レベルアップ

「……チィッ! ……チィッ!」
静かな森の中に幼いタブンネの声が響きます。
必死に助けを呼んでいるのです。
声の主である子タブンネは、体をロープで巻かれて木から吊るされています。
自身の力だけではどうすることもできずに、こうやって助けを呼ぶことしかできません。

そんな子タブンネの声がどうやら届いたようです。
1匹のタブンネがガサガサと音を立てながら、茂みの中から顔を覗かせます。
このタブンネ、宙づりになっている子タブンネを見つけると、あわてて駆け寄ります。
木の根元から子タブンネを見上げ、どうやって助けようかと考え始めました。
そのときです。

「いけっ、マッハパンチだ!」
タブンネが声の方に振り向いた瞬間、格闘ポケモンの拳がタブンネの顔を襲います。
「ミキャッ!?」と声を上げて転がっていくタブンネ。
タブンネは手で鼻を押さえながら立ち上がりますが、短い指の隙間から大量の血がこぼれています。

タブンネの視線の先には、1人の人間と、1匹の格闘ポケモンがいます。
何が起こったのかわからずに混乱するタブンネでしたが、考える時間は与えてもらえません。
格闘ポケモンは、タブンネの全身を何度も何度も殴りつけます。
そして、大した時間もかからずにタブンネは力尽き、ボロボロになって地面に横たわっています。

「おー、一気に3もレベルが上がった」
タブンネのことなど気にもかけず、人間は自分のポケモンのレベルが上がったことを喜びます。
格闘ポケモンの方は、「お前に用はない」とでも言うかのように、倒れたタブンネを遠くの草むらに放り投げます。

人間とポケモンは近くの草むらに身を隠します。
やがて、子タブンネがふたたび「チィチィ」と鳴きはじめました。
そして、その声を聞きつけたタブンネがやってくると、隠れていた格闘ポケモンに倒されます。
これが何度も繰り返されているのです。

これは、子タブンネを餌としたタブンネ狩りです。
タブンネは仲間を想う気持ちが強いポケモンです。
たとえ自分の子どもでなくても、子タブンネが助けを求めていれば助けに来ます。
子タブンネに注意が行っているタブンネはとても無防備です。
タブンネたちは、抵抗することもできないまま狩られてしまいます。

この方法のメリットは、タブンネを探し回る必要がないということです。
タブンネを探して歩き回るより、1ヵ所で待ち伏せをしたほうが楽です。
さらに、タブンネたちは子タブンネの方を見ているため、人間の存在になかなか気づきません。
耐久力のあるタブンネといえど、無警戒で攻撃をもらえば簡単にやられてしまいます。
自分たちに被害を出さずに簡単にタブンネ狩りができるため、中堅のトレーナーにとても人気のある方法です。

そして、最近ではこれを利用してお金儲けをする人が出てきました。
子タブンネのもとにやってきたタブンネを大量に捕まえ、他の人間に提供するのです。

捕獲されたタブンネたちには餌を与えずに、極限まで弱らせます。
一撃で倒されるほどに弱ったタブンネを、他の人間のポケモンに倒させます。
そうすることで、野生のタブンネ狩りを行うより、安全かつ短時間でレベルを上げることができます。
そして、レベルアップと引き換えにお金をもらうことで収入を得るのです。

お金と引き換えに、時間を節約しながら大量の経験値を手に入れることができるこの方法は、
それなりの実力を持つトレーナーたちに高い人気を誇ります。
あるトレーナーは言います。簡単にレベルが上がるのがおもしろい。野生のタブンネを探す手間が省ける。
あるトレーナーは言います。自分のポケモンが一撃で相手を倒す爽快感は、実際のバトルではなかなか味わえない。

人間の糧となるために、今日も子タブンネが木に吊るされ、タブンネたちが狩られていきます。
森の中で「チィチィ」という鳴き声が聞こえても、決して近づいてはいけません。
タブンネの代わりに、あなたが狩られてしまう事故が起こるかもしれませんから。
安全にレベルアップを行いたい方は、お近くのジョインアベニューまで。

(おわり)
最終更新:2015年02月18日 20:56