環境と経済の相互関係が把握可能な統計体系の確立が求められている。こうした流れを受けて、1993年に国連では国民経済計算体系の改訂を行い、導入されたサテライト勘定の中に環境・経済統合勘定が含めることが定められた。同年には、国連が国民経済計算ハンドブックとして『環境・経済統合勘定』を刊行した。

 環境・経済統合勘定は、環境資源勘定に関して従来開発されてきた様々な手法を含み、物的勘定と貨幣的勘定の双方を視野に入れている。図に示したように、第1段階は、従来からのSNAの中に記述されてきた環境関連のフローと資産の明細をSNAからとりだして示す。第2段階は、物質/エネルギー収支と自然資源勘定をもとに、環境と経済の相互関係を提示する物的勘定が導出され、SNAデータと結合される。第3段階は、経済活動による環境の劣化と自然資源の枯渇が勘定の中に記述される。第4段階では、生産境界の拡張により、例えば、家庭での調理やレクリエーション活動などを生産活動としてとらえ、その副産物としてのごみ排出も取り扱う。

2)時系列の試算

 1970年から1995年まで5年ごとに、実質値による勘定表に基づいて経済と環境の長期的推移をみてみる。なお、1995年の数値は基礎統計がまだ十分に整備されていないため、仮試算値である。

グラフ1:環境保護活動とGDP比 資料:経済企画庁経済研究所(1998

1970年から1995年にかけてGDP2.5倍になったが、環境保護活動の付加価値額は同じ期間に877億円から4,916億円へと5.6倍に伸び、構成比は0.5%から1.1%に増加した(図○-○)。政府の環境保護活動は1985年から横ばいなのに対して、産業の1975年から1985年にかけて大きく伸びた。

 1995年の最終消費支出額は1970年の2.5倍だが、環境関連の財貨・サービスの最終消費支出額は3.9倍となり、構成比は0.6%から1.0%に増加した(図○-○)。家計による最終消費は1985年から横ばい傾向だが、政府による最終消費は1990年から1995年に急増しており、環境行政関連の予算増額が影響したと考えられる。

グラフ2:最終消費と構成比 資料:経済企画庁経済研究所(1998

3)新たな環境・経済統合勘定

 日本版の環境・経済統合勘定に代わり、オランダ中央統計局は環境勘定を統合した国民経済計算マトリックスNAMEANational Accounting System including Environmental Accounts)を開発した。NAMEAは経済と環境の相互依存関係を直接的に数表化することで、経済が環境に与える影響を明示的に示すことが可能である。経済活動から自然環境への汚染物質の排出に焦点を当てていることから、工業国の関心に対応しているとされる。このNAMEAに準拠しつつ、日本の実情に合わせて①消費部門の取り扱い変更(政府消費支出を加える)、②ストック勘定の導入(環境保護関連資産、社会資本、その他)、③自然資源勘定の項目追加(石炭、森林資源、水資源、漁業資源)、④土地利用勘定の追加を行った。ものである大幅に改良を加えることによって、「経済活動と環境負荷のハイブリッド型統合勘定」(日本版ハイブリッド勘定)を開発された(図1)。

図1 経済活動と環境負荷のハイブリッド型統合勘定の概念

資料:内閣府経済社会総合研究所(2004

4)日本型ハイブリッド勘定の試算結果

 環境勘定の試算値は、環境保護活動の経済主体を「産業」と「政府」に分けて算出した。産業は①内部環境保護活動(事業所内廃水処理、排ガス処理、廃棄物処理などの公害防止活動)、②廃棄物処理業、③リサイクル業、政府は、①環境保護活動(環境行政、公害対策などの環境保護サービス活動)、②下水道処理、③廃棄物処理を範囲としている。

 1990 年と比べると2000 年の環境保護活動は42.0%増で大幅に拡大した(表1)。活動主体別にみると、産業のうち廃棄物処理業が32.8%増、リサイクル業が34.0%増となったが、公害防止施設の維持管理活動などを表す内部環境保護活動は20.5%減となったため、産業全体では22.3%増となった。一方、政府の環境保護活動は全体で63.1%増で、内訳でみると公害対策や環境行政活動を表す環境保護活動が92.5%増、下水道処理が76.1%増、廃棄物処理が20.3%増となった。

表1 環境保護活動の内訳

産業

内部環境保護活動

廃棄物処理業

リサイクル業

合計

1990

706

1,591

1,166

3,463

1995

648

1,872

780

3,300

2000

561

2,113

1,562

4,236

政府

環境保護活動

下水道処理

廃棄物処理

合計

1990

1,056

1,105

1,060

3,222

1995

1,436

1,659

1,223

4,317

2000

2,034

1,946

1,275

5,256

資料:内閣府経済社会総合研究所(2004

5)地域版のハイブリッド型統合勘定

 内閣府は、地域における環境と経済の関係を体系的に把握するため、2005年度に「地域における環境経済統合勘定の推計作業に関する研究会」を設置し、手始めに兵庫県におけるハイブリッド型統合勘定の開発に着手して、「地域版ハイブリッド型統合勘定(兵庫県ハイブリッド勘定)」を試算した。

 環境保護活動及び資産は、産業と政府サービス生産者に分けて推計した。このうち産業は内部的環境保護活動(事業所内排水処理、廃ガス処理、廃棄物処理などの公害防止活動)、廃棄物処理業およびリサイクル業、政府サービス生産者は、下水道処理、廃棄物処理が範囲である。

 2000 年度の兵庫県内の環境保護活動は1,305 億円で、県内総生産(19 5180 億円)比では0.67%である(表2)。このうち産業は587 億円、政府サービス生産者は718 億円である。産業の内訳をみると、内部的環境保護活動は61 億円、廃棄物処理業は559 億円、リサイクル業は-33 億円で、リサイクル業は生み出された付加価値よりも投入されたコストの方が大きいといえる。政府サービス生産者は、下水道処理が175 億円、廃棄物処理が543 億円で、後者は産業に匹敵する。

表2 環境保護活動と付加価値額 資料:兵庫県民経済計算のホームページ


最終更新:2007年02月09日 10:03