働かざる者 その4

とりあえず俺は今起きた二匹にオレンを一つずつ与えた。
二匹とも喜んで食べ始める。
姉ンネはというと、そちらを振り向くことはなくただ自らの吐き出したものを舐め続けていた。
「ピィ…ピィィ…」と震えながら。

今日は昨日種を蒔いた畑に水をかけてもらう。
ホースでは過度に水を与えるため、お子様用の如雨露を三匹にもたせ、説明してやった。
妹ンネは「ミッミミィ♪」と嬉しそうに鳴き、弟ンネもまた「ミミミィ♪」と楽しそうに鳴いた。
ただ姉ンネだけが「フィ…フィ…」と悲しそうにしている。
部屋の嘔吐物は綺麗に舐め取ってはあるが、相当に気持ち悪いのだろう。

そして俺は今日は外で、奴らの働き振りを観察することにした。
「ミッミミイ~ミィミィ♪ミッミッミィ♪」
弟ンネはすぐにこの仕事が簡単にこなせることを理解したのか、お尻をフリフリさせ、歌を歌いながら歩いて水をまく。
「ミッミィ~…」
妹ンネは力が足りないのか、如雨露を重たそうに、しかしそれでも一生懸命に水をまいている。
そして姉ンネはというと…
一切鳴くこともなく、歩くこともせず、ただその場に立ち尽くしていた。
如雨露を持ち上げる力もでないのか、如雨露の口は下を向き、水が流れてしまっている。

自分がベビンネを死なせてしまったこと、そしてその死体を自分が食したこと、さらに戻してしまったそれを再び体内に取り入れてしまったこと…
これらが姉ンネに重くのしかかっているのか、その表情も力ない。
それを尻目に、弟ンネ、妹ンネは「ミミィ~ミィ♪ミッミィ!ミィ~ミィ♪」といつの間にか一緒に歌っている。

そしてそのまま午前の仕事を終えた。
「ミッミィ!ミッミミィッ!」「ミッフィーッ♪」
二匹は、これから自分の仕事に自信をもっているのか、これからエサをもらえる事を理解しているのか、顔をキラキラさせながら歩いてくる。
対して姉ンネだが、こちらはただうつむいて、「ミィ…」と小さくつぶやきながら歩いてきた。
そろそろ姉ンネの精神も限界なのかもしれない。

俺は仕事を頑張った二匹にオボンを二つずつ与えた。
「ミキャァ♪ミピピィーッ♪」「ミワァ~♪」
二匹とも大喜びでそれを食べる。
姉ンネはやはり空腹には勝てないのか、そちらをうらやましそうに見た後、俺に強請り始めた。

「ミィ~…ミィミィ~…」
目に涙を浮かべ、俺のズボンの裾をちんまりと摘んでいる。
この仕草は可愛いと思うが、やはり違う。
「ごめんなさい…許してください…」ではない。
「私かわいそうな目にあってるの…」という理不尽さを訴えようとしているのが滲み出ている。

「仕事はしない、赤ちゃんは殺す、そのくせ食欲だけは一丁前か?お前はどこまでもクズだな!!」
俺の言葉に、目を見開いて「ミッ…」と押し黙る。
「エサがほしけりゃ仕事しろ!それがお前の生きる道だと何度言ったら分かるんだ!!」
と続けて怒鳴りつけると、震えながら俺から離れて「ミィィ~…」と耳を押さえて縮こまった。

それでもやはり無駄な期待をこめて姉ンネはエサをもらった二匹を見つめる。
「ミフゥ!ミガーッ!!」
しかしやはり弟ンネに威嚇されてしまい、再び縮こまる姉ンネ。
弟ンネは妹ンネを庇うようにして、妹ンネも「ミィ♪」と、守られて嬉しそうにしている。

さて、午後からの仕事も頑張ってもらおうかな…
と思ったが、実は今は仕事がない。
弟ンネ、妹ンネが頑張ったために、仕事が順調にきているのだ。
仕方ないから今日の午後はお休みにすることにした。

