「寒い」
アパートへの帰り道、俺は思わず独り言を呟いた。
2月のホドモエシティは雪が降っており、人の姿もすくない。
俺は明日からの三連休に備え、ショップで手持ちのルカリオとピィのためにオボンの実やポフィンを買い込み、帰宅していた。
俺の住むアパートは古い木造だが、独り暮らしの大学生にへ中々良心的な価格である。
「うわっ」
アパートの階段を上ろうとしたのだが、階段が凍っていたために盛大にコケて尻餅を付いてしまった。
袋の中のオボンやポフィンがバラバラと床に転がった。
「やっちゃったよ」
等とまたもや独り言を言いながらそれらを拾っていると、階段の上からピンク色の何かが顔を覗かせた。
「ミィ?」「ミミッ」 タブンネだ。体長40cm程の小さな子ども。
何故アパートの階段にいるのか? 恐らく、雪や冷たい風から身を守るためだろう。
少しだけタブンネと見つめあったが、俺はタブンネの視線が俺ではなく、俺の持つ袋に注がれていることに気付いた。
正直俺も可哀想だと思ったが、俺もバイトの安月給と少ない仕送りでギリギリの生活をしている。
たまにはルカリオとピィにぜいたくをさせたいと思い買ったご馳走を、目の前のタブンネに上げるワケにはいかない。
「ミイ?ミミイッ」
俺がタブンネを無視して階段を上ると、さらに大きなタブンネがいた。
「チイ……チ…」
しかも子タブンネよりももっと小さく、20cm程の赤ちゃんを抱いている。
余計にエサを上げたい気持ちを抑え、タブンネたちの横を通り抜け、自分の部屋に向かう。
「ミィ~ミミイ~」「ミッミッミッ」
だが、タブンネたちは俺の部屋の前まで付いてきてしまった。
追っ払いたいところだが、只でさえ恵まれないタブンネに冷たく当たるのも…と思い、また、部屋に入ってしまえばいなくなると思い、俺はさっさと部屋のドアを開けた。
すると、子タブンネ二匹が体を滑り込ませ、家の中に入ってしまった。
「はぁ??」
俺が呆気にとられポケッとしていると、「ミィ~♪ミミイ~♪」「ミッミッ♪」
まるで「お家の中は暖かいよ!ママもおいでよ!」
とでも言うようにママタブンネに向かって笑顔で手招きした。
ママタブンネもミィミィ鳴きながらポテポテと部屋に入っていく。
「いやいや…」
さすがの俺も追い出そうとしたのだが、外の雪は強まりもはや吹雪に変わっている。
「仕方ないなぁ」
この吹雪も明日には収まるだろう。
今晩だけ泊めてやって小豆になったら「お前たちを飼うことは出来ない」と説明しよう。
そう考えた俺は、一日だけコイツらに部屋を貸すことにした。
後にこれが間違いだとは知らずに・・・
「ミ~ン♪」「ミィミッ♪」
暖まったホットカーペットの上で、子タブンネ二匹はゴロゴロしている。
「ミュイ~ミィ~」
ママタブンネは赤ちゃんにおっぱいを上げている。
俺は自分の夕食を作ろうと台所に向かうと、子タブンネたちが騒ぎだした。
「ミィー!!ミガー!」「ミフーッ!ミフーッ!」
何だと思ったが、ママタブンネが赤ちゃんタブンネを座布団の上にそっと寝かせて、自分の大きな尻尾からオレンの実を3つ取り出した。
「ミッ?ミミーィ♪」「ミヒ♪」
と上機嫌に変わった子タブンネ。
仲良く一つづつ食べた。
俺はタブベーコンとタブエッグを和え物を炬燵に運び、それを食べようとしていると子タブンネがこちらを見つめている。
片方は指をくわえて涎を垂らして「ミィ~…」と鳴き、もう片方は両手を前に差し出し「ミィミィ♪」と鳴きながらピョンピョン跳び跳ねている。
本来木の実は効果こそ違えど、それ一つで中々のカロリーを持っている。
普通の妖精タイプのポケモンは一食につき一つで十分だと聞くが、コイツらには足りないのだろうか?
と考えていると、「ミィー!!ミゥー!!
」
とけたたましい声が聞こえた。
ママタブンネだ。
「ミゥー!!ミャゥー!!」
子タブンネを撫でながら精一杯に威嚇している。
「子どもたちがお腹を減らしてるんだから、早くそれを与えろ!!」
そんな声が聞こえてくるようだ。
俺はコイツらに部屋を貸してやってるんだぞ。
エサの面倒まで見れるか!
正直言って、子どもたちの求める声だけなら俺はエサを与えただろう。
だが、このママタブンネの態度にはイラッとした。
「お前たちの食べ物はないよ」
なるべく優しく言ったつもりだが…
ママタブンネは一瞬驚いた顔をしながらも「ミギー!」と叫んで突進してきた。
ドカッ
咄嗟のことに避けられず、俺は思いっきり吹っ飛んだ。
俺がどんくさいのか、それともタブンネとはいえやはりポケモンというべきか、中々の威力だ。
ガン!
