タブンネ一家の地獄農業2日目

~2日目~

「みぃっ!」
「みきゅっ!」
「チィッ!」

午前5時57分。
今日の準備を終えて、起こしに行こうと思ってた矢先に元気な声をかけられた。
もちろんタブンネ一家である。
早く目覚めたらしいな。
全員ニコニコ笑顔で笑っている辺り、昨日の俺の態度から厳しいお仕置きは無いと思っているようだ。

「なんだ、早いじゃないか。
もう仕事がしたいのか?」
「みぃ♪」
全員が笑顔のまま頷いた。
ふむ、好都合だな。

「そうか、偉いな。
それじゃあ早速…」
俺は全員に小さな袋を渡した。
これは普通の肥料だ。

「これを畑に撒いてきてくれ」
「みぃみぃっ!」
「チィっ♪」
ウキウキとそれを受け取り、一斉に駆け出す。

「あ、ちょっと待て」
「チィ?」
すかさずベビンネだけを呼び止めた。
お前には思い通り動いて貰わないと困るんだよ。

「お前は向こうの方を頼む」
そう言って、倉庫近くの畑を指差した。

ベビンネは怪訝な顔をしつつも、深く考えずに「チィ♪」
と了承してくれた。
本当に馬鹿だな。


俺はトイレと偽ってリビングに向かい、横たわるベビンネの死骸を回収して時計を確認する。
準備を終えたのは5分前、ベビンネを追いやってからもうすぐ4分だ。

…よし、そろそろ行くか。


「チィ?チイチイ!」
小さな手で肥料を撒いていたベビンネが笑顔で挨拶してきた。

その顔を見てると嗜虐心が溢れてくるな。
堪えろ俺、あと少しの辛抱だから。

「おう、ごくろうさん。
ちょっと道具を取りに来たんだ」
適当な挨拶を返して倉庫の鍵と扉を開ける。
ベビンネが上機嫌で作業に戻ったのを確認し、道具を探る演技をする。

そして棚の上にある、オボンの実が5つ入ったザルを抱えた。

…よし、これでいい。

扉の向こうでは、何もしらないベビンネがニコニコと作業を続けていた。

バン!

乱暴に開け放たれた扉に驚いたベビンネがビクリと震えた。

ベビンネの前に無言でザルを目の前に置いてやる。

「…チィ?チィチィっ♪ミキュウ♪」
食事をくれるのだと勘違いしたベビンネが、オボンを一つ手にとってむさぼり始めた。
誰もやるなんて言ってないだろ、意地汚いゴミめ。

「これはどういうことだ」
ドスの効いた低い声で脅してやる。
俺が怒っていると感じたベビンネは、オボンかは口を離して俺を見上げた。

「…ミュウ?」
恐る恐る「どうしたの?」と聞いてくる。

「すっとぼけてんじゃねぇ!」
大声で怒鳴りながらベビンネが抱えたオボンを強奪する。
短く悲鳴を上げるベビンネを無視して、歯形が付いたオボンをザルに戻した。

「よく見てみろ。このザルにはオボンが5つしか無いぞ」
「チィ?」
首を傾げるベビンネ。
「それがどうしたの?」と返してきた。

「言い訳するな!」
バギッ
「グビャアッ!!」
ベビンネの頬をぶん殴ってやった。

折れた歯数本と血を吐きながら倒れるベビンネ。
幼い体には大ダメージだったらしく、左頬に大きな青痣ができた。

「みぃ!みきゅ!」
「みぴぃ!?」
騒ぎを聞き付けたらしいママンネとパパンネがやってきた。
好都合だな。

「…お前ら一家にはガッカリだ。
少しは素直で可愛い所があるかと思ってたのによ」

倒れて泣いているベビンネの後頭部を鷲掴みにしてオボンの前につき出す。
ママンネもパパンネも、それに合わせてザルを見つめる。

「俺を騙せるとでも思ったのか?
このオボンはお前らの昼飯に用意してた物だ。
仕事を頑張ってくれたお前ら全員が満足できるように、高くて栄養たっぷりなオボンを2つずつ用意してたのに…まさか泥棒されるとはな」