「お前ら、今日はもう休みだよ!」と伝えてやる。
「ミィミイ♪ミィ~♪」「ミファ~♪」二匹は喜んで、万歳をする。
「ミ?ミィ??」だが姉ンネは、俺の言葉に目を丸くした。
「ゆっくり体を休めて、明日からまた仕事してくれよ!!」

俺がそう伝えると、「ミィーッ!」と弟ンネが一目散に部屋に駆け込む。
「ミガーッミゴーッ」そしていつもどおり、大の字になって眠り始めた。
寝る子は育つというか、疲れているのか、あるいはただこれがタブンネの惰性なのか…
「ミィミィ♪」
妹ンネは、車のおもちゃで遊んでいる。
「ミィ…ミゥ~…」
姉ンネは最早何もする気が起きないのだろう。
クッションに座り込む。

俺はその様子を確認して、部屋を後にした。
弟ンネはずいぶんと妹思いになったもんだ。
当初の自分勝手さからは想像もできないくらいに。
反して姉ンネ…
こちらも大分印象が変わった。
ここまでくると救いようがないな。
だけどそれ以上に気に入らないのは妹ンネだ。
仕事自体は頑張っているが、最初は姉ンネ、今は弟ンネと、「守られる、与えられる」ことを当然と思っている素振りを感じる。
「ビャーーーッ!!」
そんなことを考えていると、部屋から誰かの悲鳴が聞こえた。

そろそろ来るかとは思っていたよ。
俺が部屋の扉を開けると、そこには馬乗りになって弟ンネを殴りつける姉ンネがいた。
「ミフーッ!ビィフーッ!!ミガーッ!!ミギーッ!!」と鬼の形相で、ワケ分からない叫びを上げながら一心不乱に弟ンネを殴り続ける。
昨日真っ向からケンカしたときは弟ンネの圧勝だったから、恐らく弟ンネの寝込みを襲ったのだろう。
その弟ンネは口から血を吐きながら、「ビャァッ!ミビィ!ミギャーッ!!」と悲鳴を上げる。
口からは血が流れ、シーツを汚していた。

殴られて口元を切ったというレベルの量ではない。
まだ小さな体に、姉ンネの体重が圧し掛かったことは大きな負担なのだろう。
「ミピィ…ミフィィヤァ…ミポッ…」
だんだんと小さくなっていく弟ンネの悲鳴。
瞳からも涙を流しながら、懸命に手をパタパタさせて助けを求めている。

「ピイィ…ピャアァ…」
妹ンネは、そんな光景にただただ耳を押さえて縮こまるばかりだ。
弟ンネにも姉ンネにも散々助けてもらっておいて、自分は弟ンネのピンチに動こうとしない。
「ミャァウゥ…ミャァ…」
弟ンネのその小さな手は妹ンネに助けを求めているにもかかわらず。

「ピャァ!?」
ここで妹ンネは俺に気づいて驚いた声を出す。
目の前の惨劇に怯えるばかりで、俺が扉を開けたのも気づかなかったらしい。
そして、ようやく妹ンネは動き出す。

「ミィ!ミィミミッ!ミミミィーッ!!」
姉ンネに向かうのではなく、俺に向かって声を荒げる。
俺がそんな妹ンネを見つめると、「ミピィーッ!ミッピィーッ!」と弟ンネたちの方を指差し、バタバタした。
大体なんと言ってるかは想像がつく。
「助けてあげて!」だろう。

「甘ったれるな!お前はいつもあいつに助けてもらってただろう!あいつがピンチなら、助けるのはお前じゃないか!!」
俺が怒鳴りつけると、「ピッ…」と目を見開いて黙り込んだ。
そして尚も殴り続ける姉ンネを見て、「ピイィィ…」と震えながらつぶやく。
弟ンネは既に気を失って、声も出していない。

ついに妹ンネが行動を起こした。
「ピキーッ!」と叫んで、姉ンネに体当たりをしたのだ。
「ミフィッ!?」
姉ンネはとっさのことに反応できず、その体当たりを受けて弟ンネの体から下ろされる。