俺は硬い壁に頭を打ち付けてしまった。
「ミヒヒッ」
ママタブンネはざまぁみろ!というように笑い、子どもたちも「ママ凄い!」というようにミィミィと喜んでいる。
ダメだ…起き上がれそうにない。
俺はタブンネたちがベーコンエッグにがっつく姿を見ながら、意識を手放した。
俺が目を覚ましたのは夜10時を回ったころだった。
家に帰ってきたのが大体7時くらいだったから、俺は3時間近くも気を失ったことになる。
タブンネたちの姿が見えない。
と思ったが、どうやら隣の部屋にある俺のベッドで、四匹寄り添って眠っていた。
今すぐ叩き起こしてたっぷり叱って追い出そう。
だが、完全に意識が覚醒した俺は先ほどの部屋をしっかり見て愕然とした。
ベーコンエッグの食べかすが散らばり、本棚は倒れて中の本が散乱している。
さらに観葉植物も倒され、土が床に零れているし、カーテンは破られ何やら茶色い筋がついている。
恐らく子どもたちのウンチだろう。
証拠に、近くにはウンチその物が放置されている。
「・・・」
何故ペットとして人気の高いタブンネが、しばらくすると捨てられてしまうのか・・・その理由がハッキリと分かった瞬間だった。
俺は取り敢えずルカリオとピィに餌を上げようと袋を探したが、この袋も空っぽだ。
ベーコンエッグでも足らず、三日分の餌をも食いつくしたのだ。
プツン
俺の中で何かが弾けた。
コイツら絶対許さない…
俺はタブンネたちが寝ているベッドから、ベビンネを起こさぬようにそっと取り上げた。
そのベビンネを炬燵の上に置いたミキサーに入れる。
ベビンネも、ベッドのタブンネたちも起きる気配はない。
俺を「自分より弱い生き物」とでも思い、全く警戒していないのだろう。
だがその方が都合がいい・・・
ルカリオとピィには僅かに残ったオレンを与え、俺はそのまま被害の少ないソファーで眠りについた。
タブンネたちが起きてからが楽しみだ・・・
「チィ?チッチィ!チィ…チアーン!!」
「ん…」
朝の6時。
ベビンネの泣き声で目が覚めた。
ベビンネは狭いミキサーにくわえ、ママがいない寂しさで泣きじゃくっている。
「ミ"ー!!」
ママンネが起きたようだ。
「ミー!ミィー!!」
炬燵の上のベビンネを見て、俺を威嚇している。
「チィチィ!」
ベビンネはママンネを見て狭いミキサーの中で尻尾をパタパタさせて喜んでいる。
「おはよう。タブンネ」
俺が優しく声をかけると「ミギー!」と叫んで前傾姿勢をとる。
案の定突進をしてきた。
だが今は面を向いている。
俺は足をかけてママンネを転ばせ、よういした革ベルトで打ち付けた。
「ミッ!ミィン!!ミッヒィン!!ミャー!!」
全く、昨日はこんなのにやられたのか。
そうしていると、子どもたちも起きてきた。
まだ眠気眼で、ママンネのピンチに気づいていない。
ちょうどいい。
俺はもう一つのミキサーに、リンゴとオレンジを入れて
スイッチを押す。
ガーーー!!
と大きな音をだして果物を砕き、ジュースにしていく。
出来上がったジュースを子どもたちに上げよう。
「ミィー!ミィミィ♪」「ミワァ♪」
と可愛らしい声で飲んでいる。
気に入ってくれたようだ。
だが、ベビンネとママンネはそうも言ってられない。
何しろ、ベビンネが入っている機械と同じ物が硬い果物を粉砕したのだから…
「チ…チ…チィ…ヂー!!ヂーン!!」「ミャーー!!ミ"ー!ビー!」
コイツらはそれをよく分かっているな。
ベビンネはお漏らしをしながらガラスをカリカリしている。
ママンネは「お願いだから返して」と言うようにペコペコしている。
これからが本当のお仕置きだよ。
「タブンネ!」
俺はこれまでと違う、硬い声で話しかけた。
タブンネも耳をピクッとさせて顔を上げる。
「いいか?全ての生き物は責任を持って行動してるんだ。良いことをすれば誉められるし、悪いことをすれば叱られる。どんな生き物だってそうして生きてるんだ!言いたいことが分かるか?」
俺はそこまで話てタブンネに聞いた。
「ミ…ィ」
タブンネは小さく首を横にふる。
「はぁ」
俺はわざとらしく溜め息をついて「お前らが部屋を散らかしたんだから、お前らが片付けろってことだ!!」
「ミヒィ!」
突然怒鳴った俺に驚いて、タブンネは情けない声を出した。
だが「ちゃんと綺麗に出来たら赤ちゃんは返してあげるよ」
と優しく言うと、パァッと表情を変えて「ミッ!」と鳴いた。
タブンネの中には極端に不器用な固体がいるらしいが、コイツはどうか?