「チィっ!!チィチィ!」
違うよ、僕は何も知らないよと激しく否定するベビンネ。
いじらしいな。
いじらしいほど苛めたくなるんだよ。


「俺はお前らが起きてくる2分前に、しっかりと個数を数えた上でこの倉庫の中に隠しておいた。
そして鍵をかけた。
それから起きてきたお前らに仕事を任せて俺はトイレに向かった。
それまで4分間俺はトイレに籠っていた。そしてお前は」

一気にまくし立て、掴んだベビンネを倉庫のドアの左下に空いた、ベビンネサイズの穴に向けた。

「俺がいない間にここの穴から忍び込みオボンを1つ盗んだ。
これだけの証拠が揃ってる上で、まだ否定するのか?」

「チィッ!?チ…」
一気に押しきると、ベビンネは黙ってしまった。
否定する材料が見つからないのだろう。この穴はもちろん、俺が開けたものだ。


「…沈黙は肯定と同じだ。
決まりだな」
「チッ!?チィーーー!!」
何か言おうとするベビンネを無視して立ち上がり、倉庫からニッパーを持ち出した。

「お前らは、俺を騙した上に何の躊躇いもなく俺の優しさを踏みにじった。
居候の分際で主のプライドを徹底的に傷付けたお前らを許すことはできない。
それに見合った罰を受けてもらう」

「チャァーーーーーーー!ミキャアーーーーー!!」
じたばたと暴れるベビンネの尻尾を掴んで逆さ吊りにする。
そのクリームみたいな尻尾の付け根をニッパーで挟んだ。

「みぃみぃ!みきゃあ!」
「みきゅう!!みぃ!」
両親も子供の解放を求めて俺のズボンを引っ張る。
二人も子供を殺されたくはないだろうな。

「何を今更。お前ら、俺が仲直りを持ちかけたとたんに子供を殺した事なんか簡単に許したじゃないか。
お前らにとっては子供の命より一時の安心のほうが大事なんだろ?」

「み…!みっ…」
否定しようとするが、材料が見つからず塞ぎこんでしまった。

「だってよ。お前の両親は、お前の命なんざどうだっていいんだってさ」
冷たく言い放って、ニッパーを握った右手に力をこめた。

ブヂっ!!
「チギャァアァっーーーーーーーーーーー!!」
尻尾は呆気なく切れてしまった。
支えを失ったベビンネは顔面から土に落下した。

「チギャアァァァァ!!アァアァァア…!」
痛みにもがき苦しむベビンネ。
少し煩いので、首を締めて黙らせる。

「ギ…!ぴギぎ…グガっ…」
窒息寸前で解放してやる。
ゲホゲホと激しく咳き込んでいるベビンネの前に、切断した尻尾をチラつかせてやる。

「チ!チィチィ!」
案の定だ。
痛みも忘れて、返してと懇願してきた。

これまで何匹ものタブンネの尻尾を千切ってきたけど、返してと願ってこない奴はいなかった。
尻尾は相当大事な部位らしいな。
これは生存競争の上で役立つ物なのか?


俺は無言で尻尾を放り投げた。
その先には昨日むしらせた雑草が積まれている。
灯油を掛けられた状態で。
尻尾は、ポスッと草の上に落下した。

ベビンネは大慌てで草に走り出す。
しかしそれは叶わないだろう。

ガチンッ!!
「グビャ!」

突如現れたトラバサミに挟まれるベビンネ。
そう、俺が仕掛けたトラップだ。

「みっ…みぃぃぃーーー!」
両親が血相を変えて走り出す。
そうだな、助けたいよな、でももう遅いぜ。

このトラバサミはアーボックやブニャットみたいな大型害獣を捕らえるための物だ。
肉に深く食い込ませるために、牙はかなり鋭くできている。
タブンネなだけあってベビンネの脂肪は分厚いが、未熟な子供がその牙に耐えきれる筈もない。
もうベビンネは酷く弱ってる。
今更解放したって助からないよ。

ガチンッ!!
「ぎみゅあっ!」
今度はママンネだ。
ママンネは成体なので普通に痛い程度で、致命傷にはならない。
しかしここで足止めを喰らうのは肉体的にも精神的にも痛いだろう。