「ミィミッ!?ミミィッ!?ミィ!?」と弟ンネの体を揺さぶる妹ンネ。
「ミ?ミ?」姉ンネは、妹ンネが自分に対して攻撃をしたということに動揺したのか、そんな妹ンネに話しかけるように鳴いた。
弟ンネは意識こそないものの、お腹を上下にさせていることからまだ死んではいないらしい。
「ミィミ!?ミィ!?」
姉ンネは自分を無視する妹ンネに対して大きく声をかける。
「ミキャッ!ミピィーッ!!」だが妹ンネは、姉ンネに恐怖を覚えたらしく、弟ンネを放り出して逃げ出してしまった。

「ミッ…ミバァ~!ミグゥ…ミビャーッ!」
そんな妹ンネを見て姉ンネは泣き叫ぶ。
妹ンネに逃げられたことにショックを受けたらしい。

その妹ンネは、リビングに戻ってテーブルの下で「ピィ~…ピィ~…」と震えていた。
「ミクッ…ミビィ…ミバァ~…」
姉ンネも姉ンネで、弟ンネへの攻撃を止めて泣き出している。

所詮子タブンネたちはこんなものか。
なかなか面白いが、そろそろこいつ等の相手も疲れてきた。
俺は夕飯の準備をしながら、こいつらを最終的にどうするかを考えていた。

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夕食を用意し、妹ンネ、弟ンネにオレンを一つずつ、姉ンネにはパンの耳を与えると、案の定姉ンネは反抗してきた。
「ミィミィッ!!ミィーッ!!」
「何故みんな仕事してないのに自分だけ木の実じゃないのか」という抗議だろう。
「お前はただでさえ何もしないくせに、弟に暴力振るったりしてまともに飯をもらえると思ってんのか!!」
と怒鳴りつけてやる。
「ミッ…ミグゥッ…」と歯を食いしばりながら引き下がり、恨みのこもった目で妹ンネ、弟ンネを一瞥した。

だが弟ンネの様子がおかしい。
「ミヒューッミヒューッ」と、掠れたような呼吸音を出しているのだ。
「ミーミッ?ミーミィ?」妹ンネも若干心配そうにしていたが、やはり空腹には勝てなかったのか、すぐに木の実をほおばり始める。
「ミィミィ♪ミピィ♪」と上機嫌に変わる妹ンネ。
そんな妹ンネを見て、苦しそうにしながらも弟ンネも木の実を口に入れた。
姉ンネはその様子を「ミグルルルッ…」と、まるでタブンネではない獣のように唸りながら見ていた。

「ミ…ミグゥ…ミボォッ!!」
だが、弟ンネはその瞬間に木の実を戻してしまった。
しかもただ戻すだけではなく、血まで吐いている。
「ミピャァッ!!ミピィ!?ミピィ!?」
その様子を見ていた妹ンネは驚き腰を抜かす。
こちらはおまけにお漏らしまでして。
「ミガッ?」
唸っていた姉ンネも、それにはさすがに驚いたようだ。

「ビッ…ミガブゥ…ビギャーッ!!」
弟ンネはさらに血を吐きながら、床をのた打ち回る。
「ピピイィ…ピヤァーッ!」
妹ンネはその様子に怖気づいて、カーテンの後ろに隠れてしまった。

「ミヒュッ…ミフゥ…」
徐々に弟ンネの動きが小さくなっていき、ついには仰向けに寝転がり、先ほどのような奇妙な呼吸をするだけになった。
妹ンネが隠れているカーテンはプルプルと震えている。
「ミキャ♪ミヒヒィ♪」
だが姉ンネは、弟ンネの食べかけで血のついた木の実を見つけると喜んで飛びついた。

シャクッという音とともに、「ミイィ♪」と幸せそうな声を上げながら食べていく。
自分の弟が苦しんでいて、その木の実はその弟の血がたくさんついているものだというのにだ。
そしてついに…
「ミ…ミピ…ィ…」と小さく鳴いて、弟ンネはその動きを止め目を閉じた。

「ミィ??ミィミィ??」
姉ンネはその様子に首をかしげる。
しかし、弟ンネが完全に全ての機能を停止していることを悟ると「ミミッ!ミッヒヒィ♪ミピャァーッ♪」と万歳をして喜び始めた。
姉ンネはいつからかは知らないが、大分壊れてきてしまっているのかもしれない。
気持ち悪いのでこいつは放置しておいた。

