私はタブンネちゃん研究家である。
どうすればタブンネちゃんが幸せに生きられるか、日夜それだけを考え続けている。
先日の阿修羅ちゃんには気の毒なことをしてしまった。
タブンネちゃんの可愛い顔を3つ並べてみたいという、私の個人的な願望もよくなかったのだろう。
やはり親子は目に見えて手の届く場所にいてこそ、幸せというものだ。
苦い教訓を噛み締めつつ、私は新たな実験に取り掛かることにした。
新たな被検体の親子を選ぶ。今度はママンネちゃんと子タブンネちゃん1匹の親子だ。
ミィミィと幸せそうに眠っているママンネちゃんを手術台に乗せ、麻酔を打つ。
念の為もう1本、さらに口の周りにも麻酔を打った。
そして私は大型ペンチを取り出し、ママンネちゃんの口をこじ開けて前歯を引っこ抜いた。
「ミッ!」
さすがに体がビクンとしたが、麻酔の効果でママンネちゃんは気づかずにまだ眠っている。
私は次々にペンチでママンネちゃんの歯を全部抜いた。口の中は血だらけだ。
許してくれ、これも君達親子の幸せのためなのだから。
次に、これもチィチィ眠っている子タブンネちゃんにも麻酔を打った。
そしてママンネちゃんの血だらけの口の中に、子タブンネちゃんの下半身をすっぽり収めて、
ママンネちゃんの口と子タブンネちゃんの腰の周りを縫合する。
これでよし。モンスターボールに入れて融合を待つとしよう。
翌朝、親子が目覚める前にこっそりボールから出してみた。
ママンネちゃんの口から上半身が生えるような形で、子タブンネちゃんはまだ寝ている。
接合部分もちゃんとくっついている。手術は成功だ。
心無い人が見れば「親が子を食おうとしているようだ」などと言うかもしれないが、
そんな輩には言わせておけばよい。私からすれば理想の親子の形だ。
とりあえず「エイリアンちゃん」と名づけることにする。
「ムグ…ンム…?」「チィ…チィ?」
エイリアンちゃんが目覚めたようだ。子タブンネちゃんで口を塞いだ形になっているので、
ママンネちゃんがもごもごした声しか出せないのはやむを得ない。
今度はしっかりと現状を認識させなくてはいけないので、私は鏡の前にエイリアンちゃんを連れて行く。
「ム!ムゥ?ムゥムゥ!?」「チチィ!?チィ!」
鏡に映った自分の姿に、エイリアンちゃんはさすがに驚いているようだ。
そこで私は、エイリアンちゃんの触覚を握って勘定が伝わるようにした上で、こうなった理由を説明する。
これは君達親子のためになることなのだ、いつも一緒にいられるようになると。
最初は驚いていたエイリアンちゃんも理解してくれたようだ。「ミィ!」と笑顔で私の手を握り返してきた。
日頃から愛情を込めて接しているから、ちゃんと信用してくれる。わかってくれて私もうれしい。
さあ、それでは朝ごはんにしよう。私はオボンの実を子タブンネちゃんに与えた。
「チィチィ!チピピィ♪」喜びながらムシャムシャとかぶりつく子タブンネちゃん。
その様子を目を細めて見ていたエイリアンちゃんは「私の分もちょうだいミィ」と言わんばかりに手を伸ばした。
……あー、すまない…君の分はないんだ。
この融合形態は、阿修羅ちゃんの失敗に懲りて、まず子供を飢えさせないことを優先したものなのだから。
今後君は、子タブンネちゃんを通して食物を摂る形になる。もうしばらくして肉体が完全に馴染めば、
食べ物は子タブンネちゃんの体内をただ通過するだけになるから、元通りに味覚を感じることもできる。
それまでしばらくの辛抱だ。子供のためと思って我慢してくれないか。
私の懸命の説得もあって、多少不満そうではあるがエイリアンちゃんも納得して引き下がった。
「お腹空いたミィ…」とお腹を撫でながら、エイリアンちゃんは座り込んで壁にもたれかかる。
一方、子タブンネちゃんは満腹なようで「プフィ…♪」とご機嫌だ。
しかししばらくすると、「ン~、チィ…チィ…」と軽く拳を握って力み始める。
それに伴ってプリプリプリ…と微かな音が聞こえたかと思うと、エイリアンちゃんが目を白黒してジタバタし出した。
うーむ、早くも来てしまったか、この方式の第二の弱点が。
