夏のタブンネホラーシリーズ プロローグ

夏のタブンネホラーシリーズ  「ノロイノウタ」


空が赤く染まった夕方のヒウンシティ、サブウェイでは帰宅ラッシュの
電車が線路を走り、夜行性のポケモン達が現れ始め、ファストフード
店では女子高生が三人で談笑をしている。

「だからさぁ~、あそこで私のタブンネちゃんが火炎放射使えば勝てたのよ~」
「トモミ、それさっきも聞いたよ。バトルの話ばっかでつまんないな。」
「じゃあさ、ちょっと趣向を変えてみない?」
「どゆことアサコ?」
「怪談話よ!カ・イ・ダ・ン!」
「えぇ~!それって夏にやる話でしょ?」
「逆に今だからよユキ。特にトモミには知っておいてもらいたいし。」
「?」

アサコは怖がらせようとしているのか、少し暗い顔をした。

「『呪いの歌』っていう噂なんだけどね。」
「えぇ~、なにそのベタな題名~。」
「でも最近ネットで囁かれてるのよ。ある歌を聴くと
呪われるっていう内容なんだけど…」
「それこそベタじゃない…」
「うん、でも人間がそれを聞いても何ともないんだって…」
「じゃあポケモンが?」
「そう、でもあるポケモン以外は同じく何ともないんだって…」
「そのポケモンって?」
「『タブンネ』だよ。」

トモミは少し不安そうに、

「えぇ!?じゃあ私のタブンネちゃんがそれを聞くと呪われるの!?」
「かもね。」
「でも呪われるとどうなるの?まさか死んじゃうとか?」
「そう、そこが重要なのよ。その歌はタブンネ以外にはモスキート音の
ようにしか聞こえないんだって。でもタブンネには聞くも恐ろしい歌
が聞こえるらしいよ。で、その直後にサーナイトが現れて…」
「サ、」
「サーナイト?」
「こう言うらしいよ。『お前は一週間後に死ぬ!』ってね。」

熱く語るアサコとは逆に、ユキとトモミは興醒めしている。

「う、嘘くさ~!どうしてサーナイトが?」
「てかそもそもなんでタブンネちゃんだけが?ありえな~い!」
「ハ、ハハハ。まあ噂だからね。」
「まったくどこからそんな噂が来たんだろうね?あのかわいい
タブンネちゃんが呪い殺されるとかありえない!」
「ちなみにその歌は『タブンネ』と『呪いの歌』で検索すると
ダウンロードサイトが見つかるらしいよ。」
「興味ない興味ない。そんなのより次行こう次!」

三人はその後、「森の洋館」や「波止場の宿」の怪談をして
それぞれの家に帰った。

トモミが家に帰宅した頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

「ただいま~」

その声を聞いたポケモンが玄関まで迎えに来た。

「ミッ!ミッミッ♪」ポテポテ

タブンネである。

「ただいまタブンネ。良い子にしてた?」
「ミッミッ♪」

タブンネは勿論と答えているようだ。

「あらトモミおかえり。晩御飯できてるわよ。」
「オッケ~。じゃあ食べようかタブンネ。」
「タブンネ~♪」

一家で食事をし、風呂に入り、学校の課題を済ませる。
昨日と変わらぬ日常。
そしていつもの自室でのネットサーフィン。

「見て見てタブンネ!この通販の帽子私に似合うと思う?」
「……ミッ?ミィミィ♪……ミファ~」

タブンネは眠たそうにしている。

「タブンネちゃん眠そうだね。先に寝てていいよ。」
「ミィミィ…」ゴロン

タブンネは大きな籠状のベットに身を包んだ。

「さてと、そういや最近音楽をダウンロードしてないなぁ。」

トモミは音楽サイトで流行の曲を聴いている。
タブンネを起こさないよう、イヤホンをしながら…

「意外に更新されてないなぁ。他には…」

その時トモミの脳裏にあの噂がよぎった。

『呪いの歌』

「…まさかね」

そう言いつつも好奇心からか、トモミは『呪いの歌』で検索を始める。
しかしそのダウンロードサイトらしきものは見つからない。

「やっぱりアサコのホラだったのかな?」

しかしあるスレを覗くと、

『最近噂されてる「呪いの歌」って知ってる?』
『知ってるwタブンネが呪い殺されるって』
『タブンネ~』
『その歌を聴きたい場合、ただ検索するだけじゃダメなんだって』
『ならどうするの?』
『なんでも午前の1時に「呪いの歌」で検索すると、他の時間帯には
出てこないサイトが現れるんだって。そこで聞けるらしいよ』
『タブンネ~』
『まじでw実は最近家のすぐ隣の空き地の土管でさ~
つがいのタブンネが住み始めたんだよ~
それだけならまだしも、卵を産みやがったのか夜中にベビンネどもと
合唱しやがるんだよ~おかげで眠れやしない
その歌聞かせて呪い殺してやるかw』
『ブタンネマジ害獣w』
『タブンネ~』