俺はカーテンの後ろの妹ンネを引っ張り出す。
「ミキャッ…ミィミッ!」
耳をつかんで持ち上げると、小さな手を伸ばしてジタバタともがく。
そんな妹ンネを、弟ンネの死体の近くに放り投げた。

「ミッ…?ミィミッ?ミィミッ?」
弟ンネの死体に気づいた妹ンネは、かわいらしく鳴きながら体を揺さぶる。
しかし弟ンネはもう応えない。
「ミィ…ミビャーッ!ミビィ!ミッビャーッ!!」
そしてついには大声を上げて泣き出してしまった。
「ミヒヒッ♪ミヒャヒャヒャッ♪」
その様子を見ていた姉ンネがさらに下衆な笑い声を上げる。

さすがに気持ち悪くなってきた俺は、姉ンネを部屋に押し込んでおいた。
「ミィ~…ミックゥ…」
妹ンネは尚もすすり泣いている。

「ミギィ!ミビャァ!!」
俺はそんな妹ンネに軽く蹴りを入れた。
「なんでコイツが苦しんでたのに逃げたんだ!?お前が手当てすれば直ったかもしれないのに…コイツはお前が殺したも同然だ!!」
ついでに怒鳴り散らしてやる。
「ミッ…ミッ…」
しかし妹ンネは俺の言葉に怯えながらも首を横に振った。
もちろん、小さな妹ンネに弟ンネを治療なんて出来るはずもないのだから、これは正しい。
だが、悲しむでも、罪悪感に苛むでもなく、ただ責任から逃れようとするその妹ンネの仕草は俺をイラつかせる。
「言い訳すんな!!なんで逃げ出したんだよ!このクズが!!」
さらに怒鳴り散らしてやると、妹ンネはまたもや「ピピィ!」と鳴いてお漏らしをした。

当然このままではいられるはずもないので、後片付けをするために妹ンネも部屋に連れて行こうとした。
だが妹ンネは「ミヤァ!ミィミィ!!」と嫌がる。
首根っこを掴まれながら、手足をブンブン振って抵抗してきた。
部屋の前に立つと、「ミピピピ~♪ミピャピャピィ♪」と姉ンネの歌声が聞こえてきた。
なるほど、姉ンネに対して恐怖心を感じているのか。
そこはあえて部屋に放り込み、扉を閉めた。
「ミィヤァーーーッ!!!」という妹ンネの絶叫と、それでも歌い続ける姉ンネの歌声が聞こえた。

俺が気になったのは弟ンネの死因だ。
元気だったはずなのに、なぜいきなり血を吐き出したのか?
その答えは弟ンネの体を捌いたら簡単に判明した。
俺はレストランを経営していたころ、タブンネの体の中身は散々見てきた。
弟ンネの体の中は、肺と肝臓が完全に潰れてしまっていた。
恐らく先ほど姉ンネが圧し掛かったときに重みに耐えられずに潰れていたのだろう。
俺はこの弟ンネの体も、二匹のエサにしてやろうと料理することにした。

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次の日の朝、俺がキッチンにいると、「ミ…ミィ…」と元気のない妹ンネがやってきた。
すっかりおかしくなった姉ンネに暴力でもされるかと思ったが、どうやらその痕跡は見当たらない。
しかし恐怖からかあまり眠れなかったようで、毛並みがボサボサ、目も赤く充血し腫れぼったい。
夜の途中から姉ンネの声がしなくなったが、どうやら姉ンネは眠っているのだろう。

俺は妹ンネに、肉を焼いたものを差し出した。もっとも、これが弟ンネなのだが。
「ミッ…?ミィミィ…」
妹ンネは弱弱しくもそれにかじりつく。
「ミィ♪ミミィーッ♪」
しかし、一口食べて味が気に入ったのか、いきなり大きく喜んでハグハグと肉を口に放り入れた。
「ミッミィ♪ミピィーッ♪」
飲み込むごとに両手をほっぺに当てて首を振る仕草がイラつかせる。