子タブンネちゃんの下半身が、エイリアンちゃんと完全に融合しきるまでは排泄器官は普通に存在するので、
子タブンネちゃんが排泄したものは、エイリアンちゃんの喉に直接流れ込む形になってしまうのだ。
即ち、それは全てエイリアンちゃんの食事になるというわけである。
タブンネちゃんという種族は、子供のお漏らしも糞も舐めて綺麗にしてあげる愛情深い種族であるし、
子タブンネちゃんのためだ、我慢してくれ、2~3日の辛抱だからと再び手を取って切に訴えた。
涙目になりながらも、排泄物をゴクンと飲み込んで、エイリアンちゃんは理解してくれたようだった。
本当にすまない。2~3日で完全に肉体は融合するはずだからそれまで……。
だが、その融合の結果を見る前に悲劇は訪れた。翌朝、エイリアンちゃんが死んでいるのが発見されたのだ。
エイリアンちゃんも、子タブンネちゃんまでもが苦悶の表情を浮かべて息絶えていた。
なぜだ、どうしてだ!? 昨日は確かに納得してくれていたし、阿修羅ちゃんのような自殺とは思えない。
ショックに打ちひしがれながら、モニター映像を解析する。昨晩、何があったのだろうか……。
夕飯が終わり、飼育ルームの中のおもちゃでひとしきり遊んだ後、寝床に入るエイリアンちゃんが映しだされた。
深夜12時まで映像を早回ししてみたが、ここまでは何も起こっていない。
しかし1時前あたりに、エイリアンちゃんが目まぐるしく動き出したかと思うと倒れた。
そこで映像を止めてみると、もう死んでいる。ここが問題のポイントのようだ。
通常モードで再生してみよう。
「ムゥ…ムゥ…」「チィ…チィ…」エイリアンちゃんも子タブンネちゃんもぐっすり眠っている。
すると目を閉じたままの子タブンネちゃんが拳を握り、無意識に「ン~…ンン~…」と力み始めた。
人間ならまだ
オムツをしている年頃だ。夜中に粗相をしてしまっても止むを得まい。
そして昼間に一度聞いた、プリプリプリプリという脱糞をする音が、映像の音声から微かに聞こえてくる。
しかし今度はやけに長い。夕飯の木の実をあげすぎたからだろうか。
自制の効かない睡眠状態とあって、止めようがないのか、排泄音はしばらく続いた。
「ム……ムグゥ!」しばらくうなされていたエイリアンちゃんが飛び起きた。
寝ている状態で、子供の寝小便と寝糞を喉に流し込まれては、さすがに苦しかったに違いない。
寝ぼけ眼でジタバタした後、寝床の傍らに置いてあったペットボトルを手にした。
そしてキャップを取ると、口に当てて飲み干そうとする。喉の排泄物を押し流すために。
だが今や、エイリアンちゃんの口イコール子タブンネちゃんの口である。
子タブンネちゃんが飲まなければ、水はエイリアンちゃんの器官にまで届かないのだ。
寝ぼけているのと、苦しいのとで、融合状態にあるのを忘れているのか、
エイリアンちゃんはペットボトルを子タブンネちゃんに咥えさせると、一気に飲もうとした。
しかし子タブンネちゃんには多過ぎる水量だ。
「チッ!チビギヒィ!ゴパッ!」口からゴボゴボと水を溢れさせ、子タブンネちゃんは苦悶する。
だが息が苦しいエイリアンちゃんも必死だ。構わずにペットボトルをゆすって水を流し込もうとする。
「チピィ!ゴバベッ!ガ、ゴバァッ!」
ゴボッと大きく水が逆流し、子タブンネちゃんのバタバタ暴れていた動きが止まり、腕がだらんと垂れた。
そしてほぼ同時に、エイリアンちゃんがペットボトルを取り落とし、床にばったり倒れる。
喉元を押さえてしばらくのた打ち回っていたが、エイリアンちゃんも動かなくなってしまった。
私は映像を止めるのも忘れ、しばしうなだれるのみであった。
念のため解剖してみたが、死因は言うまでもない。
映像で見た通り、エイリアンちゃんは排泄物を喉に詰まらせての窒息死、
子タブンネちゃんは、それを押し流そうとして大量の水を飲まされたための溺死であった。
許してくれ、エイリアンちゃん。だが私は挫けない。
タブンネちゃん一族の幸せのために、必ず新たな融合タブンネちゃんを生み出さなくては。
(終わり)
最終更新:2015年02月20日 17:05