ベビンネ達が目覚めると、そこは四方を壁に囲まれた小さな部屋であった
「チィ?チィ…チィチィ」
いきなり知らない場所に戸惑う7匹のベビンネ達、なにしろ先程まで巣の中にいたのだから当然だろう
高い声で鳴きながら部屋の中を右往左往している
「チィ!チィ!」
一緒にいたはずの母を呼んでも反応は返ってこない
部屋の中にはベビンネ以外の存在はなかった
「チィィ…」
やがて鳴き疲れたかのように座り込んでしまうベビンネ達
兄弟達がいるため孤独ではないものの、見知らぬ場所で甘える母もいない状況にベビンネは不安に震えていた
それから少し時間が経った
「チィィ…チィ!チィ!」
空腹を感じたベビンネ達は母を呼んで再び鳴き始めた
大半は既に乳離れしている月齢ではあるが、それでもまだ幼いベビンネ達は母に依存する以外に餌を得る手段を知らない
「チィ!チィチィ!チィー!」
段々語気を強めて鳴くベビンネ達、だが鳴くだけでは当然餌など出てこない
「チィ…ピィィ…」
やがて途方に暮れる七匹のベビンネ
このままでは餌も得られず餓死してしまうだろう
しかし、ここでとある変化が起こった
ベビンネ達を囲んでいた四方の壁のうち、一方が扉の様に開いたのだ
「チィィ!!」「ピィィ!ピィピィ!」
突然の出来事に数匹のベビンネは怯えて泣き出す
開いた壁の先は通路のようになっており、どこかへ続いているようだ
この先へ進めば何があるかは解らないが何かしら進展はあるだろう
「チィ…ミィィ…」
だがベビンネ達の中に一匹として進む者はいなかった
皆怯えるように通路の先を見つめてか細く鳴いている
しかし、まるでベビンネ達を咎めるかのように再び変化が起こった
ガコンッという音と共にベビンネ達の数メートル先の通路の天井から『何か』が降ってきた
その『何か』はオレンジ色の箱のような物体に青い光が纏っており、通路をキョロキョロと見回している
「チィィ!」「チ…チャァァ!!」「ピィィ!」
一方ベビンネ達は突然現れた謎の物体に恐怖し、震えながら泣き出す
その声を聞きつけたかのように『何か』がベビンネの方に向き直った
するとベビンネ達を発見するやいなや、『何か』はベビンネ達に向かって不気味な笑いを浮かべながら突き進んでくる
「チィーーー!!チィチィ!」「ピィィ!!ピャァァァァ!」「チャィィィィ!!」
迫りくる正体不明の物体にベビンネ達の恐怖はピークに達した
助けを求めて必死に鳴くが、そんなものは現れない
『何か』はベビンネ達が震えて動けないと解ると、ベビンネの目の前で動きを止め、観察するようにその笑みを向けた
「チィ…!チ…!」「チィーー!ミピィーー!!」「チャァァ…」
ベビンネ達は恐怖の余り声も出せずガタガタ震える者
高い声でひたすら泣き叫ぶ者、尻餅をついて失禁してる者など様々だ
『何か』は品定めするように七匹のベビンネをそれぞれ見つめる
そしてベビンネ達の内の一匹、一番幼く唯一乳離れしていない正真正銘赤子のベビンネに目をつけると
ホースのような物を伸ばして赤子ンネの身体を絡めとった!
「チュピィィィィ!!ピィピィ!チピィィィィ!」チョロチョロ…
「チィィ!ミィ!ミィィィ!」「チィチィ!チィィ!」
恐怖に小便を漏らしながら必死に泣き叫ぶ赤子ンネ
するとそれに対して数匹のベビンネが「おねがい、その子をかえして!」とでも言いたげな声を上げる
だが『何か』はニヤニヤ笑いながら自身に身体に付いている扉を開け、赤子ンネを身体の中に放り込んで扉を閉めてしまった
「ピィィ!!ピィィ!チィピィーーー!」ベシベシ
「チィィ!チィィ!」「チィーー!チィーー!」
扉の内側から赤子ンネが瞳に涙を浮かべて「たすけて!」と必死に鳴いている
ベビンネも兄弟のピンチに『何か』にも構わず必死に赤子ンネに向かって叫ぶ
必死に互いに呼び合うベビンネ達をニヤニヤ笑いながら、『何か』は自身に備えられたある機能を使った
すると何かの身体の中、赤子ンネの入っている空間に水が注がれ始めた
密閉された空間のため、どんどん中に水が溜まっていく
「チィィ!?チボッ…!ピ…!ピィ…!」
生まれたばかり当然泳ぐことなどできない赤子ンネ
水に呑まれ、ガボガボと息苦しそうにしながらも兄達に助けを求めている
「チィーーー!ピィピィ!チュピィィィィ!」バンバン
「ピィィ!ピィィ!ミィィ!」
ベビンネの内の一匹が扉をバンバンと叩いて必死に赤子ンネを助けようとしていた
別のベビンネは『何か』に向かって「やめてやめて!」と懇願している
だが、『何か』はそんなベビンネ達を見てニタリと笑うと
「ガボボボボボ…!」
「チッ!?チィィ!チィィィィィーーー!!」
中の空間をグルグルと回転させ、赤子ンネを荒れ狂う水の中に呑み込んだ
身体中の酸素を吐き出し、虚ろな目でただ為すがままにされる赤子ンネ
驚きの声を上げながらも必死に鳴くベビンネ
やがて回転は止まり、扉が開くと共に中の水が外に排出された
「チポッ…!チィィ!…チ?」
水を被り、不快そうにプルプルと震えるベビンネ
しかし、すぐに水と共に排出されたとある物に気づいた
それは、地獄の苦しみといった表情で固まった赤子ンネの死体だった
「ピ…ピャァァァァ!!」「チィィ!チィーーー!!」「チィチィチィ!!チィヤァァァ!!」
一匹のベビンネが上げた悲鳴を皮切りに、他のベビンネ達も恐怖に悲鳴を上げる
なんで!?どうして!?恐怖と混乱にベビンネ達の幼い思考は翻弄されていた
しかし、そんなことをしている暇などなかった
『何か』は残ったベビンネ達に再び不気味な笑いを向け、ジリジリと距離をつめていく
『チッ!チィィ!チピィーーー!!』
白く濁った瞳で死んでいる赤子ンネを思い出したベビンネ達は
悲鳴を上げ、震えながら、再び近寄ってくる『何か』から一目散に逃げ出した
「……」
『何か』は敢えてベビンネを追わず、逃げるベビンネ達の背中を見つめていた
しかし、やがてその姿が見えなくなると、再び捕獲するべく動き出した
幼いベビンネ達と『何か』の死の
鬼ごっこの始まりである
最終更新:2015年02月20日 17:07