だがそのとき「ミミミィ♪」と陽気な声が聞こえた。
「ピャゥッ…」と動きをとめて震えだす妹ンネ。
妹ンネの喜ぶ声を聞いたのだろうか?姉ンネがおきてきたのだ。

妹ンネは「ミィ~…ミィ~…」と鳴きながら、ソファに座る俺のズボンの裾をクイクイと引っ張る。
弟ンネがいないため俺に助けを求めてるんだろう。
「ミッミミィ♪ミピューッ♪」
だんだん近づいてくる姉ンネの陽気な歌声。
そして一層強くなる妹ンネの震え。

「っ…!?」
だが俺は息を呑んだ。
姿を見せた姉ンネの姿があまりにも異形だったから。

目が赤く充血し、毛ヅヤも悪いく、なにより歯茎からは血を垂れ流している。
それでも楽しそうな表情とその歌声が、より不気味さに拍車をかけていた。
声や表情は楽しそうなものの、これまでに味わったストレスが徐々に姉ンネを蝕んだのか。
「ミゥ~…ミヒィ…」と、妹ンネは俺のズボンに顔を埋めて、姉ンネの方を見ないようにした。
「ミミィ♪ミフィィ♪」姉ンネはそんな妹ンネに声をかけた。
しかし妹ンネは俺の脚にしがみつき震えるばかり。

「姉ちゃんが呼んでるよ」
俺はそんな妹ンネを姉ンネに差し出した。
常に誰かに守られようとする妹ンネがなんとなくムカついたから。
「ミキャァーッ!ミビヤーッ!!」
妹ンネは姉ンネを前に強く騒ぎ立てた。
「ミィミィ♪ミィミィミ♪」
しかし姉ンネは気にせず話しかける。
まさか自分が拒まれているとは思わないのだろう。

俺はとりあえず弟ンネで作った料理を姉ンネにも食べさせようと、姉ンネの前においた。
「ミ?ミ?ミィー♪」
姉ンネは妹ンネを放り出し肉を食べ始める。
「ミィ♪ミィミィ♪」
妹ンネは俺にすりよってきた。
俺が助けてくれたと思ったようだ。

「ミィッミィ♪」
姉ンネはなんだかんだこれまでで相当お腹が空いていたのか、あっという間に食べきった。
「ミポッ!ミプゥ…ミッミィ♪」
そしてゲップをしながら再び妹ンネに話しかける。
「ミヒャァ~…」
妹ンネはやはり怯え、俺にすがり付いてきた。

さて、ここでネタ晴らしだ。
俺は残しておいた弟ンネの頭を床において、「コイツの体は上手かったかい?」と聞いた。
既に血は抜かれ、青白く目を閉じている弟ンネの頭だ。
「ミ…ミ…??」
妹ンネは意味を理解できていないのか、ただただ呆然としていた。
「ミィ!ミフーッ!ミフーッ!」
姉ンネはその頭に威嚇する。

「ビィギーッッ!!ミ”ミ”ィーッ!!」
だが一瞬後に、妹ンネが騒ぎだす。
あれほど守ってくれた弟ンネの体を、自分が食べていたのだ。
「ミブッ!ミゲェ…!!」
そして案の定、今食べていたものを胃液と共に吐き出す。

「ミギーッ!!」
だが姉ンネが、弟ンネの頭に噛み付いた。
「ミガッ!ミギィ!ミフーッ!!」と、ワケ分からない叫びを上げながら弟ンネの頭部から少しずつ肉をかじり取っていく。
まるで親の仇のように。まぁ本当の親の仇はウチのルカリオなのだが…

そして、弟ンネの頭がすっかり骨だけになると、「ミィ~ミィ♪」と姉ンネは満足した声を出した。
しかし妹ンネの姿が見えない。
どうやら、姉ンネが頭に夢中になっているうちに隠れたらしい。
俺は最早こいつらに仕事をさせるのはどうでもよくなっていた。
とにかくこれからこいつ等がどうなるのかが気になったのだ。

「ミピィ~♪ミッピュイィ~♪」
姉ンネは再び歌い始める。しかもどこで覚えたのか、なれない口笛とともに。
キョロキョロとしているのは、恐らく妹ンネを探しているのだろう。
その妹ンネはというと、カーテンに隠れている。
姉ンネはまだ見つけていないが、少しずつ揺れるカーテンを見て俺は気づいた。

