聖豚の行進 地獄編

「今朝1-7番の配送すみました。31がしつこかったのですが、あさってくらいに特売品コーナーで会えるよ!と言ったら離しました。会えるって意味だけは解るらしいすね。はは」
「その31だが班長に一任になった。卵も許可したらしい。上にはどう言ったかはわからないけど」
「へえ、31は班長のお気に入りですからね。あの四匹は?」
「処分許可でた。もう次ロットが控えていてね、四匹くらい死んでもいいよ」
タブシュビッツでは毎日たくさん死ぬらしいですが、うちはあくまでも自立支援組織ですからね」
「しばらく見せしめとして役に立ってもらおうか」


照りつける日差しの中、工場内地にある屋外作業場に四本の棒がたてられており、その頂点にあの四匹の♂が縛り付けられていた

「僕達は悪いことをしました」(と、タブンネ語でかいてある)とかかれたゼッケンをかけられて

飴と鞭は重要だが、たまにダイヤモンド製鞭、飴はただの薄い砂糖水の塊と極端にするのも必要だ
ここが工場の内地な為外部に漏れることもないが、漏れてもタブンネということでスルーされるだろう

変わって例の個室。かつて31が療養していた部屋には卵が安置してある。班長がそのまま31に育児ルームとして提供した
現在31は相変わらず溶剤缶を運んでいるがその顔は以前と違いなにか使命感に満ちた様相をしていた。食事も掃除機のごとく速くなった

あの班長さんが自分に卵の世話を許してくれたのだ。その恩に報いるため、そして

(私には二つの命がある。7母さんと約束したこの子達を守り、私が卒業したらまた会いましょう)

あの未熟児の残骸はあの後二匹が食していた。これはポケモンが本格的に台頭する以前に存在した古代生物の行動だ
母親が子を守る際にする究極の選択、誰かに奪われるなら自身で。これは食欲ではない、子を体内に隠す為とされている
これに由来しているのだろう

難しい話はさておき、卵と個室があるからといっても業務は変わらない。今日も陽射しを受けながら缶を運ぶ
31は今日もひたすら缶を運ぶ


それからほどなくした日の昼食
隣部屋の♀9-29番が31の食器をひっくり返したのだ。尋問室に連れていかれ、班長によるエスパーポケ同伴の尋問が始まった

要約すると「31ばかり個室で卵まで持ってるのが憎い」

たしかにその通りだ。日射棒見せしめで減ったにしても、自分達は♂に強姦される雑居部屋。31は個室。妬むのは当然だろう

これが班長の狙いだった
卵を抱いたタブンネはどこまで精神がもつのか。同姓によるいじめの苦痛に耐えるのか
今までは7のように♀同士にはなにかしらの連帯感のようなものが見えていた。それが壊れた時に始まるものは?
もはや班長には経営、表向きの社会適応訓練などという理念は無く、ただ31に対する歪んだ興味だけであった

29は正直に話したからと解放した。これにはもちろん裏があり、この程度なら。といじめを促進させるためだ
それからもいじめはエスカレートしていった。仕事中に邪魔されるなんては雑草を踏むレベル。酷い時は裁断機に指をかけられていた
もちろん裁断機を使用した連中は熱湯シャワー日射棒乾かしに処されたが
同族からのいじめにも31は耐えた。就寝の際に卵を抱え、そこから伝わる鼓動。それが31の希望であった

そして数日後
31の就寝中に卵が震えだした。そしてヒビが入りついにその時が訪れた
31は必死に頑張るポーズをしているがその顔は真面目そのものであり笑ってはいけないのだろうが、笑わずにはいられない

殻を破りついに産まれた子供。31は生誕を祝おうと涙を拭い見せた笑顔は一瞬で凍りついた

奇形だ。触覚も耳も無く目玉は歪み1つしかない。手は足と同じ位置にあり、極めつけに口が無い
原因はあの溶剤にある。それを知っていた班長はわざと孵化させたのだ

顔を振り31は必死にベビを舐める。鼻で呼吸はできるようだが口にあたる部位が無いため産声をあげることも叶わない
この子に未来が無いのは明白だった

31は子を抱き締め再び涙を流し、必死にドアを叩く
「誰か助けて!」
そう言っているのだろうか

班長はカメラ越しに微笑んでいた。ここにエスパーポケがいない事が唯一の失敗と思いながら

胎内で親から得られる栄養は大きく産後は無食でも数日は生きられる。例をあげると古代に繁栄した魚ポケモンの稚魚と同じに思っていい

育児休暇中で仕事が出来ない31は日に日に弱っていく我が子になにもしてやれない日々を過ごしていた
この一週間一瞬たりとも気が休まったことはない。ただ食事だけは欠かさずとっている。作業員から「お前は食べなきゃ乳でないぞ」と釘を刺されている
それも31を追い詰めていた。自分は満足に栄養のある食事がとれ、休暇中のであるがゆえに太る
反面子は痩せ細るばかりか心音も弱まり鼻から聞こえる呼吸も小さくなりつつある

乳を飲まないならと食事を口で崩し唾液を混ぜた流動食を作っても食べることはない、口がないのだから
鼻の下のまっ平らな部位にそそがれた流動食はねっとり垂れ、胸をぐしゃぐしゃにされる気持ち悪さに子はわめき苦しむ

『きもちわりゅいよ、みゃみゃ、おにゃきゃちゅいちゃよ』
触覚から伝わる子の感情に31は必死に考えた。記憶の片隅にある唯一の方法、もうこれに賭けるしかない
瞳に決意を宿し31は子に歩み寄った


翌朝、子は死んだ。原因は呼吸困難。フードを運んできた作業員が発見した時は既に事切れており、鼻からは大量のふやけたフードが溢れ出ていた
原因は明白だ、鼻から食わせようとしたのである。31は部屋の隅で口からグズグスに崩れたフードを滴ながら焦点が合わない目で座っていた

以前に31は食事中に焦って食い、鼻にフードが詰まっていたタブンネを鼻から食っていたと勘違いしていたのだろう

この件はどう処理されるのか
元々子育ては内密であり、職員が咎められる事はないし、する気もない。何も無かった事になる
赤子は回収し焼却処分。乳児なら骨も残らない

31号は協調性がないから一時個室管理にしていた、それだけ

そんな表向きのいいわけよりも、自分で子を散々苦しめ殺した現実は31をどう追い込むのか、それが班長にとっては重要な事だ
班長は31の肩を叩き触覚を胸に寄せ優しい声色で言った


「お前が殺したんだ」


ドアが閉まり窓から差し込む陽光のみとなった個室で31は再び独りとなった
その股からはだらしなく小便が流れ出ていた
最終更新:2015年07月27日 20:46