「み…っみ…!みぃ!みぃ、ちぃちぃ!」
下手に動くのは危険と判断したパパンネは、涙目で俺に助けを求めてきた。
その媚び声を久しぶりに聞けたよ。

「みぃ!みぃ!!みいっ!!!」
しつこくズボンを引っ張る。
いい加減にうざい。
助ける方法は確かに知っているが、助けてやる訳ないだろ。

「いいか、よく聞け」
期待の表情で顔を上げるパパンネに、とびきりの笑顔で告げてやる。
「実は、俺も外し方知らないんだよね」

「…!」
パパンネは絶望の表情を浮かべ、ベビンネを捕らえるハサミと格闘を始めた。

「みぎぎぎぎぎ…!」
無理矢理開こうとしている。
まあノロノロと解除方法を探ってる暇はないしな。
でも非力なタブンネごときに開けるのか?
俺は暫くそれを観察する。

ギギキギギ…
「みあぁあぁぁっ…!!」
おお。凄い。
僅かずつではあるが、頑丈なトラバサミが開き始めたのだ。
火事場の馬鹿力とはこの事か。

パパンネのハート型の肉球に深々と牙が刺さっている。
下手をすれば筋を切って一生動かなくなるのに、それでも諦めようとはしない。
子供を思う気持ちは本物だったんだな。

「みやああぁぁぁーーーっ!」
バチン!

ついにトラバサミは開いた。
しかし解放されたベビンネは今にも死にそうだ。
息は掠れて弱々しく、腹からは黒い血が溢れている。
内臓が傷付いたのかもしれない。
生きているのが奇跡的だ。

「みぃ…!みきゅ…!」
自分の傷を気にせず、ベビンネに必死に呼び掛ける。

んー…この状態でいうのもなんだけど、飽きてきたな。

本当はもう少し遊ぼうと遊ぶ予定だったんだけど、そろそろフィニッシュにするかな。

俺はパパンネから瀕死のベビンネを取り上げてやった。

涙でグシャグシャの表情を向けるパパンネを無視して、積まれた草の上にベビンネを投げてやる。

最後の情けとして、返してほしくて堪らなかったであろう尻尾の隣に投げてやった。

ベビンネは弱々しい息をしながら「ミュウ…」と鳴き、切られた自分の尻尾をギュッと抱き締め…ついに動かなくなってしまった。

「みっ…!…みゅうぅ…」
我が子を二人も失ったパパンネは、ショックで踞って泣き始めた。
それを横目に、俺は数歩離れて火を着けたライターを投げ込んだ。


シュボッと音がして、瞬く間に炎が広がった。

ママンネの絶叫を聞きながら燃え盛る炎を見つめている。

ついでに、ベビンネの近くに見殺しにした兄弟の死骸も投げ込んだ。
その時。

「みいいいいぁぁぁぁぁぁ!!」
パパンネだ。
叫びながら炎に飛び込み、炎の中でくぐもった叫びを上げベビンネの死骸を抱える。
本能的な行動だろう。

炎から抜け出そうとしたらしいが、尖った枝を踏んでしまって転倒した。

投げ出されたベビンネ兄弟の死骸は燃え尽きてしまい、パパンネは起き上がらなかった。


それから数分後、炎は燃え尽きた。
草もタブンネ父子も判別が付かないほどボロボロだ。

飽きたから解放してやろうと思ってたのに、愚かだな。


感情の消え去った瞳で灰を見つめているママンネを解放してやる。

ママンネはフラフラとした足取りで灰に歩み寄り、短く「みい…」
とだけ鳴いた。

それから灰の上に崩れ、すすり泣きを始めた。

「もう飽きたから、お前には何もしないよ。
邪魔だから何処にでも消えてくれ」

ママンネにそれだけ言って、暫く今後の事を考える。
昼まで時間があるため、農業の続きをやることにした。
ボールからメタグロスを出す。

「メタグロス、仕事手伝ってくれるか?」

メタグロスが頷いてくれたので、早速仕事を任せることにした。

「じゃあサイコキネシスで肥r」
「みぃやああああーーーーっ!!」

ママンネの叫びが聞こえた。
振り向いてみると、怒りの表情を浮かべたママンネが俺に捨て身タックルをかまそうと全力疾走していた。
俺に復讐するつもりだな?