むしろさらに汚してくれたら、もっとお仕置きできるのだが・・・
しかしそんな希望に反して、タブンネは順調に片付けをした。
重い本棚も「ミゥ~ン!!」と声を出しながら起こし、観葉植物から零れた砂はある程度戻したら、残りは舐めとった。
野生だったから、土などは平気なのか。
そして綺麗に片付けたタブンネは「ミッミィ♪」と鳴いて両手を前に差し出した。
このドヤ顔は「綺麗に出来たよ。約束したんだから早く返して」といったところか。
まぁ確かに綺麗にはなった。
約束は約束だし仕方ない。
俺はミキサーからベビンネを取り出した。
「チイ♪」
万歳をして出られたことを喜んでいるが・・・
俺は優しくベビンネを抱き、ママンネに見せる。
「チャッチャィー♪」
ベビンネは早くママに抱っこされたいのか、両手をママンネに向けている。
「ミヒ♪ミミイ♪」
ママンネもこちらに手を差し出している。
だが俺は「あ?」と声を出した後、ベビンネをミキサーに戻した。
「ヂー!ヂッヂャー!!」
「ミヒー!ミッ!?ミミミィ!」
折角出られたのに、再びミキサーに入れられた落胆と恐怖で泣き叫ぶベビンネ。
そして「なんで!?約束したのに!!返してよ!!」と言った感じに慌てるママンネ。
「お前らまさかこれに入ってた木の実とポフィン食べたのか!?」
俺は再び態度を豹変させ、ママンネに問いかけた。
「ミゥ…ミゥ…」
と泣いて首を縦にふるママンネ。
まぁ昨日の時点で気付いてたんだけどねw
ちょっと笑いそうになるが何とか堪えて「はぁ。お前、ちょっとエサ探してこい」と言い放った。
「ミッ!?ミィ!」
と部屋を指差し「ミィー!!」と鳴いた。
きっと「部屋を片付ければいいって言ったじゃない!!」だろう。
「あのエサは高い金をだして俺のポケモンに食べさせるものだったんだ。さっき言ったように、自分の行動には責任
を持て!!」と怒鳴ると「ミガー!!」と叫んだ。
また突進だろう。
俺はルカリオをボールから出し「コイツらがお前のご飯を食べちゃんたんだ」と伝えた。
ルカリオは顔つきを鋭くさせて、手に波動弾を形成しだした。
「ミヒャア!?ミゥ~」
と腰を抜かし、お漏らしをしているママンネ。
俺はまさかルカリオに波動弾を部屋の中で撃たせる訳にもいかず、ボールに戻した。
まぁ脅しにはピッタリだったな。
「なぁタブンネ。お前も野生で生きてたんだろ?昨日は木の実を持ってたじゃないか。外で木の実を何個か拾ってくればいい。そうすれば今度こそ赤ちゃんは返すよ」
俺はまた優しい声でママンネに声をかけた。
「ミィ~…ミゥ~…ミィ!」
木の実を集めるには危険も伴う。
だが、集めなければ赤ちゃんが返してもらえない。
決意を固めたママンネは、ミキサーの中のベビンネに「ミッ!」と力強く声をかけると、外に飛び出していった。
ベビンネへ先程からミキサーの中で「チィ…チッチィ…」と、震えながら小さな声を出すだけだ。
何回かお漏らしもしてるけど…
ママンネがどれだけ木の実を集めるか楽しみだ。
当然お金なんて持ってないからポフィンは勘弁してやろう。
ベランダに出て外を見ると、アパートから少し離れた広場にタブンネは佇んでいる。
そこを通る人間にエサをねだるつもりだろう。
とはいえ、まだ朝の7時。
しかも三連休の初日。
さらには雪は止んだが、積もり相当寒い。
人通りはかなり少ない。
正直な話、俺はこの状況なら、いくらタブンネでも草むらに入って木の実を探すと思っていたが、どうやら期待はずれだった。
奴らの他者に媚びる性質はもはや筋金入りだ。
と、そんなことを考えていると、この寒いなかミニスカートで町を出歩く謎の感性を持った女の子が通りかかった。
一般的に、野生のタブンネに会った人間の行動は以下の通りに別れる。
1、経験値目当てにポケモンをけしかける者
2、ストレス発散のために自らの拳で殴る者
3、可愛らしさにやられてエサを与える者
4、可愛い、可哀想と思いながらも見て見ぬフリをする者
俺もコイツらの本性を知るまでは4だったが、さて、この女の子ほどうかな?
どうやらこの女の子は3のようだ。
タブンネを撫でた後、コンビニのおにぎりを置いて行った。
ママンネの声こそ聞こえないものの、表情は双眼鏡で見れる。
両手を口の前に持っていき、ニヤニヤしている。
俺はポケモンのエサを持ってこいと言ったわけで、そんな泥にまみれた人間の食べ物はいらないのだが・・・
まぁ好きにさせておこう。
次に通りかかった寒そうな頭のスキンヘッドさんは2だったようで、2.3発殴られてしまっていた。
「なんで…こんなに困ってるのに…」
と聞こえるような虚ろな表情に笑ってしまう。
このままママンネを観察したいのも山々だが、他にもやりたいことがある。
いつの間にか姿が見えなくなった子タブンネ二匹だ。
今のうちにコイツらとも遊んであげよう。
ミキサーの中のベビンネは相変わらずガタガタと震えている。
俺がミキサーに近づくと、さらに強く震えながらイヤイヤをと首をふりながら「チィ…チィ…」と鳴いた。
当然だろう。
スイッチを押されると自分があの果物のようになるのだから。
何もしないよ。今はまだ…ね。
さて、子タブンネたちはどこだろう?
確か、ジュースを飲んだあとにカーペットの上でゴロゴロしていたのは見たが…
見つけた…
隣の部屋のベッドの下から不自然な水が流れている。
もしかしなくてもおしっこだ。
ベッドの下を覗き込むと「ミヒィ!ミッピャ!」と鳴いて怯えている。
大方俺がママンネに掃除させるのを見て恐怖を感じたんだろう。
尻尾を掴んで引き摺り出すと「ミギッ!」と呻いた。
話に聞く通り、相当敏感なようだ。
だがもう一匹が見つからない。
そんなに広い部屋でもないのに、どこいったんだ?