「ミッピィ?ミ~ミィ?」と、まるで「ここかな?こっちかな?」と少しずつ追い詰めるようにソファの後ろ、机の下を探す姉ンネ。
そしてついに…
「ミッ!ミンミィ♪ミピピィ~♪」
カーテンの隙間からチョコッと顔を覗かせていた尻尾に気がついた。
「ミーミィ♪ミッミィ♪」
気持ち悪い声を出しながらカーテンをめくる。

「ミキャッ!ミピィッ!ミッピィ!!」
見つかった妹ンネは「こっちこないで!」とイヤイヤする。
しかし最早姉ンネにはタブンネ同士の言葉すら通じないのか、「ミヒヒィ♪」と気持ち悪く喜び妹ンネににじり寄った。
「ミヤァッ!ミィヤアーッ!!」
妹ンネは何とか逃げようとするも、身体能力で劣るためすぐに捕まってしまった。

「ミヒャァーッ!!ミビィ…ウビャァーッ!!」
妹ンネは姉ンネに体を触られて死にかけているかのように絶叫を上げる。
「ミィーミィ♪ミンミィミィ♪」
しかし姉ンネは何もしない。
ただ妹ンネの体に抱きつき、声をかけるだけだ。
もしかしたら弟ンネがいなくなれば妹ンネが再び自分に擦り寄ってくるとでも考えているのかもしれない。
すっかり狂った上に、あの惨状を目の前にした妹ンネからすればありえない話ではあるが。

「ミッキャァーッ!!」
しかしここで、妹ンネが姉ンネをはたいた。
「…ミ?……ミ?」
まだ小さな妹ンネの攻撃だ。ダメージは少ないだろう。
だがその瞬間の姉ンネの目を見開いた表情は、まるで信じられない衝撃を受けたようだった。
「ミプゥッ!ミッフーッ!」
そして一瞬姉ンネの力が緩んだ隙に姉ンネから離れ、精一杯に威嚇する。

「ミィミッ?ミミィ♪ミッミィ?」
すぐに元の状態に戻った姉ンネは、尚も妹ンネに語りかける。
「どうしたの?怖くないからおいでよ♪」そんな声すら聞こえてくるほど自分の状態に自覚がない表情だ。
「ピゥ…ミキーッ!」
妹ンネは自分の攻撃で姉ンネに通用しなかったことに動揺したのか、一瞬怯み、その後にまた気合を入れて今度はタックルを仕掛けた。

「ンミ?」
姉ンネはポテポテと、とてもタックルには見えない妹ンネを見て語尾を上げる。
そして、「ミッミィ♪」と鳴いた。

どうやら妹ンネの攻撃を、タックルではなく自分に駆け寄ってきた。と判断したらしい。
「ミミーィ♪」と声を出して、ポテポテ走ってきた妹ンネを抱きしめた。
「ンビッ!ゥビィーッ!!ビキィヤーッ!!」
妹ンネは自分のタックルを受け止められて驚き、またもやイヤイヤと大声を出しながら首をふる。

「ミーミィミィ♪ミンミィ♪ミッピィ♪」
姉ンネはそのまま、気色の悪い声で歌を歌い始める。
「ミキャァーッ!!ミッ…ミミミィ!!」
妹ンネは再び力を込めて姉ンネから何とか離れる。
「ミッ…ミハッ…」と息を切らしていた。
「ンミィ~?ミイミィ♪」
案の定姉ンネは、そんな妹ンネにあくまで優しそうに話しかける。
しかしその表情はとても粘度が高く、不気味なものだった。

「ミヒッ…ミィ…?」
妹ンネはそれに怯えながら、俺を見上げて小さく鳴いた。
助けて欲しいのだろう。
「ンミィ~♪ミィミィ~♪」
今度は姉ンネがジリジリと近寄ってくる。
「ミヒィッ!ミピィピッ!」
妹ンネはさらに怯え、俺の脚から登ってこようとした。

