聖豚の行進 奇跡編

タブンネ♀第9期31番生。9-31呼称「31」はこの工場では新顔でありまだ現状を把握しきれていない新参。傷痕が初期生に並ぶのは前回の通りである

細かい仕事が苦手な為に今日も倉庫から作業場まで20Kgの溶剤缶を降り注ぐ陽の下で運び続けるのみ

31には夢があった。あのスクリーンに映るたくさんの子供達に囲まれた幸せな暮らし。その為に自分は頑張るんだと
だから痛め付けられても、強姦されても耐える。それのひたむきな姿も人間達にはエンターテイメントでしかなかった

ある日から31は目の色が変わったように仕事にうちこんでいる。もちろん半分は失敗だが残り半は確実に仕事をこなしている
どちらにしてもミスにはかわりないが

理由は31の胎内では命が育ちつつあるのだ
殺卵剤は?と疑問を抱くであろうが、実は31は捕獲された際にラムの実を含んでおり、注射の痛みで飲み込んでしまった
それによるステ異常防止が働き、殺卵剤の効果を完全にではないが抑えてしまったのだ。卵巣としては通常の8分の1程度だが確実に機能している

すでに数回姦されているが、卵子の少なさもあって受精は避けられていたのだが先日ついに受精してしまった
本能か31はこれから産まれる赤子との暮らしを夢みて今まで以上にうざがられる日々を送っている
そんな気持ちとは裏腹に疲労は蓄積するもの。そんな体では事故は免れない

倉庫前が「ミィーミィー」うるさいので人間の職員が見に行くと、館内清掃担当の♀1-7番生が駆け寄ってきて作業服の裾を掴み必死に指さしている
その手を乱暴に振り払い視線を送ると31がだっぷりと溶液に浸かっていた。おそらく転倒し封がはずれたのだろうか
人間達は急ぎ水洗い等を済ませ大事には至らなかった。さすがに内容が内容のために31は療養として個室にぶちこまれた

31は状況が把握できていないのか暗い個室に消沈したものの、周りに班長や♂もいない安心感からかすぐに寝息をたてていた

数日後31は個室から宿舎へ戻された。大きく膨れた腹をかかえて

休憩室では班長と作業員が茶を片手に31を監視カメラで追っていた
「31は妊娠してますよねあれ。おっかしいな、まちがいなく射ったんすけど」
「まあどうでもいいだろ。いざとなったら堕とせばいい。にしても避妊手術も本格的にとりいれなきゃだめかな?」
「あ、そういやあの溶剤って…たしか」

劇薬・生物の胎児に影響あり

宿舎に戻されたその夜
31は部屋の隅で激しい陣痛に悶えていた。ついに卵が産まれるのだ
♂4匹はあたふたしている。もし産まれようものなら熱湯シャワーだけでなくどんな刑罰があるかわからない
先日人間に知らせたあの7番が31の手を握り 大丈夫 と声を掛けているようだ

この7番は一期生であり高齢でなにかと31を気にかけてくれる同室の友人だ。強姦される時も自分が盾になって四匹を相手したり、やもなく31も姦わされた場合は精液や汚れを舐めとってきれいにしてくれる
体、心の両傷も癒してくれる存在でもあった
ちなみにこの7は明日ここを出る予定である

食肉用とは別にこういった使い物にならなくなったタブンネは食材として加工品、または新薬実験や医学解剖の献体として生涯を終える
7はおそらく格安肉として週末の特売品コーナーに並ぶだろう


「ミッギャャャー!」
激しい悲鳴と共に卵がなんと二つ排出された。産んだ事もないはずだが本能がそうさせるのか7が卵を舐めて綺麗にし31に抱かせる
優しく抱えた卵に触覚を当てるとたしかに命の鼓動が伝わってくる。31はここに来て初めて悔しさ以外の涙を流した

だがそれも一瞬の幻か。先ほどまでこそこそしていた♂のうちの一匹が7を突き飛ばし31から卵を一つ引ったくった
「ミッミィ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛!」
31は必死に抵抗するが産上がりで力が入らない。すでに7は♂二匹に組伏せられている

「ミッ!ギッ!オエエェ」
卵を奪おうとする♂は31に殴る蹴るを繰り返すがギュッと体を丸めひたすら耐え、それながら少しずつ奪われた卵へ這っていく
卵を奪った♂は卵に対しパンチやキックを繰り返している。おそらく罰を免れるべく証拠隠滅に乗り出したのだろう

あまりの騒ぎに守衛がパートナーのエスパーポケ(すきなのをどうぞ)と31達の部屋に現れた
「なにしてる!?」

エスパーポケは♂二匹を眠らせ、守衛は31に乗り掛かった♂をスタンバーで気絶させた
追い詰められた残りの♂は卵を破壊すべく全力でボディプレスをくり出し…
バキィン ブチュチュンバビチュ
………………………

「ミィヤァァアアアアアアアア!」
破滅の音と共にこの工場が開設されてから初の大絶叫が宿舎に響き渡った


「で、沈静したわけだ」
「班長お疲れさまです。今♂は全て懲罰室に連行しまして。♀は…」
「放置しておけ。懲罰室でまたやられたらかなわん」

先ほどの騒ぎが嘘のように静まり返った宿舎。響くはすすりなく音のみ
31は卵を抱えながら床にちらばった残骸に涙していた。目玉のようなパーツ、ピンクの体毛、できかけの臓器、それらは赤い液に浸かりキラキラと輝いていた
心臓らしき部位は脈うち、命がそこにあることを証明していた

そんな姿をよそに班長は暇そうにしてる守衛のポケモンに耳打ちした
「なあエスパーポケさん、あいつらがなに言ってるか通訳してくんないかな?」
「いいですよ。えっとなになに」

『31ちゃん、守りきれなくて。私くやしいなんて気持ち久しぶりに感じたわ』
『7さん…私が弱いから』
『でも卵は無事でよかったわ…その子は必ずあなたが守っ…まもまも…プッ!!』

突然エスパーが噴き出した。腹を抑え踞っている
「笑うなよ…プッ」
「すませんプヒッ…ヒヒ…続き続き」

『ねえ、31。あの子、私に抱かせてくれないかしら』
『えっ』
『いいの、私も子を持つのが夢だったのよ。でもこの体ではもう産卵は無理。それに明日私はここを出なければならないの。だからこの子を抱かせて』
7は残骸を集め液まみれになることも躊躇わずに優しく抱いた。手からボチャボチャ臓物が溢れるがその顔はまさに母の顔であった

『これが新しい命の暖かさなのね』
『7さん…あの!おかあさんって呼んでいいですか?』
『31ちゃん!私を…私なんかを…娘と二人も孫ができて私幸せ…ええェ!?エエエーエヘフラヘララー!!』

「もう無理!無理!絶対NG!」
「おい通訳ー!笑うなや!アアハハハハひーっ、ひーっ、ああ、ありがとう。プッ…お疲れさま、守衛君もゆっくり休むといいよ」
「はい。で、班長あの卵は」
「様子見するか、最近の31からしてもしかしたら効率あがるかもしれんな。そりゃないか」
「この件はちょっと他の宿舎達への見せしめにもできますね」
「ああ♂四匹は明日の会議で処罰を決めよう」

班長はエスパーポケにポロックをたくさん与えると場を後にした


一つの、いや二つの命を巡る奇跡。ヤラセでもフィクションでもない、確かな命のドラマがそこにあった

互いに母親となった二匹のタブンネはいつまでも寄り添っていた
最終更新:2015年07月24日 22:35