まぁ、こちらの子タブンネと遊んでれば姿を表すだろう。
話によると、タブンネの家族間の結束は人間並に強いらしい。
そうだ。
この子タブンネにも折角だからミキサーがどういう物か教えてあげよう。
「ピキー!ピッキー!」
子タブンネは俺の手の中で手足をふって暴れている。
「そんなに怖がるなよ。ジュースを作ってあげる」
そう伝えると、今度は「ミッ?ミィ♪ミミイ♪」
と喜んだ。
変わり身の早い奴だ…
ベビンネの入ったミキサーの横に再びもう一つのミキサーを置き、その中に今度はバナナとタブミルクを入れる。
だが、この子タブンネもベビンネの状況に違和感を感じたようだ。
「ミィミミ?」
「この子はどうするの?」
と聞いているのかな?
「大丈夫。この子はちょっと事情があって入ってるだけだから(笑)」
と滅茶苦茶なことを言うと、ホッとしたように、そして「早くジュースちょうだい」と言うようにミィミィ♪と鳴きながらピョンピョン跳び跳ねた。
さて…
バナナの入ったミキサーのスイッチを押すと…
ガガー!
再び大きな音をだしてバナナとミルクをシェイクしてゆく。
「ミヒャア!」
子タブンネは驚いて尻餅を着いた。
だがその子タブンネより大騒ぎしているのはベビンネだ。
「チピィ!チッチピャー!」
震えながらお漏らしをした。
これでいい…
このベビンネは常に自分が命の危機に曝されていることを自覚させておきたい。
だが意外なことに、子タブンネはジュースをほったらかしにして、ベビンネのミキサーに手を付いて「ミャー!ミ"ャー!!」と必死に話しかけている。
コイツもベビンネの危機を理解したようだ。
ジュースはいらないみたいだから、後でピィに飲ませてあげよう…
ベビンネはどれだけお漏らしをしたのか、ミキサーの中のおしっこは既に腰より少し低い位のところまで溜まっている。
自分のおしっこに溺れるってのも、面白いかもしれないな…
子タブンネを炬燵の上からオロソウと持ち上げた。
「ミィー!ミッミミィー!!」
「チッ!!チピィ!!」
お互いに離れたくないのだろう。
手を伸ばし合っている。
まぁコイツらの望みは無視して、俺は自分の朝飯を作ろう。
朝はタブエッグの目玉焼きだな。
台所で料理しながら、子タブンネの様子を伺う。
「ミィ~…ミィ~…ミャッ!!」
炬燵のの回りをグルグル回ってると思うと、ジャンプした。
この炬燵、高さが絶妙で、身長40cmの子タブンネはジャンプしてギリギリ手がかかる。
もちろん、手がかかるだけで上れるはずはなく、懸垂のようにプラーンとぶら下がるだけだが。
可愛いな。
俺は不覚にもそう思ってしまう。
「ミミッ?ミィミ?」
おっと、どうやらもう一匹の子タブンネが出てきたようだ。
状況を理解しかねている。
「ミッ!ミィミミィミッ!!」
「ミッ!?ミミ~ィ?」
どうやら最初からいた子タブンネが説明したようだ。
今来た子タブンネは俺に、明らかに怯えた目で見上げている。
さて、朝飯出来たっと。
俺が食事を炬燵に運ぶと、「キュルル」と音がした。
ベビンネだ。
カタカタ震えながらも、「チィ…」と指をくわえている。
コイツはママンネのミルクしか飲めないから、こればっかりはどうしようもない。
「ママがもう少しで帰ってくるから、我慢しな」という
優しく話すと、「ママ」という言葉に若干表情を明るくさせた。
だが腹が減ってるのはベビンネだけではない。
「ミッ!!ミゥー!」「ミィ…ミミー!!」
子タブンネたちもだ。
ルカリオとピィの三日分のエサを食いつくしておいて…
しかもその声はエサをねだるのではなく、むしろ寄越せ!という高圧的なものだった。
俺はさっき来た子タブンネを片手で持ち上げ、ソファーの上に思いっきり投げ付けた。
「ミィ!?ミィミッ!?」
最初からいた子タブンネの「なんでこんなことするの!?」という声がする。
投げ付けられた子タブンネはというと「ミッ!?ミッピィ…ミェ~ン!」と泣き出してしまった。
ソファーの上だから痛みはないだろう。
ビックリしたのかな?
「お前らは昨日俺が買ったエサを食べたんだぞ!!ママは一生懸命にエサを探してるんだ!!それまで待ってろ!!」
と子タブンネたちに怒鳴った。
「ミェ…ミゥ…」
涙ぐんで俯く子タブンネ。
「ミェ~ン!ピャーン!!」
先程からずっと泣いているソファーの子タブンネ。
さて、ママはエサを集められたかな?
ママが外に飛び出して、何だかんだ1時間半は経っている。
俺は泣きじゃくるソファー子タブンネと、今にも泣き出しそうな子タブンネを無視して、双眼鏡を片手にベランダへと向かった。
なん…だと…?