「なにこのスレ最悪…」

トモミは不快に感じている。
タブンネが大好きだからだろう。

「でも午前の1時って…」

時計は1時の2分前を示していた。

「………少し覗いてやるか」

トモミは1時になったのを見計らって、再度検索した。

「ん?……ウソ…」

そこには先ほどまでは見なかったサイトがあった。
サイト名は「ノロイノウタ」
しかも検索ページの最初である。

「ホントに…あった?」

気づけばサイトにアクセスしてしまった。
そのサイトは背景が真っ黒で、文字は赤色の不気味な作りである。

「なにこれ…」

そして中央には「ダウンロード」とある。

「…どうしよう」

トモミは後ろを振り返る。
タブンネはすっかり寝ているようだ。

「まぁイヤホンもしてるし…」

これならタブンネに聞こえることもないし、なによりこれは噂だ。
噂に決まっている。
このサイトも誰かがイタズラで作ったに決まっている。
トモミはクリックした。

…………キン……キン………………………キン………
キン…………キン…………………………………………

「???」

イヤホンで聞いているのに、歌らしい音は全く聞こえてこない。
たまにモスキート音のような音が聞こえるだけだ。

「………あ、アホらしい!やっぱり噂ね!」

何か損をさせられた気分だ。
トモミは気を紛らわすために、机に置いたお茶を手に取ろうとした。
だが、

「っあ!」ガシャン

手を滑らせ、机にお茶をこぼしてしまった。

「…ミ?ミ?」
「あ、ゴ、ゴメンねタブンネちゃん…。起こしちゃった?」
「ミィ…」

トモミは雑巾を取りに行こうと立ち上がった。
だがその時、イヤホンのコードを腕に引っ掛けてしまい、
イヤホンはPCから外された。

「っあ!しまった!」
「ミィ?」

あの聞こえない歌がPCから流れ始めた。

「……な、何を焦ってるのかしら私…。タブンネちゃん、雑巾…」

トモミが振り向くと、

「ミ…ミ…ミ…」ガタガタ

なぜかタブンネが震えている。

「ど、どうしたの?」

そう問いかけても、タブンネは何かを否定するかのように
首を横に振り始めた。

「ミヒィ!……ミヒィ!」ガタガタ

タブンネは顔を真っ青にし、その耳を手で塞いだ。

「ミ……………ミギャァァァァァァアァァァァアアァァ
ァァァァァアァァァァァァ!!!!!ミギャァァァァァ
アアアァァァァァァ!!!!!」ガタガタ ガタガタ

タブンネは普段なら絶対に出さない悲鳴をあげ始めた。

「タ、タブンネ!タブンネ!」

とにかく誰か呼ばないと…
しかし両親は深夜のドライブに出かけている。
この家には自分とタブンネ以外誰もいない。

「そうだ!救急車!」

連絡先にどう説明すればいいかわからないが、
とにかくタブンネの状態は尋常ではない。
だれか呼ばなければ…
トモミは自室の受話器で119を押した。
だが、

『………ツー…ツー…ツー…』

「!?、なんで!?なんで繋がらないの!?」

トモミは110や両親にも連絡を試みたが繋がらない。

携帯電話で行っても同じだった。

「まさかホントに呪い!?」

とにかくこのサイトを閉じなくてば!
そう思ったトモミは画面右上の×印をクリックするが、

「消えない!?こんな時にフリーズ!?」

電源ボタンを長押ししても、画面が消えることはなかった。

「ギィィィィィィ!!!ミギィィィィイィッィィイ!!!」ブチブチ

とにかくタブンネを家から連れ出そうとしたトモミは目を疑った。
タブンネが自分の手でその耳を引きちぎろうとしているからだ。

「タ、タブンネぇ!何やってるの!?」
「ミギビィィィィィイイィィィィィ!!!」ブンブン

トモミの制止を振り切るタブンネ。
いつも手入れを欠かせていない自慢の耳を…
その目はほとんど白目を剥いている。

「そうだ!パソコンを!」

トモミはパソコンを外に投げ捨てようとした。
だが、

「!!!!、キャアァァァァァァァァァ!!!」

トモミは絶叫した。
PCの画面にはまるで画面の奥から押しつけたかのような、
いくつもの人の手で赤く染まっていたからだ。

『プルルルルルル……プルルルルルル……プルルルルルル…』

突然電話が鳴った。
両親からかもしれない。
恐怖に煽られたトモミは受話器を取った。

「もしもしお父さん!?お母さん!?今すぐ帰ってきて!
タブンネがおかしいの!」

しかし電話から聞こえたのは両親の声ではなかった。

『………ヴゥ…ヴゥ……ノ…ロ………ウ……』ザー ザー

「キャァァァァァ!!!」

トモミは受話器を放り投げた。

「タブンネぇ!ここから出よう!タブンネぇ!」

だがタブンネはベッドに籠り、微動だにしない。
外に出て助けを呼ばなければ…
トモミはドアノブに手をかけた。
だが突然ブレーカーが落ちたように部屋の電気が消えた。

「何!?何なの!?」

ガタッ! ガタッ! ガタッ! ガタッ!

部屋の外から階段をゆっくり歩く音が聞こえてきた。
お父さんかお母さん!?
いや違う!?
玄関のドアが開く音はしなかったし、お父さんはドライブから
帰ってくるといつも大声で私を呼ぶ。
なによりこんな不気味な歩き方は誰もしない!
そしてその音は部屋の前で止まった。

部屋は外の明かりでわずかに見える程度である。

ギギギ…

ドアノブがゆっくりと動き始めた。

「イヤ…イヤ…」

そしてドアは開かれた。

「!!!、だ、誰もいない!?」

ならば誰がドアを開けたというのか!?

「タ、タブンネ!タブンネ!タッ……」

振り返ったトモミはベランダに『何か』を見た。

それは……まるで死体のように真っ青な体を持ち、
生ける者を呪う目でこちらを睨みつけるサーナイトであった。

「キャアァアァァァァァァァァァァァァアァァァァアァァァァァァァ
ァァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァアァァァ!!!!」



プロローグ 完
最終更新:2015年02月20日 00:57