「ッ…」
妹ンネの爪が俺の脛を引っかいて鋭い痛みがはしる。
「お姉ちゃんが呼んでんだから、逃げてんじゃねえ!!」
俺はつい怒ってしまい、妹ンネを姉ンネに向けて投げつけた。

投げつけられた妹ンネは、姉ンネの目の前にゴロンと落ちた。
「ミピャァッ!」と痛がる声を出す。
「ンミヒッ♪」そして、妹ンネを目の前にした姉ンネはニタァッと気持ちの悪い微笑みを浮かべた。
「ウミィ~…ミィィ…」
それを見た妹ンネは横になったまま、小さく鳴き、そしてガクガクと震えている。

「ミィミィ♪ミ~ィ♪」
しかし姉ンネは、横になったままの妹ンネの隣に自分も横になった。
まるでウチにつれてきた時のように、寄り添って横になったのだ。
姉ンネにしてみれば、ただ弟ンネになついていた妹ンネを取り戻したいだけだったのだろう。
「ミィ…ゥミィィ…」
しかし妹ンネにはそんな事情は関係ない。
何より、あの惨状を目の前で見せられたのだ。
いまさら姉ンネになつくはずもなく、ただただ怯えきっている。

「ミキーッ」
そしてついに妹ンネが立ち上がった。
甲高い声を出して、気合を入れる。
「ンミッ?ミィ~?」
姉ンネはそれに少し驚くも、そのままの体制を崩さない。

「ミイィィッ!ミフーッ!ミッキーッ!!」
妹ンネは仰向けになっている姉ンネの上に乗っかる。人間で言うマウントポジションだ。
「ミポッ!?ミプゥッ!」
姉ンネは重かったのか、苦しそうに声を上げる。
「ピィッ!ピィッ!ピピィッ!ピキーッ!」
そして妹ンネは、さらに喚き散らしながら姉ンネに両手ではたくを繰り出した。
それは妹ンネが怯えるきっかけとなった、姉ンネが弟ンネにしたときと同じものだが、妹ンネは気づいているだろうか?

パチン、ペチン、と音がこだまし、さすがに姉ンネもダメージがあるのか「ミゥゥ…ミクゥ…」と小さく鳴いた。
「ミハァッ!ミフッ!」と妹ンネも少し疲れたのか、攻撃の手が止まる。
「ミッ?ミィ?ミ??」
姉ンネは、手が止まると少し語尾を上げ首をかしげる。
大方、何故自分が妹に攻撃されなければならないのか分かりかねているのだろう。

「ミウゥ~…」
だが、次の瞬間そのかわいらしかった表情が変わった。
弟ンネに攻撃したときのように歯をむき出しにし、目を吊り上げて妹ンネを睨み付ける。
いつまでたっても自分になつかない妹ンネに業を煮やしたのだろうか。
「ミヒィ!!ミッピャァ…」
妹ンネはその表情を見てさらに怯えだす。
自分のほうが有利な体制であるのにかかわらず。

「ミガァーッ!!」と大きな声を出し、妹ンネを腹の上に乗せているにも関わらず強引に立ち上がった。
妹ンネの方が多少は小さいとはいえ、子タブンネとは思えない力だ。
妹ンネは反動でコロンと転がり「ミキャァッ!」と声を上げた。
しかしすぐに今の状況に気づく。
「ミヒッ…ミピャァ~…ミピィ…」と怯えながらハイハイをするように俺の元へ寄ってくる。

「ミフーッ!ミ”フゥーッ!!」と鼻息の荒い姉ンネはその様子をジッと見つめる。
そしてついに「ンミィギーーッ!!」と、大きな気合の叫びを上げた。
「ピッ…」ビクっとして動きが止まる妹ンネ。
「ピキャンッ!ピィッ!ピィピッ!!」
ハイハイ体制のまま動きの止まっていた妹ンネの上に姉ンネが圧し掛かった。
妹ンネはたまらず悲鳴を上げる。