俺は思わず呟いた。
タブンネがいる広場を見ると、ベンチの下に中々の量の食べ物があるのだ。
恐らく、他のポケモンや人間に見つからないようにベンチに隠したのだろう。
俺はよく目を凝らして見た。
オレンが7つ、オボンが4つ、さらにポフィンが1つある。
その他は残飯のようなものだ。
う~ん、意外な結果だ。
このママンネはもしかしたら、数少ない「出来るタブンネ」なのかもしれない。
だがやはり、エサの代償は大きかったようだ。
ママンネは積もった雪の上に倒れているが、その姿はもうボロボロになっている。
切り傷、擦り傷、火傷、痣に加え、骨折もしている。
時折、ピクン、ピクンと動いているから、生きてはいるだろう。
「お前らのママが帰って来るぞ!」
泣きじゃくる子タブンネたちに声をかける。
「ミェ…ミィミィ♪」「ミィ♪ミピィ♪」
と喜ぶ。
「チッチィ…」
ベビンネは恐怖から解放されないものの、俺の言葉に落ち着きを取り戻したようだ。
迎えに行ってやろう…
俺は炬燵の上をそのままに、回復の薬とビニール袋を持って外に出た。
「タブンネ!」
俺はタブンネに駆け寄る。
「ミ……ミ…ィ」
近くで見ると、本当にいつ死んでも不思議じゃない怪我だ。
だがタブンネは、ベンチの下を示して弱々しく笑顔作った。
「ご飯一杯もらったよ」
ということだろう。
「バカ野郎!」
俺が叫ぶと、タブンネはビクッとした。
その顔からは「何で?」という声が聞こえてくる。
「今はエサより、お前の怪我の方が大事だ!」
回復の薬を塗りながらそう言ってやる。
「ミィ…ミゥ…ミゥ~…」
タブンネは涙を流し始めた。
沢山怖い思いと痛い思いをしたのだろう。
さすがは回復の薬。
あっという間に元気を取り戻すと、立ち上がり俺に抱きついてきた。
「ミェ~ン!!ミァー!」
「よく頑張ったね」
泣きじゃくるママンネに優しく話しかけて、一緒に食べ物を袋に入れた。
木の実やポフィンと、残飯を別々の袋に入れる。
「帰ろう、タブンネ」
「ミッ!」
「暖かいお風呂に入れてあげるよ」
「ミィッミミーィ♪」
俺はママンネと手を繋いで家に向かう。
ママンネは子どもたちが気になるのだろう。
ずっとソワソワしている。
そして玄関まで付くと「ミィミ♪ミィミィ♪」と鳴いた。
玄関を開けてやると、一目散に部屋へと駆け出す。
まぁポテポテと俺から見ればゆっくりだが、ママンネにしてみれば猛ダッシュなのか?
俺はドアを閉めて靴を脱いでいると…
「ミィヤーーーーー!!!」
ママンネの声が響く。
天を引き裂くようなタブンネの絶叫を聞きながら、俺は某人気漫画の主人公のような悪い顔でニヤリとした。
計画通り・・・
ママンネの叫びを聞いた俺は、急いで駆け寄る。
ママンネはヘナヘナと床に座り込んで、呆然としていた。
俺がママンネの視線を追うとそこには・・・
「ミィ!ミッ♪」「チッチャー♪チッピィ♪」「ミヒッ♪ミヒヒヒヒ♪」
ベビンネを抱っこしながらニコニコと笑顔を向ける子タブンネ。
ミキサーから解放され、子タブンネの腕の中で手をふり喜ぶベビンネ。
そして、ドシッと仁王立ちし、ニタニタと不気味な笑顔を見せる子タブンネがいた。
そう、これが俺の作戦。
届きそうで届かない場所で赤ちゃんが助けを求めている。
部屋には色んな物があり、それらを使えばなんとかなるかもしれない。
邪魔をする人間は外に出ていった。
これらの要素があれば子タブンネはどうするか?
「今のうちに助け出そう!」
そう思うだろう。
そして実際にそうした。
カーテンが昨日よりもさらに破れ、窓ガラスが少し割れている。
カーテンによじ登って飛び写ろうとしたが失敗したのだろう。
次は観葉植物だ。
これも倒されている所を見ると、この鉢の部分からジャンプしたのかな?
まぁこれも失敗。
そして炬燵の下に本が山積みになっている。
これを台にして炬燵に登ったのか。
そして炬燵の上。
ミキサーが倒れ、容器部分は割れ、おしっこが漏れ出し、炬燵から床に滴り落ちている。
子タブンネではミキサーを開けられないだろうから、体当たりで強引にベビンネを出したのだ。
俺が中途半端に残したご飯と目玉焼きは、床に落とされ皿と茶碗が割れている。
下に降りて子タブンネ二匹で食べたのか。
だが、破片が混ざった箇所は残してあり、目玉焼きの黄身がカーペットに染み込んでいる。
昨日と同じくらいに部屋は悲惨な状況だ。
俺は持っていた木の実が入った袋を、わざと床に落とした。
ドサッという音にママンネが反応した。
「ミ…ミゥ…ミゥ~…」
まるで「これは違うの!」とでも言わんばかりにイヤイヤと涙を浮かべている。
だが当の子タブンネたちは…
「ミッミミィ♪」
「僕たちが弟を助けたんだよ!偉いでしょ!」と言うように勝ち誇った表情の子タブンネ。
「チャー♪チッチチャー♪」と、ママに抱っこされたいのかママンネに両手を伸ばすベビンネ。