ズバン!
「ゲブっ!」
撃墜の必要は無かった。
メタグロスのバレットパンチが炸裂したのだ。

バンバンと派手にバウンドしながら転がっていく。
悶絶しながら苦しげな悲鳴をあげるママンネ。
「グッ…おげぇぇぇぇ…!」
今度は嘔吐を始めた。鳩尾に入ってたらしい。

全てを吐き終えて、口を拭って立ち上がる。
眼には痛みによる涙が浮かんでいるが、怒りの感情は全く衰えていない。

なるほど、何としても俺に一矢報いたいのか。
面白い。

「面白いね。
やれる物ならやってみろよ」

挑発して、小石をぶつけてやった。

額にコツンとやられたママンネの怒りは、さらに大きくなった。
「みっ…みぁぁぁああぁあああ!」
またストレートに突進してきた。
学習能力が無い奴だ。

「無駄だっての」
「ぐみゃっ!」
顔面に蹴りを入れた。
吹っ飛んで転がり、また立ち上がる。

「みぎゅあぁああぁーーーっ!!」
タブンネはいちいち叫ばないと突進できないのか?

「無駄だってば」
「みぎゃあ!」
また顔面。
もうママンネの顔面はグシャグシャだ。
骨なんかヒビまみれだろうな。

「ああぁぁあああーーーーっ!!」
まだ来るか。

迎撃のために、足に力を込める。
これで完全に砕いてやる。
しかしママンネは予想外の行動に出た。

「みぃっ!」
飛び上がったのだ。
これまでの行動から、またストレートに来るだろうと思っていた。
真っ直ぐに俺の胸目掛けて突っ込んでくるママンネ。
キュッと結んだ小さな拳で、俺を殴るつもりか。
くそ、予想外だったぜ。

ガンッ!!
「ビャッ!」
でも残念。
俺にはメタグロスがいるんだよ。

「今のは予想外だったな。
下等生物タブンネにも、しっかり脳ミソはあるんだね」

バレットパンチで地面に落とされたママンネの後頭部を踏みながら挑発してやる。

「ぐむむむむ…みぃぃ…!」
俺の足を退けようと踏ん張るが、もうスタミナは残っていない。

「お前が弱いせいで家族の敵は打てなかったね」
笑いながらママンネを蹴り転がして、仰向けにしてやった。
すかさず起き上がろうとするママンネの腹に足を落として、動きを封じた。
大して力は入れてないが、今のでもう体力が切れたらしい。
グッタリとして動かなくなってしまった。
せっかく興味を取り戻してやったのに、つまらない奴だ。

「まあでも、お前はここまでよく頑張れたね。
これまで殺してきたタブンネの中で、ベスト3に入るくらいにしぶとかったよ」

ママンネは返事をしない。
怒りもしない。
弱々しい息を繰り返してグッタリするだけだ。

「楽しませてくれたご褒美に、俺からのプレゼントだ」
メタグロスにビニール袋を渡し、灰を集めるように促した。

積もった灰から、両手に収まる程度の灰が浮かび上がった。
ママンネ一家の灰である。
「ほら、よく見てろ。お前の大切な家族、返してやるからさ」

ピンクの光に包まれた灰が、サラサラとビニール袋に注がれた。
ママンネから足を退け、その袋を渡してやる。

喜びと悲しみが混じった複雑な表情でその袋を抱えるママンネ。
「じゃあ、オマケもくれてやる」

その袋の中に肥やしを流し込んでやった。

「み…!あ…!?」
目の前に起こった突然の大惨事に混乱したママンネは、硬直しながら肥やしと混じりあう家族の灰を見つめる。

震えながら黙っているママンネの前で、その袋をよく揉んで混ぜてやる。

この肥やしは粘度がかなり高い。
もう灰を取り出すことはできないな。
「さ、これがご褒美だ。
家族の灰と、オマケの肥料ね」
ママンネの小さな手を指で摘まみ、しっかりと餞別の品を抱かせてやる。

目の前で立て続けに起こった出来事を処理しきれていないらしいママンネは、ただ黙って袋を眺めているだけだった。

「じゃ、今度こそこれでお別れだ。
それなりに楽しかったよ」

メタグロスを促し、袋を抱くママンネをテレポートさせた。
行き先は何処かの草むらだ。
優しい人間に拾われるかもしれないし、虐待愛好家に拾われるかもしれない。
まあ今となってはどうでもいい事だ。


さ、次はどうやってタブンネを苛めてやろうかな。

終わり
最終更新:2015年02月20日 17:08