「ミフッ!ミガッフーッ!!」とわけの分からない威嚇の声をあげる姉ンネ。すでにその目は血走っていた。
どう攻撃しようか考えているのか、まだ圧し掛かったままで動きは見せない。
うつ伏せに乗っかられている妹ンネは、「ピキャッ!ピキィッ!ピッキャァッ!」と鳴きながら手足をバタバタさせている。
自分より大きな姉ンネに乗っかられては、妹ンネにはどうすることも出来ない。
「ミヒヒッ♪」
すると姉ンネが妹ンネの触覚を掴んだ。
「ピ…」
妹ンネも、それに対して動きを止めてガタガタと震えだす。

そのまま触覚を引っ張り頭を持ち上げる姉ンネ。
「ピ…ピィィ…」と震えながら、小さくイヤイヤする妹ンネ。そして…
ガツッと鈍い音が響く。頭を床に打ち付けたのだ。
「ビッ…ヤァーッ!ミ”ィッギュゥ!!」
痛みに悶絶し、悲鳴を上げる妹ンネ。その鼻と口、さらには割れた額から血を流している。
「ミヒッ♪ミッヒヒィ♪」
それを見てまたもや君の悪い声を出す姉ンネ。
もう一度妹ンネの触覚を掴む。

「ピッ…ピィィ…」また来るであろう痛みに、恐怖で怯える妹ンネ。
「ンミィ~♪ミィミィ♪」
それを見て、姉ンネは嬉しそうな声を出した。
ガツッ、ゴッ、ガゴッと、鈍い音が三度響く。
「ベギャッ!ピギャァッ!ゥビィギィッ!!」
そのたびに打ち付けられた妹ンネは悲鳴を上げた。
その顔はすでに凄惨たるもので、鼻は完全に潰れ、血まみれである。

「ウゥビィ~…ゥミィ…」
妹ンネが悲しそうに声を出したとき、その口から砕けた歯が転がった。
「ミキャキャ~♪」
姉ンネは妹ンネに乗っかったまま、箍が外れたように笑い転げている。

そしてまた触覚を掴む。
「ミャッ…!ミィィッ!」
妹ンネは何とか逃れようともがくが、自分より大きく力も強い姉ンネに勝てるはずはない。
「ミギーッ!」
そして姉ンネが気合を入れて思いっきり床にたたきつけた。

ゴシャッ!というこれまでとは違う音、そして「バッ!」という妹ンネの悲鳴が響いた。
妹ンネはそれから何も言わない。
「ンミ?ミィミ??」
ただ姉ンネが首をかしげ、妹ンネを見つめている。

「ミーミィ♪ミッミィ♪」
姉ンネはその触覚を持ち上げ、再び頭を打ちつけようとした。
だが、その顔を見た俺は驚いた。
妹ンネのぱっくりと割れた額から、血とともに脳みそと思しきピンク色の液体が垂れている。
そして、片目も潰れてしまって、目から零れ落ちていた。
誰がどう見ても死んでいる。

「ミミュッ?」
姉ンネもそれに気づいたらしい。
これまで散々可愛がってきた妹ンネが死んでしまった。
もっとも殺したのは姉ンネだが、さすがにこれはどう思うだろうか?

だが最早姉ンネの精神はとことん壊れてしまったらしい。
それをしばらく見ていたが、突然ニタァッと薄ら笑いを浮かべ、今度は妹ンネの死体の上に立ち上がった。
「ミッミミィ♪ミーピィ♪」
そしてそのままジャンプしながら気持ちの悪い歌を歌う。

…狂ってる…
まさか最初はあんなに思いやりのあった姉ンネがこんなことになろうとは…

「ミッミミミィ♪ミッピャアァ~♪」
怒りすぎていたためか、歯茎から血を流しながら歌う姉ンネの姿はとても異形だ。
見ている俺も気持ち悪くなってしまった。

タブンネへの復讐はもう十分だろう。
この姉ンネはこれで野生に返してやる。
もっとも、コイツがこのまま野生に戻って、別のタブンネに受け入れられるとは思えんが…
俺は最初にこいつ等を拾ったところに姉ンネを開放し、部屋を片付けることにした。


作者コメ
長くなりすぎて、途中から大分だれてしまいましたが、これにて完結です。
皆さんありがとうございました。
また何かありましたら投稿します。
最終更新:2015年02月20日 17:13