「ミッヒヒィ♪」と相変わらず仁王立ちでドヤ顔の子タブンネだ。
ママンネは俺の言った「責任」の意味を理解しているようで、これからまた俺が怒ることに怯えて青ざめている。
「どけ!」
と怒鳴ると、震えながら道を開けてくれた。
そして俺は子タブンネからベビンネを取り上げる。
「ヂー!ヂヂー、ヂャー!!」と俺に掴まれ泣き叫ぶベビンネ。
「ミッ!ミミィミッ!!」子タブンネたちは俺に反抗心があるようで、喚きながら俺の足をペチペチ叩いたり、カジカジとかじっている。
だが俺は、持ち上げたベビンネを優しくママンネにてわたした。
「ミミッ?ミーミィ??」
「あれ?」という剽軽な顔で小首を傾げるママンネ。
きっと何かされると思っていたのだろう。
「チッ??」とベビンネも意外だったようだが「チッチッ♪」と数時間振りにママンネの温もりに触れてすぐに喜び始めた。
俺は「赤ちゃんはお前がエサを探して外にいる間、ずっとお腹を減らしてたんだ。たくさんおっぱい飲ませてやれ」とママンネに話しかけた。
「ミィッ!」ママンネは片手を上げて鳴き、「ありがとう!」とお辞儀をしたあと、ベビンネをお腹にあてがった。
チュ~チウ~と、ベビンネがおっぱいを吸う音が聞こえる。
さて、と…
俺は未だに足をペチペチカジカジしている子タブンネたちに視線を向ける。
この部屋を片付けるのは君たちだよ・・・
子タブンネたちの首根っこを摘まんで俺の顔の高さまで持ってくる。
「ミギッ!ミ…ミフーッ!!」
一瞬痛がった後に、震えながらも威嚇する子タブンネ(以下A)
「ミゥッ!ミヤー!!」
やはり痛がるが、こちらは単純に「止めて!」とジタバタする子タブンネ(以下B)
「ミ…ミィ…」
おっぱいを与えながら、子タブンネたちを心配するママンネ。
子タブンネたちをその高さから落とす。
Bはシャカシャカとハイハイしながらママンネの元へ、そしてAは威勢は良かったもののやはり怖かったのか、震える足でヨチヨチとママンネの向かおうとする。
ママンネも「こっちにおいで」と言うように手を差し出した。
だが俺はママンネと子タブンネの間に立ちはだかる。
一層震えを強くする子タブンネに、俺に逆らう気持ちを無くし狼狽えるママンネ。
俺は子タブンネたちに「片付けろ。そうすれば何もしない」と言う。
「ミ…ミィ…」
ほう、どうやらBは既に「俺には逆らわない方がいい」と感じ取ったらしい。
涙を浮かべながら、本を本棚に戻し始めた。
「ミッ…ミィミィ♪」
だがAはあろうことか、媚びた声を出しながら俺の足に頬擦りをした。
そんなAを掴み、ソファーの上に放り投げる。
「ミッヒィ!」と悲鳴を上げ、怯える視線を投げ掛けた。
「お前らが汚したんだから片付けろ!ママはさっきちゃんと片付けたし、あっちの子はがんばってるぞ!!」
と怒鳴りつける。
「ピィ!ピィピッ!!」と泣き、ソファーの上で盛大にお漏らしをしたあと、Bの手伝いに本を持ち上げた。
とここで、ママンネが明らかに不安な表情で「ミミ…ミィ…」と鳴いた。
大方「怖がらせないで」ということだろう。
ここいらでママンネに説明しておこう。
信じさせるに越したことはないからね。
「今あの子たちは部屋を汚した責任を取ってるんだよ。今のうちに教えてあげれば、いい子に育つからね」そう話してやる。
「ミィ…ミゥ…ミゥ~」
あまり納得はさせられなかったかな?
渋々というか、仕方ないというか、まぁそんな感じに頷いた。
まぁコイツらだけじゃ絶対に部屋をキレイには出来ないだろう。
その時ママンネの取るだろう行動を考えると、自然と笑みが零れる。
俺はソファーのおしっこを拭き取り、そのソファーに腰をかけた。
取り敢えず今は成り行きを見守ろう・・・
ふむ。どうやらこの子たちもママンネの器用さを受け継いでいるようだ。
本を本棚に戻し、タオルを渡して炬燵に上げてやると、ミキサーから溢れたおしっこをキレイに拭き取った。
割れたガラスや皿は、用意しておいた袋に入れている。
厳密には細かい破片は残ってるが、まぁこれは勘弁してやろう。後で掃除機かける予定だったし。
意外な程にテキパキと掃除する子タブンネたちに、ママンネも最初こそ不安と応援の入り交じった微妙な表情をしていたが、今では「もうちょっとだよ!頑張って!!」という応援の表情で見守っている。
さて、あらかたキレイにはなったが、ここからが最大の難関だ。
観葉植物。
ママンネならまだしも身長が低く、力も弱い子タブンネたちにはまず起こせない。
これからが見物だ。
「ミッギー!」「ミーー!!」とけたたましい声で力を込める子タブンネたち。
それでも植物は持ち上がったにすぎず、そこから起こすまでは至らなかった。
ククッ
どうにか観葉植物を起こそうと試行錯誤する二匹に笑ってしまう。
ママンネも状況を理解したらしく、「ミィ…」と不安げな声で子供たちと俺を見た。
だが結局コイツらには頑張って持ち上げるしか思い浮かばない。
再び「ミフー!」「ミガー!!」と声を出して持ち上げた。
「ミッミミィ!!」ママンネの「頑張って!」という声も聞こえる。
二匹で観葉植物の下に潜り込み、なんとか持ち上げた状態は保っているものの、そらからの手段がない。
プルプル震えながら「ミ…ミ…」と小さな声で鳴く子タブンネたち。
「どうしよう…」と考えているだろう。
だがその時手前にいたBが、重さに耐えられず、植物の下から手を離して外に出てしまった。
二匹でようやく持ち上げられる植物を、一匹で支えられるはずもなく…
ガンッ!!とAの頭に重い植物が直撃した。
「ミッ…」一瞬何が起きたのかも分からず、クラッとしたAだったが、直ぐに意識を取り戻し「ミビャーッ!ミゥー!!ミー!!ミエーン!!」と泣きじゃくった。
当のBは「ミッ…ミゥ~…ミュイ~」と心底申し訳なさそうに声を出しながらAの頭をよしよしと撫でた。
そしてママンネはオロオロと「ミィ!」と鳴いてこちらにポテポテと寄ってきた。
既にベビンネはおっぱいを飲み終わり、座布団で丸くなって平和そうに眠っている。
「近づくな!!」俺は大きな声でママンネを制した。
ビクッと立ち止まるママンネ。
だが「ミグッ!ミャーン!」と泣いているAと、そして懸命に慰めるBを見て「ミッ!ミミィッ!ミィー!」と抗議の声を出した。
「これは試練なんだ!子供たちはこれを乗り越えて強く育つんだ!お前が助けては意味がないだろう!!」
と怒鳴ると、ママンネは「ミ…ミグ~…」と引き下がった。
こりゃあ不信感を与えたかな?引き下がったものの明らかに納得はしてない。
尤も、この程度の俺に対する感情の方が面白い…
だが、そんな不信感を持つ者がもう一人。
もう一度二匹で植物を持ち上げたが「フーッ!」と恨みというか怒りというか、とにかくあまり気持ちよくはない表情でBを後ろから睨むA…
BはBで申し訳なさ一杯に顔を曇らせている。
ママンネの俺に対する微妙な不信感、そしてAのBに対する怒り。
これらはこれからの展開にどう影響するかな?
楽しみだ…
子タブンネたちが植物を持ち上げて15分が経過した。
どちらもプルプルしている。
それでもBは「もう二度と離すもんか」という力強い表情で支える。
だが唐突に、後ろのAが笑った。
ニコニコと明るい笑顔でもなく、媚びるようなタブンネ特有の笑顔でもない。
もっと粘度の高いニタァッとした妖しい笑顔だ。
普段は愛らしいタブンネにこんな笑顔が出来るとは・・・
ママンネもそれに気付いたようで、Aのやろうとしていることを理解した。
「ミィ!!」
だが遅かった。
ママンネが叫んだ時、Aは植物から手を離した。
ゴッ!
「ミベッ」と変な声をあげ、Bはその場に倒れる。
お漏らしをするというおまけ付きで。
Aは両手を口に持っていき「ミヒ♪」と笑っている。
「ミィーー!!」とママンネは泣き、Bに駆け寄る。
が、俺はそんなママンネの手を掴んだ。
「耐えろ!子供たちはこうやって強く育つんだ!!」
俺はママンネを説得しようと話す。
「ミィ~ミィ…」と子供たちを見て悩む表情を浮かべるママンネ。
だがBはすぐに目を覚まし「ピキーッ!」と泣きながらもAに向かって抗議した。
しかしAは「ミフーッ!」とまるで「お前が先にやったんだろ!」と言うように威嚇した。
少しミィミィピャーピャー鳴いていた子タブンネたちだったか、ついに掴み合いの喧嘩になった。
ママンネは俺の手を振りほどき、俺に向かって「ミィ!!」と鳴く。
「こどたちを助ける!」ということだろうか?
俺はママンネに聞いてみた。
「あいつらを助けたいのか?」
「ミッ!」と強く頷くママンネ。
「あいつらの責任なんだぞ?」
だがママンネはその言葉を聞くと「ミィミィ」とゆっくり首をふる。
まるで俺を諭すようなその口調に、イライラが募ってきた。
「最後に聞かせてくれ。お前があいつらを助けるということは、お前も部屋を汚した責任を負う、ってことだぞ?」
しかしママンネは一瞬怯みかけたものの「ミッ!」と頷いた。
「じゃあ助けてやれ!」俺はママンネに言ってやる。
「ミィーー!ミッミミィ!!」と叫び子タブンネたちの元へと急ぐ。
子タブンネたちは既に決着が付いていた。
「ミキーッ!ピッキー!!」とAの上に馬乗りになり、がむしゃらにペチペチはたいているB。
AはBの下で「ミッ…ミゥ…」と涙を大量に流してイヤイヤと首を降っている。
ママンネはBを持ち上げて両方を座らせる。
癒しの波動を二匹に向かってかけながらも「ミッミィ!ミャーィ!!」と叱っている。
二匹は正座をしながらなみだを堪えて「ミッ…ミッ…」と鳴いた。
そしてママンネの話?が終わると、子タブンネたちは両手両足を広げて床にベターっとうつ伏せになった。
それを見て「ミッ♪」と満足そうに頷くママンネ。
子タブンネたちのこの格好へ「ごめんなさい」ということなのかな?
そして子タブンネたちが散々苦労した観葉植物を「ミャー!」と声を出しながら簡単に起こした。
さすがだね。
子タブンネたちも「ママ強い!」というように「ミャイ♪ミャーィ♪」と喜んでいる。
でも、ママンネは自分も責任を負うと言っちゃったよね。
全く肝心なとこでお花畑なんだから…
俺は三匹で喜ぶママンネたちから、座布団で眠っているベビンネに視線を移した。
さて、粗方片付け終わり、部屋も見違えた。
後はカーペットに染み込んだ目玉焼きの黄身をキレイにすれば完璧だね。
だが、時刻は既に午後2時を指していた。
俺もすっかり夢中になってしまったようだ。
コイツらにご飯を上げよう。
「みんな、ご飯だよ。」
ご飯の単語に、タブンネたちの顔がパァっと輝く。
「ミッミ♪」「ミーィ♪」「ミュッミィ♪」と喜びながらやはりポテポテと歩いてきた。
俺は皿にママンネが集めたエサを盛り差し出しす。
「ミミッ?」「ミーミィ…?」と子タブンネたちが?の表情でママンネを見上げている。
そのママンネも「ミィミ?ミミィ!!」と「何で!?」と俺に向かって叫んでいる。
俺がタブンネたちに与えたのはママンネが集めた木の実ではなく、残飯の方だった。
いや「何で!?」と言われてもねぇ。
常識で考えれば分かることだが、このママンネはどうやら分かっていないようだ。
仕方ないので説明してやる。
「タブンネ…お前、何か勘違いしてるんじゃないか?」
俺は恐ろしく声を冷たくして言い放った。
「ミッ…ミィミィ!!」
ママンネは耳をピクンと動かして怯えたが、やはり納得できないのだろう。
再び抗議してくる。
はぁ。これでも分からないか…
「お前らが食べたあのエサは元々誰のものだ?俺はお前らにじゃなく、ルカリオとピィのために高い金払って買ったんだ!だからお前は自分たちのエサじゃなくて、ルカリオたちのエサを集めてたんだよ!!」
「ミッ…ミッ…ミ"ー!ミバァー!ミギーッ!!」
ママンネは戸惑ったあと意味を理解したのか、今日一番の大声で泣き叫んだ。
子タブンネたちもホロホロと涙を流している。
そして俺はルカリオとピィをボールから出し、ママンネの集めたみずみずしいオボンをピィに一つ、ルカリオには二つ上げた。
三匹でチビチビと残飯に口をつけるタブンネたち。
だが、チラチラとルカリオとピィを羨ましそうに伺っている。
「ミガァーッ!!」
ママンネが行動を起こした。
大事にオボンを両手で持ち、美味しそうにシャクシャクと食べるピィに突進をしたのだ。
ルカリオに敵わないことはもう分かっているのだろう。
「ピピィー!」とピィが驚いて悲鳴を上げるが、俺は唐突のことで反応できない。
ガガッ!
「ミグゥッ!」
だが吹っ飛んだのはママンネだった。
ルカリオの神速だ。
子タブンネたちは耳を抑えて縮こまっている。
だがママンネは「ミゥ…ミガー!」と鼻血を出しながらも叫んだ。
それは「関係ないのだから引っ込んでろ!」とでも言うようだ。
ピィは震えながらルカリオの足元に擦り寄る。
ルカリオもそんなピィを優しく見つめた後「ウォウ!!」とタブンネに対して威嚇した。
「次は命がないぞ」
そんなルカリオの意思が伝わるようで、俺もビビってしまった。
まぁママンネはもっとだろう。
「ミッヒィ!」と腰を抜かして、震えながらお漏らしをした。
子タブンネたちもガタガタ震えている。
ルカリオはピィを、自分の子供のように大事にしているのだ。
「ヂー!ヂー!!」
おっと、ベビンネが目を覚ましてしまった。
ママンネは震える足でベビンネの元に歩み寄る。
俺は食事を終えたルカリオとピィをボールにしまって「なぁタブンネ。その赤ちゃんはまだおっぱいしか飲めないんだろ?お前がちゃんとご飯を食べないと、おっぱいが出なくなっちゃうんだ。本当はあの残飯だってルカリオたちに上げたいけど、お前たちに譲ってるんだぞ?」
と、また優しい声で話かけた。途中で笑いかけたけど…
ママンネは抱いているベビンネを見つめて「ミ…ミゥ…」と呟いた。
そして、先程のようにチビチビではなく、ガツガツと涙を流して残飯に食い付いた。
子タブンネたちもそんなママンネを見て、残飯に口をつける。
三匹並んで、涙を流して残飯にがっつく姿は絶景だw
切ないだろうなぁ。
自分が集めた大好きな木の実を目の前で別のポケモンに食べられた挙げ句、力で押さえ込まれ、さらに同情で残飯を頂いているのだから…
でも残飯だって捨てたもんじゃない。
おにぎり、唐揚げ、玉子焼き、アイスのコーン、スナック等、それ単体では美味しい食べ物なのだから…
それらが乱雑に混じりあったらどうか知らんけどw
そして残飯をキレイに平らげたママンネはベビンネにおっぱいを上げている。
「チッチッ♪チィ!」とご機嫌におっぱいに吸い付くベビンネ。
子タブンネたちは、木の実ではないが、お腹一杯になったことは喜んでいるのだろう。
カーペットの上でじゃれあっている。すっかり仲直りしたようだ。
だが忘れては困る。
「おい!」
「ミッヒィ…」「ミピャッ!」
ちょっと話しかけたらこの反応だ。
すっかり俺に対する恐怖が植え付けられたようだ。
「この目玉焼きの染みもキレイにしろよ」と言うと
「ミィ…」と弱々しく鳴いて、染みのついたカーペットをチロチロと舐め始めた。
最終更新:2015年02月20日 17:32